「ハイレゾ音源座談会」配信事業者が明かすハイレゾ音源の現状と未来【新春企画】

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コアな音楽ファンの注目を集めているのが「ハイレゾ音源大賞」という企画。これはハイレゾ音源を配信する7社の連合企画で、各ストアが毎月ハイレゾ音源を1作品推薦し、アーティストやライターなどがセレクターとなって、その中から最も印象的な作品を大賞に選ぶというものだ。このハイレゾ音源大賞に現在参加しているのは「e-onkyo music」「GIGA MUSIC」「groovers」「mora ~WALKMANR公式ミュージックストア~」「mysound」「OTOTOY」「レコチョク」の7社で、いわばライバル関係にある各社が手を組んだ画期的な企画だ。そのハイレゾ音源大賞が1周年を迎えたことを記念して、配信各社の担当者による座談会が開催された。ハイレゾ音源に対する熱い想いや音楽業界に対する痛烈な批判など、担当者だけが知る話題で大いに盛り上がった様子をレポートする。

座談会の参加者は以下の通り(順不同、敬称略)。

・OTOTOY:オトトイ株式会社 編集長 飯田仁一郎
・mora:株式会社レーベルゲート HSプロジェクト室 黒澤 拓
・e-onkyo music:オンキヨー&パイオニア イノベーションズ株式会社 プロダクトプランニング部 音楽コンテンツ課 祐成秀信
・レコチョク:株式会社レコチョク 配信事業部 実川聡
・groovers:株式会社グルーヴァーズジャパン マーケティングチーム 竹井香一郎
・GIGA MUSIC:株式会社フェイス・ワンダワークス GIGA事業部 佐藤博紀
・mysound:株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス 音楽配信部 田中威志

司会進行:BARKS編集長 烏丸哲也


■普通のメディアとして、当たり前になってほしい

話題はまず、ハイレゾ大賞の現状やハイレゾ音源に対する思い、といったところから。各社の担当者が口をそろえて言うのは、ハイレゾが特別なものではなく、普通の音楽メディアとして扱われるように早くなってほしいということだった。

──1周年を迎えたハイレゾ音源大賞ですが、そもそも発足のきっかけは?

OTOTOY 飯田:以前moraさんとお仕事をしたご縁で「ハイレゾを盛り上げるようなことをなにか一緒にやりたいね」と話していたんです。各社の横のつながりがなかったので、連携することでなにか面白い流れを作れないかな、と。それがきっかけですね。

──そこに各社が集った形ですね。

▲OTOTOY:オトトイ株式会社 編集長 飯田仁一郎氏
OTOTOY 飯田:当時、ハイレゾのコアなファン層って年配の方や男性が主流で狭い世界だったんです。それで「どうしたら音楽シーンのメイン層に普及できるか」が最初の大きなコンセプトです。それで、ハイレゾに特化する以前に「音楽としてなにがよかったか」ということをきちんとやっていればリスナーにも届くのではないかと考えました。セレクターについては、我々事業者が大賞を選ぶとどうしてもハイレゾ文脈になってしまうので、そういう先入観やしがらみのないミュージシャンや芸人さんにお願いすることにしてね。最初にお願いしたのが坂本龍一さんでした。

──スタートから1年が経過し、現状はいかがですか?

mora 黒澤:参加配信会社が7社に増えましたが、それぞれ持ち分を分担して、みんな仲良くやっている感じですね。

mysound 田中:理想と現実のギャップみたいなものはありますが、みんなハイレゾを盛り上げたい思いでやっています。まず自分たちでできることをやっていこう、と協力しあっている。本来ライバルなんですけどね(笑)。

──皆さんはハイレゾにまつわるスペシャリストですが、ハイレゾ音源って…ぶっちゃけどうですか?

