【インタビュー】春ねむり、強いこだわりと独自の感性、唯一無二の魅力を湛えた一作『春と修羅』

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2016年10月にミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』でデビューすると同時に、大きな注目を集めた春ねむり。4月11日にリリースされた1stフル・アルバム『春と修羅』は、彼女のシンガーソングライター/ポエトリーラッパー/トラックメーカーとしての優れた手腕と音楽に対する強いこだわりや独自の感性などが相まって、唯一無二といえる魅力を湛えた一作に仕上がっている。春ねむりが創った音楽に触れて、彼女の人となりに興味を抱くリスナーは多いに違いない。春ねむりの本質に迫るべく、『春と修羅』を軸に、いろいろなことについて話してもらった。

◆春ねむり~画像&映像~

■門戸は広くというか。なるべく開けた……
■私は性格が暗いので限度があるんですけど


――まずは音楽的なバックグラウンドなどを話していただけますか。

春ねむり:一番最初に好きになったバンドは、志村正彦さんが在籍していた頃のフジファブリックさんです。志村さんは私が中3の時のクリスマス・イブに亡くなってしまったんです。あの時は、すごく喪失感がありました。フジファブリックさんがすごく好きだったけど、私は音楽はあまり詳しくなかったんです。でも、仲が良かった女の子が思春期に入って音楽が好きになっていって、いろんなバンドを教えてくれるようになって。それで、その頃に流行っていた“ロキノン系”とかサブカルのバンドを聴くようになりました。高校生が終わるまでは、本当にサブカル女だったと思います(笑)。

――好みがはっきりしていたんですね。高校生の頃から、バンドもされていましたか?

春ねむり:ユニットをやっていました。私に音楽を教えてくれたのとはまた別の女の子と修学旅行の部屋が一緒で、テレビを見ていたら売れ始めた頃のクリープハイプさんが出ていて、カッコいいなと思って。その時に、二人ともバンドがやりたくなったんです。でも、「友達いないからメンバー集めるの無理じゃね?」という話から、最近は打ち込みというので音楽をやっている人がいるよねという話になって。二人とも朧げな知識で話をしていたんですけど(笑)。そんな風に、ノリと勢いとだけでユニットを始めたら、なんとなく曲ができたんですよ。私がトラックを作って、その子が歌メロを付けたんです。そうやって、トラックメーカーとしての第一歩を踏み出しました。

――誰かのコピーから入るのではなく、いきなりオリジナルを作られたんですね。そのユニットは、どんな音楽性だったのでしょう?

春ねむり:エレクトロ・ポップというか、シンセ・ポップみたいな感じです。友達がギターを弾きながら歌って、私は横でシンセを弾いていて、打ち込みのドラムとベースと上物が鳴っているという形態でした。高2くらいからユニットを始めて、大学2年生の時に、一度それを本気でやろうと思って。一生懸命取り組んだんですけど、空回りしてしまって、5年目くらいに2人で話し合いをしたんです。それで、「ちょっと長いこと一緒に居過ぎたよね。この辺で休もう」ということになって。私はその後も音楽活動を続けたいと思っていたけど、その子のことがすごく好きだったので、代わりのボーカルをホイホイ探すような気持ちにはなれなかった。だったら、自分で歌ってみようかなと思って。そこで、それまでやっていたようなメロディアスな曲を歌ってみたんですけど、ボーカリストとしての才能が皆無過ぎて(笑)。自分の中で、“こんなもん、人に聴かせるものじゃない。ダメだ!”みたいな感じになって。でも、どうしても音楽はやめたくなかったから、何か方法はないかなと考えた時に、ラップならできるかもなと思ったんです。ただ、ガチガチのラップとかは、あまり好きではなかったんですよ。どっちかというとキミドリさんとかが好きだったので、ポエトリー・ラップだったら自分に向いているかなと思って、そういう方向性の音楽をやるようになりました。


