【ライブレポート】MOSHIMO、覚醒の渋谷クアトロ公演

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7月9日の渋谷WWW以来だから、ちょうど4か月振り。久々に観たMOSHIMOは、あっと驚くほどに成長を遂げていた。かぶっていた猫を脱いだらライオンが出て来たみたいな、それでいて猫の可愛さはそのままみたいな、そんな例えはかえってわかりにくいか。ともかく<恋の怪物は君のすぐそばに>ツアーファイナル、これまでで最大キャパの渋谷CLUB QUATTROで、満員のオーディエンスを前に魅せたMOSHIMOのパフォーマンスは、ライオン級のワイルドで迫力溢れるものだった。

◆MOSHIMO ライブ画像

まず1曲目から音が違う。“せーの”で4人が呼吸を合わせ、ピアニシモからフォルテシモへ上昇してゆくかっこいいイントロを付け加えた「触らぬキミに祟りなし」のヘヴィメタリックな重低音アンサンブルの圧力は、以前とは比べ物にならない。“今日はぶち上げていこうぜよろしく!”と叫ぶ、ポチこと岩淵紗貴の気合の入りっぷりもハンパない。有無を言わさずフロアを揺るがす得意のダンスロックに乗って「猫かぶる」へ、そして「ジレンマ」ではポチがハンドマイクを握ってステージ最前線でジャンプしまくる。前回のツアーでもやっていたが、何と言うのか、照れが消えた。衣装もたぶん今までは絶対着なかっただろう、ふんわりとした大人の女性らしいフォルムのワンピースだ。何もかもがフレッシュで挑戦的、しかもハッピーでダンサブル。たった3曲で今日のライブの成功を確信させる、堂々たるパフォーマンスに体も心も踊る。















「“好き”はパワーになります。好きなものに突き進んで、自分を輝かせる、そういうツアーになってます。最後まで楽しんで行こう!」

おそらく半数が学生だろう、みんなで元気いっぱいにジャンプするMOSHIMO流ダンスロック「赤いリンゴ」で、もうひと盛り上がり。次は最新EP『支配するのは君と恋の味』からの「96メモリー」で、イントロに乗ってポチが曲の解説をしてくれるのだが、これが未だかつてないぶっちゃけぶり。ガールズトーク全開で過去の恋愛経験を生々しく語り、“恋愛は惚れたほうが負けなの。好きになればなるほど負けなの”という名言を放つと、歌詞の“惚れたら負け、じゃんけんぽん!!”に引っかけて、オーディエンスを巻き込んでのじゃんけん大会に突入するという、何でもありの展開にみんな大喜び。使える武器は何でも使って、来てくれた人をとことん楽しませること。今のMOSHIMOのライブには、一本の太い芯がしっかりと通っている。

楽しませるとは、笑顔にさせるだけじゃない。しっとりしんみり、身につまされるのも楽しみの内で、そういう意味では、中盤のダークな内省ソング三連発のとことんディープな世界観は、個人的にこの日最大の聴きどころだった。ポチが弾くアコースティック・ギターの爪弾きがもの悲しく響く「悪魔のつくりかた」、きょーへーこと本多響平がそっと奏でるシンバルが波音のように空間を満たす美しいバラード「三角形関係」、そしてバンドが一体となって切ない感情を押し上げるエモいロックバラード「寝グセ」。孤独、自己嫌悪、恋愛の不安、苛立ち、心の片隅に追いやられたネガティブな感情をひとつずつ拾い上げてそっと抱きしめるような、凛としたポチの歌声が圧倒的に素晴らしい。





イッチーこと一瀬貴之とポチの華麗なツインリードから始まり、間奏ではそうくんこと宮原颯のご機嫌なスラッピングが聴けた「オオカミ少年」は、へヴィなグラムロックと四つ打ちを掛け合わせた緊張度の高いロック・チューン。いつも笑顔のきょーへーが、この曲はそうはいかないとばかりにマジな形相でドラムをひっぱたく。この曲や「三角形関係」「寝グセ」も含め、CHEESE CAKE時代の楽曲には独特の青くさい香りがある。それを現在の4人の演奏能力の高さで再現することで、新たな魅力が生まれている。

「いよいよ後半戦。ラストスパート、盛り上がっていけるかトーキョー!」

MOSHIMO流パワーポップの最新傑作「支配するのは君と恋の味」のイントロを使って、またもやポチの知られざるコイバナエピソードが炸裂。気になる彼からもらった甘いコーヒーは、炭酸ジュースのように唇も心もシュワシュワしたそうな。片想いの切なさと止められない欲望をたっぷり盛り込んだ、スカッと爽やかなアンサンブルで突っ走ると、そのまま全員参加のタオル回しソング「ミラーボール」へとつなげる流れは実にスムーズだ。ポチはギターを背負ってハンドマイクで熱唱中。タオルを持ってたはずなのにいつのまにかどこへやら、裸の拳を突き上げて歌う姿は紛れもなくロック・シンガーだ。そしてあっという間のラスト・チューン、「命短し恋せよ乙女」は恒例の、オーディエンスの名前を織り込んだコール&レスポンスの時間。ファイナルだから大盤振る舞いなのか、一気に5人の名前を聞いてしまい誰も覚えられず、みんな大笑いでさらに盛り上がってしまう幸せのスパイラル。何をやっても良い方向へ転ぶ、今日のMOSHIMOは運も必然も味方につけている。











アンコール。きょーへーのツアーグッズ・ショッピングのコーナーでほっこり和ませたあとも、暴走モードに入ったポチのテンションは下がらない。次のライブはもっと大きい場所でやりたいと言い、“マジでこんなところで止まってられないから。もっと上に行ってやる!”と、堂々の成り上がり宣言を盛大な拍手と歓声が後押しする。なんて頼もしい立ち姿だろう。メンバー全員、特に岩淵紗貴の意識の変化、パフォーマーとしての覚醒がこのツアーの最大の収穫ではないか。







曲はライブ初披露、アコースティック・スタイルでの「てんてこまい」。そしてポチの感情移入たっぷりのアコギ弾き語りを前後に配し、素晴らしくドラマチックな展開を見せた「大嫌いなラブソング」で、明るさの中にせつなさを潜ませた深い余韻の残るエンディング。演奏を終えた4人が、晴れやかな笑顔で手をつなぎ、深々と一礼する。どの瞬間を切り取っても新しい発見と驚きがあった濃密な2時間。MOSHIMOが多くの人を巻き込む力を持った優れたロックバンドであることを証明し、2018年のさらなる飛躍を予感させる素晴らしいステージだった。

取材・文=宮本英夫
撮影=木場ヨシヒト

【セットリスト】

MOSHIMO ワンマンツアー2017 冬
<恋の怪物は君のすぐそばに>@SHIBUYA CLUB QUATTRO

M-1 触らぬキミに祟りなし
M-2 猫かぶる
M-3 ジレンマ
M-4 赤いリンゴ
M-5 96メモリー
M-6 白い自転車
M-7 悪魔のつくり方
M-8 三角形関係
M-9 寝グセ
M-10 オオカミ少年
M-11 支配するのは君と恋の味
M-12 ミラーボール
M-13 命短し恋せよ乙女
EN.1 てんてこまい
EN.2 大嫌いなラブソング

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