【緊急インタビュー】メンバー脱退…ミュートマスの看板はどうなる?

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今年リリースの新作『プレイ・デッド』の完成直後、メンバー2人が脱退するという未曾有のピンチに直面したミュートマス。しかし彼らは代役を立て、すでに発表していたヨーロッパ/全米ツアーをキャンセルすることなく決行した。特にライブ・パフォーマンスで高い評価を得てきた彼らが、ダレン・キングというバンドの顔とも言えるドラマーを失い、どうやってここまで辿り着いたのか。今後バンドはどうなってしまうのか。10月14日のカリフォルニア/サンタアナ公演のバックステージで、ボーカルのポール・ミーニーとギタリストのトッド・ガマーマンに話を聞いた。

◆ミュートマス画像



──ツアーも後半戦です。調子はどうですか?

ポール:とてもいいよ。でもなんだかもうすぐサマーキャンプが終わっちゃうみたいでちょっと寂しいね。ショーはすごく楽しいし、ベストを尽くしたと言えるものになっていると思う。ツアー最後のショーはハロウィンだからみんなで仮装して、人生で一度きりのサプライズをしようと思ってるんだ。

──ポールの娘、アメリアちゃんがステージに上がったのを見ました。まるでスターのような振る舞いですっかり魅了されてしまいましたよ。あなたが何か教えたんですか?

ポール:昨日はLAのショーだしきっと観客の中にハリウッドのスカウトがいるだろうと思ってたみたいで、彼女もいつもより張り切ってたね。僕は特に何も教えてなくて、彼女がありのままの姿を見せればいいと思ってるんだけど、娘はU2のMVに夢中で、あんな風になりたいと思ってるみたい。パフォーマーとして何かするのが好きなんだ。だからアメリアに『自分のバンドを持つにはどうしたらいいの?』なんて聞かれると僕もすごく嬉しくなるよ。

──今回のツアーでは全員が白の衣装でステージに登場してますね。

ポール:まだダレンが脱退する前からこのツアーのヴィジュアル・コンセプトについて話し合ってたんだけど、シンプルで、でもまだ僕たちが試してないことをやろうってことになって、ユニフォームを揃えるのはどうかっていう案が浮かんだんだ。で、ずっと昔、アーススーツ(ポールが以前在籍していたバンド)が解散した後に僕がベースのジョナサン・アレンとやってたマクロシックってプロジェクトがあって、実はそのバンドのライブで全員が白い服を着てプロジェクターの映像を当てるっていうことをやってたんだよね。それを新しいレベルに持っていくのはどうだろうという話になり、今回の演出になった。あと個人的に今年一番の変化は頭を剃ったことかな(笑)。いろんなことが変わったけど、必要なことだったと思ってるよ。今年ひっくり返ったいろんなことが、みんなにとっていい未来に繋がっていくことを願っている。下を向いて一点だけを見つめてると、時に盲目的になってしまうこともあるから、前に進んで、いい行いをして、いい音楽の一部になり、いいショーをする。そうすればきっと明るい未来が開ける。

──アルバムも完成し、ツアー日程も発表したところでダレンが脱退を申し出て、バンドは解散してもおかしくない状況でした。それでもミュートマスをツアーに突き動かしたものとはなんだったんでしょう?

ポール:どうしてもツアーをキャンセルするという選択肢は選びたくなかった。チケットも発売済みだったしね。もちろんそのためにマネージャーやブッキング・エージェントたちと気の重い話し合いを何度も重ねたよ。僕にはひとつだけ解決策に心当たりがあって、それがハッチ(デヴィッド・ハッチソン)だった。もしダレンの代役と自信を持って言える人が見つけられなかったら、全てキャンセルするつもりだったよ。だからこれが上手くいって本当によかった。『プレイ・デッド』がミュートマスのラスト・アルバムで、これがミュートマスのラスト・ツアーになる可能性も充分にあったから、なんとしても実現させたかったんだ。ミュートマスがあと6ヶ月の命しかないとしたら、その時間をどう過ごすか? 家に籠もってソファーに座り、Netflixで面白そうなドラマでも片っ端から観るか、それともバンジージャンプをしに出かけるか? そう考えたんだよね。で、このツアーはバンジージャンプを選んだってことなんだ。友達と呼べる素晴らしいミュージシャンを呼び集めて、最後にひと騒ぎしよう!って。それがモチベーションだったよ。

──トッドは6年前、友人のダレンの紹介でミュートマスに加入して、それからずっと一緒にプレイしてきました。彼が脱退すると聞いた時はどう感じました?

