2017年7月17日、海の日。関東は海の日らしく夏日。そんな日に行われた、鈴木祥子のホールコンサート『Syoko With Klavier vol,1』。Klavierとは、ドイツ語で鍵盤を有する弦楽器の総称。この日、ステージに並んだ鍵盤楽器は、向かって左から、彼女が幼い頃から使っていたというモダンビアノ。中央にチェンバロ、右手にはクラビネットだ。モダンピアノは、この日のために自宅から運んできたそう。木目調のピアノには、彼女とピアノの日々が刻まれているのだろう。

川崎のアルテリオ小劇場。彼女がホールでライブ(コンサート?)をするのは、どのくらいぶりなんだろう。ライブハウスとは違う緊張感が漂う。開演直前まで行われていたチェンバロの調律も演出のよう。そして、開演前のステージに並んだ3台の鍵盤楽器は、演者を待つまるでセットだ。コンサートでなく芝居が始まるような感覚。照明が落ちて、黒のギンガムチェックの衣装で登場した彼女。夏らしく肩を出し、髪を後ろで束ねている。

1曲目は、7月に発売された『鈴木祥子最新録音集~北鎌倉駅/遠く去るもの(ファーラウェイ・ソング)』に収録されている「遠く去るもの(ファーラウェイ・ソング)」をモダンピアノで。髪が伸びることと時間が過ぎることを歌った曲。髪が伸びることも、時が過ぎることも当たり前に思ってしまうけれど、そこには意味があり歴史は刻まれている、ということを改めて考えさせられる。

続いてもモダンピアノで「(Don't wanna be )SAVED」。配信でリリースされたこの曲は、“救われること”がテーマ。彼女にとっての救われることとは? 救うこととは? 誰に? 何に? どんな風に? 考え出すと止まらない。だけど、理屈なく誰もが救われ、救いながら地球はきっと廻っている。チェンバロに移動し、「契約(スペルバインド)」と「サヨナラの朗読」。「契約(スペルバインド)」は、2003年に発売されたライブアルバム『I WAS THERE,I'M HERE』に収録され、「サヨナラの朗読」は、1988年のデビューアルバム『VIRIDIAN』に収録された曲。時を経てリリースされた曲だが、男だって女だっていつの時代も変わらず嘘をつく生き物だと思う。そして、男はいつもやっかいで、それでもとても愛おしい。


MCでは、今回のステージにある鍵盤楽器は、年代順でいうと、チェンバロ、モダンピアノ、クラビネットだと語る。3台の楽器を一人で操る彼女はまるで一人芝居の演者のようだ。楽器というセットのなかで、彼女は自由に動き、語り、魅せてくれる。一人きりなのに、ステージを広いと感じないのも、彼女の音楽と楽器への愛だろうか? 続いて、クラビネットで「Father Figure」。“星と観覧車と月。小さい女の子みたいにあたしは視てたんだ。”という部分で、いつも子供の頃に戻ってしまう。そして、モダンピアノでの「I Say A Little Prayer」。これは、1994年にリリースされた『SHOKO SUZUKI SINGS BACHARACH & DAVID』に収められたもの。多くの人に歌われた名曲が、解説とともに鈴木祥子色で披露される。続くようにカヴァータイムへ。曲は歌い手によって色が出る。ビートルズの「涙の乗車券」も歌い手によって表現方法が違うと語り、この日はカーペンターズが歌唱したバージョンで真っすぐな「涙の乗車券」を披露。続いて、リンダ・ロンシュタットが歌った「Different Drum」。男性との別れをドラムのビートに例えたとても潔い女性の曲だ。こんな比喩があることを初めて知る。確かに人生はビートなのかもしれない。底辺に流れるリズムは人によって違い。それは時に変わる。それが、生き方ともいえるのだろう。

そして、「Mozart Klavier sonata A-Dur K,331より」を演奏しつつ、チェンバロは音を伸ばすフットペタルがないことを話しながら、この楽曲が作られたのはフォルテピアノの時代ではないかという話へ。そして、「今日、モーツアルトのピアノ・ソナタと言われている18曲の原題は「Klavier sonata」で、鍵盤楽器のために書かれたソナタ、という意味。モーツアルトはチェンバロとフォルテピアノ、両方で演奏することを想定して書いたことが、演奏してみるとよくわかる」と語る。時代によって変わる楽器が、産む曲も変えていく。クラシックという言葉には収まりきらない深さを垣間見る。