▲1st Full Album『春と修羅』初回盤


▲1st Full Album『春と修羅』通常盤

――自分が良いと思うものをやろうという姿勢が個性を生むことに繋がりましたね。では、そういったことを踏まえつつ1stフル・アルバム『春と修羅』について話しましょう。アルバムの制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

春ねむり:1stフル・アルバムは、今まで聴いてくれなかった人も聴いてくれるきっかけになったりしますよね。なので、門戸は広くというか。なるべく開けた……私は性格が暗いので限度があるんですけど、自分の限界くらいまでは開いたものを作ろうと思っていました。あとは、私はトラックメーカーではあるんですけど、ルーツがロックンロールで、自分のことを助けてくれたものがそこなんですね。なので、1stアルバムは私なりのやり方で、そういうサウンドに聴かせないといけないという面があるかなと思って。それで、バンド感を活かした曲を中心にしました。

――生々しいバンド感とポエトリー・ラップの組み合わせが新鮮ですし、パワフルなナンバーも含めて、全体的にどこかドリーミィーな世界観になっていることも特色です。

春ねむり:ドリーム・ポップまではいかないけど、歪んだギターでめっちゃリバーブが掛かっているのとか、残響音を活かした音像とかが好きなんです。今回の『春と修羅』は、その感じはすごく出ていると思います。あと、トラックダウンの時もマスタリングの時も、キラキラさせたいので、この辺の帯域をもっと上げてくださいということを、エンジニアさんにめっちゃ言いました。

――ねむりさんはラッパーという肩書きですが、ヒップホップという言葉では括れない音楽になっていますね。

春ねむり:自分でも、これはヒップホップではないなと思っています。手法がポエトリー・ラップなので、できる範囲でヒップホップの何かに還元することが必要だと思っていますけど、自分のルーツじゃないし、そこは嘘をついてもしょうがない。なので、ヒップホップ的な側面に関しては、そこから派生して、こういう音楽をやっている人もいるんだなとリスナーに思ってもらえるくらいで良いのかなと思っています。自分の中には新しいことをやりたいという気持ちがあるし、ポエトリー・ラップだからといってポエトリーしかやっていなかったら、サビにサビ感がなかったりするんですよね。メロディーを徹底的に排除して、リズムでサビ感を創るというアプローチを採っています。そういう手法はパターンが少ないので、どんどん追い詰められていくんですけど、そうなればなるほど創作意欲を駆り立てられるというのがあって。なので、難しいことではあるけど、逃げずに向き合っています。

――たしかに『春と修羅』を聴いて、歌中のラップはヒップホップ色が薄いのに、サビがヒップホップっぽいというのも面白いなと思いました。

春ねむり:そう、サビはヒップホップの手法に則ったものになっているんです。でも、そこをスルーされることが多いんですよ(笑)。それで、私結構そこがんばっているんだけど…みたいな(笑)。売れているポエトリー・ラップや女の子のラップは、大抵サビで歌になるんです。私はそれはやらないと決めていて、そこにめっちゃプライドがあるんですけど、あまり触れてもらえなくて、もうちょっとそこを褒めてもらえないかな…という(笑)なので、拾っていただけて嬉しいです。

――個性的な音楽性に加えて、哲学的な香りを湛えた歌詞も大きな魅力になっています。歌詞を読んで、“瞬間の尊さ”を常日頃感じているような印象を受けました。

春ねむり:そこに関しては、私が感じる一瞬一瞬という単位は、人よりもすごく短い気がするというのがまずあって。それに、私は毎日生まれ変わりたいと思っているんです。毎日ちゃんと死んで、毎日新しく生まれ変わりたい。そのためにはすべての瞬間を大事にして、自分の生(せい)を生(い)ききらないといけない。そういう気持ちが歌詞に表れているというのはありますね。

――それに、瞬間の積み重ねが永遠に繋がるということも感じていませんか?

