【インタビュー】谷山浩子、可愛いけど怖い、美しいけど奇妙、ファンタジーだけどリアルな谷山ワールドへようこそ

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■たぶん私、生粋の音楽家じゃないんだと思うんです
■物語や絵や気配とか何かテーマがあるものが好きみたい


――ちょっと横道へそれますが。谷山さんの曲の聴き方って、すごく映像的ですね。『ゲド戦記』しかり、『クーロンズゲート』しかり。絵と音楽が合わさって感動するとか、そういうことが基準になっているような。

谷山:そうなんです。たぶん私、生粋の音楽家じゃないんだと思うんですよ。つまり歌を作る時も、何かを聴く時も、物語とか絵とか、気配とか、そういうものが…何かテーマがあるものが好きみたい。小さい頃に大好きだった音楽で、一人でレコードを何回もかけて聴いていたのは、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』で。あれもテーマに合わせて、たとえば途中のパーティーのシーンで、短い曲が並んでいるところ、「チョコレート」とか「金平糖」とか、そういう感じが大好きで。『白鳥の湖』も好きだったんですけど、それもシーンを思い浮かべながら、“ここで四羽の白鳥が”とか、音楽そのものを楽しんでいるというより、その音楽から喚起される映像を楽しんでいたところがあるんですね。だからピアノを習い始めても、最初はバイエルですけど、私が習った時には“いろおんぷバイエル”と言って、イラストと歌詞がついていたんです。

――そういうの、あったんですね。

谷山:練習嫌いだった子供の私が、けっこう楽しんでできたのは、そのおかげなんです。弾きながら歌詞を歌って、つまり弾き語りの原型にもなっているんですね。ピアノを習う前から、本を読むのが好きだったし、つまり物語が好きなんです。


――最初の話に戻りました。なるほど。

谷山:音楽も、歌が好きで、歌詞がある方が好きでした。歌詞があるか、何かテーマがあるか。何かの主題歌だったり、CMだったり、「JUNとROPE」のCMで流れている曲が、すごく好きになったりとか。そういうものが何もなしで、音楽だけを楽しむのは、なかなか難しいかもしれないですね。だから生粋の音楽好きじゃないのかもしれない。

――そんなことはないと思いますけどね。聴き方に、独自のものがあるだけで。

谷山:中学の時に好きになったビートルズも、『アビイ・ロード』からで、あれもテーマのある曲だらけだったので。そういうものが好きなんです。

――なるほど。で、ここからは、それぞれのクリエイターに分けて、掘り下げた質問をしていきます。蓜島さんが手掛けた3曲は、「サンタクロースを待っていた」「パズル」「螺旋人形」。あやしい系の曲を蓜島さんに、ということだったらしいですけれど。

谷山:そうです。「サンタクロースを待っていた」は、50年ぶりのクリスマスソングです。

――ええっ。そうなんですか。

谷山:10歳の時に作った「クリスマスツリー」という歌があって、40周年コンサートの時に歌ったんですけど、あれ以来です。あれは、きれいに飾りつけされてキラキラしていたクリスマスツリーが、クリスマスが終わったら忘れられるという、諸行無常の歌でしたが、今回は、サンタクロースをあまりに待ちすぎて、街が廃墟になってしまったという、諸行無常の歌です(笑)。

――つながっているんですね(笑)。この曲はほんと、可愛いのに怖いです。人さらいのような、ゾンビのような、なまはげのような。サンタクロースが全然いい人じゃない。

谷山:で、最後にそれも全部すっと消えちゃって、何にもなくなっちゃうっていうのをやりたかったんです。

――怪談ですね。「むじな」のような。

谷山:しかも蓜島さんのアレンジが、嘘ディズニーみたいな、裏ディズニーみたいな感じがしますよね。一見可愛らしくてどこか変、みたいな。こういうのは得意って言っていました。逆に、「パズル」は悩まれたみたいです。元はアイドルの女の子たちのための曲(てんかすトリオ=ももいろクローバーZ・有安杏里、私立恵比寿中学・柏木ひなた、チームしゃちほこ・伊藤千由李)で、曲調が典型的アイドルソング風だったのを、あえてタンゴにしたみたいです。

――「螺旋人形」も、大変怖いです。

谷山:これは、横溝正史作品に出てくる、見立て殺人の、わらべうたみたいなものを作りたかったんです。前半は、映像が浮かぶというよりも、暗闇の中の気配と、ほんのり何かが見えるような感じを目指しました。そして、後半で螺旋人形が現れたところで、ふわーっと光が見えてくる。昼じゃない光が。

――そういうイメージを、蓜島さんに伝えるんですか。

谷山:はい。一応話はしましたが、わりと…100%は聞いてないタイプの方なので。3回目ぐらいに言って、「あ、そうなんだ」って言われたりするという(笑)。

――これは素晴らしいアレンジですよ。

谷山:ヘッドホンで音量を大きくして聴くと、夢に出てきそうですね。

――そして寺嶋さんの3曲は、「旅立ちの歌」「城あとの乙女」「金色野原」。

谷山:アレンジャーの方の、私が聴きたい部分が良く出るようにと思って曲を選んだので。蓜島さんにはあやしい系の曲を、寺嶋さんには美しい系をお願いしました。寺嶋さんには、とにかく美しく、広がりのあるもので、シンセ・ストリングスを多用してくださいと言いました。「旅立ちの歌」の頭のところとか、映画が始まりそうですよね。

――「城あとの乙女」も、とても美しい曲です。やっぱり怖いですけど。

谷山:怖いですか。せつないですよね。

――せつな怖いです。だってこれ、ネタバレしちゃいますけど、幽霊になっちゃう歌じゃないですか。

谷山:そういうことになりますよね。私の大好きな、廃墟ものです。そういう意味では、「サンタクロースを待っていた」と、ちょっと似たところがありますね。これはさっき言った、私が小学生の時に見た「JUNとROPE」のCMで、“クラシカル・エレガンス”というキャッチコピーがついてたんですけど、そのイメージが一つあって。ヨーロッパの古城とか、荒れ地や草原が背景で、白人かハーフのモデルさんが二人でそぞろ歩いていて、そこに雰囲気のある詞の朗読が重なって、「アランフェス協奏曲」が流れたり、フォーレの「シシリエンヌ」が流れたり。けっこうハマっていたんですよ。あと、小学生の頃にGSがブームで、その頃のあるGSの一派って、中世ヨーロッパの王子様風だったんですよね。歌詞も、お城が出てきたり。

――「ブルー・シャトウ」とか。

谷山:“乙女”も、タイガースの「白夜の騎士」に出てきますし。そういう歌が作りたかったんです。

――谷山さん、本当に、三つ子の魂百までという感じがしますね。子供の頃に好きだったものを、今もずっと好きでいるという。

谷山:ずーっと好きですね。成長していないのかもしれないですけど。

――そういう意味ではないです(笑)。純粋に守っているものが今もあるというのが、とても素敵だと思います。

谷山:その頃の気持ちとか、雰囲気とか、全部覚えてますね。今60歳で、初めて詞を書いたのが5歳ぐらいで、曲は7歳からなので、人生のほとんどでこれをやっていて。そういう意味では、のぺっとした人生なんですけど(笑)。だからずーっと、残り続けてるのかもしれない。

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