【ライブレポート】<ギターカーニヴァル2018>2日目は、打田十紀夫、木村大、安達久美、是方博邦、2人パール兄弟らが圧巻のセッションを披露

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浦和発ギターの祭典<ギターカーニヴァル2018>が、2018年5月19日と20日の2日間に亘り開催された。本記事では、2日目の5月20日のオフィシャルレポートをお届けする。

◆<ギターカーニヴァル2018 5月20日> 画像

大爆音で盛り上がり幕を下ろした1日目とは打って変わり、この日はアコースティックがメインのラインナップ。トップバッターで登場したのは日本を代表するフィンガーピッキングの第一人者であるギタリスト、打田十紀夫。

この日はアコースティック・ギターとリゾネーター・ギターをメインに使用。打田が最大のリスペクトを寄せるプロレスラー、ジャイアント馬場のモノマネで和やかに始まり、1曲目からリゾネーター・ギター+ボトルネック奏法の十八番が登場、ルーツ・ミュージックの影響を色濃く感じる「Delaware Boogie」でスタート。ここでアコギに持ち替え、“ブルース・ギターっぽく聴かせるコツはミュートをうまく使うこと”と冗談を交えながら観客に伝授し、まるでプチクリニックに来たかのようだ。そしてブルース・ギターで奏でる「Amazing Grace」は、不思議と黒人が歌うゴスペルが聞こえてきそうな雰囲気で、心地良い響きが会場を包み込む。オープン・チューニングについてのMCに続いては「Delta Blues」。プレイの骨太さと楽曲自体が持つ荒削りなテクスチャーが際立ち、ブルースの遠い起源、その奥深さに思いを馳せたくなる。ここで打田のギター・プレイと表現力の広さを見せ付ける「おぼろ月夜」の演奏に。そう、彼のプレイはブルース・ギターにとどまらず流麗でなめらかな表現もお手の物だ。

ここでビブラートのかけ方について説明。ギターを大きく揺らす“ガチョーン方式”というのもあると、説明すると会場は笑いの渦に。「Whistlin' Honkey-Tonk Slide」では再びリゾネーターを手に取り、大胆なグリッサンドを多用したグルーヴィな演奏に引き込まれる。そして満を持して登場した12弦ギターに持ち替え、(12弦は)コスパが良いんですよ、と軽い調子で語るが、自在に操れるプレイヤーは数多くはないだろう。以前ステファン・グロスマンが来日した際に打田とセッションでプレイした30年代の名曲「Pig Meat Strat」では豊かなハーモニクスを感じさせた。全6曲というコンンパクトなステージだったが、ユーモアたっぷりのMCとさり気なく多彩に繰り出されるテクニック、深みあるギター・サウンド……ベテランならではの風格を存分に堪能出来るライブだった。

2番手で登場したのは、このイべント出演者の中では若手と云えるギタリスト木村大。今回のステージでは、昨年の<ギターカーニヴァル2017>に引き続きピアニスト榊原大と結成したデュオで登場。

赤の照明が映える「タンゴ・アン・スカイ」で、柔らかであった会場の雰囲気は一気に激しく妖艶なスパニッシュのリズムとメロディに包み込まれた。曲はアルベニス作曲の「アストゥリアス」へ。きめ細かいトッカータ風の掛け合いから始まる特徴的な楽曲は元々ピアノ曲ではあるが、現在ではクラシック・ギターで演奏される方がポピュラーだろう。大胆なストローク、ラスゲアードと繊細なパッセージの対比が面白い。

ここでMCヘ。張り詰めた空気が彼らの人懐っこいキャラクターによって一気にほどけてゆく。この日、会場に来た人たちはラッキーだ。実は6月に木村大×榊原大のデュオ・アルバム『Rosso Nero』のリリースが決定しており、生でアルバムの中から演奏するのはこの日が初演となった。会場のオーディエンスだけが初披露の瞬間に立ち会えたというわけだ。

