【インタビュー】寺井尚子「今日と明日の演奏は違うということがジャズの魅力だと思っています」

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■ジャズはアレンジが自由だし取り入れることができるんです
■各ジャンルのいいところを取り入れて、ということですね


――ジョビンの「ワン・ノート・サンバ」は、もともとボサノヴァですよね。

寺井:レコード屋さんではブラジルのところにあるけど、ジョビンはもうジャズのくくりに入れている人も多いので。ジャズのスタンダード集にも載っていますしね。これはボサノヴァだよという人もいるでしょうけど、もうスタンダードでいいんじゃない?って。これも北島さんのアレンジの素晴らしさが出ていると思います。さりげないんだけど、実はすごいことをやっているという素晴らしさ。イントロのシェイカーで始まるところが一番好きなんですけど、「うわー」って鳥肌が立っちゃった。パーカッションのmatzz(松岡“matzz”高廣)さんの演奏は、そんなに派手なことをやっているわけではないけれど、すごく華やか。素晴らしいと思います。センスですね。

――ボサノヴァもそうですけど、寺井さんが近年取り組んでいるタンゴも、ジャズとは違うジャンルだと思ってやっているわけではないですか。

寺井:全然。オリジナルのジャンルは問わないです。それをどうジャズるかなので。タンゴをやっていたわけじゃなくて、私がタンゴをやっただけなんです。「ちょっとの間タンゴ・ミュージシャンになっていましたよね」じゃないんです。だって、タンゴなのに4ビートにアレンジしているし、アドリブもばりばり入れているし、だからジャズなんです。タンゴの素材を使って、どうジャズるか。他にもスティングの曲なども演奏します。そういうことなんです。


――基本の考え方として。

寺井:そう。だからクラシックでも、ロックでも、レゲエでも、タンゴでも、ジャンルは問わない。ジャズはアレンジが自由だし、取り入れることができるんです。各ジャンルのいいところを取り入れて、ということですね。

――そうすると、アルバムの最後に入っている「ブルー・ヴェルヴェット」のようなポップスも、ジャズれると。

寺井:そうです。「ブルー・ヴェルヴェット」は60年代のポップスです。これは北島さんの真骨頂です。こういう曲、よく知っているんですよ。もしも私が全部選んでいたら、この曲は出てこない。客観性として、彼が「この曲を寺井尚子が弾いたら素敵だろうな」と思って持ってくる。知る人ぞ知る、本当にいい曲ですよね。

――マイルス・デイヴィスの「ナーディス」も、北島さんが…。

寺井:持ってきました。不思議な、ミステリアスなアレンジですね。非常にエッジの効いた、ただただきれいなだけではないどっしりとしたものがある。ジャズのスタンダードだけあって、ゆったりとしてきれいな中にもガツンとしたところがある曲ですね。

――こういう曲を聴いていると、ジャズはやはりビート感といいますか。

寺井:ノリが大事ですね。

――どんなスローバラードでも、ビートが効いていると感じます。

寺井:そうです。そこが一番大事なところ。でもそれを知っているのは、ミュージシャンでも多くはないと思います。バラードにもグルーヴがあるということ。そのあたりも楽しんでいただければ。

――それはこのアルバムを聴けば、みなさん、わかると思います。

寺井:さっきタンゴの話をされましたけど、ジャズはタンゴのように曲が強烈ではないんです。曲自体がドラマチックだと、展開を出しやすい。今回はそういう華やかさとは違うので、そこがとても新鮮でした。どこまで奥行きを出せるかが挑戦でしたが、レギュラー・メンバーのバンドだからこそ、クリアできたのだと思います。matzzさんもそうですし、ドラマーの荒山諒さんが平成生まれの若手で、アルバムを重ねるごとにぐんぐん成長している、そのへんも聴きどころです。そしてベースの金子健さんは質実剛健。バラエティに富んでいるというか、面白いメンバーですよね。


