【インタビュー】春ねむり、強いこだわりと独自の感性、唯一無二の魅力を湛えた一作『春と修羅』

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■「春と修羅」はギターのところはワクワクしながら作りました
■入り口で苦労したけど骨格ができてからは楽しかったです


――続いて、『春と修羅』の楽曲について話しましょう。アルバムに向けて曲を作っていく中で、自分の中でキーになった曲などはありましたか?

春ねむり:やっぱり、「春と修羅」ですね。今回のアルバムを“春と修羅”というタイトルにすることは最初から決めていたんです。フル・アルバムだし、最初の作品だからタイトル・トラックがあったほうが良いと思うとマネージャーに言われて。ちょっと考えてみようと思って、このアルバムで私が言いたいことは何なんだろうとか、タイトル・トラックになるにふさわしい音像って何だろうとか、すごく考えて……結構作るのがツラかったです(笑)。リズムをどうしようとか、どれくらい展開させようかなとか考えて、最初に展開をなんとなく決めた時は、中間のところはギター・ソロにしていたんですよ。でも、ギター・ソロだと普通なんだよなと思って、どうしようかなぁ…と考えた時に、早回しにしてみようと思ったんです。アルバムを要約している曲だから、ここでめっちゃ長いことを言って、それが途中から“キュルルルッ”と早回しになったら、これが纏まりの曲なんだよということが伝わるんじゃないかなと思って。で、「春と修羅」だから「春と修羅」を朗読したのを録って、“キュルルルッ”として、4分くらいの曲にしよう…みたいな。それを思いついてからは、結構早かったです。

――中間の展開は、驚きました。そこも含めて、「春と修羅」はタイトル・トラックにふさわしく、この曲を聴くと春ねむりさんが、どういうアーティストなのかが分かる曲になっています。

春ねむり:ここに着地できて良かったなと思います。この曲は、私が好きなギタリストに弾いてもらったんですけど、後半の“俺は一人の修羅なのだ”と言った後に“ピィーッ!”とギターが入ってくるところとかは、その人がどんな風に弾いたらカッコいいかなとか考えて。吉田ヨウヘイgroupというバンドの西田(修大)さんという人なんですけど、大学のサークルのOBで、大学生になってライブを観にいった時に、“あっ、カッコいい”と思ったんです(笑)。ギターヒーローって、こういうことだ…と思った人だったので、「春と修羅」はそういうことを感じさせる曲にしたくて。あの時私が夢中になったものを思い起こすような感覚で作らないと、みんなにそう思ってもらえないから、ギターのところはワクワクしながら作りました。そんな風に「春と修羅」は入り口で苦労したけど、骨格ができてからは楽しかったです。今回、西田さんには「MAKE MORE NOISE OF YOU」と「鳴らして」「春と修羅」「ロストプラネット」を弾いてもらっています。私は西田さんの尖った部分が好きなので、尖った曲をお願いしました。

――西田さんはプレイはもちろん、音もすごくカッコいいですね。良い意味で“悪い音”というか、ファット&ダーティーさが最高です。

春ねむり:「音はこういうイメージにするので、こういう風に弾いてください」といって、西田さんにはドライの音でもらって、それをエンジニアさんに投げて、プラグインを挿してもらいました。その時に、もっと歪ませてください、もっと歪ませてください…と言いました(笑)。


▲1st Full Album『春と修羅』初回盤


▲1st Full Album『春と修羅』通常盤

――ということは、ギターの音も完全にねむりさんの好みなんですね。

春ねむり:そうですね。もちろん弾いてくれた西田さんのニュアンスがあってこそなんですが、エンジニアさんと相談しながらどんな音にするか、とか、どれくらい歪ませるか、とかは時間をわりとかけたところだと思います。デモを作る時も、ギターはソフトシンセで打ち込むので、そこまで音色とかを作り込まなくて良いと思うんですよ。でも、エレピを歪ませてギターの音っぽくして、そこにディストーションを2つぶち込んだりするという(笑)。そういう無駄なデモの作り込みをするのが大好きなんです。

――無駄ではないと思います(笑)。『春と修羅』はタイトル・トラック以外にも注目曲が沢山あって、たとえばリード・トラックの「せかいをとりかえしておくれ」は、翳りを帯びたアルバムの中にあって明るい曲ですね。

