【インタビュー】岸田教団&THE明星ロケッツ「若者を向かい撃てる音楽を創らないといけないという意識でいます」

ツイート

岸田教団&THE明星ロケッツのニュー・シングル「シリウス」が、8月22日にリリース。オリジナル・アニメ『天狼 Sirius the Jaeger』のオープニング・ソングとなるタイトル曲とichigo(vo)が作詞を手がけた「stratus rain」が収録された同作は、岸田教団&THE明星ロケッツならではの華やかさを継承しつつ大人っぽさや深みなどを増していることが印象的だ。「シリウス」を聴くと、彼らが転換期を迎えていることが伝わってくる。現在の岸田教団&THE明星ロケッツがどういうモードになっているのかを確かめるべく、バンドの中枢を担う岸田(b)とichigoに話を聞いた。

■歌い方を変えてもらったのは僕がやる気を出したからです
■とにかくこだわっているのは表現力とリズムです


――新曲の「シリウス」は、オリジナル・アニメ『天狼 Sirius the Jaeger』のオープニング・テーマ曲ですね。

岸田:「シリウス」は、脚本などを全部もらってから曲作りに入りました。その時点で、いくつかパターンが考えられるなと思ったんですよ。オリジナル・アニメなので2パターン作ることにしたんです。脚本を読んで、ストーリーを踏まえて作るパターンと絵コンテからイメージを膨らませて作るパターン。『天狼 Sirius the Jaeger』は絵を見る前と見た後で印象が変わったんですよ。思ったよりも動きがモダンだったんです。ストーリーとしては結構王道なので、王道ジュブナイル的なほうに合わせて曲を作るのか、最近のゲームとかCGの影響が強い今どき感のあるアクションのほうに合わせて曲を作るのかというのがあって。どっちでいくかちょっと迷って、両方作ったんです。そうしたら、絵コンテをベースにして作った曲のほうが選ばれました。

ichigo:2曲とも良い曲だったんですよ。でも、選ばれた「シリウス」のほうがアニメには合っているし、バンドとして新しいところに行けたという意味でもよかったんじゃないかなと思います。

――「シリウス」はモダンな味わいで、明るい曲でいながら翳りを帯びた曲調やオンとオフを効かせたアレンジなどが印象的です。

岸田:オンとオフということは意識しましたね。

――シンセやシーケンスなどではなく、エフェクティブなギターがサイバーな色づけをしていることもポイントです。

岸田:ブリング・ミー・ザ・ホライズンの影響というか。メンバーにシンセがいるにも拘わらず、結構ギターがエフェクティブなんですよ。僕はちょうどこの曲を録るちょっと前くらいに、ギター用のリバーブ・ペダルを買いまして。それが思いのほかいい感じに使えて、今回のレコーディングでも利用しました。いつもそうですけど、レコーディングでは僕もギターを半分くらい弾いているので、今言われたところはほぼ僕がやっていると思います。ディレイとかリバーブで飛ばしているギターは大体僕です。

ichigo:もしかして自慢してる?(笑)

岸田:してないよ!(笑) そういうアプローチが好きなんだよ。僕のエフェクター・ボードはディレイが3台と、リバーブが入っているんです(笑)。はやぴ~(g)さんのボードは見る人が見ればわかると思うけど、“ジミヘン!”という感じです。ファズフェイス、オクタビア、ユニヴァイブ・ワウ…みたいな(笑)。それに、彼は最近テルミン・ファズを買いました。テルミンの音をトラッキングして出すファズで、「シリウス」のカップリングの「stratus rain」で使っています。


――トリッキーなギターが好きな人が二人いることも、岸田教団&THE明星ロケッツの個性の要因になっていることがわかります。「シリウス」の歌詞についても話していただけますか。

岸田:歌詞はアニメに合わせました。中2病が溢れる感じにしてほしいとリクエストがきたんです。それで、「シリウス」の作詞は結構がんばりました。それに、2番のAメロはSUPERCARさんがモチーフになっています。そこはギターのフレーズが、まずSUPERCARさんなんですよ。なぜかというと、『天狼 Sirius the Jaeger』のアニメを観たときに、絵の感じや方向性から、オリジナル・アニメで自分が一番好きな『交響詩篇エウレカセブン』を連想したんです。『交響詩篇エウレカセブン』の戦闘曲は、SUPERCARさんの「STORYWRITER」なんですよね。それとリンクさせたくて、「STORYWRITER」をイメージしたセクションにすることにしたんです。だから、ギターのフレーズが「STORYWRITER」っぽくなっていて、歌詞も“STORYWRITERみたいに この手で描きたいんだ 光射して未来裂いて”と歌っています。いしわたり淳治さん、ありがとうございます…という(笑)。

――そういう仕掛けは、アニメファンはたまらないと思います。では、「シリウス」のレコーディングは、いかがでしたか?

ichigo:この曲は、めちゃくちゃエモく歌えと言われたんです。これくらいかなと思って歌っても全然ダメだと言われてしまって。それで、いろいろ考えるのをやめて思いきり歌ったら、「それです」と言われました。だったら、思いきり歌えと言ってくれよという(笑)。なんか、岸田がいろいろ言うんですよ、もっとエモくとか、もっと人を泣かせる気持ちでとか、もう演技してもいいとか。でも、言われれば言われるほど、わからなくなってしまって。だから、たぶん私はアプローチが人と逆なんでしょうね。私は演技しろと言われるとちゃんと歌ってしまって、全力で、血管が切れるくらい、喉を潰すくらいの勢いで歌うとエモくなるんです。