春ねむり:永遠ということに関しては、思春期というのはセカイ系で言われるような永遠みたいなものに憧れる時期だと思うんですよ。そういうところに逃げ込みたい…みたいな感じだと思うんですけど、それは倫理的じゃない気がしていて。だから、一瞬一瞬を積み重ねたうえに永遠があるんだよということを言いたいのは、そういうところから来ているんだと思います。ただ、私は物事を決めつけたり、自分の考えを押し付けたりはしたくない。積み重ねている一瞬一瞬が、たとえば私にとってはロックンロールとロマンスだけど、それは人によって違うだろうし、いろんな形の永遠があると思う。だから、どんな人生を生きても良いけど、それを自分で選択したと言って欲しいというか。永遠を選んだのか、永遠を捨てたのか、一瞬を選んでいるのかといったことは、自分で決めるべきだと思っているんです。神様とか、親とかに決められるものじゃないから、“選択した”と思えるような思想の土壌を音楽で創ってあげられたら、生きやすくなる人もいるんじゃないかなと思って。そういう想いのもとに歌詞を書いています。今回のアルバムも全体を通して伝えたいのは、その一点なんです。新しい思想の土壌を与えられる選択肢の一つで良いし、気に入らなかったら、自分はこういう生き方はないなと思ってくれれば良い。でも、私はその選択肢の一つになるために、私の全部を懸けるよ…という。私は別にそれで良いんです。


――直接的なメッセージや心情は書かずに象徴的な情景や言葉を描いた歌詞でいながら、裏側にそういう骨太な思想があることで、胸に響く歌詞になっています。

春ねむり:ありがとうございます。私は直接的な情景の描写が元々あまり得意じゃないし、あまりそういう曲も好きじゃなかったので、そういう歌詞はずっと書いていなくて。今回のアルバムを作っている時に、一つくらいあったほうが良いのかなとすごく思ったんですけど、あまりそういうところで音楽を創らないほうが良いし、一生懸命書いたからきっと伝わると思って書かなかった。だから、響くと言ってもらえて良かったです。あと、歌詞に関しては、サビは特にそうですけど、先にリズムを決めていることが多いので、そのリズムにはめた時に美しくない言葉は使わないようにしています。聴いた時にシックリこないというか、気持ち悪い言葉をはめるのは嫌なんですよね。それに、喋るリズムと喋らないリズムということもめっちゃ意識していて、喋っているように聴こえる中に、どうしても目立たせたい言葉を、絶対にこのアクセントでは言わないだろうというアクセントに敢えてする。そういうことも大事にしています。

――サビのキャッチーさは、そういうことも大きいんですね。それに、等身大で歌っていることを感じさせるボーカルや、リーディングを多用していることなども印象的です。

春ねむり:私はオケに埋もれてしまうというようなことを経験したことがない声質なんですよ、幸いなことに。なので、ちゃんと歌詞が聴こえるように歌うということをずっと意識して歌ってきたら、こうなったという感じです。歌唱力で圧倒したい…みたいな気持ちはないですね。それに、私が作る曲は音程があまりないので、私が歌ったものが正しいという安心感がすごくあって。だって、これに関しては私が正しいし…という。だから、そこに関しては誰に何を言われても全く気にならないというのがあって、自分が本当に気持ち良いとか、自分がカッコいいと思う聴こえ方をする歌い方をしようと思って今回も録りました。

――それも響く要素になっていますし、強く訴えかける激情系の歌は圧巻です。

春ねむり:そういう場所を録る時は、そこに一人の人がいるつもりで歌うようにしています。そういう歌を歌う時は本当に顔とかヤバいので見られたくなくて、周りから見えない状態にして録りました(笑)。リーディングに関しては、私はどの歌詞も朗読に耐えうるものでないと芸術ではないと思っているので、朗読する時は朗読でありつつリズムをすごく意識しています。普通にオケ無しで朗読してもそのリズムになるし、それが一番美しい読み方であり、息遣いであると。そこは、すごく大事にしています。

――だからリーディングの言葉のはまりが良くて、楽曲から浮くことがなく、耳に心地好いものになっているんですね。

春ねむり:そう、意外とはめているんですよ。でも、それも中々気づいてもらえないという(笑)。

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