【ライブレポート】三浦大知が表現者として伝えるもの

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三浦大知が7月11日に発売するニューアルバムと同名を冠した公演、<球体>を行った。

◆公演画像

静と動、陰と陽、モノトーンとカラー…いままでの三浦大知のライブが、どこまでもパワフルで明るいエネルギーを放つ太陽なら、Nao’ymtの楽曲から感じ取ったものを自ら演出、構成、振り付けして、静かに、淡々と歌い踊ったこの日の彼の公演は、陰影の深い月だった。

三浦大知のなかに、こんな彼がいたなんて…。そんな三浦大知の新しい魅力を今回引っぱり出したのが、これまで三浦の音楽も数多く手がけてきた音楽クリエーター・Nao’ymtの存在だ。ソロデビューから13年。ベストアルバム『BEST』や「EXCITE」のヒットで、2018年はより広く、世の中から注目される存在となった三浦大知が、次の新機軸として提示してきたのがNao’ymtとのコラボレーションだった。

Nao’ymt全面プロデュースで、まず三浦はニューアルバムという形で『球体』を制作。そして、このアルバムリリースを待たずして、このアルバムの曲順をシナリオとした舞台を、三浦の完全独演で体現していくツアー<球体>をスタートさせた。そのツアーが6月27日、愛知・名古屋国際会議場センチュリーホールにて無事ファイナルを迎えた。BARKSではそのなかから6月17日、東京・NHKホールにて昼/夜と2公演行われたうちの夜のアクトを通して<球体>という舞台を探っていく。


場内に入ると、NHKホールのなかはアロマの香りに包まれていた。ステージには海面を写し出すスクリーン。照明が落とされた場内にはさっきから波の音が流れ続けている。この日の公演はシッティング公演なので、観客たちはシートに体を預けたとたんにこの音や匂いに包まれ、いつの間にか体や心、脳までがリラックスするという演出などは、通常の三浦のライブでは味わえないものだ。そして、じつはこれらの演出部分から、すでにこの日の公演は始まっていたといえる。

客電が落ちると、舞台の下手に簡素な部屋が現れる。観客たちは、まるで演劇でも見るように、固唾を飲んでステージをじっと凝視。薄暗い部屋のなかに、白いパーカーとズボンを着て眼鏡をかけた男がひとり佇んでいる。部屋の奥には白い服をかけたハンガーラック。曇りガラスの向こう側、ガラスのベッドの上に立った男が「序詞」を歌い出す。行きたい場所が見つからなくて“教えて、ああ”と歌う三浦のヘッドボイスが、セリフのように胸に突き刺さる。


そうして照明が真っ暗になる。音が途切れた中「ただいま」と三浦が囁くと、とてつもない緊張感が場内に張り詰める。笑顔もなければ、観客に語りかけるMCもない。この日の三浦大知はいつものエンターテイナーとしてのオーラはすべて消し去り、楽曲を演じるいち表現者として純粋なる歌い手、パフォーマーとなって曲を淡々とヴィジュアライズしていくのだった。眼鏡をはずし、移動するドーナツ型のライトのなかで踊っていった「円環」で、行き場のない自分の内面へとダイヴ。鉛色に染まった部屋のなかで、唯一美しい光を放つ椅子の上に置かれたクリスタルの硝子瓶。その瓶を“君”に見たてて、君がいなくなった喪失感をメランコリックな歌声で届けた「硝子瓶」。

アクリルの水槽に入っていた水を半円型のものに入れ替え、それがゆっくりと宙に浮かぶと、舞台が深い海の中になり(これがとても美しかった)、床に座り込んだ三浦が歌の頭から泣きのファルセットを使って「淡水魚」を歌い出すと、行き場を失ったせつない気持ちが場内いっぱいに広がって涙が出そうになる。双眼鏡を構え、息を押し殺して舞台を凝視していた観客たちは、物語の前半だけでこの作品の奥深くへと引き込まれていった。


場面はガラリと変わり、橋の下へ。ループするアコギで進行していく「テレパシー」は、降りしきる雨のなか、三浦が繰り広げる軽やかなステップワークと傘を使ったパフォーマンスを通して、ここが君との過去の回想シーンであることを伝えていく。だが、曲の後半、傘を投げ捨て、激しい雨にうたれながら舞台中央で踊ることも忘れて歌唱する三浦を見て、オーディエンスは回想が終わったことを感じ取る。