トッド:胸が張り裂けそうだったよ。彼は僕の人生でも屈指のお気に入りドラマーだったから、現実を受け入れるのはつらかった。幸いなことに僕とダレンは今同じ街に住んでて一緒に進行中の音楽プロジェクトがあるから、それが救いかな。だから彼の脱退は“死”ではなく“お別れ”くらいの感じなんだけど、それでもミュートマスのショーに彼がいないのは寂しい。彼のプレイ、彼のエナジーが恋しいよ。

──新ドラマーのハッチについて聞かせてください。彼は今回のツアーでミュージシャンに復帰するまで15年間、救命救急士をしていたんだとか。

ポール:そうなんだ。僕やハッチがかつてアーススーツで活動してた時、彼は唯一子持ちのメンバーで家庭があった。みんなバンドが成功できるように努力していたけど、だんだんと歯車が合わなくなっていってね。彼は音楽と家庭どちらを選ぶべきか悩んで、ツアーをやめて家に帰って父親であることを選んだんだ。そしてその後は救急救命士として生きてきた。彼は自分のキャリアに誇りを持ってるし、救急救命士ってのはすごくストレスフルだけど尊敬されるべき大事な仕事であるという自覚もあった。でも実は去年、彼と話す機会があった時に、また本気で音楽をプレイしたくて、その場所を探してるってことを聞いてたんだ。僕も何か一緒にやりたいとは思ったけど、もちろん自分にはミュートマスがあってダレンというドラマーがいたからその時点ではチャンスがなかった。

──5月から加わったベーシストのジョナサンも、ミュートマスに参加するまではレストランのキッチンで働いてたとか。

ポール:そうだよ。今年の3月だったか、ロイ(ミッチェル・カルデナス、前任のベーシスト)がツアーに出ないことになって僕からジョナサンに電話した。彼もまたプロとして音楽をプレイできることにめちゃくちゃ興奮してたね。彼はハッチと一緒にいくつかの音楽プロジェクトをやってきた仲だったから、ダレンの脱退が決まった時は僕とジョナサンで『ハッチに電話してみよう、興味を持ってくれるかも』って話し合って連絡したんだ。ダレンの代役を立てるっていうのは大きな賭けだったし、どんなドラマーにとっても簡単な役じゃないのはわかるよね。でもハッチはその役をオファーした時にすごく興奮してやりたいと言ってくれて、仕事も辞めて力を貸してくれた。彼自身、もう一度音楽の道に戻れる人生で一度きりの大チャンスだったと感じていたから。『ショーまで2ヶ月だけどやれるか』って聞いたら『やる!』と言ってくれた。それで全てが始まったのさ。

──そしてバンドは新編成になりました。ジョナサン&ハッチは過去にポールと一緒に活動してますから相性は間違いないですが、トッドは2人とプレイするのは初めてですよね。初めてのリハーサルの感触はどうでした?

トッド:正直言って、新しいことに対する興奮と、不慣れなことに対する戸惑いとの半々だったね。ジョナサンとハッチのプレイスタイルはロイ&ダレンとも結構違うし、ここ数年で固めてきた曲のアレンジをまた変える必要もあった。何しろアルバム5枚分の楽曲をリハーサルしないといけなかったから大変な部分があったのも確かだよ。でも新作の曲をプレイするのはすごく楽しいし、力を合わせていいものにできていると思う。

──10月末で予定されているツアーは全て終わり、その後の予定は?


ポール:ミュートマスの未来がどうなるのかは僕にも全くわからない。でも今この瞬間を全力で楽しんでるってことは言っておく。バンドはいい感じでツアーをやれてるし、これを最後までやり通せたらってことしか今は考えてないよ。この先<Play Dead Live>を海外でやれるかどうかの見通しは今のところ全然ないけど、また日本でプレイできるチャンスがあるならぜひやりたい。それにはいろいろな条件が揃わないといけないけど、実現できるよう願っているよ。

ダレンの脱退理由について、ポールは「それはダレンに聞いてくれ」と、これまでどのメディアでも一切答えていない。だが、トッドは筆者との雑談中に何気なく「ダレンが作っていた曲はポールが求めてるものと少しギャップがあった」という一言を口にした。もしかしたらその音楽性の違いこそが、彼がバンドを去った理由なのかもしれない。奇しくもミュートマスがツアー最終日を迎える日、ダレンは久しぶりにSNSを更新。自身のプロジェクトで何かしらの音楽を発表するつもりであることを明らかにしている。

ポールは「ミュートマスは僕とダレンが始めたプロジェクトだから、この先ダレンがいない状態で作ったものをミュートマスの音楽と呼んでいいのかわからない」とも言っていた。ミュートマスの看板をどうするかは全てポールにかかっている。ただ、筆者としては結論を急がず、新しい4人で再びツアーに出たり、ミュートマスとして音楽を作ったりする可能性を捨てないでおいてほしいと願っている。

取材・文:中嶋友理/Yuri Nakajima
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