岸田:全力で歌っているけど、声を張っているようには聴こえないよね。

ichigo:うん。

――そうなんですよね。全力で歌われたようですが、サビは温かみがあって、包み込むような歌になっています。

ichigo:そう。使っているパワー感はものすごいけど、そういうふうには聴こえない。私は去年からボイトレを始めたので、それが大きいんじゃないかなと思います。前の歌い方だったら多分こういうふくよかさは出なくて、ピーキィな声になっていたと思うんですよ。ただ、それが逆に難しいところでもあって、思いきり声を張ってもちょっと楽に出るようになったので、岸田から切迫感が足りないと言われてしまうことが増えているんです。そこは、ここからまたもう一段階上の歌を歌うために、今模索しているところです。

岸田:“表現力高い系シンガー”は、余裕がある状態で意図的に切迫感を作りだしているから、全く問題ないんだよ。ただただ声を思いきり張ったり、限界ギリギリで歌うことによる不安定さが切迫感につながるというのは違う。だから、技術を活かして落とし込みましょうという。

ichigo:そうなんだよね。私の中では手を抜いたり、意識的にヘタに歌うというのは感覚としてはありえないんです。なので、岸田が言っているちょっと歌えていないようなニュアンスとか、苦しそうな感じとかは、そういう歌い方を技術として見つけないといけないと思っています。

――岸田さんの中で、歌に求めるもののレベルが上がったんですね。

岸田:ichigoさんに歌い方を変えてもらったのは、僕がやる気を出したからです。こんなんじゃダメだと。とにかくこだわっているのは表現力です。もうちょっと表現力があっていただかないと困るなというのがあって。あと、リズムもそう。リズムは表現力というよりは、技術的なレベルの話ですけど。

ichigo:おいっ!(笑)

岸田:圧倒的に声がデカくて、声自体に魅力がある人のまま、ここまできている(笑)。だから、ここでichigoさんにミュージシャンになってもらうことにしたんです。それで、前作の「ストレイ」辺りから歌がよくなったし、今後もちょっとずつよくなると思う。僕的には今回の「シリウス」も、まだまだいけると思っています。

ichigo:がんばります。

――長いキャリアを持っていながら人の意見を受け入れて、さらに進化しようという気持ちを持たれているのはさすがです。

ichigo:それは、もっと足が速くなりたいというような気持ちというか。義務感みたいなものではなくて、純粋にもっと上に行けるなら行きたいと思うんです。

岸田:うちは、みんなそういうタイプだよね。

ichigo:うん。でも、岸田にいろいろ言われてムカつきますよ(笑)。もう、毎回大喧嘩しています(笑)。

岸田:アハハッ!

ichigo:ただ、私は負けず嫌いなので、言われたことができないのが嫌なんです。言われたことがちゃんとできて、そのうえで「お前は大したこと言ってないな」と言いたい(笑)。できないから、やらないというのはカッコ悪い。そうじゃなくて、全部の要望に応えられる状態で、岸田を言い負かしたい(笑)。それに、言われたときはカチンとしながらやったことでも、しばらくすると“なるほどね”と思うことが多いんですよ。

岸田:そう。俺は理不尽かもしれないけど、間違ったことは言ってない(笑)。

ichigo:アハハッ! そうなんだよね(笑)。

岸田:僕がやる気になって、ichigoさんがそれに応えてくれたことで、「シリウス」の歌はいいものになったなと思う。ただ、もうちょっというと、ちゃんと休符を感じさせたり。今回のカップリングの「stratus rain」は「シリウス」の半年後に作った曲なので、だいぶできましたね。理解できないと歌えない曲を作ったんです。

――スパルタですね。「シリウス」のベースについても話していただけますか。

岸田:ベースは何もしていないですね。この曲はもうオン/オフがすべてなので、余計なことはしないほうがいいだろうというのがあって。強いていうなら、サビのリズムの解釈に気をつけたくらいです。要はちょっとゆったりしている曲だけど、僕的にはサビはスピード感を出したくて、アップ/ダウン・ピッキングの音量差を減らして流れるようなベースにしました。この曲は全体的にドライブ感重視で、ほぼダウン・ピッキングで弾いているんですよ。

――この曲でダウン・ピッキングというのは、結構速くないですか?

岸田:いや、僕はBPM=210くらいまでは、ダウンで弾けるんです。

――えっ、本当に?

岸田:はい(笑)。この曲はBPM=180ないくらいなので、全部ダウンで弾こうと思えば弾けます。僕は元々パンクロックをやっていたし、NUMBER GIRLの中尾憲太郎さんが全部ダウンで弾くという感じですよね。その影響を受けて一時期訓練していたので、その名残で今でも「シリウス」のサビを全部ダウン・ピッキングで弾くくらいは問題ない。それと同時に、オルタネイト・ピッキングの音の粒立ちを揃える技術も持っています。オルタネイトの粒が揃わないのはアップ・ピッキングの音が弱くなるからで、それはピッキングの角度が原因なんですよ。僕は、ダウン・ピッキングと変わらない強さで、“バコッ!”とアップ・ピッキングできるんです。それは長年そういうことを意識してベースを弾いてきたことでついた筋力のお蔭ですよね。

◆インタビュー(2)へ
この記事をツイート

この記事の関連情報