【ライブレポート】Be Choir、1stシングル発売記念ライブ「想いが皆さんにも届くと信じて歌いたい」

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ゴスペルは本来、アメリカで発祥した宗教音楽であり、そこにブルースやジャズといった要素が融合することで進化していった合唱スタイルの音楽だ。その結果、教会だけでなく、さまざまな場で歌われるようになると、さらにはロックやポップスとも結びつき、伝統的な音楽でありながらも、同時に、いまだに発展し続けているという、実にユニークな音楽ジャンルだ。

その最大の魅力は、人が奏でる楽器の中で、アコースティックな最たる存在である“声”にある。たとえば、いくら初対面の人でも、相手の声を聴けば、その人の喜怒哀楽が手にとるように感じ取れるはずだ。このように声には、人間の感情、もっと言えば“魂”が宿っていると言える。その声が幾重にも連ねられ、時に美しく響き、時に爆発的に轟くことで、ゴスペルには、他の楽器では表現なしえない、聴き手の五感を震わせる力を持っているのだ。

そうしたゴスペルに、新たに日本人的な情緒や感性、美意識を結い合わせ、オリジナルのゴスペル・シーンを生み出そうとしている存在が、クワイヤ/マスコーラス(大人数でのコーラス)グループ“Be Choir”ではないだろうか。そんな彼らが、5月23日に、1stシングルCD「天涯 ~そらのはて~」をリリース。そのリリース記念ライブが、2018年5月27日、鶯谷・DANCE HALL新世紀で行われた。

◆Be Choir 画像

ここで簡単に、Be Choirの紹介をしておこう。彼らは2010年、上智大学を中心としたゴスペルミュージックサークルをルーツとして結成。その代表を務める長谷川雅洋は、今年1月にオンエアされたテレビ番組『歌唱王〜歌唱力日本一決定戦〜』で決勝に進出し、聴き手の心を揺さぶる熱唱で一躍注目の的となったシンガーだ。

長谷川が率いるBe Choirは、2012年にデビュー・アルバム『Be』、そして2015年には2ndアルバム『Lift』と、既に2枚のアルバムをリリースしており、つまり今回、“1stシングル”のリリースと言えども、その実力は既に折り紙付き。さらに、多彩なアーティストと積極的なコラボレーションを展開しており、ゴスペラーズ黒沢薫のソロ10周年記念シングルに収録された「LOVE LIFE feat. Be Choir」で共演するなど、まさに知る人ぞ知る存在といえる。そのBe Choirが満を持して完成したのが、今回リリースされた1stシングル「天涯 ~そらのはて~」なのだ。

タイトル曲は、日本音楽界を代表する売野雅勇氏が作詞をし、マンハッタン・ジャズ・クインテットのリーダーで、グラミー賞受賞者でもあるDavid Matthews氏が作曲を手がけるというスペシャルな1曲。他にも、「Echo」「雑草の勇者」、そして彼らのライブではお馴染みの曲「聖なる人(Live Recorded at ゴスペル Vol.2 on 2017.9.30/Piano by David Matthews)」」の計4曲を収録。今回のライブも、この4曲を軸にしながら、過去2枚のアルバムからも楽曲がチョイスされており、いわば現時点でのベスト・セットリスト的な内容となっていて、さらにそこに多彩なゲスト・シンガー&ダンサーが加わることで、とてもカラフルで、奥行のあるステージを魅せてくれた。

18時10分、暗くなった会場にミラーボールがきらめくと、オープニングSEとして彼らの楽曲「Lift」が流され、約30名のメンバーとバンドがステージに登場。スポットを浴びたダンサーのソロ・パフォーマンスが終わると、会場は一転して明るくなり、Chihiro Sings(Vo)がメイン・ボーカルのアップテンポな「Echo」、次いで、長谷川と同じく『歌唱王』に出演した田中惇平(Vo)、そして平澤野安(Vo)の2人がフロントを務めた「Keep On Tryin'」が歌われた。この2曲を聴いただけで、Be Choirが作り出そうとする歌の世界がハッキリと見えてくる。




