【連載】CIVILIAN コヤマヒデカズの“深夜の読書感想文” 第七回/皆川博子『倒立する塔の殺人』

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こんにちはこんばんわ初めましていつもありがとうございます。コヤマです。
CIVILIANというバンドで歌を歌ったりギターを弾いたり曲を作ったりしています。

最早謝罪から入るのが当たり前のようになっていますが、今回も遅れてしまって本当にごめんなさい。前回から3ヶ月も先になってしまった。僕のバンドCIVILIANが11月8日にシングル、22日にアルバムをリリースしたのですが(とっても良いので是非聴いて下さい)、それのせいでこっちの更新が滅茶苦茶遅れてしまった。連載でも日記でも何でも、ずっと同じことを継続するのは大変だ。

今年もあと一ヶ月で終わります。早いね。皆さんの2017年はどうでしたか?僕の一年は充実していたよ。充実はしていたけど、もっと出来ることもあったよなぁとも思うし、まだまだ届いていない目標も沢山あるし、来年はもっと楽しい&大変な年になりそうな気がしています。今年一年で一番変わったのはライブへの取り組み方です。僕はただ僕であればいいんだと気が付いたのが10月の頭くらいで、そこから声の出方自体変わっていったような気がする。人間の声はとてもデリケートで、緊張や楽しさや苛々や不安やその他諸々の感情が勝手に声に乗ってしまうから、ライブの最中に僕が考えていることを皆に悟られてしまうような気がして、余計に力が入っていたんだと思う。それが良い意味で無くなって、今は歌うのが楽しいです。良い歌を歌えているという実感もある。叶うならずっとこんな風に歌っていられますように。体調が日々変わるのと同じように、声も時期によって変わってしまうからな。なるべく変わりませんように。

それじゃあ、七冊目の本の話をします。

(この感想文は内容のネタバレを多分に含みます。肝心な部分への具体的な言及は避けますが、ご了承の上読んで頂ければ幸いです)

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【第七回 皆川博子『倒立する塔の殺人』】

■狂気と倒錯に彩られた秘め事を解き明かすのは、クラスの変人「普通の子」

第七回はこの方。皆川博子さんの『倒立する塔の殺人』です。
ジャンルはミステリー。推理小説です。僕は推理小説はあまり積極的に読んだことがなく、たまたま読んだものが結果的にミステリーだったということがあっただけで、ミステリーというジャンルに何か特別なこだわりがあるわけではありません。そんな僕ですが、この『倒立する塔の殺人』、とてもとても面白く、最後まで一気に読みました。

書かれたのは皆川博子さん、御年87歳の女性。まず、何よりもそのことに本当に驚いて、それと同時に納得もしたのでした。だってこのお話、文体は非常に上品でボキャブラリーに富んでいて、登場する人物の言動ひとつひとつがとても新鮮で瑞々しく、80歳を超える女性が執筆したとはにわかに信じ難いほどに(失礼?)儚く美しく幻想的な少女性が描かれているんです。でも同時に、それだけのご年齢の方ならばこの文章の気品にも納得がいくなとも思い、技量と感性の両方を兼ね備えた本当に素晴らしい方だなと思ったのでした。

音楽をやる上で「技術を持った素人」という言葉があります。楽器を練習して上手くなればなるほど、覚えたパターンやセオリーに当て嵌めるような演奏しかできなくなり、楽器を触ったばかりの頃の、下手糞であるが故に感性だけで弾いているような感覚は失われる傾向にあります。なので、「練習によって培った確かな技術を持って」なおかつ「初心者のような感性で演奏する」ことこそが最強なんだという、だいたいそんなような意味の言葉です。皆川さんの文章には、それを感じます。僕も80歳を超えてもこんなに瑞々しい文章が書けるようになりたいです。

小説の舞台となっているのは戦時中~戦後の日本なのですが、皆川さんがお生まれになってから数年後に、歴史では太平洋戦争が始まっています。1945年に日本が降伏するまでの間、国内で300万人以上の方が亡くなられました。実際に戦争を体験されているだけあって、小説内の戦争の描写も当時の日本の空気感を感じられるような描かれ方をされていて、戦時下の日本に生きていた少年少女達はきっと本当にこんな毎日だったのだろうなと思いながら読んでいました。「死」が自分のすぐ隣にあり、誰かの死に対して大げさに悲しんだりはせず、ただ淡々と命が消えていくような、そんな毎日。「3,000,000人死亡」なんて現代日本では信じられないような数字ですが、確かにそんな時代があったのだと痛感します。


