【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.99「エレカシのフジロック出演に寄せて思うこと」

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3月23日、エレファントカシマシがフジロックフェスティバルに出演することが発表された。その朗報に際し、ふと頭を過ぎったのが紅白歌合戦だった。

昨年末、紅白歌合戦に出演したエレカシを観た。デビュー30周年ということもあってか、あの大ヒット曲「今宵の月のように」が紅白で演奏されると知り、それは観なければと楽しみにしていた。そして始まったわけだが、変わらない真っ直ぐで強固な眼差しとスマートな出で立ち、活動歴を知れる刻まれた顔の皺、深みが増した男前の歌声と琴線に触れるメロディ、そのどれを取ってもそれらすべてにぐっときてしまったのは私が四十路を迎えた世代というせいもあるだろう。演奏が進むに連れて腹の底からじわじわと込み上げてくるものと胸の高鳴りが合流し、目頭もまた熱くなった。今振り返ってみると、久しぶりにテレビ画面を真剣に見つめた数分間であったし、彼らが昨年の紅白のベストアクトだったと思う。


エレカシのフジロック出演を耳にして、何故紅白を思い出したのかを考えてみたところ、フジロックと紅白歌合戦には通ずるものがあるように見えてきた。まず、長きに渡って継承してきた、もはや“定型”とも呼べるほど強固な独自スタイルを刷新し、今見せるべきものを来場者に届けるべく、出演者を大幅に変えた紅白歌合戦は、一昨年のザ・イエローモンキー出演に続き、昨年はエレカシを出演させたことから見られるとおり、周年や活動再開などの話題を鑑みて時代に寄せる努力がクリアに見える。

一方、フジロックもまた、ケンドリック・ラマーやエレカシなど、これまでには並ばなかった国内外のアーティストをラインナップに続々と乗せ始め、来場者の多くが洋楽至上主義の人たちが多くある世代から邦楽ロックへの馴染みが強い、または、洋楽でも最先端のものを好む世代へとバトンタッチがされ始めたことを察知しつつ、見せるべきものはしっかり見せるといった姿勢に変化してきているように見受けられる。確かに、洋楽ばかりがロックではないし、洋楽ロックのテイストやスピリットを継承し自らの音に溶け込ませて表現している自国のロックなミュージシャンも存在するのだから当然の流れと言えるだろう。無論、フジロックにはこれまでも邦楽アーティストは数多く出演してきたが、今回のエレカシのように日本に現存する骨太なロックバンドがフジロックに出ていないケースが意外とある。今年のラインナップでは、マキシマム ザ ホルモンやユニコーンも初出演だ。



一般的に、企業は消費者の声を聞くことが収益を上げるための鉄則のひとつだが、過去を振り返ると紅白もフジロックも独特で限られた出演選出方式を取っているように見え、他に耳を傾けずとも強力な支持を長年受けてきた、非常に希な成功事例である。それだけに、ここにきて大きな変革を迫られているのかもしれないが、日本最大級の音楽フェスティバルであるフジロックという大舞台が、アーティスト側のアニバーサリーイヤーなどをきっかけに、近年増加傾向にある和と洋のロック史の継承図を描け、妄想をかき立てられるような和洋折衷となるミュージシャン対決の見せ場となることを大いに期待している。


例えば今年、「風に吹かれて」を2回、同日に聴けるとしたら? 或る人にとってはストーリーがより美しくなるはずだ。

想像とは、時に、本番を見るよりも楽しいものである。


文=早乙女‘dorami’ゆうこ

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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