【連載】フルカワユタカはこう語った 第24回『告白』

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いつものコースをショートカットして帰ってきた。

◆フルカワユタカ 画像

もっとも、いつもと違うのはコースだけではなく時間もだったのだが、夜9時をまわっているにも関わらず中々に熱い、いや暑い。連日日本列島を襲い続ける猛暑酷暑は本当に異常と言えるレベルで、いつもより2時間も遅いジョギングだったが、家を出たとたんにまとわりついてきた熱と湿気は体外はもとより呼吸するたびに体内にも蓄積され、開始数メートルで後悔。普段なら立ち止まるのが面倒で“鳴るな!鳴るな!”と念じる近所の踏切も今日は“鳴れ!鳴れ!”。

であればやめちまえばいいだろうに、なにかしらのプロ意識かしら。感心なことです。というわけでは全然なく、またぞろ明日から旅に出れば先延ばしになってしまう作曲事があり、今日中に1曲メロディーを聴かせられるものに挙げておきたい、と朝からアコギ一本もってうんうんと唸っていたのだが、締め切りがなければやる気が起きないくせに、いざ締め切りがあると今度はそれがストレスとなり上手くいかない。ひとえに20年の活動で消耗しきった才能の枯渇ではあるのだろうが、この状況はやや苦しい。

どうやら歌い出しとサビは上手くいってそうだ。が、そこを繋ぐとってつけたようなこの“Bメロブリッジ”は一体なんだ。橋の造形もそこから見える景色も酷い、ただ単にAメロ島からサビ島へ渡る為だけの機械的な橋。最低限の体裁は20年の経験値から取り繕えているのだが、それが余計に腹立たしい。ここだけマイナーにとか、3フレット上へ転調とか、かったるいなあ、この凡人め。うむむ。

以前のコラムで作詞に行き詰まり、全てを諦めてバッティングセンターで無心にバットを振ったという話を書いたが、“精神の疲労は肉体の疲労で回復せしめる”。あの時ほど絶望はしていなかったが、精神リセットの為に僕はジョギングに行くことにした。


▲<フルカワユタカ presents「5×20 additional, PlayWith シックス」〜with SICS〜>6月29日(金)@下北沢SHELTER w/ POLYSICS

暑さのため開始数メートルで後悔したジョギングであったが、出てきて正解、少々走ったところで僕は素敵なBメロを思いついた。

“これだ!これだ!”──まだいつもの半分も走っていなかったが、コースを大幅にカットして家へ引き返すことに(想定外の暑さに心が折れたというのは一番の理由ではない)。さっき渡ったばかりの踏切が見える──“鳴るな!鳴るな!”。ちなみに、よくメロディーや言葉が「降ってくる」なんていうミュージシャンがいるが、これはあれとは違うのであしからず。

作詞作曲や例えばこのコラムなんてのも含めて、創作に行き詰まると僕は近所を散歩する。だが、それはあくまでも手法の一つとして。どれだけギターを弾いても、どれだけベースを弾いても、どれだけキーボードを叩いても、右手と左手をあべこべにして作業しても、出てこないときはとことん出てこない。そんな時、僕は楽器やPCから離れて近所を散歩しながら思案する。例えるなら将棋の棋士が実際の盤上じゃなくて頭の中で指すような、テトリスをやりすぎて目をつぶっても出来る様になっちまう様な (違うか)。

僕の場合、歩きながら思案すると良いものを思いつくことが多い。散歩しながらの思案は手ぶらであるという共通点はあっても「降ってくる」奇跡とは全く違う。あくまでも思いつくか思いつかないか、ということ。作るという意思がなければ僕ごときでは何も生み出せない。てゆうか、「降ってくる」ってなにさ? 有り難すぎるし、どういう状態だよそれ。マーちゃんならオカルト認定だな。

で、この日のジョギング。“精神の疲労を肉体の疲労で回復せしめよう”という目的もありつつだったが、普段の散歩同様、作曲作業の延長でもあり、はたして僕は素敵なBメロを思いついたということだった。

家に着いて早速マイクの前に向かいたいところだったが、尋常じゃない汗でウェアから髪の毛からびしょびしょだ。まずはシャワーを浴びよう。大丈夫、良いネタは少々時間が経っても忘れないもの。逆に、ちょっと間を空けただけで忘れてしまうようなら、それは取るに足らないモノだったということ。とはいえ、だな。念のためスマホのレコーディングアプリに簡易的に吹き込んでおこう。鼻歌で反芻しながらシャワーを浴びる。「うむむ。いい調子だ、早く上がって橋を渡したし」。カラスの行水。バスタオルをたぐりよせ、慌ただしく体を拭き、それから着替えを…………?

