【インタビュー】マキタスポーツ「音楽界のジョーカー的な役割ができればいいなあ」

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■ 「サチモスがいい」「お笑いなんか興味がない」って言ってる人たち
■ その両方が通れる道になる音ネタを

──音楽には、時代を超えて普遍的に聴ける作品と、古き時代性を感じてしまうものがありますが、その違いはどう捉えていますか?

マキタスポーツ:ちょっと話ずれちゃうかもしれませんけど、まもなく16歳になる娘が沢田研二さんにすごくはまっていたんです。今は(山口)百恵ちゃんに夢中なんですけど、とにかく16歳くらいの女の子からみると、クールでヒップというか、イケてるものに見えるみたいですね。

──どうやってそこに行ったんだろ。

マキタスポーツ:そこは血かも知れないですね。自分のライブやフェスにも小さい頃から連れて行っていたし、僕のうちにはいろんな表現者たち…芸人や俳優やミュージシャンも遊びにくるから、そういうものは彼女のマインドに影響しているとは思います。彼女に聞くと、最初は銀杏BOYZの峯田君が好きでインスタか何かをフォローしていたらしいんですけど、峯田君が『悪魔のようなあいつ』という沢田研二さん主演のドラマの画像をアップしたことで、沢田研二に興味を持ったらしい。ま、そういうルートのたどり方をしている。

──父親と同じような道を歩んでいるじゃないですか(笑)。

マキタスポーツ:そんな感じがしますね(笑)。でね、昔の『夜のヒットスタジオ』とかでジュリーが出ていると、今と違ってMCも大雑把で、なんとなく話をして、井上順が急にくだらない駄洒落を言って周りがしらけて、その空気の中で「じゃ、新曲歌って」って言われてジュリーは頭に帽子を乗っけていきなり歌い出す。MTVやグラミーの垢抜けた演出を見た時に、そんな日本の歌謡界の宴会チックなダサさみたいなものを忌み嫌っていました。芸能界っていう身内感とかもダセえし…。

──そんなことを言うから、デビュー早々から売れないんですよ(笑)。

マキタスポーツ:ほんとそうだと思います。それがいやだったんですけど、娘の世代からすればそれが新鮮に見えるっていう。彼女のフィルターを通して見ると、「ああ、これ楽しいな」って思う。一方で「時の過ぎゆくままに」っていう曲…あれはメロディが大きいですよねぇ。

──イントロのギターからして素敵ですよね。

マキタスポーツ:僕なりに分析したんですが、あの曲が今のメロディと違うのは、サビの♪時の過ぎゆくままに〜のコードがGなんですけど「ままに〜」のところがB7なんです。セブンスのあの当て方というのは、今のメロディにはないですよね。

──歌が下手だと歌えないメロディラインだったり。

マキタスポーツ:歌えないし、和声的に言うとややこしいたどり方をすると思うし、変なテンションのところにいったりするんですけど、真正面にセブンスのメロディを当てるって、今の作曲にはないですよ。あのくらい大きくふりかぶったメロディじゃないと、当時の大衆曲では当たらないんだと思う。ウォークマンとかが登場する前のことなんで、テレビやラジオで聴くわけだから「低音がヤバイ」とかそういう概念はひとつもないわけで、そうすると引っかかるのは大きなメロディと歌詞しかない。時代とともに評価は変わるけど作品は変わらない。大野さんが作ったあのメロディと阿久悠さんの歌詞は、時代がずれ込めばもう一回ちゃんと聴ける。マニアックに分析して「B7ありえねえ、ヤバイ」っていう味わい方もできるわけです。

──あのB7が醸し出す雰囲気は、ジュリーだからこそでもありますよね。

マキタスポーツ:耽美的でデカダンス…ああいう感じの雰囲気をジュリーが一手に引き受けて作り上げた。しかも退廃的な「時の過ぎゆくままにこの身を任せ」なんて詞を誰が体現できるかと言えばジュリーしかいなかったわけで、そういうキャラクター商品としてよく作られたもんなんだなあって思います。1970年代のジュリーがやっていた仕事っていうか、あの辺のプロダクトチームはすごいことをやっていたんだと思います。

──そういう分析を夜な夜な一人で?

