【インタビュー】イアン・ギラン「プロにならなかったことで、本物の音楽が飛び出してきた」

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映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、主人公マーティが「ジョニー・B.グッド」を演奏するプロムのシーンはとても印象的だ。1950年代の古き良きアメリカを感じさせる一幕だが、映画の舞台設定は1955年で、その年にチャック・ベリーは「メイベリーン」でデビューを果たしている。

◆イアン・ギラン映像&画像

世界は高度経済成長期に突入し、夢が現実となっていく輝かしき時代を迎えていた。生活が豊かになっていくことを実感し、車にテレビ、洗濯機とさまざまな新しいテクノロジーが手に届くものとなっていた。未来は明るく人々は希望に満ち溢れていた。その後ベトナム戦争、ケネディ大統領暗殺のような悪夢が待ち構えているなんて、夢にも思わなかったことだろう。

8月31日に世界同時発売となるイアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズのアルバム『イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ』は、そんな美しい50年代が21世紀にタイムワープしてきた作品だ。ザ・ジャヴェリンズは、イアン・ギランがディープ・パープルに加入する何年も前にやっていたバンドだが、オリジナルを書き始める前にバンドは解散してしまったから、レパートリーはカバーのみであった。つまり今回のリユニオン・アルバムも16曲全部カバーだ。もちろんすべてが当時のレパートリーである。

1964年にザ・ジャヴェリンズが解散してからすでに50年以上もの月日が経っているが、驚くべきことに、この作品は当時のメンバー5人全員が集結して制作されたアルバムとなっている。まさに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のプロム・シーンをCDに詰め込んだような作品なのだ。

イアン・ギランの青春がぎっしりと詰まった『イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ』は、いったいどのようなアルバムなのか。


──ザ・ジャヴェリンズ名義では、1994年に再結成し『Sole Agency and Representation』をリリースしてるので、今回は2度目の再結成/2枚目のアルバムになるのでしょうか。

イアン・ギラン:まあ一応2回目の再結成で2枚目のアルバムだね。ファーストは遊びでアルバムを作っただけで、レーベルも適切なところではなかったから、何も起こらなかった。でもまあセカンド・アルバムということで良いよ。

──今回2回目の再結成をしようと思ったきっかけは?

イアン・ギラン:クリスマスの前に、メンバーみんなと会う機会があったんだ。ただ食事をしたり昔話をしたりするためにね。それで「ファースト・アルバムも楽しかったから、またいつかアルバムを作りたい」なんていう話も出たのだけど、まあ私としては、正直そんなことが可能だとは思っていなかった。その後、私のヨーロッパのレーベルEar Musicのジェネラル・マネージャーであるマックスと、私のソロ・プロジェクトの予定について色々と意見交換をする機会があった。なんとそこで彼が「ザ・ジャヴェリンズをやりたいと思っているのだけど、どうだろう?」と言うので「本気かい?それは最高だね!」ということになった。それで、私はリヴァプールの古い友人スティーヴ・モリスと一緒に、16曲のデモを作ったんだよ。1960年代当時のセットリストから曲を選んでね。スティーヴにはこのプロジェクトの音楽プロデューサーを担ってもらった。ジャヴェリンズのメンバーと6週間リハーサルをして、ドイツでアルバムをレコーディングしたんだ。

──16曲すべてが1960年代当時のセットリストだったのですね。

イアン・ギラン:そうさ。当時何百曲というレパートリーがあったから、その中から楽しそうで、あまり難しくなさそうなものを選んだんだ(笑)。

──当時演奏していたのは、すべてカバーですか?オリジナルはやらなかったのでしょうか。

イアン・ギラン:当時はまだ子供だったからね。私がオリジナルの曲を書くようになったのは1969年頃かな。1965年くらいから作曲の仕方を学び始めたけど、技術を習得するのに数年かかった。私たちは、ただパプやダンスクラブでプレイしている子供だったんだよ。ザ・ビートルズもザ・ローリング・ストーンズもみんな同じだったんだ。チャック・ベリーやFats Domino、バディ・ホリー、Howlin' Wolf、Little Walter、Lazy Lesterみたいなブルースやアメリカン・ポップ、リズム・アンド・ブルース、ロックンロールをカバーしていたのさ。当時はカバーとは言わなくて、ただソングだと言っていて、プレイする曲はスリー・コードのなるべく簡単なやつだった。ギターを買って2日もあればコード3つを習得できる。そして3日目に、シンガーは指に水ぶくれを作って血を出しながらステージで歌うというわけさ。