▲mora:株式会社レーベルゲート HSプロジェクト室 黒澤 拓氏
mora 黒澤:ハイレゾ音源には「ポストCDを担う次のメディアとして発展させていきたい」という思いをずっと持っていました。今は音楽制作の現場も24ビットで作られ、スタジオから再生するところまですべてそのクォリティで行けるわけですから、標準の音楽メディアになってほしいと思います。「特別に音がいいから聴いて」ということではなく、普通のメディアとして聴いてほしいんです。

▲株式会社フェイス・ワンダワークス GIGA事業部 佐藤博紀氏
GIGA MUSIC 佐藤:ハイレゾの魅力は、数値で測れないような音楽の良さを再確認できるところかなと思っています。ハイレゾ音源大賞では、毎回セレクターさんに音源をスピーカーで聴いていただくんですが、レオン・ラッセルの音源には、そのブラスセクションの管楽器の勇ましさに感動しました。音の高さ/低さみたいな数値的なものではなくて、きらびやかというか…抽象的なものを感じられるのが魅力なんです。これが当たり前になってほしいと思います。

OTOTOY 飯田:僕は自分でも音楽をやっているのでわかるんですが、ミュージシャンはマスタリングまですごくこだわっているんです。ミュージシャンもA&Rも、エンジニア、ディレクター…みんなそうですけど、なぜかマスタリングが終わるとそこで終了してしまう。そこに違和感があったんです。「やはりこだわって作ったこの音を届けたい」と思ったのが、僕がハイレゾの仕事をやるようになったきっかけ。CDはマスタリングでいい音を一生懸命に作っていますが、圧縮音源が流行るようになって「これは絶対に違う」と思いました。料理だって一番おいしい熱々のときに食べてほしいじゃないですか。

──テクノロジーの進歩とともに、どんな作品も熱々の状態で気軽に食べられるようになる、と。

OTOTOY 飯田:それがハイレゾだと思っています。ミックスで聴いているスタジオでの音をそのまま届けられる。先日、サニーデイ・サービスが半年前にストリーミングで出した作品をCDとハイレゾで出すのでその音源を聴いていたのですが、ストリーミングとハイレゾでは音が全然違うんです。ストリーミングだとギターの音があまり聴こえなかった。そういう状況ですから、改めてハイレゾには未来があるなと思いましたね。


■課題は、ハイレゾを体験する機会を増やすこと

ハイレゾ音源の音の良さを広く知ってもらいたいというのが、各社共通の意見のようだ。しかし今はまだ、未体験の人がハイレゾに触れられる機会がないのが問題だという。そして、意外なところにその原因があるという意見も飛び出した。

──ストリーミングだと音が違ってしまう…そこはミュージシャンにとってストレスですね。

OTOTOY 飯田:ストレスに感じてほしいです。徹夜したりしてこんなに頑張って作ったのに、なぜマスタリングから後を気にしないのか。そこはミュージシャンに声を上げてもらいたい。

▲株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス 音楽配信部 田中威志氏
mysound 田中:ヤマハは楽器を作っている会社で、アーティストが良い音を作る原点を担っているんですが、生の楽器の音って本当に素晴らしいのに、圧縮音源になった段階で美しいと思う部分がどんどんそぎ落とされていくんです。楽器の面白さ/美しさをもっと多くの人に感じてもらうためには、できるだけ産地直送のいい音を届けたい。でもそれが特別なものではなく、日常の当然なものになってほしい。早くハイレゾがスタンダードになってほしいですね。

▲株式会社グルーヴァーズジャパン マーケティングチーム 竹井香一郎氏
groovers 竹井:僕は、音楽を楽しむプラットフォームの中にハイレゾというものがひとつ加わったという考えです。以前レコード会社で宣伝/A&RをやっていてCDを作る側にいたんですが、圧縮音源のストリーミングが主流になってきたときと同じようなもので、また新しい音楽を聴く手段が増えたと思っていました。でもハイレゾの音質は雲泥の差だった。CDも次々にリマスタリングされているので音質はよくなっているんですが、ハイレゾはまるで違う。でもそんなハイレゾの良さは、ラジオやテレビでは届けられない。聴けるのは家電量販店とかオーディオイベントの場しかないんですね。つまり「聴ける機会がない」というのが大問題なんです。ハイレゾはデバイスも高価ですし、どうしても敷居が高い。でも技術が発達して、ピュアオーディオに比べればはるかに安くなっているので、むしろいい音を聴くための手段は、ハイレゾの普及によって手軽になってきたはずなんです。