オリジナル曲に戻り、鎌倉に住んでいたときに、北鎌倉駅から鎌倉へ映画を観に行くことを北鎌倉駅で思いながら作ったという「北鎌倉駅」。休日に訪れるこの駅は、いつも人があふれているが、平日の昼間の駅はどんなだろうと思う。木々に囲まれたなかにぽつんとある駅舎は、毎日ドラマを生む。そして、PUFFYに提供した「Sweet Drops」は「元ネタ折り込みメドレー」として披露。曲の中に折り込んだ4曲の洋楽曲と本歌の「Sweet Drops」でのメドレー演奏だ。「ネット上でこの曲は洋楽のパクリ、と言われたけれど、私は《洋楽折り込みポップス》のつもりで書いたので、は?それが何か?と思ってました(笑)。」、と。アレンジまで依頼された曲は、完成したものがビートルズっぽいと言われてしまった話とのこと。しかし、彼女は、ビートルズではなくビートルズが影響を受けたザ・クリケッツを意識していたことなども語った。音階には限りがあり、作曲者やアレンジャーには色がある。それは、時にオマージュされ継承されていく。名曲に込められたニュアンスは繰り返されるのかもしれない。

続いて、もし今『シャボン玉ホリデー』という番組があり、その番組の今月の歌で流すのであれば、というテーマで作ったという「星のまばたき」。懐かしさのなかにある新しさ。きっとこれも、継承される音楽の魔法なのだろう。

アンコールではリクエストを。夏ということで、「モノクロームの夏」と「夏のまぼろし」。「モノクロームの夏」は、シングル『TRUE ROMANCE』のカップリング曲。8インチシングルだった頃の話だ。“サイダアの泡”という言葉で始まる歌が、夏の景色を連れてくる。そして、この歌にはピアノが登場する。このピアノは、今日このステージにあるピアノだろうか? 「夏のまぼろし」は、逝ってしまった人を歌った曲。20代に聴いたときには、言葉でしか理解できなかったことも、今では感情で理解できる。それがまた切なさを誘う。そして、この曲にもピアノが歌われている。
リクエストラストは、「Do you still remember me?」。音楽を辞めようと思ったときに書いた曲と自ら伝え、モダンピアノで歌う。“あなたは覚えていてくれますか? あたしが歌を捨てたとしても”というまさに直球の歌詞。しかし、彼女はその道を選ばなかった。だからこそ、今日ここで、彼女の音楽を聴くことができる。そのことに感謝しかない。


「旅立つことを決めれば」。2016年の新曲。決めることでしか前に進めないことを歌ったと、私は理解している。前に進むためには決めるしかない、ということも含めて。「逆プロポーズ(仮。)」は、今日の出演者、モダンピアノ、チェンバロ、クラビネッとともに。あなたのことをシアワセにしたいと、あなたといっしょにシアワセになりたい、と歌う。もっとも形のない“シアワセ”に私たちはいつも振り回される。答えなんてないものに意味付けをしようとする。そんなことも含めて、人って愚かだけどこのうえなく愛しい生き物であると知るのだ。

鍵盤楽器をテーマにした鈴木祥子による、一人舞台『Syoko With Klavier vol,1』は「Mozart Concerto for piano C-dur K.467 andanteより」で幕を閉じる。

強くないからこそ、何かにすがっていたい。それが時に音楽なのかもしれない。穴だらけの心の隙間を埋めてくれるのが音楽なのかもしれない。そして、そんなことが、小さな一歩を踏み出させてくれるかもしれない。

<Syoko With Klavier vol,1 2017年7月17日(月・祝)@アルテリオ小劇場>

1.遠く去るもの(ファーラウェイ・ソング) piano
2.(Don't wanna be )SAVED piano
3.契約(スペルバインド) Cembalo
4.サヨナラの朗読 Cembalo
5.Father Figure Klavinet
6.I Say A Little Prayer piano
7.涙の乗車券 piano
8.Different Drum cembalo
☆Mozart Klavier sonata A-Dur K,331より
Klavierの歴史について~ cembalo,piano
9.北鎌倉駅 piano
10.(元ネタ織り込みメドレー)
Sweet Drops~Love will Keep Us Together(Cembalo)~
Come on Feel The Noise~Saturday Night(Piano)~Sweet Drops(piano)
~I fought the law(a cappella)
11,星のまばたき(新曲) piano
シャボン玉ホリデーを今月の歌 を意識して
En,
モノクロームの夏(リクエスト) cembalo
夏のまぼろし(リクエスト) Klavinet,a cappella
Do you still remember me?(リクエスト) piano
旅立つことを決めれば piano
逆プロポーズ(仮。) piano~Cembalo~Klavinet~piano
ENDING
Mozart Concerto for piano C-dur K.467 andanteより。

<『鈴木祥子最新録音集』発売記念誕生日eve×2ライブ「いろいろあったよ、いろいろね」>

2017年8月19日(土)
@渋谷・サラヴァ東京
OPEN 18:00/START 19:00
adv, ¥6,100(1drink付き)
Dor, ¥6,600(1drink付き)

寄稿:伊藤緑(http://www.midoriito.jp/)