【インタビュー】ディム・ボルギルが放つ、形而上学的世界

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ノルウェーのシンフォニック・ブラック・メタル・バンド:ディム・ボルギルが、8年ぶりとなるニュー・アルバム『イオニアン』をリリースする。

◆ディム・ボルギル映像&画像

本物のクワイヤ合唱隊がフル参加している『イオニアン』は、音楽的にもコンセプト的にも壮大な作品となっている。シンフォニック・ブラック・メタル・ファンはもちろん、EpicaやTherionといったシンフォニックなメタルのファンにもアピールする好作品だ。

2018年10月には7年ぶりの来日公演も控える彼らに、いろいろと話を聞いてみた。



──ニュー・アルバム『イオニアン』は、常に数年の間隔でアルバムをリリースしてきたディム・ボルギルにとって、ずいぶんと久しぶりの作品ですね。前作『Abrahadabra』から8年という時間をかけたのはなぜですか?

シレノス:いや、こんなに時間をかけるつもりはなかった。14年までずっとツアーをやっていて、いつも通りツアー後、少し休みを取った。今回はメンバーそれぞれプライベートで色々なことがあってね。3人みんな再び子供が生まれたりとか。さらにオーケストラとのDVD(『フォーセズ・オブ・ザ・ノーザン・ナイト~ライヴ・イン・オスロ 2011』)の製作が遅れたりもあった。で、気づいたらあっという間に時間が経っていたんだよ。じっくりインスピレーションを受けて曲作りをしたけど、8年間全部をニュー・アルバムのために費やしていたわけではないんだ。実際に『イオニアン』に取り組んでいたのは3~4年だね。

──『イオニアン』は、以前の作品と比べどういった進化が見られますか?

シレノス:今回は締め切りもなくじっくり作業をすることができたから、色々とディテールに凝ることができた。何度も曲を見直してね。まあ…締め切りが決まっていないというのは、わかると思うけど良くない面もあるだろ?「ああ、ここも変えよう」なんていう調子で、永遠に作業が終わらない(笑)。今回は自らプロデューサーとして、外側から作品を客観的に眺めることができた。そこが過去数作と違う点だと思うな。エゴから脱却できたと言えばいいかな。曲として、アルバムとしてどのようにすればベストなのかを客観的に考えらえた。これはチャレンジだったけど、素晴らしいチャレンジだったよ。

──今回は本物のクワイヤが参加していますが、オーケストラは使っていないようですね。

シレノス:そう、今回はオーケストラは使っていない。とても素晴らしいオーケストラのサンプルを使うことができたからね。デモやプリプロをやった時点で、ロジスティック的観点からも、サンプルで十分だという結論に達したんだ。一方、かなり早い段階から本物のクワイヤは使おうと決めていた。クワイヤは以前の作品でもとてもうまく機能していたし。クワイヤのサンプルも使っているから、アルバムはクワイヤだらけだけど、それが狙いなんだ。歌詞のある部分は本物のクワイヤを使って、そうでない部分はサンプル。「クワイヤ・オーヴァーキル」とでも言うべき作品になってるよ(笑)。

──バイオリンも生ではなくサンプルですか?

シレノス:全てサンプルだよ。ブルガリアのライブラリーからエンドースを受けていてね。サンプルの名前は忘れてしまったけど、このサンプルは凄いよ、本当にリアルで。

──今回はイエンス・ボグレンがミックスを担当していますね。

シレノス:メンバー全員一致で彼にお願いしようということになったんだ。新しいことを試したかったからね。彼のミックスした作品の音をとても気に入っていたし、彼は非常にオーガニックなミックスするだろ?とても音楽的で。今回特にドラム・サウンドは、実にそれらしい深いヘヴィな音が欲しかった。俺たちが好きだった古いアルバムみたいなね。いわゆる機械的でデジタルなドラム・サウンドは避けたかった。とても労力はいったけど、彼はとても素晴らしい仕上がりにしてくれたと思う。特にドラム・サウンドはとても気に入っているよ。バンドらしい音にしたかったんだよ(笑)。人間らしいやつ(笑)。

──アルバムのアートワークは何を表しているのですか?蛇のように見えますが。

シレノス:これは基本的に、蛇の中に永遠のシンボルが描かれているものだ。ビラークには色々とアイデアを伝えたんだ。二面性であるとか、秘教的なフィーリングとかね。非常に象徴的なアートワークだろう。均衡があって、例えば逆さまにして見ても、ほとんど構図は変わらない。人間であるとか、その精神を表していると言って良いと思う。俺たちが生きている現実では、見かけ通りのものなんてひとつもない。だからファンやリスナーに、表面的なものの下に何があるのかを掘り下げてみて欲しいと思っている。このアートワークは、このアルバムが音楽的にも歌詞的にも、いかに細かい点まで考え込まれているかを表していると言える。ビラークと仕事をするのは今回が初めてだったけど、仕上がりにはとても満足しているよ。最初はなかなか大変だったけど、考えを全て伝え、いざ彼が仕事取り掛かったら、あっという間にすべてがうまく行った。


──今回のアルバムは「イオニアン=永遠に」というタイトルがつけられていますが、これはどのような意味が込められているのでしょう。

シレノス:俺にとってこのタイトルには、「存在するすべてのもの、存在したすべてのもの、これから存在するであろうすべてのもの」と言う意味が込められている。俺たちが現実の中で認識する時間というのは、あくまで時を刻むためだけのものであって、シャーマニックな実践/経験をすると、時間などという概念は不必要で、分解されてしまうものだということがわかるようになる。そういう高い境地に達すると、宗教/政治/文化/言語も、そして俺たちの持っている時間という概念もすべて消えてしまうんだ。このアルバムの歌詞は、非常に形而上学的だよ。過去のアルバムでは、わりとダイレクトな歌詞を書いていて、そこに結論も与えていた。だけどここ何作か、そして特にこのニュー・アルバムでは、そういうことはやりたくなかったんだ。リスナー、ファンたちに、自らの想像力を駆使して欲しいから、歌詞について俺の客観的な見解を伝えると言うのは正しくない。先入観を与えてしまうからね。今回は歌詞に使う言葉を決定するのに、肉体的にも精神的にも、スピリチュアル的にも色々なものを使ったよ。

──歌詞については多くを語りたくないと公言していましたが、歌詞の内容をみると神智学…例えばブラヴァツキーやルドルフ・シュタイナーといった人たちの思想に近いものを感じたのですが、この意見についてはどう思われますか?

