【独占レポート】hiroyuki arakawa、韓国ライブ日記「“パーティをしないクラブ”VOLNOSTとは?」

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2017年、自身の楽曲「Alexander」がマーク・ナイト主宰のToolRoomにライセンスされリリースを果たしたhiroyuki arakawaが、韓国でライブパフォーマンスを行なった。名門COCOONやSOMA UKとのつながりやMULLER RECORDSからアルバム『TRIGGER』のリリース、2015年には自身のレーベルSPECTRAを立ち上げ、さらに2016年にはDOMMUNEでのレーベルショウケースで10000人を超える視聴者数を記録、リリースツアーも敢行し全日程成功を収めるなど、話題のアーティストである、arakawa自身の言葉で渡韓の模様をお届けしよう。

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今回のブッキングはお隣の国、韓国ソウルに拠点をおくクラブ「VOLNOST」からのブッキング。私自身、これまでにToolRoomとライセンスを獲得できたり、DOMMUNEにて私のレーベル番組をしていただけたり、楽曲製作やレーベル活動として、いろいろと新しい動きをとっていた最中の出来事だったので、他国からのブッキングは非常に嬉しいものだった。

今回、同クラブの<周年イベント>に私のレーベル“SPECTRA”をピックアップしてもらい、私はライブセット、レーベルメイトのHOWAKOはDJのパフォーマンスでオファーされたのだが、ブッキング元である“VOLNOST”のことは全くわからなかったため、ネットでいろいろ検索したが、内部に関する情報は見つけられず……得られた情報は場所の情報と、毎週テクノイベントが4回行われていることのみ。普通に考えて、今の日本ではテクノだけで毎週イベントが開催される場所はありえない話で、かの地ではどんなテクノフリークが待っているのだろうと、期待を膨らませて韓国へ飛んだ。

韓国までは2.5時間ほどで到着し、入国手続きをすませてから、車で1時間。ソウルのイテウォンに移動し、ホテルについてからライブセットの手直しを入念に行った。今回のライブセットは特別だ。ここ数年にわたって、楽曲のリリースを控えていたが、40曲ほどの作りかけの楽曲や完成した楽曲が、制作用PCに待機している状況で、ライブのたびにそれらをライブ用PCで即興演奏できるようにしている。


ライブ用PCのMacBookは、ABLETON LIVEをソースとして、SYLENTH1というシンセを4台立ち上げておき、NOVATIONのLOUNCH CONTROL XLやCONTROL PAD、ALLEN & HEATHのXoneといったMIDIコントローラ群で自在にループやシンセをコントロールしている。この演奏の自由度や個性の表現は、DJとは異なるもので、時折訪れるオーディエンスが狂喜乱舞する瞬間を即興で合わせることができ、意図するブレイクやクールダウンといった緩急も自在だ。このホテルで準備している時点で、機材トラブルと操作間違えの不安は多少あったが、盛り上げられる自信は相当なものたっだ。



VOLNOSTのオーナー兼DJであるCOMAがホテルまで迎えにきてくれて、いよいよ今回の現場であるVOLNOSTへ向かった。繁華街の道路沿いに、地下へと続く階段があり、入り口からアンダーグラウンドな雰囲気を感じながら、奥へ降りる。キャパは150名ほど、スクエア1フロア型のハコで、正面にウーファーが2基、ツイーターが2基のシンプルな構成で、壁沿いに対面してDJブースとバーカウンターが設置されていた。ブース内はターンテーブルとCDJ2000NXSが2台ずつ、ALLEN&HEATH XONE92が設置。営業時の照明は、規制が厳しい今の日本では困難な、ほぼストロボのみという仕様。雰囲気はバッチリだが、音響に多少不安を感じたが、いざリハをすると力強く伸びのよいテクノサウンドが満遍なくフロアに行き渡たり、安心してサウンドチェックを終えた。

リハ後にはスタッフ兼タトゥーアーティストのシージンと共に、近隣の飲食店でサムギョプサルを食べ終え、いよいよ23時にオープンを迎える。早い時間から客入りがよく、みんな話しをするどころか黙々とテクノに集中する人がほとんどだ。この日のDJのHyenam、Coma、Oslon全員の選曲は決して派手なものではなく深くハメていく、すこしのリズムの緩急でフロアが沸くような絶妙なもの。怖いくらい感動した。実際にフロアはかなり盛り上がっていたし、本当にテクノが好きな人が集まっているということを体感した。


