【連載】CIVILIAN コヤマヒデカズの“深夜の読書感想文” 第八回/伊藤計劃『虐殺器官』

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明けましておめでとうございます。こんにちはこんばんは。コヤマです。
CIVILIANというバンドで歌とギターと作詞作曲をしています。

2018年が始まりましたね。普段おみくじや占いの類はほとんど信じていないんですが、今年が始まってすぐに初詣に行っておみくじを引いたら大吉で「仕事が上手くいく」と書いてあったり、雑誌やネットの占いでは2018年がとても大事な一年になる、なんて書かれているものだから、普段信じていないくせに今年は何か大事な年になりそうな気がしてくるから単純なものです。普段の生活において人の気持ちを上下させるものなんて実は本当に大したものじゃなく、歩いてたらチャリが危ない角度で突っ込んできたとか、ちょっと言い方が気に食わんかったとか、僕等の日常を形作っているのは大半が実に些細で阿呆らしい事だと感じます。後から思い返したら「何故自分はあんなことで一々怒っていたのだろう」と思うようなこと。でも、そう思う度に、その怒りを感じていた自分がまるで対岸の火事ような、その時だけ自分の脳と身体が制御を失っているような、何かで自分が狂ってしまっていているような、そういう自分が存在していることに恐怖したりします。

怒りという感情の源泉は恐怖らしいですね。「こわい」という感情が怒りとして表出しているんだとか。すぐに不機嫌になる人は「かまってほしい」の裏返しだとか。僕等は自分の感情が一体どこから来るのか、今感じている喜怒哀楽の本当の源流は何処なのか、それすら分からず暮らしている。自分自身が自分だと思っているこの身体はただの「殻」で、皮を剥いで肉を削いだら中から全く別の生き物が顔を出してきそうな、自分なのに得体の知れない感覚。僕は音楽と詩によってそれを解き明かしたいと思いながらずっと音楽を作っているのですが、未だに分からない事だらけです。

今回扱う本も、そんな話。
では、八冊目の本の話をします。

(この感想文は内容のネタバレを多分に含みます。未読の方はご了承の上お読みください。)

  ◆  ◆  ◆


【第八回 伊藤計劃『虐殺器官』】

■人の「良心」はどこから来るのか

第八回はこの方。伊藤計劃さんの『虐殺器官』です。
皆さんからお勧めしてもらった本で、この連載の中では初めての既読の本です。お勧めありがとうござました。伊藤さん、好きです。初めて読んだのは『ハーモニー』でした。ご病気により若くして亡くなられてしまって、これ以降の新作が読めないのがとても残念です。

伊藤計劃(いとうけいかく)さんは、2007年にこの『虐殺器官』によってデビューされましたが、それからたった2年後に亡くなってしまいました。なので、厳密に言うと伊藤さんの著書は『虐殺器官』と『ハーモニー』の二冊しかありません。もうひとつ『屍者の帝国』という作品もありますが、これは執筆途中で亡くなってしまった為途中だった原稿があり、同時期にデビューされ親交のあった作家の円城塔さんが続きを執筆し、共作として世に出たものです。

ちなみにこの『虐殺器官』、「ベストSF2007」国内篇第1位、「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位という栄冠に輝いています。昨年2017年にアニメーション映画化され、アメリカでは実写映画化も進んでいるという話。僕はアニメも見ましたが、小説を読んでから観たほうが細かいディテールが分かってより楽しめるかな?という印象。作中に登場する未来的なガジェットなども小説のほうが詳しく語られています。あと普通に人の頭が吹っ飛んだり身体が欠損したりちょっとグロテスクな映像もあるので、苦手な人は注意かも知れません。が、原作を読んでいなくても映画自体は楽しめると思うので、本が苦手なら映画を観るのも手かも。漫画版も出てますが、僕はまだ読んでいません。

伊藤さんはもともと「メタルギア」シリーズの生みの親である小島秀夫さんの大ファンだったとのこと。なるほど、確かにそれを聞いた後だと『虐殺器官』の中に出て来る兵器や科学技術、テロや地域紛争や内戦などを扱った世界観が、どことなく「メタルギア」を彷彿とさせる空気感があるような気がします。

SFの賞を貰っていることからも分かるように、ジャンルはSFです。一口にSFといっても様々な作品があり、全部が全部宇宙や恒星間ワープ航行やモノリスなどを扱っているわけではありませんが、科学の進歩した世界での未来的なガジェットや複雑な理論などが長い文字数をかけて語られるものも多いです。そういった空想科学の理論や装置など、「もしかしたらこの先本当にあり得るかも」と思わせてくれるようなものを読むのはとてもワクワクするのですが、諸刃の刃というか、それこそがSFの敷居を高くしてしまっている気もします。決してSF小説の悪口を言うわけではありませんが、本を読む習慣がそもそも無い人にとっては、内容の如何に関わらず、最初の数十ページを読むのも骨が折れる事だと思います。そこにさらに難解な空想理論など入ってきたら…。ですが、小説というのはその最初の数十ページを越えた先に沢山の面白さが詰まっているものです。何を読むにしても、どうか諦めず「面白くなってきたな」と感じるまで読んでみてください。その時にはもう、先を読むのが楽しみになっているはずです。