春ねむり:元々は「鳴らして」をリード・トラックにしようと思っていたんですけど、その後「春と修羅」というタイトル・トラックを作って。それで、リード・トラックをどうしようかなと思っていたら、レーベルの担当に人に、もう少し明るい曲も書けませんか…みたいなことを言われたんです。最初は“えっ?”と思ったけど、家に帰って自分で作った曲を聴いていたら、たしかにフル・アルバムにしては暗いかもしれないと思って(笑)。暗いというのも自分の音楽の好きなところではあるんですけど、もうちょっと開けたというか、分かりやすさというか、明るさという面があることで人が聴いてくれるというのはたしかにあって。そういう曲がちゃんと1曲あることによって、多分アルバムが名盤と呼ばれるものになるなと思って。

――そういう経緯があったんですね。とはいえ「せかいをとりかえしておくれ」も世界観は深いですし、無理しているような雰囲気はありません。

春ねむり:明るい曲を作ることになったので、自分がこのアルバムで言っていることとか、言いたいことを強く感じた瞬間の中で、一番明るかったことは何かなと考えました。いろんな物事が本当にツラ過ぎて、めちゃめちゃ夜中に号泣した後に朝が来て、ドアを開けたら太陽の光がきれい過ぎて、もう一回泣くということがあったんです。めっちゃ泣いて、めっちゃ考えた結果、多分こうだなという答えみたいなものが出た後に見た景色がきれい過ぎて。そこにあるのは何でもない、いつもの家の前の景色なんですけど。その時に、“ああ、私は今日新しく生まれたんだ。私が生まれた日は、こういう風に泣いたんだな”と思ったことがあって。多分それが一番明るい体験かなと思って、それをベースに“存在するということとは?”とか“産み落とされるということは?”といったことを考えた結果、「せかいをとりかえしておくれ」は、こういう曲になりました。

――明るい曲を書くからといって、“じゃあ、夏のドライブのことでも書くか…”というようなスタンスではないというのが良いですね。

春ねむり:夏にドライブとかに行ったことがないんです(笑)。

――えっ? ……なんか、すみません(笑)。

春ねむり:いえ、問題ないです(笑)。この曲はサビを一番最初に作って、これは絶対にみんな歌えるなと思って。なので、この曲は2回サビをやった後、落ちサビが来るんですけど、ライブの時はそこでマイクを客席に向けて、みんなに歌ってもらおうと思っています(笑)。「せかいをとりかえしておくれ」をライブで歌う時は、私は観ている一人一人に向けて歌っていて、観ている人も歌ってくれたら、私とお客さんの間に循環ができますよね。その循環はカッコいいので、絶対に歌ってもらえるようにしたいと思っています。

――ライブも楽しみです。突然少年とコラボレートした「ロックンロールは死なない」も注目の1曲といえますね。

春ねむり:「ロックンロールは死なない」は私の1stミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』(2016.10.12)に入っていた曲で、いつか絶対に生演奏で再録したいと思っていたんです。それで、どのバンドに一緒にやってもらおうかなと考えた時に、「ロックンロールは死なない」は、ロックンロールが自分のことを掬いあげてくれたみたいに、誰か一人の手を掴めたら良いなと思いながら作った曲なので、そういう風に私のことを生き延ばしてくれたバンドとやりたいなというのがあって。突然少年さんはそういうバンドだったので一緒にやってもらいたいなと思って、お願いしたら快諾してくれました。(マネージャーに向かって)快く、引き受けてくれたんですよね?

マネージャー:うん。

春ねむり:良かった。今話をしながら、少し不安になりました(笑)。

――安心しましたね(笑)。「ロックンロールは死なない」は、打ち込み感のあるギター・リフとリアルなバンド感、ダイナミクスを効かせたラップなどが相まって、他にはないロック・チューンに仕上がっています。

春ねむり:アレンジは、全部突然少年さんがしてくれたんです。どんなものが来るかなとすごく思っていたら、ギター・リフを私が作ったみたいな感じになっていて、ビックリしました。

――えっ、あのギター・リフは指定ではないんですか?

春ねむり:違うんです。しかも、突然少年さんは音符が長めのギター・リフは結構あるんですけど、こういうリズミカルで、ハネた感じのリフはイメージになかったので、すごい汲み取ってくれたんだなと思いました。すごくカッコいいリフで、嬉しかったです。それに、最後にメロディーになるところを突然少年の大武(茜一郎)さんが一緒に歌っているんですけど、それも彼が歌いたいと言ってくれたんです。歌詞も書いてきてくれていて、「えっ、ラップするの?」みたいな(笑)。結局サビだけ歌うことになったんですけど、メロディーも考えてきてくれていて。私は突然少年さんのファンだし一緒に歌って欲しいなと思って、録りの現場で曲のサイズを変えて歌ってもらうことにしました。この曲の録りは、本当に楽しかった。一発録りだったので、ドラムの子が頭を振り過ぎてヘッドフォンが落ちた“カチャン!”という音とかも全部入っているんですよ。「ライブ感があるから、これも入れとこう、入れとこう」みたいな(笑)。そういうことも含めて、すごく楽しかったです。