思いついたBメロに夢中だったのはもちろんだし、暑さのせいもあったのだろう、“うわの空”なさっきの僕が、これから名曲を生み出そうと息巻いて浴室から飛び出してきた僕に用意していた着替えは“カーディガンとくるぶしソックス一足”という変態セットだった。そして、瞬間、忘れた。頼みの綱のレコーディングアプリだったが、思いついたBメロに夢中だったのはもちろんだし、暑さのせいもあったのだろう、“うわの空”なさっきの僕は見事にRECボタンを押し損ねていた(正確にはなぜか2秒くらいで止まっていた)。それから、これしきのことで忘れちゃうような取るに足らないモノなど放って僕はビールを飲んだ。焼酎を飲んだ。ごくごくと飲んだ。爆音でFace To Faceの『Big Choice』をかけながらごくごく、ごくと飲んだ。


▲<F.A.D YOKOHAMA presents THE SUN ALSO RISES vol.57>7月25日(水)@F.A.D YOKOHAMA w/ avengers in sci-fi

ティム・ジェンセンという、“V6”のことを“ヴィー・シックス”と発音し、“レディオヘッド”のことを“ラジオヘッド”と呼ぶアメリカ人の友達がいる。ドーパン(DOPING PANDA)のシングル「Can't Stop Me」からアルバム『decadence』までの英詞を共作、レコーディング時の発音の矯正などもしてくれた僕の英語の先生だ(ちなみに彼は写真も撮る。1stアルバム『emotion』時の写真は全てティム)。他にも作詞家として菅野よう子、スーパージャンキーモンキー、the brilliant green、SIAM SHADE……、一応その正否を確かめておこうとググってみたら、ウィキペディアを発見。ティム・ジェンセン。へえ。

ティムは年に数回、忘れていた僕を思い出したかの様に電話をかけてくる。用事などは特になく。

   ◆   ◆   ◆

「サイキンは?」
「うん。調子いいよ」
1月にドーパンをやったことを話したら当然ビックリしていた。
「で、今はアコースティックツアーをやっててさ」
「ウソ! お前が? アコースティック!」
ドーパン時代の僕のアコースティック嫌いを知ってるティムには相当意外だったらしい。なんならドーパンをやったということよりもリアクションは大きかった。
「でも、それは良いことだ、お前みたいなナマイキは……」
ナマイキ……。そうね、ついつい今が楽しくて忘れちゃうけど、俺は腫れ物君だったものね。でも、もう全然生意気じゃないんだぜ。と、僕がティムに言い返そうとした矢先。
「ナマイキ、じゃないな、ユタカはナマイキじゃなくてヒトミシリだもんな。だから、それは良いことだ、お前みたいなヒトミシリがアコースティックやるのはトテモ良いことだ」

   ◆   ◆   ◆

この訂正がちょっと嬉しかった。朝から(午前8時過ぎ)、胸がほわーんとなった。いや、生意気だったのは間違いない。調子に乗っていたのも間違いない。凄く調子がいい時は、凄く調子にのって天才だと勘違いしたこともあった。それも一度や二度ではない。年に数回、そう勘違いして、しかもその邪気を(笑)言葉や態度にして体外に放出した。そりゃあ、嫌われるよ。

でもさ、でもね、だってさ、だってね。「ヒトミシリでござった相すまん」──そんな都合のいい言い訳、自分ではとても言えないなぁ。でもさ、でもね、だってさ、だってね。

ティムが“昔の”僕のことを「ナマイキじゃなくてヒトミシリ」だと言った。ギザギザしまっくていたあの時期、そばにいたティムがそう言った。お前は嫌なヤツではなくて弱虫だっただけだと。そんな弱虫だったお前がアコースティックやるのはトテモ良いことだ。多分、彼の母国語である英語ならそういう意味のつもりで、そう言ってくれた。


▲<red cloth 15th ANNIVERSARY>7月27日(金)@新宿red cloth w/ Bentham

▼先日の山形(<MONOEYES Mexican Standoff Tour 2018>7月6日(金)@山形ミュージック昭和Session w/ LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS)の打ち上げで終いにはサシ飲みになった細美君から「思ってたより骨太なやつなんだな」って言われた。
──いやぁ、ネガティブ思考満載の腐女子だぜ。

▼マーちゃん(the band apartの原昌和)は昔から僕のことを「お前は優しい男だ」って言う。
──いやぁ、気を使って言いたいことが言えないだけだぜ。

▼こないだ大阪で朝までサシ飲みしたユウタ(HAWAIIAN6, The Yasuno N°5 Group)に「古川は凄いけど華が足りない」って言われた。
──いやぁ、ユウタが俺のこと「凄い」って言ってくれたんだ。この際、華までは望まんよ。

