【インタビュー】谷山浩子、音世界を共に作り上げてきた盟友斎藤ネコとの日々を語る

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あの素晴らしい愛と夢の時間をもう一度。2017年4月29日に東京国際フォーラム ホールCで行われた<谷山浩子コンサート~デビュー45周年大収穫祭~>が、ライブCDとしてリリースされることが決まった。谷山浩子ソロ、栗コーダーカルテット、石井AQ & 岡崎倫典、斎藤ネコカルテット、そしてオールキャスト総出演による5部構成、24曲3時間に及ぶ贅沢な時間を完全収録した、ファン必聴のメモリアルなアイテムだ。BARKSではそのリリースを記念して、自ら斎藤ネコカルテットを率いて出演し、オールキャスト総出演のパートではアレンジも手掛けた斎藤ネコと谷山浩子との対談を企画。長い付き合いにも関わらずこうした対談は初めてだという二人に、記念コンサートのことから出会いの話、知られざるエピソードなどをたっぷりと語ってもらった。

■あれだけしゃべってこれだけ歌ったら
■そりゃあ3時間かかるわな。


――6年前の「40周年大感謝祭コンサート」に続き、今回の「45周年大収穫祭」でも、斎藤ネコさんは大活躍でした。

谷山浩子(以下、谷山):40周年の時は、私の昔から今に至る流れの中で深く関わった人として出てもらって、今回は斎藤ネコカルテットの人として出てもらいました。最初に打ち合わせをした時に、スタッフから“ネコかると栗コーダーカルテットはどうでしょう?”という提案があって、ネコかると栗コーダー、シンセサイザーの石井AQさんとギターの岡崎倫典さんで“最後はみんなで一緒にやります”と聞いた時に、それは不可能ではないかと思ったんですけど。“大大丈夫です!”って、その人がなぜか自信満々で。

斎藤ネコ(以下、斎藤):そうか。それでカルテットのところだけじゃなくて、みんなでやるところも全部譜面を起こすことになったんだ。譜面があるのは『海の時間』ぐらいで、あとは全部起こしたから大変でしたよ。

谷山:“やったことあるやつだけじゃつまんないから新しいのやろうよ”って言いだしたのはネコさんですけど。

斎藤:これは、とても大がかりな仕事になるんだろうなというふうに思ったわけだよね。まんまと引っかかりましたね。

――セットリストは全体のバランスを考えて? 栗コーダーは明るく、ネコかるはどっぷりと暗く、みたいに。

谷山:栗コーダーさんはわりと早めにやりたい曲のリクエストがあったんです。「猫のみた夢」はネコかるの譜面もあったんですけど、でもこれは早いもの勝ちなので。

斎藤:「猫のみた夢」の弦カル版は、今やったらちょっと可愛いすぎたかもしれない。今回はね、2017年4月当時の谷山浩子さんにフィットするようなアレンジにしました。オートクチュール的な作りと言えば、かっこいいかもしれない。2月ぐらいにキー合わせして、全曲事前に歌ってもらって、それに合わせて譜面を書いてるから、3年前でも5年後でもない、その時の谷山浩子の歌になっていると思います。


▲『谷山浩子コンサート ~デビュー45周年大収穫祭~』初回盤


▲『谷山浩子コンサート ~デビュー45周年大収穫祭~』通常盤

――印象的なシーンとしては、「骨の駅」が終わったあと、谷山さんがネコさんに“この曲のフリーのパートは本当にフリーでやってるんですか?”と聞くところがありまして。

谷山:うん。でもよく考えてみたら、あれ全部譜面に書いてあったら大変だよね?

斎藤:二度とできない。本当にインプロビゼーションで、前後の歌を聴いてイメージして、歌がこう来たらうちらはこう攻めるみたいな。

谷山:それが一人じゃなくて、四人の息がものすごく合ってるのがすごい!と思った。普通は一人ぐらいサボっている人とか気後れする人とかが出そうなのに、みんなそれぞれ主張しているんだけどすごく合ってる」

斎藤:まあ、同じメンバーで30年もやっていますからね。今や私がやることないぐらい、みんな自由自在にやっています。みんなのインプロが終わるのを、私が待ってる。

――「骨の駅」はコンサートのハイライトの一つだと思います。

谷山:私的にもそうです。あと、この曲はピアノを弾かないで歌うのは生まれて初めてだったと思います。

――本編ラストの、「向こう側の王国」「キャンディーヌ」「海の時間」、そしてアンコールの「終電座」。オールキャスト総出演の演奏を聴くのは、本当に贅沢な時間でした。

斎藤:あの場にいたら、きっと圧倒されたと思うよ。だって、やったことないもの。いろんなことやってきたけど、あんなのは初めて。変だったでしょ」

谷山:不思議なものだったよね。


――ステージ向かって右手に斎藤ネコカルテット、左手に栗コーダーカルテット、中央にシンセサイザーの石井AQ、手前左にギターの岡崎倫典、「終電座」では手前右にコーラス隊も登場しました。

谷山:ミュージシャンがこっちにいたり、あっちにいたり。

斎藤:バラエティ番組みたいに、ここでワンコーナー撮って、こっちでワンコーナー撮って、みたいな感じだもん。引きで見ると全然まとまりがない(笑)。

谷山:見た目も違うしね。栗コーダーが白い服で、ネコかるは黒い服。

斎藤:誰が決めたの?

