【開発者インタビュー】スタン・コーティ「フェンダーペダルは使い方次第で、思いがけないサウンドに出会える可能性を秘めている」

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トーンに対する情熱に溢れるエンジニアたちによって南カリフォルニアで設計された、フェンダーが新たに開発したコンパクトペダル群。革新的な機能と壮大なトーンを備えたこれらのペダルを作った設計リーダーがスタン・コーティだ。オーディオのプロとして25年、トーンのエンジニアとして12年の経験を持ち、フェンダーのデジタルアンプやチューブアンプの設計を多く手がけてきたエキスパートである彼は、どんな思いでこのペダル群を発表したのか、聞いてみた。

◆FENDER EFFECTS PEDALS 関連画像

■フレキシブルなサウンド設計が可能で
■あらゆる機器と併用いただける汎用性が特徴だ

──まずは自己紹介をお願いします 。

Stan Cotey:フェンダー社で、製品開発部のVP(VP of Product Innovation)を務めているスタン・コーティです。製品/テクノロジーの開発に携わっていると同時に、ミュージシャンとしても長年活動しています。

──フェンダーでのキャリアを教えてもらえますか。

Stan Cotey:私がフェンダーに入社したのは2006年で、エレクトロニクス部門の製品開発ディレクター(Director of Research and Development for electronics)として同社のキャリアを始めました。7才ごろからギターを弾き始め、プロギタリストとして活動していた時期もあるので、憧れのフェンダーで働けるようになったのは、まさに夢のような話です。働き始めた当初は、プロオーディオ分野における製品開発と、ギターアンプ製品の生産ラインで働くエンジニアたちのマネージメントが主な職務でした。

その後、全エレクトロニクス製品に関わる研究開発に携わるようになりました。私のもとで働く多くのスタッフは30年以上の勤務歴を有する熟練職人たちです。技術面でも、情熱面でも、非常に高いレベルを有するプロフェッショナルなスタッフに囲まれて、非常に光栄です。

私は製品のデザインに対して、特にこだわりを持っています。私がフェンダー製品のテクノロジーとイノベーションに関わるチームに召集されたのも、これに起因しているのだと思います。現在は、全フェンダー製品の製造ラインに何かしら関わることができるポジション(Vice President of Innovation)を任されており、「好奇心旺盛なギター大好き少年」から始まった旅路の素晴らしい延長だと捉えています。

私が今まで携わってきた製品には、初代Mustangアンプ、Deluxe/Bandmaster VMアンプの真空管回路設計、Macheteアンプなどがあります。またU2のジ・エッジ、ジョー・ボナマッサ、マイケル・ランドウ、エリック・クラプトンといったアーティストたちのシグネイチャーアンプの開発にも深く関わっています。プロオーディオ部門の製品では、Passportや、Fortis、FighterといったPAスピーカーの開発に携わってまいりました。

──今回新しい3機種をリリースしようと思った理由を教えてください。

Stan Cotey:今回発表した3製品は、2018年1月に発表されたフェンダーペダル6製品のラインナップをさらに充実させるものです。既存の6機種は、世界中のプレイヤーに対して新たなサウンドの可能性を提示し、ペダル業界においてフェンダーの存在を知らしめるものとして、発表されました。ギターから奏でられるサウンドに対して、私たちがいかに愛情をもって、楽しく新製品を開発しているか、感じ取っていただければと思いながら、開発したエフェクトペダルです。

今回発表した3製品は、よりサウンドに対してこだわりをもったプレイヤー向けと言えるかも知れません。ユニークでクリエイティブなトーン、“自分だけのサウンド”を追い求めるプレイヤーたちに使ってみてもらいたい製品です。エフェクターのカテゴリーは、非常に多岐にわたり存在します。ペダル業界に本格参入するにあたり、どのエフェクターを、どのタイミングで紹介していくかについては、多くの議論がなされ、慎重な判断が求められました。現時点で、私たちはコーラスやフランジャーといった汎用性の高いペダルを出していないことにお気づきでしょうか? これは私たちが、「プレイヤーにとって真にユニークなトーンを生成するために必要なペダルとは何か?」を考えた時に、優先されるべきエフェクターを吟味した結果なのです。エフェクター市場には多く存在しますが、そのような中でも、フェンダーは常に新しく、ユニークなサウンドを追い求めるプレイヤーたちにとって有益な製品を提供し続けたいと考えています。

──当シリーズを開発しようとしたそもそものきっかけを教えてください。

Stan Cotey:とても良い質問ですね! ビギナーだろうが、長年ツアーやスタジオで活躍してきたプレイヤーだろうが、あらゆるレベルのギタリストが「必ず必要とするツール」のニーズに対して、高品位で、高音質な製品を提供したいという気持ちが、常に前提としてあります。

