2017年、ソロデビュー20周年という大きな節目を迎えたINORAN。8月にリリースされた新作『INTENSE/MELLOW』は、これまでリリースされたフルアルバム11作、ミニアルバム1作から11曲をセレクトしてリアレンジを施し、さらに新曲「Ride the Rhythm」と「Shine for me tonight」を加えた、渾身のセルフカバー・ベストアルバムである。

現在、INORANは本作を従えて、全国ツアー『SOLO 20TH ANNIVERSARY TOUR 2017 -INTENSE/MELLOW-』の真っ最中だ。

今回は、20周年のアニバーサリー・ツアーということもあり、セットリストに“α(アルファ)”と“β(ベータ)”という、異なる2パターンが用意されている。今回のライブレポート執筆にあたり、αが披露されたツアー初日の長野CLUB JUNK BOX(9月1日)と、βが演奏された2日目の新潟GOLDEN PIGS RED STAGE(9月2日)のライブを観覧した。

セットリストαとβがINTENSEとMELLOWという要素で分かれていないのなら、一体何が違い、彼はどんなメッセージを我々に伝えたいのだろう? INORANは、今回『INTENSE/MELLOW』のMELLOW SIDEを制作する過程において、アコースティック・ギターと歌が持つ魅力を再認識したそうだ。

この要素をライブで表現するために、彼はセットリストαでアコースティックなバンド編成、βでアコースティック・ギターの弾き語りと、異なるアンサンブルをそれぞれに採用している。

もうひとつ“キー”となるのが、10thアルバム『BEAUTIFUL NOW』「Beautiful Now」と、11thアルバム『Thank you』の「Thank you」のオリジナル・バージョンとリアレンジ・バージョンが、それぞれの形でαとβに組み込まれていること。実際、両日に異なるバージョンで演奏されたこれら2曲は、セットリストαとβの展開をよりドラマティックなものに変える役割を果たしていた。これらを踏まえると、αとβという特別なセットリストに込められたINORANのメッセージが、より明確に見えてくる気がする。

また、事前に筆者に届いた仮セットリストでは、αとβの重要な位置を占める曲にいくつかの候補が記載されていた。そのことをINORANに尋ねると、「ツアーを経て、αとβでやる曲は変わっていくし、会場の雰囲気や自分達のフィーリングに応じてαとβという順番だけでなく、αをやった次の日に、さらにアップデートされたαをやる可能性も十分にある」という答えが返ってきた。

ということは、今回のセットリストαとβで演奏される曲を完璧に把握して、そこにINORANが込めた想いを理解するには、もう全公演を観るしかないわけだ(笑)が、筆者は“このツアーは全公演を観る意味が絶対にある”と断言できる。それ程までに、現在のINORANの音楽性は凄まじい進化と深化を遂げているし、彼と彼が絶大な信頼を寄せるYukio Murata(g)、u:zo(b)、Ryo Yamagata(ds)によって生み出される、グルーヴィでタイトなバンド・サウンドは何度観ても最高に心地良い。

そんなソロ・アーティストとしてのINORANの様々な拘りが随所に凝縮された今回のツアー、ここからは、ツアー初日の長野CLUB JUNK BOXと、2日目の新潟GOLDEN PIGS RED STAGEのライブレポートとお届けしよう。

■9月1日(金) 長野 CLUB JUNK BOX

この日の長野は最高気温26度、最低気温19度。夕方に吹く、少し冷たい風は秋の気配を感じさせるが、会場のCLUB JUNK BOXは、大勢のファンの熱気で溢れ返っていた。


ステージにINORAN、Yukio Murata、u:zo、Ryo Yamagataが登場すると、20周年ツアーの初日を祝うために駆けつけたオーディエンスから、割れんばかりの大歓声が起こる。INORANはそんなファンの笑顔を嬉しそうに眺め、11thアルバム『Thank you』のインスト曲、「Come Away With Me」でライブはスタートした。

2016年、INORANはインタビューで「ひとつひとつのライブを凄く楽しめているし、成長し続けるこのバンドの音を、もっと多くのファンに観てほしい」と語っていた。その言葉通り、オープニング曲の「Come Away With Me」は、Ryoとu:zoにより躍動感溢れるパワフルなグルーヴ、INORANとMurataのツインギターによる鮮やかなアルペジオと激しいリフを内包し、このバンドならではのロックな魅力が存分に伝わる。この曲で始まるセットリストαは、開始直後からケタ違いのエネルギーに溢れている。

