■あのスキャンダラスなイメージの
■マイリー・サイラスの姿はない

アメリカ テネシー州出身、カントリー歌手であるビリー・レイ・サイラスを父に持つマイリー・サイラス。ディズニー・チャンネルの人気ドラマ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』で、主人公マイリー・スチュワート役を演じたことから一躍スターダムに上り詰めた彼女は、ジャスティン・ティンバーレイク、ジャスティン・ビーバー、セレーナ・ゴメスら子役出身のミュージシャンと同様にそのミュージシャンとしてのキャリアのアイドルとして開始した(彼女の場合、ドラマの役名ハンナ・モンタナ名義でデビューしているので当然と言えば当然だが)。

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その後2008年にリリースした2ndアルバム『ブレイクアウト』ではほぼ全ての楽曲の作曲を担当。早々に“脱アイドル”を図り、それ以来『キャント・ビー・テイムド』『バンガーズ』とリリースごとにエレクトロニック&ブラックミュージック感を強めながら、自身の音楽スタイルを模索してきた。

おそらくその下敷きにあったのはブリトニー・スピアーズとジャスティン・ティンバーレイク、そしてリアーナの辿った道筋だろう。それはある意味ではラップ/R&B隆盛の現在において不可避な変化だったのかもしれないが、テネシー州出身でカントリー歌手を父に持つマイリーにとっては迷走に近い部分があったのかもしれない。『マイリー・サイラス&ハー・デッド・ペッツ』は実験的プロジェクト的立ち位置で、フレーミング・リップスのウェイン・コインとのコラボレーション作的な色合いが強い、極めてサイケデリックでボーダーレスな、悪く言えば一枚のアルバムの中で迷走を繰り返すような作品となった。

そうしたこれまでのキャリアを踏まえれば、最新作『ヤンガー・ナウ』は彼女の歴史上もっともルーツに立ち返ったもので「レイドバック」した「クリーン」な作品と言えるだろう。そのサウンドの基調となっているのは、アメリカ南部を思わせるトラッドミュージックの数々。「これまでで最も自分をさらけ出した内容」と自ら語る通り、やはりこれこそがマイリー・サイラスのルーツとも言える音楽なのかもしれない。テイラー・スウィフトがカントリーの世界からポップスに飛び出し、2017年発表の新曲「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ」ではバッドガール化したことを思えば、マイリーは真逆の道を歩んでいるのかもしれない。ここにはあのスキャンダラスなイメージのマイリー・サイラスの姿はない。

■『ヤンガー・ナウ』
■全曲解説



リード曲でありタイトルトラックでもある「ヤンガー・ナウ」は、おそらくは彼女の故郷ナッシュヴィルのイメージであろう自然環境音に続き生々しいギターでスタートする、リラックスしながらもアップリフティングな楽曲だ。新しく生まれ変わった自分を祝福するリリックと、80年代を思わせるストレートなポップさから、テイラー・スウィフト「ウェルカム・トゥ・ニューヨーク」を連想するのは考えすぎだろうか?



続く「マリブ」はレイドバックしたギターとハンドクラップが印象的な、ピースフルな楽曲。本作の大きなモチーフの一つとして推測されるのが、オーストラリアの俳優リアム・ヘムズワースとの復縁だが、恋愛が自分を変えていくことへの素直な驚きが表現されたこの曲に最も顕著だ。

そして本作唯一のフィーチャリングアーティストとして召喚されたのが、アメリカのカントリー歌手の大御所ドリー・パートン。『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』でマイリーの叔母役として共演していたドリーとともにマイリーが歌うのは、ストレートなカントリーソングだ。マイリー自身のスタジオであるレインボーランドをタイトルとした、ピースフルな楽曲だ。



ハッピーな楽曲が続いた序盤だが4曲目「ウィーク・ウィザウト・ユー」で、ストンプするビートに乗せて歌われるのは「あなたは私の気持ちを踏みつけた」という恨み節。もしかするとリアム・ヘムズワースとの失恋を歌ったものかもしれない、前述の通りその後復縁しているためか、どこか昔話を歌っているような余裕のある曲調と歌声となっていて、そのギャップが面白い。

親友の恋人がオーバードーズしたことをモチーフにしたという「ミス・ユー・ソーマッチ」は、間近に聞こえるアコースティックギターとは別に、テープエコーが深くかけられたエレキギターが遠くに鳴ることで、生と死のコントラストを表現しているかのよう。

「アイ・ウッド・ダイ・フォー・ユー」では、左右に振り分けられたギターに、ブラッシングを駆使したドラム、ファットなベースがブルージーなムードを演出。「あなたのためなら死ねる」と未練を繰り返し歌うものの、決して沈み込むような暗さはないところが今のマイリーか。



「シンキン」は同じワードを繰り返して強い印象を生むコーラスなど、アルバム中最もモダンな要素が強い楽曲。マーク・ロンソンを思わせるファットなキックとベースラインのせいか、マイリーのヴォーカルにエイミー・ワインハウスの影が思い浮かぶ。

「バッド・ムード」はパーカッションによるトライバルなビートに乗せ「恋の悩みで目覚めの気分が最悪」ということをひたすらシンプルに繰り返す、ルーツ色の強い1曲。

どこかホワイト・ストライプスを思わせるブルージーなギターとシンプルなドラムが印象的。この「ラヴ・サムワン」はアルバム中最も怒りに満ちた楽曲で、振った相手への容赦ない気持ちが歌われている。

本作において最も白眉と言えるのがこの「シーズ・ノット・ヒム」だ。ヴァイオリンの調弦から始まるバラードソングで、「彼女は彼じゃない」と繰り返されるリリックはマイリー本人のセクシュアリティーと無縁ではないであろう。報われない愛が歌われる、やるせなくも切ない名曲だ。



アルバムのラストを飾る「インスパイアード」は爪弾かれるアコースティックギターとストリングスが導く、優しいフィーリングに満ちた楽曲。家族の繋がりと同時に、神を連想させる宗教的な感覚もそこに存在しているが、そもそもはヒラリー・クリントンの応援歌として作られた楽曲だという。

文:照沼健太

『ヤンガー・ナウ』

2017年10月4日(水)国内盤発売
SICP5604 2200円+税
解説・歌詞・対訳付
日本盤ボーナストラック収録初回限定:サイン入りポスター封入
国内盤2200円+税
●配信
配信中
https://itunes.apple.com/jp/album/id1272268021?at=10lpgB&ct=886446685618_al&app=itunes
*iTunes、iTunes Storeは、Apple Inc.の商標です。
●輸入盤CD
発売中
購入リンク:https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=3131&cd=00DE000014664

■収録曲
1 Younger Now ヤンガー・ナウ
2 Malibu マリブ
3 Rainbowland ft. Dolly Parton レインボーランド ft.ドリー・パートン
4 Week Without You ウィーク・ウィザウト・ユー
5 Miss You So Much ミス・ユー・ソー・マッチ
6 I Would Die For You アイ・ウッド・ダイ・フォー・ユー
7 Thinkin' シンキン
8 Bad Mood バッド・ムード
9 Love Someone ラヴ・サムワン
10 She's Not Him シーズ・ノット・ヒム
11 Inspired インスパイアード

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