mora 黒澤:音楽を聴くデバイスが、ITメーカーのものになってしまったという印象がありますね、昔はオーディオメーカーが作っていたのに。今のITメーカーは音質よりも利便性を追求しているようなイメージもあります。

──つまりはa****社が悪い(笑)と?

OTOTOY 飯田:音楽好きにとって、イヤホンジャックがなくなるなんてありえないですから(笑)。

groovers 竹井:パソコンもCDドライブがないものが多いし、そうなると圧縮音源しかないという。

mora 黒澤:ただ、ITメーカーが主導したことで利便性は整ったとも言えます。だからこれを利用して、もっといい音を楽しんでもらえるよう、ここからもっとオーディオメーカーに頑張ってほしい。さらにレコード会社もしっかり加わって…という形になればいいんでしょうね。

e-onkyo music 祐成:でも、ハイレゾの配信が始まったときは驚きましたよ。僕はレコード・ショップでアナログ盤を売っていて、その後配信の仕事をしていました。アナログなんて欲しいものが見つからないけど、配信なら探せば何でもある。それが配信のよいところだと思っていましたが、そんな矢先にOTOTOYさん/e-onkyo musicさんがハイレゾ配信を始めた。当時24ビットのマスター音源をお客さんに売るなんて衝撃だったなぁ。“門外不出の売ってはいけないもの”というイメージでしたから。


mora 黒澤:マスター音源ですから、出しちゃったら最後という感じですよね。僕がe-onkyo musicでハイレゾを始めた頃は「何それ」という感じで、どこも配信させてくれなかった。DRM(Digital Rights Management:複製や利用制限を制御する仕組み)をつけてもダメでした。レコード会社がどれだけ原盤を大切にしているかということですよね。それが今は出してもらえるんだから、いい時代になりました(笑)。

──一方、ストリーミングは膨大な曲数がありすぐに聴ける便利さがある。音質劣化があっても、現在のスタンダードはそちらに移行しています。

groovers 竹井:ストリーミングもCDも個人的には否定はしないです。でも音楽ファンなら、より良い音で聴きたいという欲求があるはずなんです。だからハイレゾの試聴環境を整えて「こういうものがあるんだよ」と体験させて、ハイレゾ側に引き寄せていくというのが我々の使命だと思います。「こんなに音が違うんだ」と教えてあげたいですね。CDだってリマスタリングによって音が全然違うので、それで感動する人ならハイレゾはもっと感動するはずですから。

mora 黒澤:以前、“1ビット研究会”というところで、配信の状況を講演したことがあるんです。ハイレゾの良さとか現状などを話した後で、「ストリーミングみたいに音楽そのものを買うのではなく“アクセス権を買う”新しい形が世の中に出てきてます」って言っちゃったら、来場していた多くのオーディオファンに「それじゃ困るんだよ!」とすごく怒られた(笑)。ブックレットを手元に持っておきたいという気持ちもあるだろうし、音楽を買って楽しむ方も現役でたくさんいるわけです。そういう方たちも大事にしないといけないなと改めて思いました。ストリーミングは、そういう方たちにとってはハイレゾも含めて“音楽を買うための試聴ツール”になるのかなとも思います。

OTOTOY 飯田:一方で、音楽にお金を払いたくないという人がたくさんいるというのも事実です。だからなにか新しい形を生み出さないといけないと思うんです。Spotifyなどは新しい形の一つだろうし、なにかひとつ新しいものを生み出せば変わっていくと思うんですよね。それはハイレゾが広まることかもしれないし別の形かもしれない。その意味で、まずはストリーミングを進めていかないと。

mora 黒澤:音楽そのものにお金を払うということでなくても、たとえばグッズを売ったり、アプリを売ったり、色々小さいものが積み重なって、売上がミュージシャンに返っていけばいいと思います。


■ハイレゾは“襟を正して”聴くもの?