オープンから4時間近く経過し、選曲は深いところから抜け出すギリギリのところで盛り上がりが激しくなり、いよいよ自分の出番が迫る。大勢の客演でも緊張感が薄い自分だが、この時ばかりは耳が肥えた客層に、自信も折れそうになる。自分の前はCOMAがDJで、彼が私に交代するために音を止めた時、フロアから熱い叫び声が飛び交った。序盤のライブの幕開けから、フロアからのフィードバックが激しく、しばらくはキック&ベースとハット、時折シンセから不規則なクラップ音で緩急をつける展開をした。

いろいろな叫び声が飛び交う中、フロアからは日本語で「すごいー!」という声も聞こえたりして、つい笑顔になってしまう場面が何回もあり、比較的リラックスしながらライブができたように思う。低音を抜いてブレイクを作り上げていくとき、どこまでフロアがついてこれるか客との勝負のようになる局面があり、照明のストロボもうまくマッチしながら、さらにシンセを徐々に入れていき、低音を差し込んで大爆発といった展開で1時間ほどプレイした。


その頃にはもう不安などはなく、ただひたすら自分が黙々と家からフロアをイメージして作りこんだものが、国境を越えて共有できることに喜びを感じながら、プレイを続けた。突然PCトラブルに見舞われ、そこでも盛り上がったが、すかさずバックアップ用のUSBを差し込んで続行したりと、ライブならではの恐ろしさと盛り上がりを表現できたと思う(笑)。レーベルメイトであるHOWAKOも2時間にわたるプレイで朝方までお客を離さないプレイをしっかり行い、イベントは続いた。

朝8時近くまで続いたイベントが終わり、機材も片付けられないほど、酔いがまわっていた私は一旦ホテルに戻り、翌日になぜ熱狂的なテクノ好きがVOLNOSTに沢山集まってくるのか、COMAに聞いてみた。COMAはVOLNOSTが始まった当初から、頑なに“パーティをしない”というポリシーを守り続けたため、なかなかお客が集まらなかったという。パーティしないというのは、店ではレジデントDJが最高のテクノをプレイしているだけのことをいっている。店やレジデントDJは集客は一切しない中でお客はテクノで踊りたいがために、勝手に集まってくる。レジデントDJは集客にエネルギーを使わずに自分のベストなプレイにだけ集中する。そういう環境のことをいう。


そのポリシーがあるがゆえに、クラブの存在やイベントの詳細なども一切明かされることなく、ただそこでテクノが毎週流れる。そんな運営でも、偶然かすかに路上で聞こえたテクノサウンドに興味を示した人が、VOLNOSTに入ってくる。その客が入ったVOLNOSTはCOMAが認めたレジデントDJで固められており、一定のクオリティが営業時間内でいつでも聞くことができる。VOLNOSTに出会った人は、VOLNOSTに惚れ込み、その友人に広める。「あそこはいいクラブだ」。噂でどんどん広まることで、立上げ当初キャパ30人、ピアノの上でDJブースを組んでいたVOLNOSTは、キャパオーバーとなり店を広い場所へ移転。大箱と比較すると小規模ではあるが、今ではテクノ好きが絶えることのない営業をしている。COMAはもっと沢山の人に、VOLNOSTを知ってもらいたいと笑いながらいっていたが、あえてアナログ的な運営をすることもまた大事と真っ直ぐな目で私に教えてくれた。


自身のレーベル、SPECTRAが初の韓国進出でき、ライブセットも沢山のフィードバックをもらえ、貴重な公演になったと思う。なにより、VOLNOSTというクラブと、そこにいる人たちに出会えたことが本当にうれしかった。これから、他国でのギグや、リリースも増えていくなかで、テクノを愛する一員として、ジャパニーズテクノを沢山の人へ届けることに貢献できたらと強く思う。

文:hiroyuki arakawa

◆hiroyuki arakawa オフィシャルサイト(Facebook)
◆SPECTRA オフィシャルサイト
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