【インタビュー】ベルフェゴール「平和だろうが戦争中だろうが、俺の音楽をやるだけ」

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オーストリアのブラックンド・デス・メタル・バンド、ベルフェゴールが11作目となるニュー・アルバム『トーテンリチュアル~屍骸典礼(しがいてんれい)』を発表した。前作『コンジュアリング・ザ・デッド~屍者召喚(ししゃしょうかん)』を2014年にリリースし、<ラウド・パーク14>への参戦と2015年5月の来日公演で日本のメタル界を2度にわたり震撼させた彼らだが、新作はさらに殺傷力を増し、異端の儀式を思わせる音楽性で聴く者を圧殺する。メタル・ファンを地獄にいざなう男・ベルフェゴールのギタリストでヴォーカリストのヘルムートが“屍骸典礼”を語る。

◆ベルフェゴール画像




──2015年の来日公演以来、どんな活動をしてきましたか?

ヘルムート:世界中をツアーしてきた。前作『コンジュアリング・ザ・デッド』は俺たちにとって扉を大きく開け放ったアルバムだったんだ。<ラウド・パーク14>フェスで日本で初めてプレイすることができたし、インドネシアやフィリピンでもショーをやった。アジアでプレイするのは最高の経験だった。ヨーロッパとはまったく異なる文化の上に成り立っているし、学ぶことが多かったよ。『トーテンリチュアル~屍骸典礼』にともなうツアーではぜひまた日本を訪れて、あちこちの都市を回ってみたい。

──『トーテンリチュアル~屍骸典礼』ではどんな新しい試みを?

ヘルムート:今回は異なったサウンド、異なったチューニングに挑戦したんだ。『Lucifer Incestus』(2003)の頃から1音下げチューニングをしてきたけど、今回は2音半下げチューニングでプレイしている。さらに「闇の凶蛇アポフィス」「死兆星を抱きて」「猪紅熱(ちょこうねつ)~豚権政治」などは3音下げだ。チューニングを下げることで弦のテンションも異なるし、ローエンドのトーンがより儀式のようなムードを出すようになった。俺は音楽に制約を設けたり停滞することが嫌いなんだ。常に自分自身に挑戦し続けたい。

──前作はあなたが南米でチフスを患い外科手術を受けるなど、体調を崩した直後に作られた作品で、思うように活動できなかったせいで怒りに満ちていたと語っていました。今回はどうでしたか?

ヘルムート:『コンジュアリング・ザ・デッド』は苦しみの中から生まれたアルバムだった。手術のこともあったし、アルコールやドラッグで死にかけていた俺をブラックホールから引っ張り上げてくれたんだ。そんなこともあって過去のアルバムよりも曲作りに時間がかかったけど、俺にとって重要なアルバムだよ。『トーテンリチュアル』は世界をツアーしながら曲を書いたアルバムだった。音楽に専念することができたことで、密度の濃いアルバムができたと思う。レコーディングのラインアップも結成以来最高なものだし、ベルフェゴールの作品で最も音楽的に誇りにできるアルバムだ。ただ、俺たちが怒りを失ったわけではない。人生には毎日のようにクソみたいなでき事が起こるし、怒りのネタには事欠かないよ。『トーテンリチュアル』も怒りに満ちたアルバムだ。

──アルバムに参加したドラマーのサイモン“ブラッドハマー”シリングについて教えて下さい。


ヘルムート:ブラッドハマーはベルフェゴールの歴代ドラマーでもベストだ。彼とプレイすることで、俺とセルペント(B)は必死で付いていかねばならなかった。そして“エクストリーム”の新たなレベルに達したんだ。彼は実は昔からベルフェゴールの大ファンだった。大昔、ベルフェゴールがドイツの<ヴァッケン・オープン・エアー>フェスに出演したときにデモCDをもらったこともあった(2007年)。彼はまだ若かったし、俺もデモCDをバックステージに置き忘れてしまった。それから新しいドラマーをオーディションするにあたって、自分のプレイを収めたビデオを送ってくれたんだ。こいつは凄いと思ったね。彼だったらベルフェゴールの音楽をさらにエクストリームな次元に前進させてくれると確信した。停滞は憎むべきものだ。ベルフェゴールのシグネチャー・サウンドを愛するファンを裏切ることなく、俺たちは変化を続けていく。

──2016年のロシア・ツアーでは空港でネオナチに挑発されたりライブが中止になったり、散々な目に遭いましたね。

ヘルムート:これだけは言っておきたいのだけど、俺は何も“悪いこと”はしていない。俺は自分の思想を持っているし、表現とアートの自由を信じている。だけど、それをわからない奴が権力を握ると、しまいに焚書に至るんだ。頭のおかしい奴に権力を握らせてはならないということさ。腹が立つのは、ロシアで3回のショーが中止になって大金を損したのと、大勢のファンをガッカリさせたことだ。その直前、ベラルーシのミンスクでのショーは何の問題もなく終わったんだ。でもモスクワで会場に着いたら警察にパスポートを没収されて、ステージに上がることが禁止された。どの曲が問題になるのか教えろと頼んでも、向こうもわかっていなかった。単にベルフェゴールは悪いバンドだからステージに上がるな、ということだったんだ。これまで3回ロシアでプレイしてきたけど、あんなことはこれが初めてだった。結局帰国するしかなかった。空港のときもそうだ。変な奴に挑発されて、こっちが手を出したりしたら、奴の仲間がビデオカメラですべてを撮影していたから、二度と入国できなくなる。奴らのゲームに乗るつもりはなかったんだ。ロシアのファンは大好きだけど、ロシアの刑務所にブチ込まれるのは嫌だしね。

──核ミサイル発射やテロなど、現実世界でいくらでも怖いことが起こっている中で、彼らはメタル・バンドの何を恐れているのでしょうか?