さて、ここから『倒立~』の中身のお話です。先に言ってしまいますが、とても美しい作品でした。少女達の狂気と倒錯、それが明かされる頃には不思議な寂しさと清々しさを感じる、良い小説でした。

太平洋戦争末期の日本、空襲のせいで授業も出来ず工場で勤労する女学生たち。日本は連日、航空機からの爆撃や機銃掃射に晒され、家族や同級生たちは次々と死んでいきました。この物語を紐解いていく役目を担う主人公・阿部欣子(あべきんこ)も、開始からわずか数ページで同級生が焼死しています。そんな毎日の中で欣子は、二人一組で行う校舎の焼け跡整理の相手として、三輪小枝(みわさえだ)という華奢な少女に出会います。

欣子には「イブ」という綽名がありました。「イヴ」ではなく「イブ」。「異分子」の「イブ」。つまり欣子はクラスメイト達から変わり者だと思われていました。ただし、本人は何故周りからそう思われているのか分かりません。というのも、欣子が通う学校の生徒達はみな医者や軍人などの家柄のいい子達ばかりで、挨拶には「ごきげんよう」を使うのが普通だとされているようなお嬢様学校です。欣子のような庶民の子は珍しいので、他のクラスメイトが話しかけてもどこか返答がずれていて、次第に一人、また一人と欣子に話しかける者はいなくなり、気付いた時にはクラスの異分子、変人となっていたのでした。

そんな「イブ」こと阿部欣子は、あることをきっかけに三輪小枝の家に住まわせてもらうことになります。
(この三輪小枝と、冒頭数ページ目で亡くなった欣子の友人だけは、欣子のことを「イブ」ではなく「べー様」と呼んでいます。欣子の体型が「上から下までずどんと太く、土管に似た体型」であることが由来だそう。)

どうやら小枝は、近くにあるキリスト教系ミッションスクールに通う上級生と親しくしていたようなのですが、ある日、そのミッションスクールにあったチャペルに爆弾が直撃し、小枝と親しくしていた上月葎子(こうづきりつこ)が死んでしまいました。悲しみに暮れる小枝でしたが、同時にひとつ疑問を抱きます。空襲警報が鳴ったら、もれなく全員が防空壕へ避難するはず。ただでさえ空襲で人が少なくなっているのだから、壕に人がいっぱいで入れなかったなんてことも無いはず。なのに、どうして上月さんは空襲の最中、ひとりでチャペルなんかにいたのだろうか?

欣子が小枝の家に居候するようになってから、欣子は小枝から一冊の本を「読んで欲しい」と頼まれます。言われた通りに指定された引き出しを開けると、そこには手書きで作られたと思しき一冊の本が。その手書きの本には
「倒立する塔の殺人」
というタイトルが書いてありました。

この本には、三人の人間が書いた手記と物語がリレー形式で書かれています。最初に書かれているのは、欣子・小枝のクラスメイトで皆から嫌われている設楽久仁子(「ジダラック」という綽名で呼ばれています)の手記と「倒立する塔の殺人」その1、その次に続きを書いているのが上月葎子、そして最後は小枝が続きを書いています。

”上月さんが亡くなったこと、わたし、どうしても納得できないの。”
”べー様にも読んでもらって、感想を教えてほしいの。”
”べー様はわたしより、ものの考え方が大人だから”

小枝からそう告げられた欣子は、この「倒立する塔の殺人」を小枝と共に読み解き始めます。それは上月葎子の死の真相だけでなく、もっと深い、倒錯した愛情がもたらした哀しい結末まで暴いていくのでした。