演奏はベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」の第二楽章へ。原曲の中間部にあるマイナー・キーの部分を大胆に改変し、切なくも暖かいメロディの特性を活かして力強い“人間讃歌”的なイメージで榊原がアレンジを施した。アルバムではコーラスの入ったアレンジを聴くことが出来る。ラストを締めるのはヴィヴァルディの名曲「四季」より「夏~プレスト~」。ピアノとクラシック・ギターによる難易度の高い速弾きのパッセージの駆け合いが聴きどころ。息が合っていないと崩壊しかねない、攻め込むような演奏で盛り上がりも最高潮に達し、フィナーレで二人が立ち上がると、割れんばかりの拍手の中、熱い演奏ながら爽快なフィナーレを迎えた。

続いて登場したのは、安達久美&是方博邦。約20年来の付き合いということだが、デュオで演奏するのはこの日が初めてという記念すべき日。1曲目は安達がここ10年ほど毎年訪れている韓国で、現地のミュージシャンに教えてもらったという「Mo Better Blues」。8小節のフレーズが繰り返される明るいブルースで爽やかに幕を開けた。二人とも関西出身とあって、テンポの良いMCで是方は“久美ちゃんとやるの新鮮やなぁ!”と一言。エレキ畑の二人が今日はアコースティックでのプレイということで、かなりレアなライブだ。2曲目は安達久美 club PANGAEAの曲「Catch Ball」。初めてのデュオとは思えないほど息の合った演奏で、まさにキャッチボールをしているかのようなセッションだ。そして3曲目はガラリと雰囲気が変わり、ジミヘンの名曲「Little Wing」。まずは是方のつま弾く単旋律にぐっと引き込まれる。ある意味名曲だからこそ、曲のイメージが定着しているものをここまで聴かせることが出来るのは、30年以上にわたり第一線を走り続けている是方だからこそなのかもしれない。続いては是方のライブではお馴染みの、オリジナル曲「プリシア」。大人の渋みを感じられる、ブルージーかつメロディアスな楽曲で、二人ならではのグルーヴが生み出されている。ラストの曲はフレディ・キングの「The Stumble」。安達が梶原順と組んでいるギター・デュオ、J&Kのアルバムにも収録されているブルースのスタンダード・ナンバーだ。口ずさみたくなるポップなメロディラインを、遊ぶかのように楽しげに奏でる二人の笑顔が印象的だった。

トリを飾るのはサエキけんぞうと窪田晴男の、二人パール兄弟。パール兄弟は2016年にデビュー30周年を迎え、5人編成で活動をしている。この日の出演者の中で唯一ヴォーカリストがおり、エレキ・ギターを使用するアーティストだ。矢野顕子がカヴァーしていることでも知られる「世界はGO NEXT」で幕を開けた。この曲は、心地良いジャジーなセブンスコードを多用した軽やかでポップな楽曲。だがサエキの独特の歌詞が乗ると紛れもないパール兄弟ワールドになる。続くMCで窪田晴男のギタリストとしての輝かしい来歴を飄々と、しかしユーモアたっぷりに紹介。サエキの語り口に客席からも笑いが起こる。2曲目に披露したのは「往復ビンタ」。規則正しいリズムを刻むギターのカッティングで、独特過ぎる曲のアウトラインを象ってゆく。歌いながら客席に降りていくサエキ。サビで“俺の身内になれ”“同じ涙流せ”と熱く煽り立てる姿は冷静にギターを刻む窪田とは対照的だ。ここで窪田とのデュオでもお馴染みの大野雄二率いるYuji Ohno & Lupintic Sixのギタリスト、和泉聡志が登場。リハで和泉が間違えて歌い、それがとても良かったということから急遽コーラスも担当することに。“コーラスの評判が良かったらギターをやめて……(笑)”とジョークを飛ばした。ここでツイン・ギター編成となり、1989年のヒット曲「色以下」がスタート。パール兄弟の持ち味全開のニュー・ウェイヴ・サウンドで、エフェクティヴな音像が今日のイヴェントでは新鮮だ。アップテンポのロック・ナンバーに客席も手拍子で応える。