ゴスペルのクワイヤは、単なるコーラス隊でもなければ、ユニゾン大合唱でもない。ましてや、メイン・ボーカルとの関係性は、主役と脇役といったものではなく、個々の一人ひとりがそれぞれ主役として成り立っているアンサンブルだ。そうした音楽的な土台がしっかりとできあがっているからこそ、藤元修平やMerry Ley(清水ミーシャ)、さらには、ユーモア溢れる司会進行を務めつつ、「Hallelujah Anyhow」で圧巻のパフォーマンスを繰り広げた川島葵ら、実力/個性ともに突出した異なるタイプのゲスト・ボーカルを迎えても、決して彼らのソロ・ステージにはならず、あくまでもBe Choirのステージとして楽しむことができた。つまり、ゲストを迎えることで、より一層、Be Choirの個性を強く感じたのだ。

そうした集団を指揮し、手を叩き、踊り、そして曲のエンディングに合わせて高々とジャンプする、そんなシンガーが、長谷川雅洋だ。彼の歌唱力の高さについては、百聞は一見に如かず、ぜひともシングルを聴いてみて欲しいところだが、ライブを観ていて感じたのは、この集団の個々の主役を紡ぐ力、さらには、観客とも一体になろうとする包容力の強さだ。つまり、観客ですら傍観者にはさせず、主役の一人にならしめようという彼の姿勢によって、Be Choirの歌声は、聴く者にとって、いつのまにか自分の歌声と同化していく。そんな感覚になれることが、Be Choirライブの醍醐味なのだろう。




その後、1stアルバム収録の「何度でも」や「With You」を披露すると、本編ラストには、この日のメインである「天涯 ~そらのはて~」を披露。この日、客席にも顔を見せていた作詞家・売野雅勇氏は、この曲について、次のようにコメントを寄せてくれた。

「「天涯 ~そらのはて~」は、我々が常に感じている、人は誰でも感じることのある郷愁、故郷などをテーマに書きました。我々は一体、どこまで行くのだろうか。そして、僕たちが観ている夢はどこまで行くのだろうか。そういった、ノスタルジックな曲になっています。誰でも感じる心の中にあるノスタルジーへ訴えるような曲を書いたつもりです」――売野雅勇

そして長谷川も、この日のライブを締め括るかのように、バラード調のピアノのイントロをバックに、MCでこのように語った。

「この曲は、いろんな方の想いが込められていて、僕も、故郷というか、父親や母親を思い出すような歌詞になっています。きっと、皆さんにも届くものだと信じて歌いたいと思います」――長谷川雅洋

こうして本編を終えると、アンコールの拍手に応じて、再びメンバー全員がステージに登場。「聖なる人」を歌い上げると、最後は、ゲスト・ボーカリスト、そしてダンサーも総出演で「Joyful,Joyful」が歌われた。この曲で、ソロ・パートを歌い上げたMerry Leyの抜群なボーカル、楽曲にキュートで華やかな彩りを添えたダンサーたち、力強くグルーヴを支えたバック・バンド、そして何よりも、この日の主役であるBe Choirに、気が付けば観客までもが総立ちとなった。



「Be Choirの魅力は、コーラスワークの素晴らしさ、これに尽きるのですが、プラス、お育ちのいい人が持っている“人間の美点”が、歌にも出ているように思われます」――売野雅勇

まさに売野氏のコメントに凝縮されたような、音楽の喜びと楽しさがあふれ出した、実に爽やかで華やかなラストシーンであった。

取材・文:布施雄一郎

1stシングル「天涯 〜そらのはて〜」

発売日:2018年5月23日(水)
SMCD-0001 ¥1,200+税

【収録曲】
1.天涯 〜そらのはて〜
2.Echo
3.雑草の勇者
4.聖なる人(Live Recorded at ゴスペルVol.2 on 2017.9.30/Piano by David Matthews)

【iTunes配信】
https://itunes.apple.com/jp/album/1392228143?l=ja&ls=1&app=itunes

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