【インタビュー】Aoi Mizuno、異色のクラシカルDJが作り上げた力強いメッセージを秘めたアルバム『ミレニアルズ』

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■“WE WILL CLASSIC YOU”
■これが僕からのメッセージなんです


──その活動が、DJの始まりだったんですね。では、リリースされたクラシック・ミックスCD『MILLENNIALS(ミレニアルズ) -WE WILL CLASSIC YOU-』について話してください。クラシックの老舗中の老舗グラモフォンが、よくこのCDを企画しましたよね。

Aoi Mizuno:僕も最初そう思いましたよ! 声を掛けていただいて驚きました。クラシックのミックスCDなんて120年の歴史で初めてですからね。最初のプレッシャーはものすごかったです。先方からこの企画が出たんですが、本当に僕でいいのかなと。また、自分は指揮者であって、DJというのはあくまで遊びの延長だったので、DJという肩書きにも違和感があった。これから先、このDJがメインになっていくんだということに対する踏ん切りをつけるのも難しかったです。

──いわゆるノンストップミックスというのは、つなげていく曲のBPMが重要になると思うんです。でもクラシックだと、それは難しいですよね。何を基準につなげて行ったのかが不思議です。

Aoi Mizuno:僕はハーモニーを大事にしていて、その和声感でつなげていっていると言えばわかってもらえるでしょうか。この曲を使いたいと思ったら、とりあえず楽譜を全部読むんです。それで使えそうな箇所を見つけて、その始まりと終わりのコードを調べ上げて、それをパズルのように組み立てていくんです。例えばGメジャーで終わっていたら、次はGメジャーで始まる曲をつなげる。調性感が一緒のものをつなげていくというのが基本ですね。PCに取り込んで移調させてしまえば簡単なんですが、それは絶対にNGです。僕はクラシックの人間なので、作曲家に対するリスペクトを強く持っています。作曲家がなぜその調で作ったかというのは大きな意味があるんです。調性が持つキャラクターを意識して作られているので、特にロマン派では全ての調にキャラクターを設定している作曲家もいるので、それを変えることは絶対にありません。それはテンポについても同じですね。


──この音源はマスターテープからなんですか?

Aoi Mizuno:いや、完パケの音源からです。やはり作品というものを残してつなげていきたかった。マスターテープの各トラックごとになっていればイジりすぎちゃって、作曲家や作品に対して尊重していないことになるのがイヤだったので。

──曲によって、録音されたときの条件がかなり違うのではないですか?

Aoi Mizuno:すべて一度DAWに取り込んでから作業をしています。曲ごとの音量レベルがかなり違うんですよ。リミッターとコンプレッサーとフェーダーを調整しながら、いかに原曲の雰囲気を壊さずに、且つ統一感を出すか、その調整が一番大変だったかな。

──曲をつなげる上で特に苦労したところは?

Aoi Mizuno:このCDを作った後でオリジナル音源も改めて聴いてみたんですが、オリジナルの音源のはずなのに、“あれっ? フランジャーがかかって聞こえる”っていうことがありましたね。そういう曲は後期ロマン派のことが多いんですが、当時の作曲家が頑張って、オーケストラのアナログの状態でいろいろな音色を作っていたんだなぁと感心しました。ストラヴィンスキーの「火の鳥」なんて、“これコーラスがかかっているんじゃない?”なんていうサウンドがいっぱいあって。このCDでは、全体的にいろいろとエフェクトが掛かっているように聞こえると思うんですが、僕はポイントポイントでしかかけてないんです。バッハ「トッカータとフーガ」の弦楽版は、すごくアバンギャルドな録音なんです。ちょっとEQをいじっただけでクリッピングが入っちゃうような。ギリギリのところを攻めているんですね。扱いが難しかったです。あと、古い音源はノイズが入っていることが多かったですね。フィルターのLoを強めて消したりはしましたね。

──特に心がけたことは?

Aoi Mizuno:クラシックが普段聴いてもらいにくいのは何故かということについては考えましたね。その原因は、音量の差が激しすぎるということなんです。生で聴くときにはそれが良い効果を生み出すんですが、いまは移動中にイヤホンで音楽を聴きますよね。そうすると、ピアニッシモはほとんど聞こえない。だから音量を上げているとフィルテシモでは耳をつんざく音量になってしまう。これがクラシックが聴かれにくい原因の一つなんじゃないかな。だから、このCDでは比較的ピアノのレベルは全体的に上げ気味にして、屋外で聴いてもらいやすいようにミックスしています。

──SEが入っているのは楽しいですね。

Aoi Mizuno:元々コンセプトアルバムが好きだったんで、今回のCDにもそれぞれ意味を持たせています。「ノット・ソー・ロング・タイム・アゴー」だと、拍手の後に足跡がして一言しゃべってからドアを閉めるという演出にしました。コンサートホールから出て、こちら側に来てもらおうという意味を持たせたんです。

──それは面白いですね。

Aoi Mizuno:でも、6曲目の「メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー」では、また扉を開けるんです。この曲ではエフェクトなどは掛けていなくて、ほぼ原曲のまま楽しんでもらおうというコンセプトだったので、いま一度コンサートホールに来てもらおうと。

──この「メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー」はマニアックな曲が選ばれていますね。

Aoi Mizuno:ベートーヴェンの「第九」をベースにしているから、めちゃメジャー曲なんですが、だからこそバランス的に、マイナーな曲を入れ込むにはこの曲がいいかなと思って。「メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー」は、いろいろな時代のものをまとめて突っ込んだような感じですね。

