音楽メディアとしてのCD(コンパクト・ディスク)が商品化されてから、今や35年を迎えようとしている。しかし、日本ではまだCDの需要は大きいが、世界的な潮流はダウンロード配信がメインになり、昨今は「聴き放題」を謳うストリーミング配信も広まりつつある。

その動きには賛否両論も付きまとうが、一方で従来型のフィジカルな作品に関心が向けられることも増えてきた印象だ。「好きなアーティストのアルバムは、モノとして所有しておきたい」という、かつては当たり前に存在した感情がその背景の一つであり、近年では、そういったリスナーの意識に応えるかのように、CDの普及で廃れてしまったLPなどのアナログ盤があえて生産されるケースも少なくない。


日本を代表するヘヴィ・メタル・バンドの一つである陰陽座が、2016年11月にリリースしたアルバム『迦陵頻伽』も、去る7月5日に2枚組のLPとして改めて発表された。結成から18年を経た彼らの歴史においても初めてのことだ。メンバー全員がアナログ盤に親しんできた世代というわけではないものの、その魅力は重々承知している。リーダーの瞬火(b&vo)は次のように話す。

「僕自身の感覚では“自動車で通り過ぎるだけの道をあえて徒歩で歩いてみる”という行為と似た魅力があると感じます。CDなどと比べて、聴くための手順が明らかに多く、ともすれば面倒だと感じるアナログ盤ですが、自らが己に課した労力の分だけ、一つの作品を聴くということに対する気持ちも必然的に厳かなものになり、神経が若干研ぎ澄まされるような気がします。すべて気のせいだとしても、そういう気持ちで音楽に向き合えるというのは魅力的なことだと思います」(以下、発言はすべて瞬火による)

大きなジャケットから取り出したレコード盤を、(時にはクリーニングしてから)プレイヤーのターンテーブルに置き、じっくりと耳を傾ける。CDのように瞬時に曲を飛ばしたり、アトランダムに再生したりすることも難しい。また、通常は盤の表と裏に楽曲が収録されているため、全曲を聴くには途中で一度盤を引っくり返さなければならない。瞬火の言う「聴くための手順が明らかに多く」というのはこのことだ。CDよりも盤面に傷がつきやすいことから、より丁寧に扱わなければいけないという面もある。アナログ盤を愛する人は、ある種のそういった不便さも含めて、音楽を聴くための“儀式”として楽しんでいる。

言わずもがな、“モノ”としての存在感の大きさも嬉しい。瞬火は自身の敬愛するJUDAS PRIESTの作品群をコンプリートしていることもファンにはよく知られているが、もちろん、LPなども収集の対象だ。

「アナログ盤のもう一つの魅力として、大迫力のジャケットというものがありますが、CDで持っているものでも、好きなバンドの名盤であれば、LPサイズのジャケットを眺めたり飾ったりするだけで、とても幸せな気持ちになれますので、ついついそういうものを集めてしまいます。(JUDAS PRIESTの他にも)IRON MAIDENやBLACK SABBATH、RUSHなどを狙って中古盤漁りをすることが多いですね」

美麗なジャケットの重みは、当然、今回LP盤化された『迦陵頻伽』にも言えることだ。かねてから陰陽座のすべてのアイテムのデザインを手掛けてきた瞬火だが、陰陽座のファンにはお馴染みの写真家・野波浩氏とのコラボレーションで生まれた“迦陵頻伽”のアートワークが、これこそが本来の姿だったのだと思わせるほど、荘厳に佇んでいる。

今回のこの企画は所属するキングレコードから持ちかけられたもの。かつて、陰陽座の初期作品が“紙ジャケット”仕様で再発されたことを記憶しているファンもいるだろうが、実は担当ディレクター氏の頭の中には、当時からいつかは陰陽座のアルバムをLPでリリースしたい思いがあった。このアイデアを伝えられた瞬火は、次のように感じたのだと言う。