ハイレゾ音源への向き合い方も各社それぞれで、ハイレゾならではの聴き方がある、という意見もあるようだ。そして話題は、“ハイレゾ音源の持つ価値はどこにあるのか?”という方向へと広がった。

──ここに集まった7社は、ハイレゾ配信のみならず別の音楽関連事業も行っていますよね?各社、ハイレゾ事業はどんな位置づけになるんですか?

▲株式会社レコチョク 配信事業部 実川聡氏
レコチョク 実川:とくに意識していないですね。音源そのものはお客様にとって手段でしかなく、音源を聴いたその先に何があるか…それが価値になる。僕はCDユーザー/コレクターなので、音源を買うというより紙ジャケットを買うような感じです。同じように握手券を買うという人もいるでしょう。それは音源の本来の使われ方ではないかもしれないけど、そういったお客様の体験が価値になるんだと思っています。その中でハイレゾは、音楽と向き合うのに労力がかかるものですよね。アーティストがより良い音を望んだことの成果物だと思うので、こちらもそれに向き合う姿勢みたいなものがある。たとえば電気を消して正座して、レコードに針を落とすような感じで聴く、とか。そんな体験価値のようなものが音源の先にあるんじゃないでしょうか。ハイレゾだからどうこうではなくて、“ハイレゾでしか味わえない体験をきちんと届ける”、それが重要だと思います。

──「ハイレゾなんだから襟を正して聴け」と(笑)。

レコチョク 実川:ミュージシャンがそう言うのが一番(笑)。「自分たちがもっとも届けたい音がこれなんだ」と。

OTOTOY 飯田:まあ…僕はそうは思わないですけど(笑)。なんなら散歩しながら聴いてもらうのが一番いい(笑)。

レコチョク 実川:たとえば、レッド・ツェッペリンのハイレゾ音源がこれから聴ける、となったら、僕だったら聴き方が変わるような気がします。これもひとつの体験なんだと思います。聴いたことのないものも色々と聴けて低価格、というのもサブスクリプションならではの体験だし、ファイルも大きくて高価なハイレゾを買うというのも体験なんです。売り手としては、それぞれ違う体験を売っている、ということもアピールすべきではないでしょうか。

──利便性を求めて技術/文明は発展してきたけれど、ちっとも豊かにはなっていない。“便利”であることが、ものごとの価値を下げてしまう危険性はありませんか?

groovers 竹井:なかなか見つからなかったレコードを遠方まで行ってやっと手に入れるとか、面倒なものが攻略できたときは、感動の度合いが違うと思いますね。圧縮音源のストリーミングは便利ですが、もっといいものに触れた瞬間に「今まで間違ってたかな」と思ったりするんじゃないかな。“ハイレゾは面倒だけど音がいい”って気づいてくれたらいいんですが。

OTOTOY 飯田:僕はまた正反対で(笑)、配信は速い/楽と便利な方向に進んでいますよね。その便利さを利用してもっと価値を与えたいと思ったのでハイレゾをやっているんです。ストリーミングの最もいいところは「横に行ける」ことで、どんどん横に行って新しい音楽に出会えるから、例えばシカゴのディープなヒップホップに当たったりすることもある。でも音質はよくないわけでしょう。そこにハイレゾの価値があるんです、横に行かない価値が。

mysound 田中:不便さから訴えられる価値もあるし、横に広がってそこから深く掘っていくという価値もありますよね。たくさん音楽に触れられる今の状況がすごく面白いと思います。技術はどんどん進歩していくから、ストリーミングでさえハイレゾになる時代もすぐに来る。そうなると、アーティストの音楽の作り方も変わってくるのではないでしょうか。でも便利だから圧縮、という環境にだけはなってほしくない。「やはり良い音のほうが楽しいよね」という風潮を作っていきたい。だから僕はどんどん便利になって、どんどん新しい体験ができるようになってほしいです。