──これはディープ・パープルやブラック・サバスなどで知られるあなたのスタイルとはずいぶん違いますね。

イアン・ギラン:私には特にスタイルがあったわけではなくて(笑)、ただ自分のヒーローをコピーしただけだよ。だからディープ・パープルで歌っていた時とは歌い方は違うけれど、別にスタイルを変えたわけではない。ただ自然と変わっただけさ。小さい頃は教会で歌っていたんだ。ボーイ・ソプラノだったんだよ。叔父はジャズ・ピアニストでストライドやブギウギを演奏していたし、祖父はオペラを歌っていた。祖母はバレーを教えていた。私も教会で歌っていたわけだから、小さい頃からいろんなタイプの歌を色々な歌い方で歌っていた。こういったさまざまな経験が最終的に1969年に私自身の声を与えてくれたんだと思う。ジャヴェリンズの後、ザ・ビーチ・ボーイズや西海岸の実験的な音楽を通じて、ハーモニーやロックンロール、フォーク・ミュージックなどを学んだりもした。

──ザ・ジャヴェリンズのメンバーは、プロ・ミュージシャンではないのですよね。


イアン・ギラン:他のメンバーは誰もプロのミュージシャンではない。ゴードンは造船設計者でトニーはタクシーの運転手をやっている。印刷業をやっているやつもいる。音楽を続けるか、それとも安定した仕事を得て家族と過ごすかというのは大きな決断だった。彼らは音楽を続けることはしなかったけれど、一切の後悔はしていないと言っていた。3月にこのメンバーでレコーディングを始めた時、私の身体には電気が走ったんだ。彼らはプロのミュージシャンにならなかったから、その後ミュージシャンとして成長していない。結果、6週間のリハーサルが終わると、私たちの演奏は1962~1963年当時と全く同じものになっているということに気づいたんだ。これは懐古趣味なんかじゃない。これは本当の本物だ。まるでタイムワープさ。あの頃のクラブに戻ったみたいだった。当時みたいなサウンドになるようにシミュレーションしたわけでもない。オリジナルのサウンドを得るという意味で、彼らがプロのミュージシャンにならなかったことが良い方向に作用したんだ。完全なる本物なんだよ。

──1曲目「Do You Love Me」のオリジナルはコントゥアーズですが、デイヴ・クラーク・ファイヴによるカバーもよく知られていますよね。

イアン・ギラン:デイヴ・クラーク・ファイヴのバージョンは聴いたことがないな。私が聴いたことあるのはオリジナルのコントゥアーズと、リヴァプールのバンドFaron's Flamingosのもの。私たちがコピーしたのはFaron's Flamingosの方なんだ。

──「Dream Baby(How Long Must I Dream)」はオリジナルはロイ・オービソンですが、ザ・ビートルズがBBCでプレイしていますね。

イアン・ギラン:ザ・ビートルズがこの曲やってるの?

──ええ、BBCでですが。

イアン・ギラン:そうなんだ。君の言うことは信じるけど、私は聴いたことがない。私たちがやったのは、もちろんロイ・オービソンのバージョンだよ。

──「Memphis, Tennessee」はとても美しい曲です。オリジナルはチャック・ベリーですが、エルヴィスもやっていますよね。

イアン・ギラン:エルヴィスのバージョンはクソだよ。チャック・ベリーのオリジナルこそ本物さ。当時彼の音楽はロックンロールではなく、リズム・アンド・ブルースと呼ばれていたけどね。この曲は歌詞も本当に素晴らしい。チャック・ベリーは歌詞についても誰よりも先に行っていたんだ。父親がメンフィスにいる娘に長距離電話をかけるけれど捕まえることができない…なんという美しい歌詞なのだろう。本当にチャック・ベリーの歌詞は素晴らしいよ。一方でエルヴィスの方は意味がないし下らない。

──「Little Egypt(Ying-Yang)」はザ・コースターズの曲ですが、これもエルヴィスが歌っています。映画の中でですが。

イアン・ギラン:エルヴィスのバージョンは聴いたことがないな。私たちがやったのは、ザ・コースターズのバージョンだよ。もちろんエルヴィスは、最初に私にとって素晴らしいインスピレーションの源だった。だけどこれは、オリジナルにしか興味がない。この曲はとても素晴らしいので、いろんなアーティストがカバーしているよね。「リトル・エジプト」というのは、有名なストリッパーについての婉曲表現なんだ。この曲の歌詞も本当に美しい。ストリッパーとして働いているガールフレンドに恋い焦がれる興奮について表現し、やがて二人の間には子供ができて、落ち着いた生活、違った人生を始めると言う話だ。とても魅力的だろう?

