【ライブレポート】マリリオン、トータル5時間・至福のウィークエンド

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現代の英国プログレッシヴ・ロックを代表するバンドのひとつ、マリリオンが2018年9月、来日公演を行った。前回から11ヶ月ぶりとなる日本上陸。その前が1994年であることを考えると、驚きのハイペースでの来日となる。しかも前回と同様の川崎クラブチッタでの2デイズに加えて、今回は大阪公演も行われた。

◆マリリオン画像

ヴォーカリストのスティーヴ・ホガースは前回の来日時に「日本でプレイするのは久しぶりだから、これまで発表してきたアルバムから満遍なくプレイするようにした」と語っており、最新作『F.E.A.R.』と過去曲をバランス良く配置したセットリストを組んできたが、その成功を踏まえてか、今回はさらに“攻めの姿勢”を見せた演奏曲目で、よりディープな層のファンにも訴求するライヴを披露してくれた。

元々ヒット・シングル曲を演奏するタイプのバンドではなく、本国イギリスでチャート・インした「追憶のケイリー」「ユーア・ゴーン」などは演奏すらされなかったが、ステージでプレイされた楽曲はいずれもライヴならではの、ハッと目を開かされる“生”のエモーションに満ちている。また、前回は使用しなかった大型プロジェクターやライティング・セットを持ち込むことで、ヴィジュアル面でもスケールアップした、本来の彼らの魅力を解き放つステージを堪能することが出来た。それでは川崎クラブチッタでの2公演について、レポートしていこう。

9月15日(土)、開演前のスクリーンにはカタカナで“マリリオン”という文字が映し出され、それが消えるとショーが始まる。『楽園への憧憬 / Holidays In Eden』(1991)からの「痛む心 / Splintering Heart」という意表を突く曲をオープニングに持ってきたのは、観衆を試してみた部分もあったのかも知れない。このサプライズに会場内がドドッと揺らいだことで、日本のファンがバンドと世界観を共有していることを確信したのか、ギタリスト、スティーヴ・ロザリーが両眉を上げて嬉しそうな表情をしたのが印象的だった。




決して激しいムーヴメントを売りにするバンドではないマリリオンだが、スティーヴ・ホガースは躍動感あふれるステージ・パフォーマンスで我々の目と耳を捉えて離そうとしない。最初に観客席の側面から登場して場内を沸かせた彼は、熱気あふれる伸びやかなヴォイスと、心を癒やすメロディの緩急で、我々を音楽の旅路へといざなっていった。彼はさらにパーカッションやキーボード、クリケットのバットから作ったMIDIコントローラーなどを使って、八面六臂の活躍で魅せてくれた。

中盤の「ビューティフル / Beautiful」「美しき季節の終焉 / Seasons End」はどちらもタイトル通り、“美しい”空間を創り出す。本編ラストを飾った「アフレイド・オブ・サンライト」「ザ・グレイト・エスケイプ」はやはり美しく、そして哀しく、荘厳ですらある。観衆は最後の音が空気中に溶け込んで消えるまで、拍手を躊躇するほどだった。

『F.E.A.R.』の軸を成す大曲のうち「ザ・リーヴァーズ」は中盤、「エルドラド」はアンコールに演奏された。マリリオンと日本の紲を蘇らせたアルバムからの楽曲ゆえ、バンドにとっても我々にとっても重要な位置を占めるこの2曲は全編まったく緊張感が途絶えることがなく、エンディングと共に大きな声援が起こった。

この日、最後のアンコールは「ガーデン・パーティー」。初期の代表曲のひとつに、オールド・ファンは感涙を止められない。ホガース加入以前、フィッシュ在籍時の曲のため、マーク・ケリーの1980年代然としたシンセのイントロに観衆は一瞬「まさか?」と耳を疑い、次の瞬間、わっと爆発する。オーディエンスはコーラスの掛け合いもこなし、たっぷり2時間半のライヴは、大盛り上がりの中、フィナーレを迎えた。

9月16日(日)、マリリオンのライヴが“日替わりセット”であり、公演ごとに大幅にセットリストを変えてくることは、熱心なファンだったらよく知っていることだ。そのためリピーターも少なくなく、会場には前日にも見かけた顔がちらほら戻ってきていた。