4曲目はメランコリックなギター・フレーズが印象的な「TRON岬」。ここは埼玉だが千葉が主役の曲なのはご愛嬌。ディストーションたっぷりの歪んだ和泉のギター・ソロでフィニッシュした。実は曲中で和泉のギター・アンプにノイズが乗るトラブルが発生していたが、“これがギターの真髄。予測不能。ロックではむしろノイズは調味料!”という場数を踏んできたベテランならではのサエキのコメントで次の曲へ。「馬のように」でサエキから客席に無茶振りが飛ぶ。“ヒヒーン! ブルルル……”というサビ部分の馬の鳴き声を一緒にやれという。競馬のファンファーレのギター・フレーズから始まる特徴的な楽曲はパール兄弟の最新ミニ・アルバムのタイトル・チューンだ。サビで客席に降りたサエキから、いつマイクを向けられるかと、戦々恐々としていたオーディエンスも多かったに違いない。が、いざマイクを向けられると、とても上手く馬のコール・アンド・レスポンスが行われ、微笑ましくも異様な光景であった。そしてロック・ナンバーでありながら歌謡曲のようなキャッチーさを持つ「快楽の季節」ではラストに窪田渾身のギター・ソロも披露され、満足度の高いライブとなった。

■フィナーレ
二人パール兄弟のステージが終わると、そのままこの日の出演者全員が再び呼び込まれ、6人のギタリストがズラリと並ぶ様は圧巻。ここで披露されたのがタイガースの「シーサイド・バウンド」。グループ・サウンズ全盛期を代表する誰もが知っている名曲だ。ピアノのグリッサンドから始まり、お馴染みのメロディが奏でられる。まず是方と安達がアコースティック・ギターでソロを披露し、続いて和泉がエレキでクロマチックランを交えた流麗なソロを、そしてただ一人のピアニスト榊原大による熱く弾けたソロの後、打田がボトルネック奏法でお得意のスライドを披露、ソロ廻しの最後は唯一クラシック・ギターを操る木村大がフラメンコ・テイストのラスゲアードで存在感を発揮した。そして本当のラストの曲となるのはザ・ビートルズの「ゲット・バック」。サエキから歌詞の解説の後、窪田のカウントからセッションがスタート。これまで数多のアーティストがカヴァーしてきた楽曲だが、6本のギターによる「ゲット・バック」は史上初ではないだろうか。ここでも個性溢れる音使い、フレージングが縦横無尽に披露され、短い小節の中でも各ギタリストのオリジナリティに富んだ個性的なプレイが見て取れる。

こうして最高の盛り上がりの内に大団円を迎えたギターカーニヴァル2018。来年の第3回目が開催される知らせを心待ちにしたい。







取材・文:村上 孝之
撮影:尾形隆夫

<埼玉★浦和ギターカーニヴァル2018> 5月20日(日)セットリスト

■打田十紀夫
1.デラウェア・ブギー
2.アメイジング・グレイス
3.デルタブルース
4.おぼろ月夜
5.ホイッスリン・ホンキー・トンク・スライド
6.ピッグ・ミート・ストラット

■木村大×榊原大
1.タンゴ・アン・スカイ(ディアンス)
2.アストゥリアス(アルベニス)
3.ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第2楽章(ベートーヴェン)
4.ヴァイオリン協奏曲集「四季」~「夏」第3楽章プレスト(ヴィヴァルディ)

■安達久美&是方博邦
1.モ・ベター・ブルース
2.キャッチ・ボール
3.リトル・ウィング(ジミ・ヘンドリックス)
4.プリシア
5.ザ・スタンブル(フレディ・キング)

■2人パール兄弟(+和泉聡志)
1.世界はGO NEXT
2.往復ビンタ
3.色以下
4.TRON岬
5.馬のように
6.快楽の季節

■アンコール・セッション
1.シーサイド・バウンド(タイガース)
2.ゲット・バック(ザ・ビートルズ)

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