【インタビュー】鍵盤男子、メジャーデビュー「みんなでピアノの未来を創っていきたい」

ツイート


ピアニストである大井健(おおいたけし)と、作曲家の中村匡宏(なかむらくにひろ)からなる注目のピアノ・デュオ“鍵盤男子”が、11月29日にメジャーデビュー・アルバム『The future of piano』をリリースする。中村が全てのサウンドアレンジを担当し、クラシックをはじめ、ポップス、エレクトロ、ロックなどの要素をジャンルレスに取り入れながら音楽を自由に表現する新感覚のアーティストだ。超絶技巧を駆使した高速連弾や観客と一体となるコンサートはすでに人気を呼んでいるが、今回のアルバム『The future of piano』は、オリジナル曲のほかにもクラシックやUKロックの名曲をカバーし、彼らの魅力がふんだんに込められた1枚となっているので、ぜひとも多くの音楽ファンに手に取って欲しい。インタビュー中も息がぴったりと合っていたふたりの強い絆、そして今作、さらには鍵盤男子としての夢に至るまで、ライターの杉江優花氏が迫った。

◆鍵盤男子 画像

  ◆  ◆  ◆

■ クラシックには薄いエンターテインメント性も追求していきたい(中村)

▲鍵盤男子

── それぞれにご活躍されてきたお2人が、どのようにして鍵盤男子を結成することになったのでしょうか。

大井 健:僕は国立音楽大学を卒業したと同時に、オペラユニット“LEGEND”の専属ピアニストとして活動するようになりまして。そのうち、僕と一緒に伴奏をしていたパートナーが休学していた大学院に戻ることになってしまい、誰かいないかっていうときに白羽の矢が立ったのが中村くんだったんですね。そこから、彼と一緒に“LEGEND”の伴奏をするようになり……10年くらい前のことですね。

── それまで、交流は?

中村 匡宏:僕は一方的に大井さんのことを知っていたし、同じ大学なのでどこかですれ違っていたかもしれないけど、交流はいっさいなくて。でも、気持ちが合うのがすぐだったんですよ。

── 惹かれ合うものがお互いにあったのでしょうね。

大井:僕はすごくありました。音大と言っても、クラシックが好きな度合いは人それぞれなんです。度を越したクラシックマニアの僕としては(笑)、なかなか知識を共有できる人がいなくて悶々としていたら、中村くんもものすごいクラシック・マニアだったんですよ。

▲大井 健

中村:同じくですよ。僕はもう諦めかけていて、クラシックは個人で楽しむものものだと割り切っていたんですけど、仲間がいた!みたいな(笑)。とはいっても、同じものが好きなわけではなく、お互いに好きなジャンルは違えどシンクロできるっていう感じです。

── すべて重なってしまうより、そのほうが可能性が広がるし、刺激もありますよね。

大井:そうですね。

中村:自分が作曲学科で、大井さんはピアノ学科だったので──。

大井:お互いにの自分の分野のことを教え合ったり。

中村:それぞれに深いところまで知っているからね。

── お互いに頼もしい相方であると。

大井:はい、信頼は厚いです。

中村:あと、“LEGEND”のメンバーは大井さんの先輩で、後輩としての立場を経験しているから、僕に対しても言葉を選んでくれたり、「タメ口でいいよ」って言ってくれたり……すごくやさしいから(笑)、最初からやりやすかったです。

▲中村 匡宏

── なにしろ、運命的な出会いだったのですね。

中村:今になって、さらに確信しています。

── そんなお2人が鍵盤男子としてYouTubeに投稿している「千本桜」「アンパンマンのマーチ」やRADWIMPSの「前前前世」など、いろいろな楽曲を連弾アレンジした演奏動画を観ると、胸躍る楽しさがあって。

中村:ありがとうございます。アレンジにもいろいろなスタイルがあって、大胆に変えていくこともあれば、「千本桜」や「前前前世」みたいに原曲をちゃんとリスペクトするケースもあって、「前前前世」は各楽器の音を全部聴いて“圧縮版”的なアレンジをしています。




── 変幻自在なんですね。しかも、連弾って右に座る人と左に座る人とで弾く範囲を固定してパート分けするものだと思っていたら、鍵盤男子は、お互いの腕が鍵盤上で入り乱れたり、途中で座り位置を交代したりとまさかのフリースタイルで驚かされます。

大井:なるほど。そこに視点を向けていただくのは、僕たちからすると発見だったりもします。クラシックオタクの2人としてはクラシックオタクを増やしたいわけで、クラシックをもっと知ってほしいというところから始まっていますからね。連弾のイメージを塗り替えることができたのであれば、うれしいです。

中村:単に手が8本あるっていうだけじゃなくて、2つのコア、2人の意志が自在に混ざり合うのが、僕たち鍵盤男子。なおかつ、クラシックには薄いエンターテインメント性も追求していきたいなと思っています。


── そうなんですよね。鍵盤男子は卓越した技巧派、優れた表現者であるとともに、本当に素晴らしいエンターテイナーだなと思いますが、そうしたスタイルというのはどう創り上げてきたのでしょうか。

大井:先ほどお話した“LEGEND”というのはオペラ歌手による5人組で、ひとりでも多くのお客様にコンサート会場に足を運んでいただけるように、新しい要素を取り入れながら活動をしていたんですね。歴史的に見ても、モーツァルトやバッハは愛好家のためだけでなく一般の人にどう楽しんでもらえるかを考えて作品作りをしていたわけで、僕らも柔軟に新しいものを取り入れて、クラシックのよさを伝えていきたいし、そうするべきなんじゃないかなと。

中村:それに10年やっている間に、お客さんを盛り上げる方法も見つけていってね。僕は“LEGEND”の楽曲アレンジも担当していたんですが、何百曲と書いてきたその経験を鍵盤男子で活かすことで、より高揚する楽曲、より楽しめる楽曲にできているんじゃないかなと思います。

大井:僕たち、多いときは“LEGEND”のバックミュージシャンとして年間150本くらいのコンサート活動をしていましたけど、そのときどきで当然お客さんは違うわけで、いろいろなお客さんをバックミュージシャンとしていかにして楽しませるかとか、盛り上げるかっていうことを常に考えていたもんね。

◆インタビュー(2)へ
この記事をツイート

この記事の関連情報