ヘルムート:俺は知らない。そもそも世界で起こっていることには無関心なんだ。普段はザルツブルクから車で1時間ぐらい離れた山に住んでいて、世捨て人みたいな生活をしているからな。孤独を楽しんでいる。ツアーでキッズと時間を共有するのは楽しいけど、プライベートで人々に囲まれていたいとは思わない。人類は愚かな行為を繰り返して、自滅への道を進んでいる。それを新聞やテレビで見ているのは快い経験ではない。プロパガンダを押しつけられるだけだ。そんなものはブルシットだし大嫌いだよ。そんな暇があったら自分の音楽をやっていたい。世界が平和だろうが戦争中だろうが、俺は俺の音楽をやるだけだ。

──アルバム・タイトル『Totenritual』や曲タイトル「Totenkult」「Totenbeschworer」「Totenritual」など、“toten=死”が何度も使われているのは何故でしょうか?

ヘルムート:社会は“死”を隠そうとする。誰もがいずれは死ぬのに、それがないもののように偽っているんだ。俺は奴らが隠そうとするものを露わにするんだ。『トーテンリチュアル』はいわゆるコンセプト・アルバムではないけど、“死”は俺の表現を貫くひとつのテーマだ。

──ベルフェゴールの歌詞は英語・ドイツ語・ラテン語が混在しているのが個性となっていますが、それにはどんなこだわりがあるのでしょうか。


ヘルムート:俺は常に本や映像などで研究しているんだ。キリスト教やエジプト神話や中近東の宗教、連続殺人者の心理などね。それは歌詞を書くのに役立つだけではなく、自分の頭で考えるのに役立つんだ。外国語のテキストや、古文書も読むことがある。そのニュアンスを直接伝えたくて、歌詞でもラテン語を引用することがあるんだ。翻訳してしまうと原文のニュアンスが失われてしまうだろ?それに古文書だと翻訳不能のこともある。だからベルフェゴールの歌詞は英語・ドイツ語・ラテン語が混在しているんだ。

──「邪神バフォメット」の歌詞では彼が“絶対権力、偉大なる山羊神”と歌われていますが、あなた自身はバフォメットを信奉していますか?

ヘルムート:バフォメットは万物の創造主であり、男と女、火と水、愛と憎しみなどを司ってきた神だ。しかしキリスト教の価値観では否定されてきた。既存の価値観に隷従することを拒絶して、自由に考えることの象徴がバフォメットなんだ。ただ俺はいかなる神も悪魔も、サタンやルシファーも崇拝しない。礼拝もしないし他人に頭を下げたりもしない。俺は自由な魂の持ち主なんだ。ベルフェゴールが“悪魔崇拝バンド”だと考える奴は、大きな間違いを犯しているよ。

──「悪魔の末裔」ではニコロ・パガニーニ(1782~1840)が言及されていますが、彼は悪魔に魂を売ってバイオリンのテクニックを手に入れたといわれます。あなた自身テクニカルなギターを弾いていますが、あなたも十字路で悪魔に魂を売ったのでしょうか?

ヘルムート:パガニーニはあまりの才能ゆえに“悪魔の息子”というあだ名を付けられていた。誰よりも速く弾いて、死んだときキリスト教会から埋葬を拒否されたそうだ。俺自身は悪魔に魂を売る誘いを受けたことはないし、自分の血と汗はすべて音楽に注ぎ込んできた。魂を売ったら曲作りとギターの才能をもらえると言われても、安直な手段をとりたくない気持ちもある。アルバムを作る前、俺は連日6時間から8時間練習している。スタジオに入る前に、自分が何をすべきか知っておきたいんだ。既にサウンド・プロダクションに多額の制作費を費やしているし、時間や金を無駄にしたくないからね。

──アルバム発表後のツアー活動について教えて下さい。

ヘルムート:9月からデストロイヤー666、エンスローンドなどとヨーロッパをツアーするんだ。今のベルフェゴールは歴代最強のラインアップだよ。曲も演奏もベストだし、バンドやクルーも経験を積んで、照明やステージ・プロダクションもよりエクストリームでブルータルなものになった。2018年にはぜひ日本に戻ってショーをやりたいね。きっと日本のオーディエンスはバンドの進化に衝撃を受けるに違いない。

取材・文:山崎智之
Photo by Seth Siro Anton


ベルフェゴール『トーテンリチュアル~屍骸典礼(しがいてんれい)』

2017年9月15日発売
【50セット通販限定 CD+Tシャツ】¥4,500+税
【CD】¥2,300+税
※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.邪神バフォメット
2.悪魔の末裔
3.猪紅熱(ちょこうねつ)~豚権政治
4.闇の凶蛇アポフィス
5.屍骸崇拝~腐敗釈義
6.蘇る亡骸(インストゥルメンタル)
7.狂顕(きょうけん)の呪文
8.死兆星を抱きて
9.屍骸典礼
《ボーナストラック》
[2017年4月15日 インフェルノ・フェスティヴァル]
10.スティグマ・ディアボリカム(ライブ)
11.ガスマスク・テラー(ライブ)

【メンバー】
ヘルムート(ヴォーカル/ギター)
セルペント(ベース)

◆ベルフェゴール『トーテンリチュアル~屍骸典礼(しがいてんれい)』オフィシャルページ
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