【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.50「外道」

小学生だった頃の自分はいつも下ばかり見て歩いていました。気持ちが沈んでいた訳ではありません。クワガタの幼虫がいそうな朽ち木がないか、常に目を光らせていたのです。クヌギやナラなどの広葉樹が好物なので、杉や松などの針葉樹は対象外です。しいたけのほた木が腐ったものなどは宝石の眠った最高の鉱脈です。見つけたら家からドライバーを持ってきてガシガシ崩します。真珠のように透き通った白い幼虫の肌が見えた時の嬉しさといったら、他に例えようがありません。蛹だと更に興奮です。あの独特なオレンジ色は何ともいえない美しさで、ミルク色とのグラデーションが神秘的です。ぴくぴく動くおなかが愛おしいです。こんな事を書いていたら自分のベースも蛹色と幼虫色のサンバーストに塗り直したくなってしまいました。

しかし、必ずしもこんな素敵な出会いばかりではありません。白蟻や蛞蝓の巣窟に手を突っ込むこともたびたびでしたし、釣りでいうところの「外道」にもよくがっかりさせられました。その代表が黒光りして「クワガタだ！」とぬか喜びさせる憎い奴、キマワリです。体長2センチ位で、クワガタのように黒くて堅いのですが、動きがちょこまかとして落ち着きが無い邪魔者です。虫好きでない人にはクワガタもキマワリもそんなに差がないと思うかもしれませんが、冷静に考えると何でそんなに扱いが違うのかよく分りません。ただ、動きが速いというだけで鬱陶しいのです。同じことはゴキブリにも言えます。たいして害がないのに蛇蝎のように憎まれるのは異常に速いあの動き方に因るのでしょう。そんなキマワリについてネットで調べたところ（ポケモン「キマワリ」についての情報ばかり出ましたが）、ゴミムシダマシ科の甲虫とありました。同じ仲間の幼虫がミルワームなのだとも出ていました。そういえばアオダイショウを飼っていた頃、餌のミルワームが蛹になって孵った成虫に訳も無く嫌悪感を抱いたのは、奴の親戚だったからなのですね。


釣りの外道なら、例えば真鯛を釣りに行って針に掛かった鯖などの雑魚のことを指しますが、意外とその外道のほうが美味しかったりします。CDの物色でもそんなことがよくあって、何かのついでに買ったLUCIFER'S FRIENDの1st「Lucifer's Friend」が腰を抜かすほどかっこよく、良いアルバムに偶然出会ったお得感に小躍りしました。ドイツのバンドです。LED ZEPPELINの「Immigrant Song」にそっくりなホルンのイントロが印象的な「Ride In The Sky」で幕を開けます。ハイトーンの超絶ボーカルにぐいぐい引き込まれます。巧すぎて後にURIAH HEEPにヘッドハンティングされてしまいますが、また復帰したようです。こんな素敵な掘り出し物との出会いがあった頃から、B級レアアルバムの蒐集活動が始まったような気がします。


冒頭でクワガタの幼虫の話を書いたら、また新たなベースの構想が湧いてきました。ボディーを彫刻刀で削って、幼虫が食べて出来た丸い溝を彫ります。そこに実物大の幼虫や蛹のフィギュアを埋めて透明な樹脂で固めます。それを10箇所くらい作ります。クワガタのいる朽ち木ベースです。あぁ、わくわくしてきました。中野のブロードウェイに行ってフィギュアを探すところから始めよう。






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