また、フェンダーのCEOであるアンディー・ムーニーのエフェクト市場に対する思い入れについても言及しておく必要があります。アンディーは素晴らしいギタリストであるとともに、ギターや、ギター文化の大ファンなんです。彼はある日、ふと思いました。なぜフェンダーは、ギターやアンプといった製品では世界でトップブランドであるのに、エフェクトペダルではそうでないのか、と……フェンダーは今までもエフェクトペダルを販売はしてきていましたが、新製品の発売は不定期なものでした。アンディーは、エフェクトペダルに関しても、ギターやアンプと同じくらいの情熱をもって戦略的に発表していけば、エフェクト市場においてもフェンダーの名を広めることができ、市場のより一層の活性化にもつながるのではないかと考えたのです。

私はティーンエイジャーの頃からバンド活動を始め、しばしばアンプやエフェクターを自作しては、新しいサウンドを追い求めてきました。実は今回、フェンダーが新しいエフェクターラインナップを本格的に開発するという話が持ち上がった時、私自身ちょうど、今までの知識を活かし、フェンダーのペダル製品ラインナップを一新する方法を模索中でしたので、非常にタイムリーな話であったことは間違いありません。


──参考にした競合ブランド、著名製品はありますか?

Stan Cotey:私自身、数十年にわたり様々なペダルを使用してきたので、市場にどのようなペダルが存在しているかは知っていますが、フェンダーのペダルを開発するにあたっては、特定のペダルを研究したり、参考にはしたりはしていません。ただ今回のプロジェクトに際し、解決したい問題や、新たにコンパクトペダルという形態で試みたい点について、ミュージシャンたちと意見を交わしました。フェンダーペダルの設計を見ていただくと、既製品とはまったく異なる製品に仕上がっていることをお分りいただけると思います。

──このシリーズ最大の特徴は?

Stan Cotey:フェンダーには、ジェームズ・ギフォードが率いる優れた産業デザインチームがあります。彼らは、フェンダーペダルのエンクロージャーやLEDバックライト付きノブ、マグネット式のバッテリードアといったユニークなフィーチャーをデザインしてくれました。特にバッテリードアのアイディアは自信作ですね。バッテリーを特別な器具を使用せずに簡単に交換できる画期的な構造なんです。

またSanta Ana Overdriveのサウンドテクスチャーはとてもユニークなものだと思います。このサウンド設計には、素晴らしいギタリストでもあるアレックス・アギラーが携わっています。空間系ペダルである「Marine Layer Reverb」と「Mirror Image Delay」に搭載されているプロセッサーも素晴らしいサウンドを生み出しします。DSPエンジニアのジョセフ・ブラックマンが設計しており、彼もまた、素晴らしいギタリストです。

──ベストマッチなギター/アンプはありますか? やはりシングルコイルのギター&フェンダーアップでしょうか?

Stan Cotey:ベストマッチは、プレイヤーがどのようなサウンドを追い求めているかによって変わってきます。プレイヤーが望むサウンドが出せるコンビネーションこそが、ベストマッチと言えるでしょう。フェンダーペダルは、フェンダーギターとフェンダーアンプを使用することのみを念頭に置いて開発されたわけではありません。ぜひいろんなギターとアンプ、そしていろんなペダルと組み合わせてお試しいただきたいと思います。フェンダーペダルは使い方次第で、思いがけないサウンドに出会える可能性を秘めているのです。

──ギターにもアンプにもフェンダーらしさがあります。エフェクターのフェンダーらしさとは?

Stan Cotey:フェンダーペダルはフレキシブルなサウンド設計が可能で、あらゆる機器と併用いただける汎用性が特徴です。その上で、これらのペダル製品に「フェンダー特有のサウンドキャラクター」があるとしたら、1946年の創設以来、フェンダーが大事にしてきた「卓越したパフォーマンス性」、「他とは一線を画すサウンドの実現」、「堅牢な構造」、「リーズナブルな価格」といった価値をさらに高めるものであってほしいと思います。ペダルの設計チームは非常に少ない人数で構成されています。一人一人が音楽に対して情熱をもったプレイヤーでもあり、経験に基づいた意見交換を活発に行っています。特筆すべきサウンドキャラクターがあるとすれば、それは彼らの情熱の賜物であると言えるでしょう。

──いい意味でフェンダーらしからぬ音も出ますか?

Stan Cotey:その点は、プロジェクト初期によく議論されました。例えば、私たちはストラトキャスターという楽器については、他のメーカーよりも圧倒的に多くの知識を有しており、そのサウンドの特性もよく把握しています。そんな私たちがストラトキャスターに特化したディストーションペダルを開発することも可能でした。しかし他ブランドの楽器を使用しているプレイヤーが多く存在していることも事実です。そのようなプレイヤーたちにも柔軟に導入いただける製品を提供することも、私たちは重要だと考えています。

また、特定の機材とマッチさせて使用することを想定した製品は、プレイヤーのサウンドパレットを広げるという観点からは制限を設けてしまいます。私たちが目指したのは、あらゆるプレイヤーに新たなサウンドの可能性を提供することでしたので、「これを使えば必ずフェンダーのサウンドになる」ことを前提にペダル開発を行ったわけではありません。

◆インタビュー(2)
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