▼須藤君は目の前では僕をくさすけど、人には僕のことを褒めてくれているらしい。
──いやぁ、目の前で褒めてくださいな。

そんでもって、サークルの後輩からは「あなたは根っからの悪人だ」って会う度言われるが、思い返せばそれなりにしっくりしてしまう自分が口惜しい。


▲<red cloth 15th ANNIVERSARY>7月27日(金)@新宿red cloth w/ Bentham

齢四十歳。実際、いい人でいる覚悟も強さも下地もない。しかも、「いい人? そんなのロックじゃねーじゃん、むず痒い!」とか、反骨な話でも土台ない。ただの気ぃつかいの臆病たれ。受け入れてもらってることへの当たり前の感謝・礼儀として、今のフルカワユタカでいようという努力。てなことをしていると夜更けには一周まわって、派手なふるまいも遊びもせず、がぶがぶ、がぶと酒に呑まれて正気を失うこともせず、今の自分はこれで良いのかしら? もっとはみ出さなきゃ、危なっかしくしなきゃ、あたしの華なんて枯れてしまわないかしら? と不安になるから面倒くさい。

弱い四十歳。インスタグラム、アコースティックライブ、サポートギター、エレキギター、歌、作詞作曲、生活、性格、あるがままでも楽しめることに気がついちゃった。昔よりもぐずぐずくるくるしながらですが、それでも芯らしきものも出来ております。かようにか弱い性根すらもおもしろがって受け入れてもらえるのなら、僕もみなさんと遠慮なく楽しんでみたいと思っている所存。もう人間の根っこなんて変わりゃしません。そこは諦めつつ、今や対人防御力ゼロのフルカワユタカ、色んな人にあって色んな影響を笑っちゃうぐらい受けまくって、信じまくって、それはすなわち人見知りの悪人の腐女子なりの努力ということになんとかしてもらって、つまりは人に愛されながら(ここ重要)音楽とどっぷりしていきたいわけです。できる気がするのです。

……うむむ。今回は話があっちゃこっちゃとぐずぐずくるくるしてなんだか変なコラム書いちゃったな(笑)。きっとハヤシ君(POLYSICS)に勧められて町田康を読み漁ったせいだろう。影響されやすいことこの上無し。言ってるそばから。かまうもんか。

■<フルカワユタカ アコースティックツアー「僕はこう弾き語った」>

2018年7月18日(水) 愛知・sunset BLUE
2018年7月19日(木) 大阪・digmeout
(w/ Key=岸本亮 / fox capture plan)
2018年8月03日(金) 広島・ライブ楽座
2018年8月04日(土) 京都・紫明会館
2018年8月05日(日) 香川・SPEAK LOW
(w/ Par=神林祥太)
2018年8月16日(木) 茨城・MINERVA
2018年8月23日(木) 岩手・BAR CAFE The S
2018年8月24日(金) 宮城・REMEMBER
(w/ Key=岸本亮 / fox capture plan)
2018年9月01日(土) 新潟・Blue Cafe
2018年9月02日(日) 群馬・SLOW TIME café
(w/ Par=神林祥太)
2018年9月26日(水) 東京・下北沢440
(w/ Key=岸本亮 / fox capture plan)
(w/ Par=神林祥太)
▼チケット
3,300円 (+1ドリンク代別)
全自由/整理番号付

■<フルカワユタカ presents「5×20 additional, PlayWith シックス」>



▼〜with 6 & STOMPIN' BIRD〜
8月31日(金) 下北沢SHELTER
w/ HAWAIIAN6, STOMPIN' BIRD
開場19:00/開演19:30
【チケット】
4,000円 (+1ドリンク代別)
オールスタンディング/整理番号付
・SMA☆チケット http://www.sma-ticket.jp/artist/furukawayutaka
・e+ http://eplus.jp/furukawa-520ad/

■<フルカワユタカワンマンショー in 札幌>

2018年10月19日(金) 北海道 KLUB COUNTER ACTION
OPEN 18:30 / START 19:00
▼チケット
3,990 yen (1ドリンク代別途)
(問)マウントアライブ 011-623-5555

■<フルカワユタカ presents「5×20 additional, PlayWith tour 2018」>

10月28日(日) 名古屋HUCK FINN
w/荒井岳史(the band apart)
10月29日(月) 梅田シャングリラ
※ゲスト後日発表
10月31日(水) 下北沢SHELTER
w/髭
▼チケット
4,000円 (+1ドリンク代別)
オールスタンディング/整理番号付
【SMA☆チケット先行受付 ※抽選受付】
受付URL http://www.sma-ticket.jp/artist/furukawayutaka
受付期間:7月28日(土)12:00〜8月5日(日)23:59

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