「親が楽しんでいる姿を見るのが、子どもの幸せ」“こどもフジロック”の核心

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■親が楽しんでいる姿を見るのが、子どもの幸せ

──肩に力が入っている?

ドラミ:もうガッチガチな感じで。私もまだそうなんです。だけど、そんなにガチガチにならなくてもって思います。3日間だけ突然現れる異空間があって、毎年そこに行けば自分の中の開放スイッチが入って新しいことに驚いたりとか、なかなか揺さぶられなくなった感情が揺さぶられたりとか、まだ新しい発見があり得るようなすごく大事で神聖な場所なんですけど、子どもを連れて行くとなるとちょっと違う。でもやっぱり、自分の愛する子どもを自分の好きな場所に連れて行きたいですよね。そこで一緒に過ごしたい。

──お子さんに変化はありましたか?

ドラミ:1歳のときはまだ意思表示ができなかったけれど、去年はわかったみたいで「ここ来たことある」って感じでした。大好きなケロポンズも出るからライブを観に来ている感があるみたいで、グリーンステージでジェイク・シマブクロを観ながらメロイックサイン出してた(笑)。「2歳だけど、こうやって子どもも変わるんだな」って。

──最高だな。

ドラミ:去年はグループ魂にものすごい興味を示してました。グループ魂を観て、2歳の息子と60代の母が拍手してる(笑)。「すごいシュールだな」って思って、ひとりで涙流して笑ってました。

──それもフジロックならではの風景かもしれないですね。

ドラミ:笑えますよね。ものすごい卑猥なこと歌っているのに、何も知らずに拍手してるんですよ(笑)。

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──(笑) 今回の記事を読んで「家族で行ってみようかな」と思ってくれた人、どれくらいいるかな。

ドラミ:今になって、「2年前の自分に押してほしかった」って思うツボがあるんです。保育のスペシャリストの柴田愛子さんが「親が楽しんでいる姿を見るのが、子どもの幸せだ」と言い切ってくださったんです。

石飛:柴田先生は毎年遊びに来てくださってます。うちの日高と同世代で骨太なポリシーを持ってらっしゃる方です。

ドラミ:保育界のカリスマの方で、Eテレの『すくすく子育て』っていう番組でもコメンテーターで出ている人なんですけど、だいぶアナーキーというか風雲児というか、45年も子どもの心に寄り添う保育をやられているんです。そういう方が、「フジロックに行ったらあんな自由な空気があって、親が全力で喜んでいる姿ってなかなか都会や普段の生活では見られない。そういう姿を見せることがいいんだよ」って。その言葉にすごく背中を押してもらえたんです。

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──「それでいいんだ」って?

ドラミ:むしろ「なんで悪いの?」って思えた。「連れていっちゃいけないわけじゃない。フジロックはいいって言っている。だって無料なんだから“来い”ってことでしょ?」と。あんなにたくさんの人間を一気に見ることもないですし、いい大人がものすごくはしゃいでいるわけで、その中に自分の親も含まれる。「あれ、なんかママ、“おおー!”って言ってるぞ」みたいな。

──「僕の知ってるママじゃないぞー?」って?

ドラミ:人が楽しんだりとか、悲しんだりとか、そういう感情のピークを子どもが見てくれて「そういう世界があるんだな。こういう場所があるんだな」ってことをわかってくれて、子どもが音楽を好きになってくれたら…そして毎年「また来たい」と思って、年を重ね友だちと来たり、結婚してそれこそ3世代で私がおばあちゃんになってから来れるかもしれないっていう夢を抱いちゃいます。グラストンベリーは長く続いているから3世代も定着している。フジロックは22年目ですよね。私は1回目のとき19歳で学生だったので、ちょうど3世代で来れる層ができてきたと思うと、すごく幸せを感じます。自分が19歳の頃には、親とフェスに行けるなんて考えられなかったから。

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──親子3代参加に向けて、運営側も様々な創意工夫を重ねてきているんでしょうね。

ドラミ:トイレも2年くらい前から優先トイレができたことで、子どもを連れて待つ大変さが改善していたり。気づかないところでマイナーチェンジがたくさんされているんですよ。

