【インタビュー】メトロノーム、緻密さと心地好い毒気が混然一体となった最新形「弊帚トリムルティ」
■トーキング・モジュレーター的なことをボコーダーでやったんです
■ギターを弾きながらフレーズに合わせて同じ言葉をずっと繰り返すという
――続いて2曲目の「ボクになりたかった僕」にいきましょう。
フクスケ:この曲はですね、今年はメトロノームの20周年というのがありまして。そのスタートとして、昔からよく自分が作っているような曲を作りたいと思って作ったのが「ボクになりたかった僕」です。その結果、少しファンキーで、少しニューウェイブが香って…という曲になりました。あと、サビで雰囲気が変わるけど、転調しているのか、していないのかは自分でも分からない(笑)。昔からそうですけど、僕はあまり考えて作らないんですよ。理論的にどうだとか、合っている、合っていないみたいなことを考えると面白くないから。この曲も同じで、完全に自分の感覚に任せて作りました。
――そういうスタンスは賛成です。サビの場面転換はすごく心地好いですし、ボコーダー・ボイスもキャッチーさを増幅していますね。
フクスケ:Bメロは違いますけど、サビの後ろで鳴っているボコーダーの音はギターで出しています。キャビネットで鳴っているギターの音を自分の声と混ぜた……つまり、トーキング・モジュレーター的なことをボコーダーでやったんです。ギターを弾きながら、フレーズに合わせて同じ言葉をずっと繰り返すという。それを自宅で録ったんですけど、何をやっているのか自分でもよく分からなくなりました(笑)。それに、ライブはどうしようかなと思っているんですよね。シーケンスにして流しても良いけど、やっぱりその場で言っていたほうがライブ感が出るから、やりたいんです。ただ、永遠に言い続けないといけないので、ツラいかなというのもあって迷っています(笑)。
シャラク:「ボクになりたかった僕」の歌詞は、「弊帚トリムルティ」とセットみたいなところがあって。「弊帚トリムルティ」は“メチャメチャがんばります!”みたいな感じですけど、オイラはわりとそういうプレッシャーでダメになってしまうんですよ。なので、この曲は“そうはいっても、そこそこがんばります”みたいな(笑)。内容は、“みんなが求めている自分と本当の自分”ということがテーマになっています。昔はみんながオイラに求めている姿が嫌になってしまうこともあって、ピリピリした時期もあったけど、今はそれでみんなが喜んでくれるなら良いなと思えるようになったんです。みんながそれを求めてくれることが嬉しいなと。とはいえ、緩くやりますよと。そういう気持ちを歌っています。そういう意味では、「ボクになりたかった僕」という曲は今だからこそ書けた曲で、若い頃はできなかっただろうなと思いますね。
リウ:「ボクになりたかった僕」はフクスケ君が言ったとおり、少しファンキーなんですよね。フクスケ君が作ったデモのベースは打ち込みだったんですけど、このテンポで弾くのは難しいだろうというくらい、休符とかが結構細かく入っていたんですよ。僕はそういうベースは得意ですけど、意外と速いぞっていう(笑)。人間がやるには限界っぽいところとかもあったんです。それで、フクスケ君はこういうノリを出したいんだろうなというのを汲みつつ、遊ぶ部分も多めにしたベースを弾きました。
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――この曲のベースも本当に気持ち良いです。それに、サビの前半はキックとユニゾンしつつ後半で動くというアプローチにも耳を惹かれました。
リウ:フクスケ君の曲の特徴の一つとして、ループ感がどこかにあって、そのグルーヴでどんどんテンションを上げていくというのがあって。それに合わせてベースもセクションの後半で動いたり、高い音を入れたりすることが多いんですけど、今回の「ボクになりたかった僕」のサビはすごいハイ・ポジションまで上がっていて。ちょっと上がり過ぎかなと思ったけど、ギターとぶつからないし、上手く着地できたから良いか…みたいな(笑)。それくらい高いところまで行っています。
フクスケ:僕は、自分の曲だと結構ギターの手を抜いてしまう傾向があって。この曲のイントロとかのリフは、デモのままです(笑)。さっき話したように、この曲はアンプがケンパーではなかったので、後で音色を変えられたんです。そこを活かして、デモのトラックを、そのまま使いました。あとは、最近の僕はセミモジュラー・シンセにハマっていて、この曲でも使っています。そのせいで、“これチューニング合ってるのかな?”みたいな感じになったけど、聴こえが良いから活かすことにしました。
――そういうところにも、センスの良さを感じます。センスが良いといえば、アーミングのみというギター・ソロも秀逸です。
フクスケ:このソロは、アームをどれだけ速く沢山動かすかということがテーマとしてありました(笑)。ちょっと前に、切れづらいことをウリにしている弦を使ってみないかと言われたことがあって、プロの人がその弦を使ってみた感想とかを話す動画を見せてくれたんです。そうしたらムキムキの洋楽アーティストが「これだけアーミングしても切れないんだぜ、どうだ!」みたいな感じで、めっちゃアーミングをしていて。それを思い出して、この曲に入れることにしたんです。思い切りアーミングしたら、楽しいだろうなと思って(笑)。録る時は完全にノリに任せてアーミングして、良い感じに収まったところでやめました(笑)。
シャラク:歌はさっきも話したように本番の前に一度歌っていたし、この曲はキーも自分にとってちょうど良いくらいのところなんです。だから、スムーズに録り終わりました。多分、2回くらいしか歌わなかったと思います。オイラは基本的に歌を録るのは速いんですけど、この曲は本当に時間が掛からなかったです。
――やりますね。前向きな歌詞を、ちょっと皮肉な感じで歌うことで生まれる“尖り”も光っています。
シャラク:オイラのベストキー的なところで歌うと自然と得意な歌い方になってしまうというのがあって、ちょっとダラッとした感じになるんです。この曲もそうで、それが面白い感じに聴こえるなら良かったなと思いますね。
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