シレノス:確かにそれらの人々が書いたものと、今回の歌詞とに大いに関わりがあると言うのは正しい見解だよ。俺にとって今回の歌詞は、俺が「自分自身だと信じていたもの」の破壊/根絶だ。説明が非常に難しいけど(笑)、自分自身を破壊し、再生させる。肉体的に、精神的にも、スピリチュアル的にもより高いレベルに達するためにね。つまり俺たちはみんな旅をすると言うことさ。人によっては、人生の早い段階でその旅を開始する。あるいは輪廻転生の早い段階でね。開始が遅い人もいるけれど、誰もがいずれはその旅を始めるんだ。この考え方が、このアルバムの歌詞の方向性を決定してくれた。俺は、アルバムの最初の曲が出来上がる以前に、すでに14~15セットの歌詞を書いていたんだ。6~7年もかけてね。

──ディム・ボルギルは、今でもブラック・メタル・バンドだと思いますか?


シレノス:俺たちのことを単なる「ブラック・メタル」と呼ぶのは正しくないと思う。初期の頃も含めてね。もちろんブラック・メタルとの関わりはあるけれど、俺たちは自分たちの道を歩み続けてきている。人々が俺たちのことを「シンフォニック・ブラック・メタル」と呼びたいのなら、それはそれで構わないけど、俺にとって大切なのは、音楽が優れているかどうかだ。結局音楽が良くなければ、俺は感動しない。俺はあまりラベル貼りはしないようにしているんだ。

──ディム・ボルギルはそのシンフォニックが売りのひとつですが、メタル以外の音楽からの影響はいかがですか?

シレノス:さまざまな音楽から影響を受けているよ。サルサを聴いた次の日にダーク・アンビエントも聴くし、齢とともに聴く音楽の幅も広がっていくものだろ。ニュー・アルバムの製作中は、俺たちは色々古い作品をレコードで聴いた。1980年代や1990年代初頭の音楽は、俺たちにとって今でも大きな意味があるからね。

──例えばどんなバンドを?

シレノス:Darkthrone、Emperor、Mayhem。それにBurzumすらも聴いた。シャグラットは古いBurzumのレコードをたくさん聴いていたよ。デモだけ出して解散してしまったアンダーグラウンドのバンドとかもね。当時俺たちはテープトレードをやっていたし、俺は今でもそれらのテープを持ってるんだよ(笑)。当時素晴らしい音楽がたくさんあったよね。

──さて、10月に来日公演が決まっていますが、久々の日本公演ですね。

シレノス:前回は2011年、例の津波の数週間前だった。俺たちはあの時日本からオーストラリアに行ったのだけど、Iron Maidenは逆にオーストラリアから日本に行く予定で、結局彼らのライヴは中止になったんだよね?

──そうです。7年ぶりのディム・ボルギルの日本公演は、どのような内容になるのでしょう。

シレノス:今はいくつかのセットリストでやっているんだ。フェスティヴァルではヘッドライナーでないケースもあるからね。でも日本ではヘッドライナーだから、しばらく演奏していない曲も含めたクールなセットリストにしたいと思っている。何しろ7年ぶりだからね。前回の日本での経験は、とても素晴らしいものだった。また日本に行くのがとても楽しみだ。

──では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

メッセージ:随分と待たせてしまったけど、もう少しだけ待って欲しい。それまでニュー・アルバムをじっくり聴いていてくれ。俺たちが日本に行ったときには、ぜひエネルギーを分けて欲しい。待ちきれないよ!

取材・文:川嶋未来 / SIGH
写真:Per Heimly

ディム・ボルギル『イオニアン』

2018年5月4日 世界同時発売予定
【100セット通販限定 直筆サインカード付きCD+ボーナスデモCD】WRDZZ-720 / 4562387205837 / ¥4,000+税
【日本盤特別仕様CD+ボーナスデモCD】GQCS-90589~0 / 4562387206124 / ¥3,000+税
【通常盤CD】GQCS-90571 / 4562387205837 / ¥2,500+税
1.ジ・アンヴェイリング
2.インターディメンショナル・サミット
3.イーセリック
4.カウンシル・オブ・ウルヴス・アンド・スネイクス
5.ジ・エンピリアン・フェニックス
6.ライトブリンガー
7.アイ・アム・ソブリン
8.アーケイック・コレスポンデンス
9.アルファ・イオン・オメガ
10.ライト・オヴ・パッセージ

【メンバー】
シャグラット(ヴォーカル)
シノレス(リズムギター)
ガルダー(リードギター)

<ディム・ボルギル Eonian Tour in Japan 2018>
2018年10月24日(水)
@大阪梅田TRAD(旧梅田AKASO)
開場18:00 / 開演 19:00
2018年10月25日(木)
@東京恵比寿LIQUIDROOM
開場18:00 / 開演 19:00
[問]SMASH 03-3444-6751
http://smash-jpn.com/live/?id=2891

◆ディム・ボルギル『イオニアン』レーベルページ
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