▲オンキヨー&パイオニア イノベーションズ株式会社 プロダクトプランニング部 音楽コンテンツ課 祐成秀信氏
e-onkyo music 祐成:音楽制作の現場では、本当に緻密にセッティングをして細心の注意を払ってレコーディングしているんです。その中から良い音が生み出されているということを、色々な人にお伝えしたい。

groovers 竹井:そういう緻密な作業をやっているというのは、普通はなかなかわからないことなので、それを伝えてあげると音の楽しみも広がりますよね。自動車とかもそうですけど、男性って“もの作りに対する世界観”に惹かれるところもあるじゃないですか。“男のこだわり”みたいなのを感じる人には、そういう細かい情報も届けてあげるのはいいですね。そういう世界観をハイレゾで一緒に体験するというのは面白い。

mora 黒澤:でもそういうこだわりって、男性は共感するかもしれないけど女性にはなかなか伝わらない。それがハイレゾ配信サイトみんなの共通の悩みなんじゃないでしょうか。女性にも聴いてほしい…それも課題ですね。

groovers 竹井:ハイレゾの音楽シーンって、音楽好きよりガジェット好きのほうが多いので、それもあるかもしれませんね。ハイレゾのデバイスは女性が持つには重かったりするし。ハイレゾ大賞でセレクターを色々変えているのも、女性ファンを増やしたいという思いがあるからです。


■ハイレゾの未来はどこにある?

座談会終盤は、ハイレゾ音源の未来について熱い議論が交わされた。ハイレゾ普及の障害になっている原因や業界の問題点などが指摘され、ここではとても書けないような危ない発言も連発されるというスリリングな展開に。

──各社さん頑張ってハイレゾの魅力を発信しているのはよくわかりましたが、レーベル自身がハイレゾ普及にもっと尽力しないとダメじゃないですか?

mora 黒澤:ハイレゾの市場規模なども鑑みると、まだハイレゾで出すことに足踏みする気持ちも分かりますから、決して一方的にレーベルが悪いわけではないでしょう。ただ、音楽を売る側である限り、音質には拘って欲しい。我々みたいな配信サービスやアーティストの現場はもちろん意識が高いと思うんですけど、まだまだハイレゾに対する認識が低い方々が音楽業界には多くいるように見受けられます。

──本音、出ましたね(笑)。

groovers 竹井:レコード会社の中でもハイレゾを体験していない人が多いし、アーティストでもわかっていない人がいる。だからA&Rがハイレゾの知識を持って教育していかないといけないんです。ハイレゾの試聴会をやるなら、一般ユーザー向けではなく、レコード会社の担当者向けに試聴会をやったほうがいい(笑)。

──確かにそうかも。

e-onkyo music 祐成:もちろん、すごく積極的なレコード会社もありますよ。そういうレーベルとは「ハイレゾで売るためにはどういうものを作るか」という前向きな話ができるんです。

──音がいいハイレゾが存在しているのに、今もなお圧縮音源で音質劣化配信し続ける意味はどこにあるんでしょう。

groovers 竹井:企業ですから、楽曲が何枚売れたという絶対的な指標も求められますし、CDならオリコンみたいなチャートで成績が出ますからね。未だその指標を重視していますよ。

