【インタビュー】MAST aka ティム・コンリー「モンクが典型的なプログレッションを変化させた手法は、今でもジャズの世界で継承されてる」

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MAST(マスト)は、ティム・コンリーによるプロジェクトだ。2014年に、ライアット、ジェレマイア・ジェイ、アンナ・ワイズらをゲストに迎えてマストのデビュー・アルバム『Omni』がリリースされた際には、新進気鋭のビート・メイカーと受け止められていた。しかし、彼は既にジャズ・ギタリストとしてキャリアを重ねている存在だった。

◆MAST aka ティム・コンリー 関連画像

サンダーキャットやカマシ・ワシントンらの登場以降、ロサンゼルスのジャズ・シーンに注目が集まっているが、マストもそのシーンが生み出したと言える。アルバム『ラヴ・アンド・ウォー_』(2017年)に続いて、マストがリリースする最新アルバムが『セロニアス・スフィア・モンク』。モンク生誕100周年を記念した数々のリリースが続く中でも、マストは飛びきりの一枚を作り上げてみせた。ビッグバンドからビート・ミュージックまでを使って、自由な解釈で演奏されるモンクのソングブック。マルチ奏者でプロデューサーであるマストがいよいよ本領を発揮した作品だ。マストのエクスクルーシヴのインタビューをお届けする。

◆ ◆ ◆

■ビート・ミュージックと生演奏のジャズで、
■新しい音楽を生み出せる

——出身はどこですか?

マスト もともとフィラデルフィア出身で、東海岸で色々なバンドに参加してツアーしていたんだ。LAには6年前に引っ越して来た。LAには色々なチャンスがあったし、ここに素晴らしいミュージシャンがたくさん引っ越してたんだ。それに、Low End Theoryのシーンも好きだったから、LAに来ることにしたんだ。

——音楽的バックグラウンドについて教えてください。

マスト 最初に演奏し始めた楽器がドラムだったんだ。子供のときだったんだけど、レッスンを受けていたわけじゃなくて、遊びでやってた。11歳のときからギターを演奏するようになって、そこからは音楽漬けの人生だよ。ギターのレッスンを受けるようになって、大学ではジャズ・ギターとジャズ・コンポジションを専攻したんだ。

その後、Brainfeederからリリースしたライアットともツアーしていた。アイシー・デーモンズというシカゴのインディ・バンドともツアーしていたね。エレクトロニック、インディ・ロック、ジャズと何でもやってたよ。

——ジャズ・ギタリストとしてプレイしていた時は、どんな共演者と演奏をしていましたか?

マスト マーク・ジュリアナ、ジョシュ・ローレンス、ジェイソン・フラティチェリ、ブリアン・マーセラなど、NYとフィラデルフィアのミュージシャンとストレートなジャズを演奏していた。LAに引っ越してからも、ジョシュ・ジョンソン、ギャヴィン・テンプルトン、エリック・レヴィス、ジョナサン・ピンソン、ルイス・コールなどとストレートなジャズのギグで演奏してるよ。

——自分でビートを作り始めたきっかけは何ですか?

マスト オーシャン・エクスポジションという僕のオリジナル・ジャズ・フュージョン・プロジェクトの作曲をしていた時に、メロディ、ハーモニー、ミニ・ストーリーを作曲することにやりがいを感じていたんだけど、自分がリスナーのために作っている音の世界をもっと広げたいと思うようになったんだ。J・ディラ、マッドリブ、スクエアプッシャー、キング・ブリット、デイヴ・ダグラス、ティーブス、それにBrainfeederやLow End Theory周辺のアーティストが作り出したビートやプロダクションが大好きだったんだ。LAのビート・シーンがとてもジャズに影響を受けているから、インスピレーションになったんだよ。ビート・ミュージックと生演奏のジャズを融合させれば、エキサイティングで新しい音楽を生み出せると思ったんだ。それ以来、ずっとそのサウンドを追求してるんだ。

——マストではどのようなスタイルで曲を作っているんですか?

マスト ソングライティングのプロセスは曲によって違うんだ。僕の音楽はジャズ、エレクトロニック、クラシックなどの要素を取り入れた幅広いサウンドだから、それぞれのトラックへのアプローチが違う。唯一の共通点は、一つの楽器からまず曲作りを始めるということなんだ。例えばビートをまず作ってから、レイヤーを重ねていくこともある。または、キーボードでコード・プログレッションから作り始めたり、ギター、ベースライン、またはチョップされたサンプルを作ってから、レイヤーを重ねていくこともあるんだよ。

——LAのジャズ・シーンからはどんな影響を受けましたか?