──こうやって解説してもらうと、込められた意味が分かりやすいですね。

Aoi Mizuno:もう一つ言うと、曲の流れにも含みを持たせているんです。3曲目の「レザレクション…?」から、大まかなストーリーが始まるんです。マーラーの交響曲第二番の「復活」をベースにしているんですが、この曲の最後の合唱は、“死を克服する”や“死に打ち勝つ”という言葉が歌われた後に、“私は復活するために死ぬ”という歌詞で終わるんです。“せっかく死を克服したのに死ぬんじゃん!”という(笑)。だからあえて、ストラビンスキー「春の祭典」から「生贄の踊り」やベルリオーズ「幻想交響曲」の「断頭台への行進」という、死に向かっていく曲を含ませて作ったんです。で、この曲が終わって「ダンス・パーティ・イン・ザ・ヘル」という地獄に行っちゃうわけです。

──ストーリーが深いですね。

Aoi Mizuno:ベルリオーズの「幻想交響曲」第五楽章の「サバトの夜の夢」をベースにした「ダンス・パーティ・イン・ザ・ヘル」が幕を開けるんですが、この曲は地獄でゾンビみたいになっちゃった片思い相手と主人公がダンスを踊るという内容なんです。


──次の「フォーギヴネス」は唯一のバラード曲。

Aoi Mizuno:この曲はコルンゴルトの歌曲集が全面に出ています。コルンゴルトってかなりマイナーな作曲家なんですが、僕は大好きで、「四つの別れの歌」という歌曲集の2曲を今回は使っています。「フォーギヴネス」が自分の中では一番好きですね。最初に出てくるマーラー「交響曲第五番」の「アダージェット」は、映画『ベニスに死す』でも使われていますが、そこでも“赦し”という意味合いで使われていると感じていたので、このタイトルをつけました。4曲目で地獄に行っちゃったけど、5曲目の赦しを経て、先ほども触れた6曲目の「メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー」の「第九」に行くわけです。これ(第九)は誰でも知っていますよね。遺伝子レベルで知っているということで、こういうタイトルにしたんです。ここで“生きる喜び”を高らかに歌って復活するというストーリーになっています。

──そして最後は「リーチ・アウト・トゥ・ユニヴァース」で宇宙に出ちゃう。

Aoi Mizuno:これは、ホルストの「ジュピター」とモーツァルトの「ジュピター」ということで、ジュピター=ジュピターをやりたかったんですよ(笑)。これは最初からアイデアがあって、絶対にイケるだろうということで。映画でいうエンドロールのような立ち位置ですね。“良い映画を観たなぁ”という気持ちになってもらいたくて作りました。

──ホルストの「惑星」は2曲目の「ザ・レイテスト・ロマンティックス」にも出てきますね。

Aoi Mizuno:この曲が一番最初にできたミックスなんです。このアルバムのプレゼン用のデモとして3日で作りました。それが原型になっていて、ブラッシュアップしました。19世紀末から20世紀初頭の音楽的革命期の曲ばかりを使っているので、近代も入っていますが、後期ロマン派の作品を入れ込んだので、このタイトルになっています。自分の友人の中でもこの曲が一番人気ですね。格好良さがウリです。「惑星」にはコーラスをガンガンに掛けて、一番遊んでいますね。それと、「火の鳥」の「魔王カスチェイの凶悪な踊り」は、組曲の中のインターリュードみたいな短い曲なんですが、それが原曲からして滅茶苦茶エフェクティブなんですね。それをぶつ切りにして、「ワルキューレの騎行」に重ねているんです。これは楽しかった。

──このアルバムをどんな人に聴いてもらいたいですか?

Aoi Mizuno:自分と同世代の若い人に聴いてもらいたいです。お友達と音楽を共有する楽しさってありますよね。そこからクラシックが外されちゃうのは非常に悲しいですし、もったいない。そういうところからアルバムタイトルを「ミレニアルズ」と付けました。自分がミレニアル世代というのもあるし、その世代の人に聞いて欲しいです。サブタイトルの“WE WILL CLASSIC YOU”というのは、クイーンの“WE WILL ROCK YOU”から来ています(笑)。真面目な話、これが僕からのメッセージなんです。

取材・文・撮影●森本智

Aoi Mizunoが出演した「Yellow Lounge Tokyo 2018」の模様は、ドイツ・グラモフォンのオフィシャルYouTubeチャンネルで当日生中継され、現在もアーカイヴ公開中!

リリース情報

『MILLENNIALS(ミレニアルズ) -WE WILL CLASSIC YOU-』
2018. 9. 5 発売 CD:UCCG-1813 定価¥2,500+税
■収録曲
1.NOT SO LONG TIME AGO ノット・ソー・ロング・タイム・アゴー
2.THE LATEST ROMANTICS ザ・レイテスト・ロマンティックス
3.RESURRECTION…? レザレクション…?
4.DANCE PARTY IN THE HELL ダンス・パーティ・イン・ザ・ヘル
5.FORGIVENESS フォーギヴネス
6.MELODY WITH YOUR DNA メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー
7.REACH OUT TO UNIVERSE リーチ・アウト・トゥ・ユニヴァース
●All songs mixed by Aoi Mizuno

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