3人の少女によって書かれた小説と、それを書くに至った経緯が記された手記。物語の中で阿部欣子が「倒立する塔の殺人」を読むとき、その度に小説の中にもその物語と手記が断片的に登場します。3人が描いたこの「倒立する塔の殺人」というリレー小説は、女学校に赴任してきた外国人教師が、過去に同じ学校に赴任した友人の謎の死を追うミステリーとなっており、ミステリーの中にまたミステリーが出てくるというマトリョーシカのような小説。そこに、あえて順番を飛ばし飛ばしにした手記まで入ってきて、それが終盤になるにつれてだんだん現実とリンクしていく様は鳥肌ものでした。高慢で残酷な少女達の倒錯や妄執が物語の大部分を支配しているのですが、その狂気や倒錯をものともせず真っ向から対峙する「普通の子」阿部欣子が、物語全体のバランスを絶妙に整えていて、暗く陰鬱なトンネルを一気に抜けていよいよ真相が明かされ始める時には、ある種の痛快さすら覚えるような、読み終わった後には不思議な清々しさが残る作品でした。素晴らしいです。

推理小説というのはあまり詳しく書き過ぎるといわゆるトリックが分かってしまったり、読んだ時の新鮮な驚きや感動が8割減くらいになってしまうので、普段以上にあまり詳しいことが書けないのがもどかしいですが、読んでいる最中、後半になるにつれてなんだかすごく好きになったキャラクターがいました。誰のことかはご想像にお任せします。

女子校に通っていた僕の異性の友人は、在学中に同性から恋愛的な意味で告白されたことがあったそうです。また、BL(ボーイズラブ)作品が好きな方のお話では「(同性愛は)性欲や本能を超えたところでしか成り立たない感情、だから異性愛よりも純粋なのだ」という意見も聞きました。1940年代の女学生達も、同性に憧れる気持ちがあったのでしょうか。この作品の根底にずっと流れている、同性同士の親密な空気や、それ故の醜い嫉妬や嫌悪など、それがとても幻想的で美しいなと思いました。

あと、この作品の中には様々な音楽や実在の小説が登場します。ドストエフスキーや江戸川乱歩、音楽は僕等が学校で習う『流浪の民』」や『美しく青きドナウ』など。音楽や小説は、衣食住には勝てません。音楽で飢えが凌げるわけではないし、小説で身体が暖まるわけでもありません。それでも欣子や小枝達が防空壕の中で歌を歌い、ソシアル・ダンスを踊り、夜にこっそり「敵性音楽」を聴くのは、それによって救われる心がいつの時代もあることの証じゃないかと、僕は思います。



僕の拙い文章では、皆川さんの書かれたこの圧倒的に素晴らしい作品の良さは半分も伝わらないのではないか、と心配ですが、ぜひぜひ読んでみて下さいね。
それじゃあまた。


CIVILIAN ニューアルバム『eve』

発売中
【初回生産限定盤| CD+DVD】SRCL‐9596~97/4,860円(税込)ライブDVD付
【通常盤 | CD only】SRCL‐9598/3,240円(税込)
<CD>
01.eve
02.一般生命論
03.残り物の羊
04.どうでもいい歌
05.愛 / 憎
06.ハロ / ハワユ
07.赫色 -akairo-
08.言わなきゃいけない事
09.生者ノ行進(Album Ver.)
10.あなたのこと
11.I’M HOME
12.顔
13.明日もし晴れたら
14.メシア(2017.9.5 at Aobadai Studio) *bonus track
<DVD>
「Hello,civilians.~2017東京編~」2017.5.25(Thu) @渋谷CLUB QUATTRO
Bake no kawa ~ アノニマス ~ 先生 ~ 自室内復讐論 ~ 初めまして ~ 爽やかな逃走 ~ 神経町A10街 ~ AK ~ Y ~ メシア ~ ハロ / ハワユ ~ カッターナイフと冷たい夜 ~ 3331 ~ 生者ノ行進 ~ ディストーテッド・アガペー ~ 顔 ~ 暁

<CIVILIAN ONE MAN Tour”Hello , civilians~全国編~”>

2017年11月18日(土) 北海道 / 札幌SOUND CRUE
2017年11月22日(水) 新潟 / 新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2017年11月24日(金) 宮城 / 仙台enn 2nd
2017年12月09日(土) 広島 / 広島BACK BEAT
2017年12月10日(日) 福岡 / 福岡graf
2017年12月16日(土) 愛知 / 名古屋CLUB QUATTRO
2017年12月17日(日) 大阪 / 梅田CLUB QUATTRO
2017年12月21日(木) 東京 / 恵比寿LIQUIDROOM
全公演チケット前売り¥3,500 当日¥4,000 (ドリンク代別)

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