谷山:それぞれの人が、こういうふうなのがいいと言った通りになってるはずだけど。

斎藤:そうだっけ。うちら、なんで黒だったんだろう(笑)。

――アンコールの最後「おやすみ」まで、24曲3時間。“大収穫祭”にふさわしい豊かな時間でした。

斎藤:意外と必死でやっているので、ゆとりはそんなにはなかったコンサートだと思います。リハーサルも全部しっかりやっているし、1日で仕込んでいるコンサートとしては過密なスケジュールだったんじゃないかな。

谷山:曲数も、けっこう多いもんね。あれだけしゃべって、これだけ歌ったら、そりゃあ3時間かかるわな。

斎藤:これだけの曲数をやる人は、普通はあんまりしゃべらないから(笑)。

――あの日その場にいた方も、来られなかった方も。この贅沢な音をじっくり聴きこんでほしいです。

斎藤:細かいことは全然憶えていないんですよ(笑)。ほかに聞きたいことがあればあとでメールでもください。譜面を見て思い出します。


▲斎藤ネコ ©GOTA PHOTOGRAPH

――そうします(笑)。せっかくなので、この機会にお二人の交友関係を掘り下げたいと思います。シンガーソングライター谷山浩子と、バイオリニスト斎藤ネコ。最初の共演はいつでしょう?

谷山:『たんぽぽサラダ』のアルバムの「地上の星座」ですかね。

斎藤:いや、その前に、坂田(明)さんのクラリネットが入っている曲で弾いたと思う。

谷山:ああ「たんぽぽ食べて」。あれが最初か。「たんぽぽ食べて」のイントロのバイオリンはネコさんです。

斎藤:「地上の星座」は、壮大な弦のセクションを入れた方がいいと思って、一人で弦を何回も重ねて持って行ったけど、アレンジャーの(橋本)一子さんに却下されたのを憶えてる(笑)。でも「地上の星座」は素晴らしいアレンジでしたね。大好きでした。

谷山:「船」のレコーディングの時にも、来てくれてたよね。

斎藤:アレンジが青木(望)先生だから、見学しに行ってた。スタジオに谷山さんが、ものすごいあわてて入ってきたのを憶えてる。

谷山:ダブルブッキングに近いブッキングをされてて、つまり前の仕事の終わる時間と、レコーディングのスタート時間が同じだったんです。だから40分ぐらいオーケストラの人たちを待たせてしまって。

斎藤:大物歌手はそういうものなんだなあと思って待ってたけど。

谷山:違う(笑)。ものすごいちっちゃくなって入っていきました。でも2回ぐらいで録れたから、お帰りになる時はみなさんにこやかでしたけどね。最初はおそるおそる弾いて、2回目に力強く弾いて、“1回目のほうが良かった”ってネコさんに言われたのを今でも憶えています。一生懸命弾いたのに、“一生懸命弾かないテイクのほうがいい”って言われて、ガーン!って思った。

斎藤:そんなこと言った? 遠慮のない人だねえ。

谷山:あと、“風邪ひいた時は首にネギを巻け”って言って、ネギを買ってきてくれた。

斎藤:そんなことあったっけ。

谷山:うん。たぶん『たんぽぽサラダ』の時。ライブに行ったのは、そのあとだっけ?

斎藤:前じゃない? SUNSET KIDS(斎藤ネコがメンバーだったグループ)を、児島由美さんと一緒に見に来てくれた。そこに石井AQとかとかがいたから、なんとなく知り合ったと思うんだけど。順番としては。

谷山:AQは『時の少女』から来てるから。そうだ、一子さんの家で会ったんだ。順番にそのへんの人たちと出会って、SUNSET KIDSに影響を受けて「たんぽぽ食べて」を書いた気がする。

斎藤:それで、れいち(SUNSET KIDSのドラマー)や私を呼んでくれた。その曲でソロを弾いたのが、たぶん私の初めてのレコーディングじゃないかな。ストリングス・セクションっぽいのはやったことあったけど、ああいうアドリブっぽいやつは初めてだと思う。だって20歳ぐらいでしょう。

谷山:ちょっと待って。『たんぽぽサラダ』は83年だから、レコーディングの時に私が26歳ぐらいだから、あなたは23歳。

斎藤:じゃあ初めてってことはないか。まだまだ駆け出しですけど。

谷山:なんか、爽やかな感じだったよ。

斎藤:そりゃ、23だもんね。

谷山:爽やかで、男前なミュージシャンという感じだった。

斎藤:23だからね(笑)。

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