マスト まず、僕は東海岸で育ったことをとても幸運に思っていて、フィラデルフィアとNYの音楽シーンの荒削りでアグレッシブなところに多大な影響を受けたんだ。LAと西海岸のジャズは、歴史的にもっとレイドバックしていて、グルーヴ中心なんだ。それは今でも変わらないんだけど、過去の時代に比べて、LAのジャズ・シーンはもっとハングリーになってる。グルーヴの中にある美しさとシンプルさを見出しながらも、ハングリーでい続けることを教えてくれたんだ。

今のLAのシーンはとても特別な時期にあると思う。NYやサンフランシスコなどいろいろな都市のミュージシャンがここに引っ越して、新しいアーティスティックなエネルギーの波を作り出している。特に、LAのビート・シーンはとても影響力があって、Brainfeeder、Alpha Pup、World Galaxy、Stones Throwは、カマシ・ワシントン、サンダーキャットなど世界的に知名度のあるLAのジャズ・アーティストを輩出してるよね。だから、今のLAのジャズ・シーンにはチャンスがたくさんある。すごく努力しないとやっていけないけど、頑張れば必ずチャンスはあるんだ。


■今作は全く新しくて、
■新境地を開くような作品

——今回のセロニアス・モンクのトリビュート・プロジェクトはどういう発想で生まれたのでしょうか?

マスト セロニアス・モンクのトリビュート・アルバムはいくらでもあるから、それとは違うことがやりたかった。演奏レヴェルが高いミュージシャンと、モンクのパレットを使いながらも、全く新しくて、新境地を開くような作品を作りたかったんだ。多くの人はモンクの名前を聞くと、彼のピアノ演奏を連想する人が多い。でも、彼は作曲家としてとても革新的だった。ポピュラーなリズム・チェンジ、ジャズ・ブルース・プログレッションを新たなハーモニーの世界に発展させた。彼が典型的なプログレッションを変化させた手法は、今でもジャズの世界で継承されてるんだ。

——今回のリリース・パーティがまもなくLAで開催されますね。このアルバムの世界をライヴではどう再現するつもりですか?

マスト このアルバムをライヴで再現することにはある程度のリスクがある。ビートやサンプルをトリガーさせながら、モンクの曲をミュージシャンと演奏することはリスキーだよ。でも、そのリスクが大好きなんだ。モンクのライヴ・バンドのメンバーは、まずはAbleton LiveとAKAI APC40を使って、サンプルをトリガーさせたり、トラックをリミックスするんだ。あとギターとペダル、そしてReasonをAbleton LiveにRewireで繋げて、MIDIキーボードで音を操作させたりループさせるんだ。あとは、2人から4人のホーン・プレイヤー、アップライト・ベーシスト、生ドラマーもバンドに参加してる。

東海岸でライヴをやるときは、ジョシュ・ローレンス(トランペット)、マーク・アレン(ソプラノ/バリトーン・サックス)、ジェイソン・フラティチェリ(アップライト・ベース)、アヌワル・マーシャル(ドラム)がメンバーなんだ。西海岸でライヴをやるときは、ダン・ローゼンブーム(トランペット)、ジョシュ・ジョンソン(アルト・サックス)、ギャヴィン・テンプルトン(バリトーン・サックス)、ジョナ・レヴィーン(トロンボーン)、ビリー・モーラー(アップライト・ベース)、ナイジェル・シファンタス(ドラム)がメンバーで、ブリアン・マーセラなどの素晴らしいピアニストがゲスト参加することもあるんだ。

——あなたが共感を寄せる、あるいは注目するミュージシャンやプロデューサーを教えてください。

マスト 数年前にシカゴでマカヤ・マクレイヴンと出会ったんだけど、すぐに意気投合して、Mastのライヴに参加してくれた。多くのエレクトロニック・アーティストはDJのバックグラウンドから来てるんだけど、僕らはジャズのバックグラウンドでありながらビートを作っているから共感したんだ。その意味で、テイラー・マクファーリンやジョセフ・ライムバーグ、デトロイトのシゲトにも共通点を感じるよ。

インタビュー・文:原雅明
通訳:バルーチャ・ハシム

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『セロニアス・スフィア・モンク』

2月7日(水)リリース
RINC36 2,130円+税
1.Misterioso (Reprise)
2.Evidence (feat. Jonah Levine Collective, Dan Rosenboom, Gavin Templeton)
3.Bemsha Swing
4.Ask Me Now (feat. Brian Marsella)
5.Well You Needn’t (feat. Chris Speed)
6.Epistrophy (feat. Dan Rosenboom, Gavin Templeton)
7.‘Round Midnight (feat. Brian Marsella)
8.Blue Monk (feat. Jason Fraticelli)
9.Oska T
10.Nutty (feat. Makaya McCraven, Dan Rosenboom, Gavin Templeton)
11.Straight No Chaser (feat. Brian Marsella)
12.Friday the 13th
13.Let’s Cool One (feat. Makaya McCraven, Jonah Levine Collective)
14.Pannonica
15.Trinkle Tinkle
16.Misterioso

◆Rings オフィシャルサイト
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