マキタスポーツ:そうですねえ…どこがカッコいいのかなあって。楽器のことが解っていれば聴こえ方が違うじゃないですか。でもほとんどの人は楽器も音楽理論も知らないわけで、「ここのコードワークがいいからこの曲は素晴らしいんだ」なんて聴き方はしない。それと同じように、お笑いにもただ一回笑って消費すれば面白い/充分味わえたっていうことではないという工夫が実は結構あるんです。技術面でここの部分はちゃんと包括してもう一回見直してみてください、非常に興味深い面白いですよっていう提示の仕方はある。落語もそうですね。

──落語は反芻のエンターテイメントですか。

マキタスポーツ:古典落語っていうテキストがあって、それを誰がどう解釈してやるかっていう。

──クラシックみたいなもの?

マキタスポーツ:ですね、あるいはジャズとか。テーマ、ソロ…と基本的な構造があってそれをどう解釈していくのかっていうことですけど、いわゆる芸の部分として「ここがこうなんですよ」と伝えることはできますよね。芸人って、場合によっては「一発屋」って言われて、世間は一発屋フォルダに入れていくじゃないですか。

──ええ。

マキタスポーツ:とにかく入れるんですよ。でもそうじゃなくて、例えば「スギちゃんのこういうところが面白いんだよ」っていうことをもう一回問い直すと「ああ、だから面白いのか」って思える。

──ひとつの芸風で売れた人を一発屋フォルダに入れるのならば、AC/DCも入れなきゃですね(笑)。

マキタスポーツ:そうです、そうです。新しいものがいいという時代はとっくに終わっているので、例えば古いネタとしては「15の夜」(編集部註:尾崎豊のデビューシングル/1983年)という曲がありますが、今の若いお客さんは「15の夜」を知らないですよね? でも「盗んだバイクで走り出す」っていうフレーズは知っているんですよ。「そんなストレートなメッセージだったんだよ」って言いながら、その歌詞を音頭で歌っちゃうと、その違和感が間口になる。ずいぶんと遠回りだけど、そこまで経由してたどり着く人は尾崎豊の素晴らしさに気付く人にもなるし、標になるかもしれない。最近「サチモスがいい」とか言ってる若い子の人たちにも「お笑いなんか興味がない」っていう人たちにも、その両方が通れるような道になる音ネタ/音楽ネタがあればいいかなって思う。

──「いとしのエリー」と「乾杯」が合体した「いとしのエリーに乾杯」なんて、マキタスポーツ流の最大のリスペクトなんでしょう?

マキタスポーツ:はい。僕の独特の愛し方がご本人にどう伝わるかわからないですけど。最近でいうと、星野源の「恋」をバラード風にして歌うとaikoに聞こえるっていうのがあるんですよ。

──ぶはははは(笑)。

マキタスポーツ:そのネタ作りながら自分で歌ってみたんですけど途中で「カブトムシ」になっちゃうんですね。「生涯忘れることはないでしょう」っていうフレーズが「生涯忘れず夫婦を超えてゆけ」ってなっちゃう。俺、「なんて味わい深いんだこのフレーズは…」って、歌いながら自分で感動して涙出てきちゃって。

──大発見(笑)?

マキタスポーツ:これもまたマニアックな話ですけど、あのふたりってコードワークが似てるんですよ。だから「恋」もゆっくり歌ったらaikoになるかなって思ったんですけど、やっぱり合うんですよね。しかも詞の面でもすげえマリアージュが起こって吃驚しました。こういうのはどーんという笑いにはならないですけど、これなら笑ってくれる人って、笑った後にもう一回この曲を聴いてみようってなると思うんで。

──オリジナルとマキタ・バージョンを何回か往復しそうです。

マキタスポーツ:できますよね。それは僕の役目だとも思うし。

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