──人知れず運営努力も行われているんですね。

ドラミ:必要としている側には気づいている人もたくさんいるんです。必要としていない人からすれば「なんかシールが一個増えたな」ぐらいにしか思わないけれど、「優先シールがあるから助かる」って言う声も実際たくさん聞きます。かといって難しいのは、「子どもがいるんだから優遇してよ」では絶対ないわけで、大人も子どもも全員公平。だからこそ、そこのさじ加減は親側の意識の問題だとも思うんです。

──「親が喜んでいる姿を見せる」…それに尽きる気もしますね。ストレスフルの現代社会では、喧嘩をしたり、イラついたり怒っちゃったりするシーンが多いでしょう? 笑顔が取り戻せる夢のような場所として行くのもいい。

ドラミ:【こどもフジロック】で子連れファミリーをインタビューしたんですけど、子どもに「どうだった?」と訊いたら「お母さんが変だった」って言ってたんですよ。EGO-WRAPPIN'のときにママが狂い踊っていたらしい(笑)。それを見て「ママ、変だった!」って。お母さんも「変だったって言われちゃいました(笑)」って言って笑っている(笑)。とても素敵だなと思いました。

──親は子どもを中心に考えますから、自分が楽しむのは二の次三の次になりがちですよね。

ドラミ:一番陥るところだと思います。

──そこを乗り越えて一緒に楽しむ、それがフジロックの醍醐味なんですね。

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ドラミ:「楽しんでいいんですよ」と伝えていきたいです。あと必要なのは、楽しむためにやはり「不安要素を消していくこと」だけなんです。だから必要な情報を全部発信していきたいんです。現在は、富士祭電子瓦版のコラムとFacebookに集約しています。

──フジロック会場で、夫婦喧嘩だけはしたくないからなあ(笑)。

ドラミ:子どもがいるとどっちかがイライラしたり…そういうお話も実際あるんですよね。

──それだと日常と何ら変わらない。そうならないための準備と情報入手ですね。

ドラミ:おそらくそれって心の余裕の持ち方次第。きっとどこにいても一緒で、フジロックで喧嘩している人は家でも喧嘩していると思う(笑)。ただ自然の中にいると、喧嘩の落とし所もいい方向に動く気がするんですよ。

──山に比べたら、喧嘩の中身が小せぇって(笑)。

ドラミ:「せっかくこんなところに来ているのに、なにをやっているんだ俺たちは」って気づける環境でもあると思うんですよね。

──深呼吸すれば、解決するかも。

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ドラミ:親だけが楽しめばいいかっていうと、もちろんそうじゃなくて、当然子どもが優先ですよね。熱を出したり泣いていたら、観たいステージがあろうとも、それはもう諦めて子どもに向かう。ただ、そればっかりじゃなくて「親も遊んでいい」という加減ですよね。「子ども優先」を言い過ぎると親がどんどんしんどくなっていく。自分が楽しむことと子供を楽しませるものとのバランスは、すごくむずかしいです。

──自然環境に対応していく人間力も鍛えられるだろうし、それがいろんな糧になっていく。その様子を子どもに見せられるのはお金じゃ買えない財産でもありますよ。

ドラミ:子ども同士も見ていると面白いんです。キッズランドで大きなお兄ちゃんが小さな子を助けてあげたりしているんですけど、助けてもらったとき、見たことのないような笑顔を見せたりするんです。すごくいいなって思う。

──親が介在しない子どもの世界で、自立していくことや子供社会での自分の立ち位置を理解するのも、親には与えられない貴重な経験かもしれませんね。

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ドラミ:それを音楽フェスで体験できる喜びと驚きですね。フジロックがそんな場所になると本当に思っていなかったので。しまいには自分の母親も巻き込んで「八代亜紀出るからさ、一緒に行こうよ」って(笑)。そしたら「『雨の慕情』最高だったわ」みたいなことになって、ちょっと信じがたいことが自分にも起きている気がします。それは「フジロックがそういう風にしてくれたから」と思っています。

石飛:徐々にお子さんも増えてきている中で、せっかくフジロックが好きな親御さんたちが子どもを連れてくるなら、そこがショッピングセンターと一緒じゃ意味ないし失礼になる。結果的には“フジロックらしい“という言葉を使わざるを得ないですけど、「そういう場所と環境をどう作るか?」みたいな目線でずっと捉えてきた。人が子どもが動物的な感覚を取り戻して育つためのルーツ感のある場をいかに提供するかだと思います。

──それこそがフジロック。

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