【短期連載】<SXSW>漫遊記 第一回、「はしごしながら音楽三昧の一週間」

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<SXSW>という略称、あるいはサウスバイの愛称で知られている<South by Southwest Conference & Festivals>は、音楽部門、映画部門、インタラクティヴ(IT)部門からなる世界最大規模を誇る巨大な複合イベントだ。毎年3月の第3週、アメリカの南部に位置するテキサス州の州都であると同時にカレッジ・タウン、シリコン・バレーでもあるオースティンで10日間にわたって開催されている。ちなみにヒッチコックの映画『北北西に進路を取れ(原題:North by Northwest)』をもじった名称は、<SXSW>の創設者の一人が以前、<ニュー・ミュージック・セミナー>というイベントを開催していたニューヨークから見て、オースティンが南南西の方角に位置することに由来している。

◆SXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 画像

1987年に初めて開催された時には、1970年代からライヴ・ミュージックの首都と謳われるほど、音楽が盛んだったオースティンの町興しの、こじんまりした音楽イベントだったが、1994年に映画部門とインタラクティヴ部門を加え、複合イベントに発展した。その後、年々、規模を拡大しながら、Beck、ハンソン、ウィルコ、ライアン・アダムス(当時はウィスキータウンのフロントマンだった)、ジョン・メイヤー、ジェームズ・ブラントら、後に大成功を収めるアーティストが飛躍を遂げるきっかけになった、いわゆる新人の登竜門として、音楽ファンに知られていった。



時代と言うか、産業界の変化なのか、近年──特にTwitterが世界中から注目されるきっかけを、<SXSW>が作った2007年以降は、IT企業による新製品の発表・プロモーションのイベントとして、インタラクティヴ部門が音楽、映画をしのぐ盛り上がりを見せているが、オースティンの町が賑わうのは、やはり何と言っても多くのバーが軒を連ねる6番街を中心にダウンタウンにある約100ヵ所のヴェニュー(ライヴハウスに加え、バー、レストラン、教会も!)で毎晩、開催されるミュージック・フェスティバルだ。日中、コンベンション・センターで開催されているミュージシャンや音楽業界関係者による講演や質疑応答、企業によるトレードショーに参加している業界関係者も夜になれば、音楽ファンとともにダウンタウンに繰り出していき、ビール(や、その他の酒)片手に夜中の2時まで繰り広げられる演奏を楽しむ。



その意味では、いまだ<SXSW>の中心はミュージック・フェスティバルと言ってもいいと思うが、1987年の第1回目には177組だったミュージック・フェスティバルの出演者は、筆者が初参加した1999年には829組に増え、2011年には、ついに2000組を突破してしまった。以来、毎年、アメリカのみならず、世界各国の2000組以上のアーティストが出演している。さらに言えば、2000年代に入った頃から、<SXSW>の開催中、オースティンでは<SXSW>のオフィシャル/アンオフィシャル問わず、数々のパーティー(フリー・ライヴ)がそこら中──いわゆるライヴハウスはもちろん、レコード・ショップ、カフェ、レストラン、バー、ブティック、ギャラリー、ホテル、駐車場などで催され(ウォータールー・レコードのフリー・ライヴやホテル・サンホセで開催されるサウス・バイ・サンホセなど、出演者の顔ぶれが豪華な毎年恒例の人気パーティーも少なくない)、文字通り朝から晩まで町中が音楽の坩堝化。<SXSW>参加者に加え、春休みを利用して、全米(いや、世界中からか?)からやってきた音楽バカたちがパーティーをはしごしながら音楽三昧の一週間を過ごすのである。



斯くいう筆者も音楽バカの一人として、1999年から飽きもせずに毎年、日本から直行便のないオースティンくんだりまで足を運んで、近年、再開発が著しい町の変化とともに<SXSW>を楽しんできた。規模の拡大とともに2010年代前半、ストロークス、ブルース・スプリングスティーン、フー・ファイターズ、プリンスら多くのビッグネームをブッキングしてきたミュージック・フェスティバルも2015年頃から、新人のショーケースという原点に回帰。出演者の顔ぶれが地味という声も一部ではあるようだが、人が集まりすぎて、ヴェニューに入れないこともたびたびあった2010年代前半に比べ、以前のようにヴェニューをはしごしながら見たいアーティストを次々に見られるようになったのはうれしいことだ。とは言え、この4月、2年ぶりに新作『イン・ザ・レインボー・レイン』をリリースするオースティンの人気バンド、オッカーヴィル・リヴァーのライヴには入場待ちの長蛇の列ができていたし、ロックの救世主と謳われる大型新人、スタークローラーのライヴにはとうとう入れずじまいだった。



個人的な事情から筆者は3月12日(月)にスタートしたミュージック・フェスティバルに14日(水)からの参加となってしまったが、それでも多くのライヴを見ることができた。印象に残っているライヴはいろいろあるが、<SXSW>ならではの幸福感に浸ることができたという意味では、ダウンタウンの南端にある湖畔の野外ステージで開催されたフリー・ライヴでヘッドライナーを務めたオースティンのレジェンド、ロッキー・エリクソンを見た17日(土)の夜に尽きる。




13thフロア・エレヴェーターズ時代も含め、代表曲の数々を歌う70歳のロッキーの雄姿にも涙が出るほど感動したが、それ以上のサプライズが筆者を待っていた。湖畔のステージからダウンタウンの中心にある6番街に戻る途中、かつての倉庫街がおしゃれな町に生まれ変わったウエストサイドにあるランバーツというバーベキュー・レストランの2階で催されていたKeeled Scalesというオースティンのインディー・レーベルのショーケースに立ち寄ったのである。(たぶん)10年ぶりぐらいに復活したオースティンのノワールなオルタナ・カントリー・バンド、ナイフ・イン・ザ・ウォーターが目当てだったのだが、混雑しているに違いない6番街に戻る気がせず(本当は6番街でクリス・ステイミーを見ようと思っていた)、ナイフ・イン・ザ・ウォーターが終わった後もそこに残って、続けてアダム・トーレス、トゥウェインのライヴも見たところ、ショーケースのトリを飾ったマット・デヴッドソン(Vo, G, P)を中心とするヴァージニア州フランクリン・カウンティーの3人組、トゥウェインが大当たりだった。





フォークと言うのか、アメリカーナと言うのか。たとえば、かつてザ・バンドが歌ったような黄昏たバラードを、美しい歌声で歌いながら、徐々に高ぶる感情を抑えきれずに体を揺らして、熱情を迸らせるパフォーマンスに胸を鷲掴みにされ、心を奪われた。大好きなニューオーリンズのバンド、デズロンデスのシングルにマットがトゥウェイン名義で客演していたから、その名前だけは知っていた。しかし、見る予定はなかった。そんなふうにたまたま見たアーティストがその年のベスト・アクトになってしまうことが<SXSW>では少なくない。こういうことがあるから、また来年も来ようと思ってしまう。それがもう20年も続いている。<SXSW>が音楽バカにとって、いかに楽しいイベントかわかっていただけるだろうか。

今回の短期集中連載では、そんな今年の<SXSW>を、ミュージック・フェスティバルを中心にレポートさせていただくわけだが、あまりにも巨大なイベントをいくつかの視点から切り取って、その盛り上がりを伝えてみたいと考えている。

撮影・文◎山口智男


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