セットリストαは、「Awaking in myself」や「2Lime s」という、近年のライブで定番となっている曲の並びと勢いを崩さずに、そこに『INTENSE/MELLOW』の今のINORANらしい音楽性にリアレンジした人気曲が加わることで、より絶妙な緩急のコントラストが生まれ、そこに新たな試みとなるアコースティック・セットが加わることで、バンドの気持良いリズムとサウンドにさらなる幅が出ていた。


その後、INTENSE SIDEバージョンの「Spirit」をプレイし、そこから続くパワフルなロックナンバーの連続に、会場のボルテージもさらにヒートアップしていく。

MCでINORANが「ヘイ長野、アーユーレディ? 今夜は皆のエロいところをたっぷり見せてくれよ!」と語り掛け、クールな激しいギターリフが炸裂する「Awaking in myself」と「2Lime s」を連投。この2曲が収録されている『BEAUTIFUL NOW』でも、「Awaking in myself」と「2 Limes」の曲順は続いており、近年のライブでも連続して演奏されることが多いが、この2曲によって起こる観客の盛り上がりは、いつも本当に凄い。

前半戦ハイライトは、ロックなINTENSE SIDEバージョンで披露された「千年花」だ。この曲は、以前リクエスト・ライブで1位を獲得した人気ナンバーだが、オリジナルのアコースティックで切ない雰囲気とは違う、今回のバージョンも実に刺激的である。この曲のAメロをINORANが歌い始めた時に、後ろのファンから「あっ、これ『千年花』だ!」という、驚きの声が上がっていたが、それほどまでに『INTENSE/MELLOW』の曲は、どれもライブを意識して劇的な変化を遂げている。その後の“千年も前の世代と同じ願いと歌うよ いつまでもこの景色が途切れることのないように”というサビ・パートでは、これまでのライブ同様に大きなシンガロングが起こった。


中盤は“バー・メロウ”と銘打ち、アコースティック・ギターにカホンを交えたアコースティックな編成で「no options」をプレイ。オリジナル・バージョンはヘヴィなリフのロックナンバーであるが、今回演奏されたMELLOW SIDEバージョンでは、アコギのリズミカルなバッキングとINORANの味わい深いボーカルが印象的だ。その後に披露された「人魚」もそうだが、バー・メロウのセクションでは、INORANのボーカリストとしての味わい深い魅力が、最大限に発揮されていた。

アルバム『Thank you』の完成時、INORANは「これまで歌うことにトライしてきたけど、実は自分の声ってそんなに好きじゃないんです。LUNA SEAというバンドでRYUICHIという凄いボーカリストが隣にいたのもあって、もうボーカルの理想が高過ぎるからね(笑)。でも、それでも歌い続けていくうちに、やっと自分の声をちゃんと信じられるようになったよね」と語っていたが、今のINORANは、ライブでどの曲もとても楽しそうに歌う。

その後、INORANがMCで、Ryoのカホンを指差しながら「この楽器、なんていう名前か知ってる? うん、カホンだよね。じゃあコイツは? そうu:zo!」と、Ryoの隣で微笑むu:zoをイジりながら、「こういう編成って初めてだけど悪くないよね。でも、もうバー・メロウは閉店です」と、茶目っ気溢れるコメントをして会場を和ませた。


アコースティック・セットで会場をムーディな雰囲気に染め上げた後、「ここから、さらにアゲるために新曲をやります。皆に“イエー!”ってコール・アンド・レスポンスしてほしいけど、できるよね? 今日は、ライブレポートのためにライターさんに観覧してもらっているから、“レスポンスが凄かった!”って書かれるくらい、皆で声出してくれよ!」と語り掛け、INTENSE SIDEの新曲「Ride the Rhythm」をプレイ。INORANの熱いリクエストを受けて、オーディエンスもブレイクで一丸となり、一際大きなコール・アンド・レスポンスを彼らに向かって返した。

終盤のハイライトとなったのは、10thアルバム『BEAUTIFUL NOW』のタイトル曲「Beautiful Now」。本曲は、『INTENSE/MELLOW』にアコースティックなアレンジで収録されているが、この日はセットリストの流れを考慮して、ロックなオリジナルの躍動感を活かしたバージョンでプレイされた。