さて、長くなりましたが本編の話をしましょう。
舞台は、9.11のアメリカ同時多発テロが起こった後の世界。サラエボにて核爆弾を使ったテロが起こり、それを契機として世界各地で戦争が激化していきました。アメリカを始めとする世界の先進国達は、自国からテロを完全に根絶しようと全力を尽くし、自国のヒト・モノすべてをIDで管理し、監視し、日常の行動すべてを「本人の認証」なしでは行えないように社会の制度を作り変えたのです。

スーパーでちょっとした買い物をするのも、電車や飛行機に乗るのも、学校に通うのも働くのも、ピザのデリバリーひとつ頼むのも、全て指紋や網膜や顔で認証を行わなければ何一つ許されない生活。一品の料理に使われている素材ひとつひとつに至るまで全て出どころを管理され、必要とあらばその素材がどこで生まれ、誰に加工され、どのように運ばれてその料理に使われたかまで全て調べることが可能になりました。その不自由さ・窮屈さを受け入れた代わりに、IDと認証によって不審なモノやヒトも監視することができ、結果としてテロの発生率は激減しました。しかし、今まではテロとして他国に向かっていた敵対感情が自国に向いたからなのか、それとも何か別の理由があるのか、テロが無くなった代わりに内戦や紛争、とりわけ虐殺行為が世界中で激増しました。

“(中略)どうやら世界は発狂しようと決意したようなのだ。アフリカで、アジアで、ヨーロッパで、つまり世界のありとあらゆる場所で内戦と民族紛争が立て続けに起こり、そのほとんどで、ある国連決議いわく「看過すべからざる人道に対する罪」、が行われた。”

「看過すべからざる人道に対する罪」がつまり大量虐殺のこと。かつてナチスドイツがユダヤ人に対して行ったような虐殺行為が、突然世界中で立て続けに起こるようになったのです。

物語の主人公は、アメリカ軍の中で唯一「暗殺」を請け負う部隊「特殊検索群i分遣隊」に所属する軍人。名前はクラヴィス・シェパード。彼の最近の任務は専ら、テロや虐殺を引き起こそうと画策する国の指導者等をアメリカの命により暗殺し、それによって紛争を早期終結、あるいは未然に防ぐこと。現場を忙しく飛び回っているクラヴィスも、ある時期から突然全世界で虐殺が頻発するようになったことに疑問を感じていました。そして時を同じくして、ある時からクラヴィスが請け負う任務の暗殺の標的に、いつも同じ名前が載るようになりました。

その名前は「ジョン・ポール」。何度も暗殺命令が出され、クラヴィス達が何度も任務に赴き、そしてその度に取り逃がしてきた人物。世界中で起きている虐殺行為、それが起こっている国には何故か決まってこのジョン・ポールが現れている。ジョンはその都度何らかの形でその国に関わり、そしてジョンが関わった国は必ず大量虐殺が起こっている。それを突き止めた軍の上層部はジョン・ポールの暗殺を何度も立案します。しかし、出入国の記録まで全てIDで辿れるはずのこの世界でも、ジョンが一体どうやって神出鬼没に国から国へと渡り歩いているのか、そして訪れた国でどうやって虐殺を引き起こしているのかを、全く掴めずにいたのでした。

物語は大まかに3つのパートに区切れると思います。最初にジョン・ポール暗殺の命を受け、それ以降世界中で虐殺が増えたとされる「二年前の任務」が一つ目。そこから時が経ち、何度目かのジョン・ポールの暗殺任務に再び向かうのが二つ目。そしてその後からラストに至るまでが三つ目のパート。ジョン・ポールは何故世界中で虐殺を引き起こしているのか?世界からテロが消えた本当の理由とは?そしてジョン・ポールが語る「人の脳に備わっている虐殺を司る器官」とは一体?という話。

テロリズムや戦争、人の生死、良心の定義とは何か、というような題材を扱う一方で、「虐殺の器官」を”言葉“によって活性化させる「虐殺文法」の存在など、人にとって「言葉」とは何か、というのも重要な題材になっています。

主人公のクラヴィスが作品内で話している口調などを見ると、一見誠実な人間にも見えるのですが、「他者を殺すことでしか自分が生きている実感が持てない」とか「それを愛国心とかでオブラートに包んで人を殺せるから軍隊に居続ける」みたいな発言をしたり、人間として相当捻くれているというか欠落しているということが分かってきます。それはもしかしたら、クラヴィスの父親と母親との関わりも関係しているのかも知れません。