――レコーディング中のちょっとしたハプニングなどを、そのままパッケージするのもロックンロールといえますよね。

春ねむり:そう。私は“ロックンロールとは、どういうことか?”については、地球で5本の指に入るんじゃないかというくらい考えているんじゃないかと思います。


――今度、ぜひロックンロール談義もさせていただきたいです。『春と修羅』は生々しいバンド感を活かした曲を軸としつつEDM感を活かした「アンダーグラウンド」や「夜を泳いでた」「ナインティーン」なども収録されていますね。

春ねむり:ずっとトラックメーカーをやって来たので、自分がして来たことの積み重ねというのがあって。あとは、シンセしか入っていなくても、ギターが入っている曲に負けないくらいパワフルなシンセがすごく好きなので、アルバムにそういうものも入れ込みました。シンセのパワフルなリフを思いついた時は、めっちゃテンションが上がります(笑)。「夜を泳いでいた」はリフをギターに置き換えても良かったんですけど、敢えて打ち込みを活かしたんです。

――ギターはこういう音、ピアノはこういう音といった先入観に捉われていないことや、世界観創りが好きなことなどが分かります。

春ねむり:世界観創りは、めっちゃ好きです。そのために必要な音を作るのも好きです。たとえば、エレピをエレピ本体で全開まで歪ませたうえに、ディストーションのエフェクターを掛けたりするのがすごく好きだし、ハウリングとかもすごく好きなんですよ。ディレイをプラグインにめちゃめちゃ入れて、全開にして、ハウリングが起こったところだけ残す…みたいな(笑)。鍵盤は一応弾けるといえば弾けるんですけど、そんなに上手なわけじゃないし、パソコンでずっと作っているから、パソコンだから出ちゃった音とかがあって。絶対こんな曲に、こんなプラグイン挿さないとか、こんなエフェクター挿さないみたいなものを挿して出来ちゃった音とかが、めっちゃ好きなんです。

――音フェチといえますね。

春ねむり:私は、音の雰囲気と言葉の雰囲気が気になるタイプなんです。だから、音色にはこだわるし、シンセでリフとかを作る時はシンセの音に合わない言葉は絶対に乗せません。私は、普通に音楽を聴いていて気になるんですよ、“なんで、こんなにシリアスなことを歌っているのに、4つ打ちなの?”とか。もちろん4つ打ちでも良い曲はいっぱいありますけど、“せつない歌詞なのに、なんでチャイナ的な愉快な雰囲気を感じさせるコード進行なの?”とか。そういうことがとにかく気になってしまって、“うわっ!”ってなってしまうと、もうそこで聴けなくなるんです。

――そういう感性も、ねむりさんの楽曲の世界観の深さに繋がっていることを感じます。そういったいろいろな要素が重なって、EDMテイストを活かした曲も他にはないものになっていますね。

春ねむり:「ナインティーン」はEDM的な盛り上がり方をするのに、暗いという(笑)。作った後に、“こんなにEDMなのに、こんなに暗いってどういうこと?”と思いました(笑)。自分で作った曲だけど、ちょっとウケる…みたいな(笑)。

――EDMなのに暗いというのが最高です。それくらい作り手の個性が出ている音楽のほうが、実は受け入れられるような気がしますし。

春ねむり:私は、万人受けするタイプではないと批評によく書かれるんですけど、それは自覚がある。自分の創る音楽が人の目にはすごく触れて欲しいけど、それは何故かというと、100人の人に聴いてもらって1人にめっちゃ響くのであれば、1000人の人に聴いてもらえば10人の人に響くかもしれないという気持ちがあって。だから、とにかく聴いてもらわないと始まらないし、沢山の人に聴いて欲しいんです。誰もが楽しめる音楽ということを徹底してやっている人はカッコいいと思うけど、自分の音楽がみんなが分かって、みんなが楽しめるものには別にならなくて良いと思っています。

――そうあって欲しいです。『春と修羅』を聴いて、これは好きになる人は深く好きになって、長く聴くアルバムだなと思いましたので。

春ねむり:ありがとうございます。今の時代はエンターテイメントとして音楽をやる人がすごく多いと思うんですけど、私は芸術がやりたいんです。芸術的な側面と商業的な側面が合わさって、文化の歴史の中でこういう音楽があったんだよと、100年先の人に聴いてもらいたい。商業的な側面もちゃんとしないといけないと思ってはいますけど。でも、私の中には譲れないものがある。なので、私が嘘にならないくらいのキャッチーさを追求しながら、やりたい芸術をやるということの現状地点がここ…というのが『春と修羅』という作品です。