筆者は、『BEAUTIFUL NOW』の完成がINORANのキャリアの中でも、大きな“ターニングポイント”になったと感じている。その後の取材でも、彼から度々そういったコメントを聞くことがあったが、「Beautiful Now」には、新作『INTENSE/MELLOW』のテーマでもあるINTENSEさと、MELLOWのバランスが本当に絶妙で、彼の卓越したメロディセンスが遺憾無く発揮されている。

そして、「Beautiful Now」は、ライブ会場の雰囲気をINORANが導きたいと思う方向へしっかりと導いてくれる曲でもある。それは、今回の『SOLO 20TH ANNIVERSARY TOUR 2017 -INTENSE/MELLOW-』も変わらずで、この日も、オーディエンス達から思い想いに気持ちがこもったシンガロングが巻き起こっていた。

ラストのMCで、INORANが「ツアー初日から俺、結構飛ばし過ぎだよね(笑)。でもさ、今年の高校野球を観て思ったんだけど、皆必死になって優勝を目指すわけじゃん? やっぱり今日一日って、掛け替えのない美しいものだし、常に全力で勝負したいんだ。ってことで、最後はこの曲を皆で声出しして終わりましょう!」と語りかけ、最後のナンバー「All We Are」をプレイ。そしてサビの大合唱の中、ツアー初日は終わりを迎える。終演後、INORANは「またこのメンバーで絶対に長野に来るからな。どうもありがとう!」と、笑顔でファンに自身の想いと感謝の気持ちを述べた。

■9月2日(土) 新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE

9月2日、前日のエモーショナルだったライブの余韻に浸りながら、新幹線で次の会場がある新潟へと向かう。移動時間の中で、何年か前にINORANが「人それぞれにグルーヴがあるように、全国の街にも独自なグルーヴが存在している。だから、そこに住む人間って、絶対に街のリズムに影響を受けるんだよ。街によってライブ演奏の感じ方やレスポンスも違うけど、それがとてもおもしろいんだ!」と語っていたことを、ふと思い出した…。長野の街は、ゆったりと落ち着いて繊細な心地良いビートを持っていた。新潟という街には、一体どんなグルーヴが流れているのだろう?

この日の新潟の気温は28度。山に囲まれた盆地ということもあり、少しの蒸し暑さを感じる。新潟駅前でバスに乗って、会場のGOLDEN PIGS RED STAGEがある、中央区の東堀通6番町を目指す。会場に集まった新潟のファンは非常に情熱的で、彼らが大勢集まったこの日のライブはソールドアウト。今日の会場で演奏されるのはセットリストβだ。

開演時間にドリーミーなSEが流れ、ステージにアコースティック・ギターを持ったINORANが登場する。そう、このセットリストβは、彼一人による弾き語りによる「Come Closer」で、ライブがスタートするのだ。

2ndアルバム『Fragment』収録の「Come Closer」は、今も根強い人気を誇っているが、近年ライブでは中々披露されなかった曲でもある。そんなファン待望のナンバーを、INORANはギターをかき鳴らしながら、力強く歌い上げる。ツアー前に受け取った仮のセットリストでは、この弾き語りセクションのために様々な候補曲がリストアップされていたが、そのどれもがINORANとファンを繋ぐ大切なナンバーばかり。この日は、ソロの弾き語りのラストとして、アコースティック・バージョンにアレンジされた「Beautiful Now」が披露された。 今後、彼がどんな曲をこの弾き語りセクションでセレクトするか、興味は尽きない。

弾き語り終了後、Ryo、Murata、u:zoらバンドメンバーがステージに登場し、INORANが「さぁ、いくぞ新潟。いいところ見せてくれよ!」とオーディエンスを煽り、バンド編成で「grace and glory」と「Sprit」という、超強力ナンバーで一気に畳み掛ける。

この日のオーディエンスは本当に熱狂的で、まだライブの序盤なのにも関わらず、会場のボルテージは既にマックス間近。どの曲も大声でシンガロングし、ガンガン腕を振り上げて、バンドの演奏に応える。そんな観客のリアクションに呼応するかのように、演奏中にINORANとu:zoは手を上げてさらに観客を煽り、繰り返されるバンドとオーディエンスのコール・アンド・レスポンスによって、会場のボルテージはさらに上がっていった。

