【インタビュー】鍵盤男子、メジャーデビュー「みんなでピアノの未来を創っていきたい」

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■ このアルバムを手に取ってくれたクラシック好きの人が
■「creep」を聴いてレディオヘッドに興味を持ってくれたら(大井)

── 試行錯誤の途中には、大変なこと、苦しいこともあったのでしょうか。

中村:ほとんどのことを楽しくできたし、すべてが幸せではあったんですけど……もともとクラシック畑でロジカルにアカデミックな表現をしてきた2人なので、自分がしたい音楽と楽しんでもらえる音楽がはじめのうちは合致しないこともあって。でもだからと言って、クラシックをわかりやすい音楽に変えていくっていうのは失礼な考え方だし、音楽の質を絶対に落とさないで興味を持ってもらえるようなものを作るという責任があると思っているんです。そうした試行錯誤の結果、今は「こうしたらいいかな」っていう閃きがどんどん生まれてくるし、最高の状態ですよ。

大井:そうだね。個人的には……大変だったとかつらかったということではないけど、中村くんがウィーンに留学していたとき、ひとりになってさみしかったです(笑)。

▲大井 健

中村:鍵盤男子がこれから始まるっていうタイミングで、1年間くらい僕だけウィーンに行っちゃったからね。その節はすみません(笑)。

大井:2014年にインディーズでCDを出したとき、それを持って全国ツアーをまわったんですけど、千秋楽は完全に“中村匡宏を送る会”になっていて。僕も、ショパンの「別れの曲」を弾いてお送り出すっていう(笑)。

中村:ファンの方たちも泣いて、僕も泣いてね(笑)。僕が帰国したあとのコンサートは、同じ会場からスタートして、その流れの先でメジャーデビューが決まって、今に至るんです。

── そんなドラマがあったとは……。そして、11月29日にはデビューアルバム『The future of piano』がリリースされるわけですが、「The future of piano」「power toccata」といったオリジナル曲はじめ、クラシックの名曲・ラヴェルの「bolero」やサー・エドワード・エルガーの「威風堂々」(「pomp and circumstance」)、オアシスの「don't look back in anger」、レディオヘッドの「creep」、コールドプレイの「viva la vida」のカヴァーと実に多彩なラインナップです。自由な発想ができるお2人だからこそだなと、つくづく思います。

大井:ありがとうございます。うれしいね。

中村:うれしいね。

▲アルバム『The future of piano』

── 中でも、思い入れの強い曲を挙げるとすると?

大井:選ぶのが難しいんですが……僕は「power toccata」か「creep」だな。

中村:うん、その2曲ですね。僕から「power toccata」の話をしますと、今回はいろいろなタイプの楽曲、アレンジを心がけた中で、古典的なスタイルの“トッカータ”を新しい時代に蘇らせて進化させたかったのと、クラシックの世界では力の入れ方と抜き方がすごくシビアなんですけど、“power”という言葉をつけて勢いというものを全面に出したかったんですね。なおかつこの曲では、普通はピアノを連弾するときって、伴奏パートとメロディパートに分かれるところを、2人ともメロディを弾いている。器楽曲らしくて、今っぽくて、でも伝統的な様式を保っているまじめさもあり、パンク的なパンチも効いた曲になったなと思います。やっぱり、クラシックをやっていると、本当はハジけたいけどなかなかそうできないというジレンマがあって……。

大井:2人でドライヴに行くと、こういう曲を聴くよね。昂れるダンスミュージックとかも好きだし。

中村:そうそう。だから、「power toccata」はゆくゆく、コンサートで演奏するときにベーシストやドラマー、ギタリストに入ってもらったりして、テンション高く楽しみたいなという願望、可能性がある楽曲です。

── 音源を聴いている段階で、だいぶエモいですから。

大井:“エモい”いただいた、素晴らしい!

中村:うれしいね。そうなんです。「power toccata」はエモテクいんですよ。

── ほかの曲にしても然り、指の動きが人間技とは思えません。

中村:お察しの通り、指、結構大変なことになっています(笑)。でも、「power toccata」はピアニストならきっと誰でも弾いてみたいはずだよね。

▲鍵盤男子

大井:うん、そう思う。挑戦しがいがあるんじゃないかな。「creep」に関しては、レディオヘッドが大好きなんです。特にトム・ヨークの声が好きで。僕がイギリスに住んでいたときに、学生寮で先輩がずっと流していた影響でUKロックを好きになったんですけど、いつも聴いているアーティストの曲をピアノで演奏できるってすごく幸せなんですよね。もし、このアルバムを手に取ってくれたクラシック好きの人が、「creep」を聴いてレディオヘッドに興味を持ってくれたら、それもすごくうれしいことだなと。

中村:もうね、「creep」への愛と思い入れが強いんですよ(笑)。だから、「このアレンジだったら『creep』やらなくていいや」って大井さんに言われないように僕はものすごく考えましたよ。アレンジをする前にバンドスコアを見て、トム・ヨークがどんな歌い方をするのかを聴いて……そしたら、これどうやってピアノで弾けというの⁉っていう。

大井:そうだよねぇ。

中村:途中の“ジャジャ!”っていう印象的なギターのフレーズに関しても、「どうやってアレンジしてくれるのか楽しみだな〜」とかって僕がアレンジする前に言われたりもしましたからね(笑)。

▲中村 匡宏

大井:そんなにプレッシャーすごかった?(笑)

中村:うん(笑)。だから、何十パターンも作って。

大井:その結果ね、すごくよくできてた。

中村:我ながらそう思う。だからね、「creep」は僕的にも思い入れが強い曲なんです。レディオヘッドのことを好きな人に「好き」って思ってもらいたいし、そうじゃないとアレンジする意味がない。

大井:コンサートで演奏するのが楽しみですね。

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