――世代もかなり離れていますよね。それぞれの世代によって、ジャズのとらえ方も違うんじゃないか?と思います。

寺井:そうだと思います。

――僕らの年代ですと、90年代のクラブ・ジャズのムーヴメントに影響を受けて、ジャズをダンス・ミュージックの一環としてとらえているところもあると思います。

寺井:matzzさんはクラブ・ジャズもやってた人ですね。私と北島さんと金子健さんは、だいたい同じ感覚だと思うんですよ。モダン・ジャズが好きで、そこをずーっと聴いてきた人。もちろん若いメンバーもそこは聴いているけれど、リアルタイムでどこまで感じるか?というと、またちょっと違うので。そういうことはあるかもしれません。

――寺井さんはやはり、50年代、60年代のモダン・ジャズですか。

寺井:私はそこから入ったので。そこから波及して自分の世界を作ろうと歩いている感じですね。モダン・ジャズ、ビバップあたりから入って、「なんて魅力的な音楽なんだろう」というところから始まっています。そこで自分がやっていく上で、あらゆるジャンルにいい曲があるなと思って、じゃあアレンジして取り入れようかという、そこにタンゴもあったし、クラシックもあったんです。だから何も変わってないですよ。

――挑戦というよりも、自然とジャンルを踏み越えてしまっているというか。

寺井:そうです。ボーダーラインはないです。クオリティの高いものを求めているので、それがいいものかどうか、それだけです。分けないですね。自分の音楽というものはもう決まっていて、そこに色々なものを自由に取り入れていくということですね。

――この『The Standard』を、どんな方にお薦めしたいですか。

寺井:ファンの方はもちろんのこと、ジャズのアルバムを持っていないという方も、スタンダードとはどういうものか?という興味でもいいですし、いろんな方に聴いてほしいです。私の思うジャズの魅力というと、今はお料理屋さんのBGMとかでもジャズはよくかかっていますけど、それはなぜか?というと、お洒落で洗練されていることもあると思うんですけど、ジャズの魅力というのは音の会話があるということなんですね。アドリブだから。しかもそれが、今日の会話なんですよ。一期一会。今日と明日の演奏は違うわけで、そこがジャズの魅力だと思っているので、そのへんを楽しんでいただければと思います。


――このアルバムの曲も、コンサートで再現する時にはどんどん変わっていく。

寺井:そうです。曲はすでに成長していますし、このメンバーで2018年の春にはコンサートもありますし。

――ぜひうかがわせてください。生で聴けるのが楽しみです。

寺井:生で聴いてください。いや、生も、聴いてください(笑)。ビジュアルがつくと全然違うので。熱いですよ、うちのステージは。

――2018年にはいよいよ、デビュー30周年の年を迎えるわけですが。もちろん何か、特別な企画があるんですよね?

寺井:あるでしょうね(笑)。楽しみです。

取材・文●宮本英夫

リリース情報

『The Standard』
2017年11月22日発売
UCCY-1085 SHM-CD:¥3,000+税 配信同時リリース
1.ナイト・アンド・デイ
2.フライ・ミー・トウ・ザ・ムーン
3.デヴィル・メイ・ケア 
4.これからの人生 
5.イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー
6.ソウル・アイズ
7.ワン・ノート・サンバ
8.イエスタデイズ 
9.ブルーゼット
10.ゴールデン・イヤリングス
11.枯葉
12.ーディス
13.ブルー・ヴェルヴェット
(2017年8月21-23日録音)

ライブ・イベント情報

12/3(日) 秋田:大館 御成座
「meg 10周年記念ツアー Quicker Than the Eye」
スペシャルゲスト
お問い合わせ 0186-59-4974

12/4(月) 東京:渋谷 eplus リビングルームカフェ&ダイニング
「寺井尚子 最新CD『The STANDARD』発売記念プレミア・ライヴ」
お問い合わせ 03-6452-5650

12/5(火) 東京:銀座 Swing
ゲスト:安部よう子
お問い合わせ 03-3563-3757

12/13(水) 東京:神田 Lydian
お問い合わせ 03-5244-5286

12/22(金) 東京:六本木 SATIN DILL
お問い合わせ 03-3401-3080

2018/1/7(日) 愛知:知立 リリオ・コンサートホール
お問い合わせ 0566-85-1133

2018/1/18(木) 東京:銀座 Swing
お問い合わせ 03-3563-3757

2018/2/3(土) 東京:板橋 板橋区立文化会館 大ホール
「歌謡ナイト Jazzyなライブショー スペシャルステージvol.3」
お問い合わせ 03-3263-6612

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