レコチョク 実川:カタログ(過去作)って、どう思います? ダウンロードして手元で持っておきたいという強いニーズがカタログにあるのは事実です。でも古い作品は24ビットではないからハイレゾは作れないし、24ビット音源があったとしてもマスタリングの手間やコストがかかる。カタログのハイレゾ音源を並べるには、すごい作業と熱意が必要なんじゃないかな…。

groovers 竹井:マスター音源が16ビットしかない時期があるんです…それはMDが流行った時代です。マスタリング後にチェックする時、エンジニアによっては、一般人の環境に寄せるためにチープなラジカセで聴いたりしてたこともあった。あの時代のものはマスターがDATですらないんです。アップコンバートして24ビット化することはできるけど、コストと時間を考えると厳しいですね。

mysound 田中:ないものはしかたがない。そのかわり、この先に出るものは産地直送で一番いい状態のものが並ぶ…そんな世の中を目指すのがいいでしょう。

groovers 竹井:我々はあくまで作品を仕入れて流通させる立場で、権利者ではないんです。でも配信会社がレーベルをやることになれば、世界を変えることができるかもしれない。各社が自社で原盤を持って戦い始めると面白いんじゃないかと。

──最終形態はそこかもしれませんね。いつから始めます(笑)?

e-onkyo music 祐成:すでに始めているところもありますし、DSDの11.2MHzという大きなスペックのものだけでリリースし、ある程度の実績もあります。全体で言えばまだこれからだと思いますけど。

──楽器の生の音/緻密なレコーディング、背後のストーリーなども含めた全体を、僕ら音楽ファンは愛してきたわけですが、それが圧縮音源で失われているとしたらとても悲しいこと。圧縮音源はこの先も主流でしょうか。

mora 黒澤:レコード会社の予算の問題もありますしね。ハイレゾを作ってもどれだけ売れるのか…という人がまだまだ相当数いるのかな。「面白いからやっちゃえ」のような熱意/勢いでハイレゾももっと盛り上げてもらいたいです。

groovers 竹井:あるときから、CDに音楽以外の付加価値をつけることによって販売枚数を稼ぐという手法が主流になりましたよね。でも、そういうビジネスを始めた人ってすごいなあと思います。

OTOTOY 飯田:そのビジネスモデルがCDビジネスを救った側面もありますよね。あのようなアイデアをまだハイレゾ業界は出せていない。お金があるアイドルはハイレゾをリリースできるけど、他は予算がないから出せないんです。ハイレゾ関係者は、お金を稼ぐアイデアを出さないと。

mysound 田中:現場の制作費の考え方も、今後は変わってくるのではないかと思います。クラウドファンディングで個人投資家から制作費を集めることも当たり前のように行われるようになっていますし、レコード会社のルールに縛られない音源制作/楽曲配信というのが生まれてくるんだろうな。伸びしろがある世界だと思います。

──アーティストが生み出した真の姿=ハイレゾであることは間違いないので、音楽そのものに魅力があれば、最終的にはみんなここに惹き付けられる。アーティストを救うのはハイレゾであると信じたいです。

OTOTOY 飯田:でもやはり…ハイレゾ=値段が高いというのは問題。この価格設定では、聴いてほしいという気持ちも伝わりにくい。

mora 黒澤:とにかく一度聴いてもらわないとね。聴いて違いをわかってもらえれば、その価値を理解してもらえるはずなんですが。

mysound 田中:そう言っているうちに、ハイレゾの次のものが出てくるかもしれないですけど(笑)。今は「ハイレゾはこうです、これがハイレゾです」って言わないといけない状況ですが、当たり前にハイレゾに触れている時代は来る。そうなれば、男性も女性も関係なくなるだろうし、そのために今、意識的に広める努力が必要ですね。

groovers 竹井:やはり体験する場を作らないといけないですね。体験してもらえばわかってもらえるはずなので。

mora 黒澤:android端末でもハイレゾ対応の環境が整ってきているし、体験できる機会は増えています。

mysound 田中:“ハイレゾ体験準備万端”という人は潜在的にたくさんいるんです。だから、きっかけを与えるのが我々の役目ということですね。

レコチョク 実川:ハイレゾ業界をもっと盛り上げていく努力を、我々売り手もしないといけない。だからね、この座談会は、一般ユーザーではなくレコード会社や原盤を作る業界の人が読むべきなんですよ(笑)。


取材:BARKS編集長 烏丸哲也
文:田澤仁
編集:BARKS編集部
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