1曲目は「サンセット・タウンの王 / King Of Sunset Town」。スティーヴ・ホガース加入後、最初のアルバム『美しき季節の終焉』(1989)のオープニング・ナンバーだったこの曲は近年ほとんどライヴ演奏されることがなく、もちろん日本では初演だ。ホガース時代の幕開けを告げたレア曲をここに持ってきたことからも、彼らの本気度が伝わってきた。

続く大曲「ザ・リーヴァーズ」は、さまざまな国を訪れては去っていく“去る者=リーヴァーズ”と、彼らを見送る“留まる者=リメイナーズ”の対比を描いた曲だ。わずか3公演のジャパン・ツアーだが、日本を去らねばならないバンドと、見送らねばならないファンの想いが、この曲の情感をさらに効果的にしていた。

やはり前日とは異なるセットリストで、「次はポップな曲だ。...こういうのもできるんだよ」とホガースが笑いながら紹介した「誰も君を僕から / No One Can」、フィッシュ時代の「雨にうたれるシュガー・マイス / Sugar Mice」など、1曲ごとに驚嘆の声が上がる。しかも、その場のノリでやってみたという感じではなく、観衆に心のすべてを捧げるような入魂のライヴ・パフォーマンスは、前日の感動をさらに増幅させるものだった。


驚かされっぱなしの2公演において、最後のビッグ・サプライズがアンコールの「マーケット・スクエア・ヒーローズ」だった。マリリオンの名前を1980年代前半のイギリスに轟かせたこの曲だが、ホガースが加入してからは真のジャパン・プレミアとなる。スクリーンには彼らの出発点となったロンドンのマーキー・クラブのロゴと、マーシャル・アンプをパロった“マリリオン・アンプ”の壁が映し出される。ライヴ本編では着席していた観衆も総立ちとなり、初秋から一気に猛暑の夏に引き戻すような熱さとありったけの多幸感の中、大団円の幕を閉じることになった。

2日間でトータル5時間近く、マリリオン・ミュージックに浸ることができた至福のウィークエンド。2年連続の来日公演が実現したことで、車輪は動き出した。彼らはきっと遠くない未来、必ず日本のステージに戻ってくるだろう。そのとき、どんな曲がプレイされるか。早くも次回のセットリストに想いを馳せてしまうのだ。

文:山崎 智之
写真:Keiko Sakurai


マリリオン『F E A R』

2016年10月5日発売
【CD】GQCS-90227 / 4562387201488 / 2,500円+税
※歌詞対訳付き/日本語解説書封入
1.エルドラド(i)ロング・シャドード・サン
2.エルドラド(ii)ザ・ゴールド
3.エルドラド(iii)デモリシュド・ライヴズ
4.エルドラド(iv)F E A R
5.エルドラド(v)ザ・グランドチルドレン・オブ・エイプス
6.リヴィング・イン・フィアー
7.ザ・リーヴァーズ(i)ウェイク・アップ・イン・ミュージック
8.ザ・リーヴァーズ(ii)ザ・リメイナーズ
9.ザ・リーヴァーズ(iii)ヴェイパー・トレイルズ・イン・ザ・スカイ
10.ザ・リーヴァーズ(iv)ザ・ジャンブル・オブ・デイズ
11.ザ・リーヴァーズ(v)ワン・トゥナイト
12.ホワイト・ペーパー
13.ザ・ニュー・キングス(i)ファック・エヴリワン・アンド・ラン
14.ザ・ニュー・キングス(ii)ロシアズ・ロックド・ドアーズ
15.ザ・ニュー・キングス(iii)ア・スケアリー・スカイ
16.ザ・ニュー・キングス(iv)ホワイ・イズ・ナッシング・エヴァー・トゥルー?
17.トゥモローズ・ニュー・カントリー

【メンバー】
スティーヴ・ホガース(ヴォーカル)
マーク・ケリー(キーボード)
イアン・モズレイ(ドラムス)
スティーヴ・ロザリー(ギター)
ピート・トレワヴァス(ベース)
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