──続いてはジェリー・リー・ルイスの「High School Confidential」ですが。

イアン・ギラン:このアルバムでドン・エイリーが6曲ピアノを弾いてくれて、とてもラッキーだった。ジェリー・リー・ルイスの曲などは、ピアノがなかったらイマイチだからね。ドンは本当に素晴らしい仕事をしてくれた。

──そしてバディ・ホリーの「It's So Easy!」。

イアン・ギラン:バディ・ホリーというか厳密にはザ・クリケッツ名義の作品だ。バディ・ホリーは私たちに影響を与えたロックンロール・プレイヤーのひとりさ。バディ・ホリー、エヴァリー・ブラザース、リトリ・リチャード、エルヴィス・プレスリー、チャック・ベリー…非常に影響力のあった1960年代のアーティストたちだ。バディ・ホリーの歌い方はとても特徴があって、シンプルでジェントルだけど同時にとてもパワフルだった。ボーイフレンドやガールフレンドについての歌詞も、子どもの頃とてもクールに思えたよ。

──「Save The Last Dance For Me」はドリフターズによる美しい名曲です。


イアン・ギラン:このレコードは、夜の終わりにみんながかけたものさ。彼女と踊ってこの曲を聴いて帰ったんだ(笑)。とても良い思い出の曲だね。この曲はとてもシンプルで歌詞の内容も素晴らしい。まさに別の時代の曲、楽観的な時代の曲だと思う。悲観的な内容やネガティヴなヴァイブは一切なくて、全てがポジティヴで楽観的、音楽もシンプルで複雑なことは何もない時代だった。みんながただ楽しんでいて…もちろん多少のトラブルはあったにせよ、刺されたり撃たれたりなんていう心配もなかった。本当にシンプルな時代だった。「Save The Last Dance For Me」は、常に美しい夜の最後を飾る曲だったんだ。

──「Rock and Roll Music」はオリジナルはチャック・ベリーですが、ザ・ビートルズのバージョンの方が広く知られているかもしれませんね。

イアン・ギラン:この曲の歌詞はあまり重要ではないな。私たちがコピーしたのはチャック・ベリーのバージョンだよ。ジョン・レノンよりもチャックの方がリズムがハネているだろ?

──「Chains」はクッキーズがオリジナルですが、これもやはりザ・ビートルズのバージョンの方が知られていますよね。

イアン・ギラン:これに関しては、私たちがコピーしたのはザ・ビートルズの方のバージョンだよ。ハーモニーが少し違うんだ。この曲はリズムも良いし歌詞も素晴らしい。キャロル・キングとジェリーが書いた曲だけど、2人は素晴らしいソング・ファクトリーだったね。本当に素晴らしい曲だ。キャロルはとても優れた作曲家だよ。

──「Another Saturday Night」はサム・クックによる名曲ですね。

イアン・ギラン:これも「Save The Last Dance For Me」みたいに週末を祝う曲だ。月曜日から金曜日までは頑張って働いて、だけど金曜の夜・週末は稼いだ金をポケットに詰めてクラブに繰り出しロックンロール、普段はラジオでしか音楽を聴けないけれど、週末にはクラブに行ってパーティをしようということだ。

──Lazy Lesterの「You're Gonna Ruin Me Baby」は、あなたのソロ・ライヴでも歌われていますよね。

イアン・ギラン:この曲はずっと歌っているよ。簡単だからギターを手にして2日で弾ける曲さ。歌詞も素晴らしい。酔っ払って、お前に私のお金をあげる、だけどお前はその金を他の男のために使ってしまうだろう、お前は私をダメにしてしまうという非常にシンプルだけどエモーショナルな男女の関係を歌っている。ブルースというのは、ストーリーを伝える音楽だ。ブルースにとても魅かれて、Pye Internationalからリリースされていたメンフィスのブルースのレコードを聴いたりしていた。スキッフルのレコードなども聴いていたよ。ところが、その後アメリカのミュージシャンがブルースについて何も知らないということに気づいた。というのもアメリカではラジオ局が白人向けと黒人向けに分かれていたからだ。ラジオ・アパルトヘイトさ。だから彼らは黒人音楽という遺産を知らずに育った。デルタ、ニュー・オリンズ、メンフィス、ミシシッピ、カンザスシティ、ミズーリ、セントルイス、そしてシカゴに来てブルースは商業的になった。B.B.キングなどはとても大きな人気を博したけど、ブルースというのはそれよりもずっと古い歴史がある。奴隷制があった頃は、表立って抗議行動はできない。奴隷制が終わった後も、しばらくは黒人は表立って抗議をすることはできなかった。発言にはとても気をつけなくてはいけなかったから、巧みにそれを歌詞に織り込んだ。ギターを持ってバーに行き、タバコを吸いウィスキーを飲み女について語り、時に喧嘩をした。だけど彼らが歌ったことは、彼ら自身だけのことではなく、彼の父親・おじいさんと何世代にもわたる歴史のことだったんだ。これがブルースというものなんだよ。だからブルースはとても魅力的だった。1960年代になると国際社会になってきた。色々なことが耳に入り様々な国へと行くようになり、多くの新たなものをみて学ぶようになった。そういったことが1960年代の音楽にも影響していたんだ。