その後、INORANは「新潟、お前ら本当に大好きだ。いきなり頭から最高じゃんか! 今日は、誰も想像しないところまでいこうぜ」とオーディエンスを讃え、セットリストの中でも特にロックで攻撃的なナンバーである、「Awaking in myself」と「2Lime s」を連投。

今回、αとβというセットリストを実際にライブで体感し、その中で“これはもの凄い曲だ!”と、大きな感動を覚えた曲がある。それは、この後に披露された「Shine for me tonight」なのだが、この新曲はINORANらしいメロディセンスの魅力がフルに発揮されており、本当に素晴らしい。温かい音色のギター伴奏から始まる「Shine for me tonight」は、“Lately I’ve been thinking when you’re lying next me”というAメロから始まる…。 人に対するピュアな感情をストレートに伝えた曲といえば、新作のMELLOW SIDE収録の「Sakura」もそうだが、この「Shine for me tonight」は、メロディの全てにキャッチーな“INORAN節”が全開で、何度聴いてもその独自な曲の情景とメロディに思わず唸らされた。ある人の存在によって、今の自分にとっての”大事なもの=Shine”に気付き、それに対して素直な感謝の気持ちを述べている歌詞も、実にポジティブでINORANらしい!

ソロとしてINORANを取材する時に、彼はいつも曲作りやボーカルに対する拘りについて満ち足りた表情で語ってくれる。ソロ・アーティストとしてのINORANの20年は、曲を作って歌うシンガーソングライターとして表現の中で、より自分らしいメロディを求め、それに呼応する美しいギターの表現をストイックに探し続ける““終わりなき旅”だったと思う。その旅路の中で、彼はソロとして“完成した時に本当に満ち足りた気持ちになった”と語る、『BEAUTIFUL NOW』と『Thank you』という充実作を生み出し、そして、そこに落とし込まれた動と静の二面性にフォーカスして、新作『INTENSE/MELLOW』完成させた。この日のセットリストβには、今もさらなる高みを目指すINORANらしい、ソロとしての様々な表現とチャレンジが内包されていた。

その後、Ryo、u:zo、Murataのパフォーマンスをフィーチャーしたインストを披露し、「Rightway」の掛け合いでバンドとオーディエンスはより強くその絆を深め、ライブはいよいよ終盤に向かう…。

最後のMCで、INORANは「今日、20年間の“何か”が見えた気がしたよ。ありがとう。長い間生きていると、色々とめんどくさいこととか、諦めたいこととかあると思うんだ。でもさ、お前らがそういう時は俺が絶対に支えるよ。だから、もしも俺がそうなった時は、お前らが支えてくれよな!」と語り掛け、ラストの「All We Are」をプレイ。サビとブレイクの大合唱でバントとファン皆がひとつとになる中、2日目のライブは終了。演奏が終了しても鳴り止まないオーディエンスの拍手と歓声を聴き、INORANは「やっぱり、お前ら最高だよ。また必ず新潟に戻ってくるから、その時はよろしくな!」と熱いエールを送り、GOLDEN PIGS RED STAGEのステージを後にした。

INORANは、これからツアーで9月7日(木)に広島、8日(金)に福岡、10日(日)に熊本、12日(火)に高松、14日(木)に京都、16日(土)に大阪、18日(月)に名古屋、21日(木)に札幌、23日(土)に盛岡、24日(日)に仙台を回り、自身の誕生日である29日(金)に、新木場STUDIO COASTで“B-DAY LIVE CORE929/2017”と銘打ったツアー・ファイナル公演を行う。

ソロデビュー20周年に相応しい、INORANというアーティストの魅力がたっぷりと詰まった、αとβという異なる世界観のセットリストが、これからのツアーでどんな形になっていくのか?そして、29日のファイナル公演ではどんな曲達を演奏して、ファンと素晴らしい瞬間をシェアするのか? 今からとても楽しみでならない。 そして、これからも10年、20年と孤高のミュージシャン、INORANの飽くなき“音の旅”は続いていく…。

Text by 細江高広
photo by RUI HASHIMOTO(SOUND SHOOTER