――その言葉通り、アーティスティックでいながら、キャッチーなアルバムになっています。『春と修羅は』注目の一作ですし、アルバムのリリース後はイベントなどに多数出演されるとのことで、ライブも楽しみです。

春ねむり:ライブは、ぜひ観て欲しいです。今は1DJ/1MCという形態でやっていて、そう言うとおとなしいライブを想像する人が多いと思うんですよ。でも、私のライブは、完全にフィジカル系です。めっちゃシャウトしています(笑)。ライブでは感情を開放して欲しいとか、叫んで欲しいという想いがすごく強いんですよ。しかも、決められたやり方ではなくて個々のやり方で、あなたが楽しみたいように楽しんで、踊りたい時に踊って、別に興味ないなと思ったら帰って良いと思っている。帰っても良いし、一緒に歌いたくなかったら歌わなくて良いという条件のうえで、お客さんが帰らずに、夢中で観たり歌ったりしてくれるライブがしたいんです。お客さんが本当に楽しんでくれている時はめっちゃ感情をぶつけてきていることが分かって、それがすごく好きなんです。それはちゃんとライブをすることでしか創れない空間なので、そこは絶対に嘘なく、誠実に一生懸命やりたいと思っています。

取材・文●村上孝之

リリース情報

1st Full Album『春と修羅』
2018年4月11日(水)発売
初回盤 PMFL-9001 \3000 (税別) CD+DVD
通常盤 PMFL-0008 \2500 (税別) CDのみ
●CD収録曲 ※ 通常盤、初回盤共に同じ曲を収録。
1. MAKE MORE NOISE OF YOU
2. 鳴らして
3. アンダーグラウンド
4. 春と修羅 (リード曲)
5. zzz
6. ロストプラネット
7. せかいをとりかえしておくれ(リード曲)
8. 夜を泳いでた
9. zzz
10. ナインティーン
11. ゆめをみよう
12. zzz
13. ロックンロールは死なない with 突然少年
14. zzz
15. 夜を泳いでた(Nemu remix)
16. アンダーグラウンド feat.NERO IMAI(shnkuti remix)
17. 鳴らして(長谷川白紙 remix)

●初回盤限定 LIVE DVD
2017.10.26 春ねむりワンマンライブ『ぼくを最終兵器にしたのはきみさ』@武蔵野公会堂ホール
DVD収録曲
1. Intro
2. 怪物
3. 東京
4. ぼくは最終兵器
5. ロストプラネット
6. アンダーグラウンド
7. ロックンロールは死なない
8. Bonus Track
 「ロックンロールは死なない with 突然少年」 レコーディングドキュメンタリー映像

ライブ・イベント情報

◆5/12(土) 東京・下北沢ERA(深夜)【Pick Up】
春ねむり 1st Full Album「春と修羅」リリースパーティー“ ねむりりぱ! vol.4 ”
NERO IMAI、春ねむり、quon6、kuroyagi、Kaine dot co、bridge、J平、No Gimmick Classics、沈黙を語る人、HAYATO DELAROSSA
4月11日(水)発売、春ねむり『春と修羅』(PMFL-9001/ PMFL-0008)を当日ご持参 or 会場にてご購入頂いたお客様に、先着でサイン入りポスター(非売品)をプレゼント!
EVENT OFFICIAL SITE http://www.diffusy.com/nemurelepa4

◆5/19(土) 大阪・心斎橋FANJ
ゼノ 2nd single. 「寄生」release レコ発「毒を流し込め。」
ゼノ、春ねむり、代代代

◆5/27(日) 東京・吉祥寺複数会場 「MiMiNOKOROCK FES JAPAN」
春ねむり、AJISAI、リアクション ザ ブッタ、山田将司(THE BACK HORN)、ナードマグネット、and more…

◆6/8(金) 茨城・勝田STORMY MONDAY
ILL take U pre.「ME NOT DAY 1」
春ねむり、AliA with clown、カミツキ、KISADORI、and more...

◆6/9(土) 茨城・勝田STORMY MONDAY
ILL take U pre.「ME NOT DAY 2」
春ねむり、KISADORI、quon6、No Gimmick Classics、yuhei miura、DJ OTO、and more...

◆6/26(火) 東京・渋谷 CHELSEA HOTEL【Pick Up】
春ねむりpre.「ロックンロールは死なない」
春ねむり、突然少年、and more…

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