「大真面目な話、採算が取れるのかということを真っ先に心配しましたが、アナログ盤を出すことで利益を上げるということよりも、『迦陵頻伽』という作品をアナログ盤の形で残すことに大きな意義があるということで意見が一致したので、ぜひ実現させたいと思いました」

事実、LPをプレスするには、CDよりも何倍も制作費はかかる。特に今回は2枚組の見開きジャケットという豪華装丁なのだからなおさらである。単純に「出したい」と思っても容易には実現できないわけだ。さらにはLP盤化の「意義」である。自身も超絶傑作と誇る『迦陵頻伽』が生まれたからこそ、陰陽座にとっても初となる、この画期的なプランは具体化していった。

音質面に関しても、レコード会社側からの提示にはこだわりがあった。まず<180g重量盤>と言われるもの。これはLP1枚の重さのことで、重ければ重いほど高音質になるというものではないが、より安定的な音の再生が望める仕様として一般的には知られている。また、カッティング/マスタリングには国内最高峰のエンジニアである小鐵徹氏を起用。まさに盤石の体制である。

では、実際に完成したLP版『迦陵頻伽』はいかなる音になっているのか。再生するオーディオ・システムによっても感触は異なるものの、繊細な聴覚の持ち主である瞬火自身のコメントが、やはり的を射ていると言えそうだ。

「一つ言えるのは、最新のアナログのカッティング技術が新たな次元に進化した恩恵なのか、いわゆる“アナログ盤は音に暖かみがある”という、悪く言い換えれば“ハイファイではない”という印象は皆無です。CDなどと比べても、むしろダイナミックレンジが広いとすら感じる瞬間があります。そもそもデジタルと違ってサンプリング周波数などが存在しないわけなので、理論上は一切の音(情報)が損なわれることなく収録されており、あとは再生装置と環境によってその真価が発揮される、という感じだと思います。CDでもアナログLPでも、どちらでも『迦陵頻伽』という作品の魅力は遜色なく楽しんでいただけますが、より良い音で聴こうという意欲を刺激されるのは、アナログLPのほうかもしれません」

CDに収録されていた13曲は、アナログ盤の宿命ゆえ、ここでは2枚のLPに分けて収められている。ただ、通常はA面、B面、C面、D面と表記されるものを、この『迦陵頻伽』では、それぞれ青龍、朱雀、白虎、玄武とのタイトルが付されている点が、この作品の興味深さを増す。東南西北の四方を守る神を示す言葉だが、これが何を意図しているのか、現時点では明らかにされていない。しかし、“迦陵頻伽”が陰陽座そのものであり、その誕生に際し、ファンは“同じきもの”としてバンドと共に生まれたという論拠からすれば、込められた真意は推して知るべしだろう。最後の天(そら)に響く、無双の聲。『迦陵頻伽』に綴られた物語を、このLPを通して、より奥深く堪能したい。

文●土屋京輔









リリース情報

★アナログLP『迦陵頻伽』
好評発売中!(2017年7月5日発売)
KIJS-90021~2(アナログLP2枚組)4,500円+税
★商品仕様:180グラム重量盤2枚組
完全限定生産

■収録曲
SIDE【青龍】
1. 迦陵頻伽
2. 鸞
3. 熾天の隻翼

SIDE【朱雀】
4. 刃
5. 廿弐匹目は毒蝮
6. 御前の瞳に羞いの砂
7. 轆轤首

SIDE【白虎】
8. 氷牙忍法帖
9. 人魚の檻
10. 素戔嗚

SIDE【玄武】
11. 絡新婦
12. 愛する者よ、死に候え
13. 風人を憐れむ歌

Blu-ray / DVD『絶巓鸞舞』
好評発売中!(2017年6月14日発売)
■Blu-ray:KIXM-281 6,800円+税
※Blu-rayのみ【初回仕様】特製三方背ケース付き/総天然色写真冊子封入
■DVD:KIBM-657~658(DVD 2枚組) 5,800円+税
☆Live BD/DVD 『絶巓鸞舞』Official Preview映像、
陰陽座オフィシャルYouTubeチャンネルにて公開中!
https://www.youtube.com/user/omzofficial


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