再び場面が変わって、今度は大きな飛行船が空をゆっくりと飛んでいく映像が現れる。「飛行船」で、本当は“ただ自分でいたいだけ”、だから “いま走り出す”と歌い放つと同時に、舞台後方からライトが眩い光を放ち、三浦が突如激しく踊り出した場面は圧巻だった。舞台を左右いっぱいに使って、身体のなかに漲き上がってきたエネルギー、その生命力が再び自分を突き動かしていくその瞬間をエモーショナルに表現していったこの場面は、とてつもなくヒューマンで、この舞台を通して主人公がいつもの三浦大知にもっとも近づいた場面だったように感じた。


歌い終わり、飛行船に乗り込んでいった三浦が、次に訪れた場所。そこは、誰もいない森の中だった。そよぐ風、揺れる木々に包まれ“まだ中継地点”“また休憩して”と「対岸の掟」をやさしいタッチの声で歌い出す。手に持っていた本を蝶々に見立てて、ページを羽ばたかせながら、透明感あふれるフェイクを入れていくアクトで光を感じさせる。そこから、光に包まれた「嚢」、「胞子」という流れも美しかった。「誘蛾灯」から、舞台は眠らない夜の街へ。街灯の灯りにつられ、彷徨うように踊ったあと「綴化」では、もう過去に生きるのはやめると宣言。艶やかな花の映像をバックに、君がいたからこそ世界は彩られていたんだと、主人公はここで過去をポジティブなものとして受け止めていったのだった。

場面は変わって、スクリーンには飛行船が飛んでいる青空が映し出される。それが砂浜へと変わっていった「クレーター」では、手についた砂を払ったり、つまづいたり、波をさけるようなダンスで君との思い出を“笑顔”で回想しながら砂浜をさまよい歩いていると、再び冒頭の部屋へ到着する。「独白」はこれまでのシーンをリプレイするように、ドーナツ型のライトなどが再登場していった。そうして始まった「世界」では、“君こそがこの世界のすべて”と歌ったとこから、これまで冒頭から真っ暗だった客席が、じょじょに照明で明るく照らされていって、隣に君がいて僕がいて、支え合って愛し合って、それが未来へとつながっていくと『球体』のフィナーレを圧倒的な歌で描いていったシーンは圧巻だった。


ここで初めて客席からは自然と拍手が沸き起こったのだ。そうして、「朝が来るのではなく、夜があけるだけ」を三浦がピアノの弾き語りで歌いだし、そのなかで“僕がいるのではなく、君がいないだけ”と歌って観客全員の心をハッとさせ、冒頭のシーンを連想させたあとに「おかえり」では三浦が再び一人ぼっちで、オープニングの部屋のなかへと戻っていき、幕が降りてきて、『球体』は終演。また、ここから同じことを繰り返していくかのように、エンディングを迎えたあとは、場内に波の音が流れ出した。

三浦大知のライブを観た後、誰もが心動かされるのはあのダンスの凄さ、歌の素晴らしさだ。だが、今回の<球体>公演を見終わったあとにズシリと心に残るのは、人に傷つき、苦しんでもなお、人と関わること、それらを受け入れることで自分という存在も人生も輝いていく。人はそれを何度も何度も繰り返しながら人生という海原を航海していくというような哲学的なテーマだった。


これまでの三浦大知のライブを振り返っても前例のない、かなりエッジーな作品への意欲的な取り組みだった。だが、このような公演に挑んだからこそ、三浦大知が音ではなく、主人公の心情、情感を表現するためにダンスの表現方法にお芝居を連想させるような振り付けを取り入れてたパフォーマンスをしていたり、サイレントでモノトーンの空間だからこそ、三浦大知大地がこれまで使ってきたであろう様々な歌のテクニックをいろいろ発見しながら、細部までじっくり彼の歌を堪能することができた。

改めて思ったことは、歌、ダンスというツールを使って、三浦大知には表現者としてまだまだ伝えられるものがあるということ。この後、三浦大知は通常のライブショーを行なうツアーに出るが、今後も<球体>公演を自身のライフワークとして行なっていく予定だ。

取材・文◎東條祥恵
写真◎神谷 渚、田中 伸弥

『球体』

2018年7月11日(水)発売
[AL+DVD(スマプラ対応)]AVCD-16873/B ¥4,212(税込)
[AL+Blu-ray(スマプラ対応)] AVCD-16874/B ¥4,644(税込)
[AL(スマプラ対応)] / AVCD-16875 ¥3,100(税込)

CD
1. 序詞
2. 円環
3. 硝子壜
4. 閾
5. 淡水魚
6. テレパシー
7. 飛行船
8. 対岸の掟
9. 嚢
10. 胞子
11. 誘蛾灯
12. 綴化
13. クレーター
14. 独白
15. 世界
16. 朝が来るのではなく、夜が明けるだけ
17. おかえり

DVD/Blu-ray
「球体」独演

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