──「Hallelujah I Love Her So」はレイ・チャールズの名曲ですが、エディ・コクランによるカバーもよく知られています。

イアン・ギラン:私たちがコピーしたのはレイ・チャールズのオリジナルの方だよ。

──ボ・ディドリーの「Mona(I Need You Baby)」は、The Rolling Stonesのバージョンも有名ですよね。


イアン・ギラン:私が聴いているのはボ・ディドリーのバージョンだけだ。ストーンズも私たちと同じだったんだよ。当時はザ・ビートルズもストーンズもジャヴェリンズもヤードバーズも、オリジナルの曲を書き始める前はみんな自分たちのヒーローのコピーをやっていた。「Mona(I Need You Baby)」はただのブルースだけど、ボ・ディドリーがインパクトあったのは、彼のギターのサウンドが理由だよ。彼はトレモロをつかってリズムを刻むと、トレモロのせいでアタックが出てとてもエキサイティングなサウンドになる。あんなサウンドは一切聴いたことがなかった。この曲の「ジャンジャンジャン、ジャンジャン」みたいなリズムとか。それに彼は独特な形のギターを使っていただろ?四角いボディで見た目もかっこよくて、非常に堂々とした魅力的なキャラクターの持ち主だった。

──10月にはディープ・パープルの来日公演がありますが、最後にコンサートを楽しみにしている日本のファンへのメッセージをお願いします。

イアン・ギラン:日本は、ヨーロッパ以外で私が初めて訪れた国なんだ。日本の文化・遺産・歴史が私の人生に与えたインパクトはとても深い。ずっと昔に日本に行ったときに仲良くなった人たちとは、今でもつきあいがある。早く日本に行きたいね。今バンドの状態はとてもよくてホットでエネルギーに満ちているから、10月にツアーするのをとても楽しみにしているよ。

取材・文:川嶋未来
写真:Dennis Dirksen


イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ『イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ』

2018年8月31日 世界同時発売予定
【CD】 GQCS-90642 / ¥2,700+税
※日本語解説書封入
1.ドゥ・ユー・ラヴ・ミー [ザ・コントゥアーズ]
2.夢みる乙女 [ロイ・オービソン]
3.メンフィス・テネシー [チャック・ベリー]
4.リトル・エジプト [ザ・コースターズ]
5.ハイ・スクール・コンフィデンシャル [ジェリー・リー・ルイス]
6.イッツ・ソー・イージー [ザ・クリケッツ]
7.ラスト・ダンスは私に [ザ・ドリフターズ]
8.ロックン・ロール・ミュージック [チャック・ベリー]
9.チェインズ [ザ・クッキーズ]
10.今度の土曜に恋人を [サム・クック]
11.ユア・ゴナ・ルイン・ミー・ベイビー [レイジー・レスター]
12.スモークスタック・ライトニン [ハウリン・ウルフ]
13.ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー [レイ・チャールズ]
14.ハートビート [バディ・ホリー]
15.ホワッド・アイ・セイ [レイ・チャールズ]
16.モナ(アイ・ニード・ユー・ベイビー)[ボ・ディドリー]

【メンバー】
イアン・ギラン(シンガー)
ゴードン・フェアマイナー(リード・ギター)
トニー・テイコン(リズム・ギター)
トニー・ホィットフィールド(ベース)
キース・ローチ(ドラムス)
[ゲスト]
ドン・エイリー(ピアノ)

<DEEP PURPLE - The Long Goodbye来日公演>
2018年10月14日(日)開場14:30 / 開演 16:00
@幕張メッセ国際展示場 9・10・11ホール
2018年10月15日(月)開場18:30 / 開演 19:00
@名古屋国際会議場センチュリーホール
2018年10月17日(水)開場18:00 / 開演 19:00
@大阪フェスティバルホール
2018年10月18日(木)開場18:00 / 開演 19:00
@大阪フェスティバルホール
2018年10月20日(土)開場17:30 / 開演 18:00
@広島上野学園ホール
2018年10月22日(月)開場18:15 / 開演 19:00
@福岡サンパレス ホテル&ホール
https://udo.jp/concert/DeepPurple

◆イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ・レーベルサイト
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