作品内の軍隊は最新鋭の装備を沢山使っていて、作戦前に薬物とカウンセリングによって罪悪感や良心という感情にストップをかけ、作戦中の感情的な判断ミスを無くす処置を施されて戦場へ送られます。要するに女子供だろうが誰だろうが躊躇わず殺せるように「調整」されて戦地へ行くのです。クラヴィスは戦場という圧倒的な現実を生き延びることで生の実感を得ていたはずでしたが、もしそれが自分の意思ではなくさまざまな処置によって「作られた」感情だったとしたら、自分の「生きているという実感」までもが嘘なのではないか、と思い始めます。だからこそ、小説のラストでクラヴィスが選んだ選択は、生きる実感を求めていたクラヴィスにとって(相当歪んでいたとしても)自分の本当の欲求に忠実な選択だったのかも知れません。このラストシーンと読後感は、もうひとつの伊藤さんの著作『ハーモニー』にも通じるものがありました。どちらも、想像していなかったラスト、という意味で。

あなたの「良心」と、私の「良心」は果たして同じだろうか。
それがもし対立した時、私達はどうしたら。



いつも通り、ただの個人の感想です。興味が湧いたら是非読んでみてくださいね。
それじゃあまた。


CIVILIAN ニューアルバム『eve』

発売中
【初回生産限定盤| CD+DVD】SRCL‐9596~97/4,860円(税込)ライブDVD付
【通常盤 | CD only】SRCL‐9598/3,240円(税込)
<CD>
01.eve
02.一般生命論
03.残り物の羊
04.どうでもいい歌
05.愛 / 憎
06.ハロ / ハワユ
07.赫色 -akairo-
08.言わなきゃいけない事
09.生者ノ行進(Album Ver.)
10.あなたのこと
11.I’M HOME
12.顔
13.明日もし晴れたら
14.メシア(2017.9.5 at Aobadai Studio) *bonus track
<DVD>
「Hello,civilians.~2017東京編~」2017.5.25(Thu) @渋谷CLUB QUATTRO
Bake no kawa ~ アノニマス ~ 先生 ~ 自室内復讐論 ~ 初めまして ~ 爽やかな逃走 ~ 神経町A10街 ~ AK ~ Y ~ メシア ~ ハロ / ハワユ ~ カッターナイフと冷たい夜 ~ 3331 ~ 生者ノ行進 ~ ディストーテッド・アガペー ~ 顔 ~ 暁

<CIVILIAN presents INCIDENT619>

【vol.11】2018年5月16日(水)渋谷CLUB QUATTRO
出演 : CIVILIAN / etc
チケット : 前売り¥3,500 当日¥4,000 (ドリンク代別)

【vol.12】2018年5月18日(金)名古屋ell.FITS ALL
出演 : CIVILIAN / etc
チケット : 前売り¥3,500 当日¥4,000 (ドリンク代別)

【vol.13】2018年5月25日(金)大阪 Banana Hall
出演 : CIVILIAN / etc
チケット : 前売り¥3,500 当日¥4,000 (ドリンク代別)

詳細はオフィシャルサイトにて

CIVILIAN ライブ出演情報

<machioto2018>
2018年2月11日(日)
会場 : 岡山CRAZYMAMA KINGDOM/岡山MO:GLA/岡山BLUE BLUES/蔭涼寺(4会場サーキット)

<真空パック vol.13-1 ~真空ホロウ3ピースになったんで対バンしませんか2018~>
2018年2月19日(月)心斎橋Live House Pangea
出演 : 真空ホロウ / CIVILIAN (2man Live)

<Jack in the Boxxx!! 2018 -day.2->
2018年2月20日(火)名古屋CLUB UPSET
出演 : 神はサイコロを振らない / Half time Old / 真空ホロウ / CIVILIAN etc…

<MUSIC GOLD RUSH>
2018年2月23日(金)新宿LOFT
出演 : 神はサイコロを振らない、Rhythmic Toy World、バンドハラスメント、CIVILIAN

<502号室のシリウスツアー>
2018年2月25日(日)前橋DYVER
出演 : グッドモーニングアメリカ / CIVILIAN

<HIROSHIMA MUSIC STADIUM -ハルバン’18->
2018年3月10日(土)広島7会場サーキット
出演 : 120組出演予定

<TENJIN ONTAQ 2018>
2018年3月11日(日)
会場 : public bar Bassic./ LIVEHOUSE CB / Early Believers / graf / Kieth Flack / LIVE HOUSE Queblic / VIVRE HALL / public space 四次元
出演 : 120組出演予定

<FACE IT!!>
2018年3月16日(金)小倉 FUSE
出演 : BAN’S ENCOUNTER / ircle / Unblock / ワガマンマ / CIVILIAN

<HAPPY JACK 2018>
2018年3月17日(金)
会場 :熊本B.9、Django、ぺいあのPLUS’ (予定)
CIVILIANは3/17(土)の出演となります

<FM NORTH WAVE & WESS PRESENTS IMPACT! XIII supported by アルキタ>
2018年4月22日(日)
会場 : 札幌市内5会場サーキット ( Sound lab mole,KRAPS HALL , BESSIE HALL,SPIRITUAL LOUNGE, KLUB COUNTER ACTION)

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