答えは神のみぞ知る? ボブ・ディラン、フジロック出演の顛末

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■ 演るたびに曲が進化しちゃってる

──1978年の初来日からちょうど40年、今回のライブが日本公演101回目…、そんなことも気にしないのか。

白木:はい、間違いなく。100%何も言わないでしょうね。もうひとつ、ボブ・ディランのライブで特筆すべきところは「媚びることをしない」ことです。媚びるというか「人に合わせていく」ことをしない。普通アーティストも含めて、ライブでは「繋がりたい」「一体感を感じたい」とか思うじゃないですか。日本人はどうしても言葉の壁がありますから、まだ日本のことを知らない外国のアーティストからすると「なんで静かなんだろう」「なんで歌わないんだろう?」って思われがちなんですが、日本人は真剣に聴いてくれるとだんだんわかってきて、アーティスト側もその辺の機微みたいなものを理解するようになる。それなりに日本での演り方を覚えてきて、カンペ見ながらも日本語で話してくれたり、わかりやすいコール・アンド・レスポンスをやってみたり。それでお互いに近い存在になっていくものなのですが…絶対にボブ・ディランはしないんです。

──変わっているなあ。

白木:ネットなんてない時代からずっとボブ・ディランを聴いてきた皆さんは、一生懸命歌詞の意味を追いながらレコードを聴いて、想像力を働かせて、その曲の自分だけの風景・イメージを頭の中で思い描いていくわけですね。だから、ファンの皆さんは本当は自分の想いが貼りついたレコードに近いバージョンでライブでも聴きたいと思ってるはず。でも、ボブ・ディランは全くそれを許してくれない。叶えてくれないんです。面白いのはそこですよね。演るたびに曲が進化しちゃってる。当たり前ですけど普通のアーティストはそんなことやろうと思ってもできない。「風に吹かれて」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」ですら、時代によって歌い方もメロディも含めて変わって違うものになっている。

──本来、音楽が伝承の文化であり、吟遊詩人的なライブな芸術であったことを考えると、曲も自分の成長とともに成長/変化することが当たり前なんでしょうね。

白木:レコードに関しては、その時代ではそれがOKテイクだったとしても、今の彼にとってはそれがベストテイクではなく、楽曲は現在進行形で常に変わり続けていく。ライブではメロディやサウンドだけでなく歌詞まで変えてしまうこともあるので、現在のボブ・ディランが考えるその曲の最新の解釈、ベストテイクを観せてくれるのが“ライブ”ということになるんですね。

──本来の“伝承の芸術”としての音楽を、ただただ実直にやっているようにも見えます。

白木:確かに。本当に変わり続けていくことはリスクもあるはずで、進化し続けるのは更に難しい。今時のライブは巨大なセットにスクリーン、それに合わせた照明をコンピュータ制御で行なわなければならないから、グレイテスト・ヒッツ的選曲の同じセットリストを同じように毎晩やる、というパターンが多いはず。でもボブ・ディランにとって、それはライブじゃないっていうことなんでしょう。たぶん、その夜のお客さんの雰囲気や反応を確かめながらいろいろ変えていくことを楽しんでいるのではないかなと。Zeppの時も、突如両手をパッとあげたりして、決めポーズをしたことがあったのですが、それを見て「おお!」って我々が反応すると、また別の曲の時にちょこっとやってくれたりして。意外と人間味あふれるとぼけたところもあるのかもしれないですね。

──他の人には真似できないかも。

白木:Zeppで特に面白かったのが、機材トラブルが起こって途中で一回バンドが全員引っ込んだ時。このまま終わりかもと誰もが思うくらい、スタッフがバタバタと必死になって直そうとしている中、突然バンドメンバーひとりとボブ・ディランが出てきたんですよ。「ウォー!」って大歓声があがったものの、「いったいこれから何が起こるんだ?」とだんだん静寂に包まれていき…。そしたらステージをヒョコヒョコ歩きだしたんです。機材の状況をチェックでもするのかと思いきや、そんな気はないらしい。当時のボブ・ディランはライブではピアノ/キーボードしか弾かないので、ギターを弾いたら大変なことに…って状況だったのですが、その時、ギターの前で止まってちらっと見て。「おお遂に(ギターを)持つのか!」ってみんなが期待していたら、シュッと方向転換しちゃった(笑)。

──ぶはは。

白木:「なんだったんだ? 今のは…ボブ・ディランってこんなことするの?」って(笑)。

──愛すべきキャラだなぁ。

白木:ステージの一番前の方で観ていた人の話によると、たまにニカっと笑ったりしたらしいんですよね。遠くからではわからなかったんですけど。なぜって、照明がめちゃくちゃ暗いから(笑)。フジロックでも、照明落とせって言われるかもしれないですね。通常はライブ写真すらも撮らせてもらえないですし、TV撮影なんてもってのほかですから。

──何が起こるかもわからないですね。

白木:そこが楽しみなんですよ。予想できないから、何が起こるのかな?って。

──どんな曲を演るのかもわからないし。

白木:そうですね。最近のセットリストを見ると、近年多かったスタンダード・ナンバーは2、3曲くらいになっていましたので、違うモードになっているとは思います。<デザート・トリップ>ではフェス仕様とでもいうべきスペシャルなセットリストだったので、フジロックもそういうものになるかもしれない。ギターは、まあ持たないと思いますけどね。でもいきなり持っちゃったりして?

▲ボブ・ディラン(『ブートレッグ・シリーズ第13集』より)


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