【レポート】天候に翻弄された<朝霧Jam'18>、神がかるライブとキャンプ・イン・フェスの意義

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(c)宇宙大使☆スター

2018年の<朝霧Jam>は、この上なく濃厚な時間となった。大自然に囲まれた解放感あふれるロケーションのなかで、音楽ファンがうなる洋邦交えたアーティストが次々と名演を披露するのがこのフェスの光景だが、今年の肝と言えば、台風25号が接近した影響で天候が激しく変動していったことだった。アーティストも含めて、会場にいた全ての人がそれに平等に(良くも悪くも)翻弄されまくったと言える。フェス終了後に参加者からは、「朝霧Jamの余韻と疲労が残っている」といった声がSNSにいくつも投稿されていたことが象徴的だ。紛れもなく、あの10月6日(土)&7日(日)は、日常生活では到底味わうことができない体験ばかりだった。

本稿では、日本におけるキャンプ・イン・フェスの元祖的存在=<朝霧JAM - It's a beautiful day>のそんな1泊2日の模様を、じっくりとレポートしていく。こうして振り返ってみても、すべての瞬間が鮮烈に思い起こされる。


  ◆  ◆  ◆

冒頭から熱量の高い口調となったが、今年で18回目を迎えた朝霧Jamに筆者が参加するのは、去年に続き今回でまだ2回目だ。それくらい朝霧Jamは、あの場に身を置くと「ここは自分のホームだ」と瞬時に理解できる稀なフェスである。それは、眼の前に悠然とそびえたつ富士山の土着性にもよるのだろうし、寝食やアートやカルチャーといった「生きる糧」をあの地では総合的に噛み締められるからでもあるだろう。「朝霧Jamは最高」と、十数年ものあいだ噂では耳にしていたものの、アウトドアにハードルを感じていた筆者のように二の足を踏んでいる読者がいたら、まずは参加してみることをおすすめしたい。

その手助けをしてくれるのは、身近なキャンパーの存在かもしれないし、筆者が前回から使用している「会場内直行ツアーバス&レンタルテント」かもしれない。新宿、上野、さいたま、横浜、名古屋、京都、大阪発着のツアーバスは、往復or片道を選ぶことも可能だ。往路は朝7時出発の一択のみというのが玉にキズだが、三連休というタイミングのなか開場時間に間に合わせるには、いたしかたあるまい。やっぱり便利だ。RAINBOW STAGEが目の前に広がる「CAMP SITE A」に設置されるレンタルテント(お洒落なデザインのLOGOS製)も昨年に続き使用したが、今年はお隣のテントとの間隔が広げられており風通し良かった。細かいところだが、こうしたアップデートは参加者にとって嬉しいものだ。その一方で、我が家のような居心地でずっと過ごせそうな規模のテントを築きあげている人達の満たされた表情も印象的。そしてそういったキャンパーにスマートでイケてる人が多いのも、近年のキャンプ・イン・フェスの特色である。

▲レンタルテント

そんな初日において、唯一にして最大の不安の種となったのが、前述の台風の影響だった。会場に到着した11時過ぎには辺りに靄がたちこめていて、富士山の姿もこの時点ではよく拝めなかった。不安要素があるからこそ万全の準備で野外フェスに挑める、というのは今年のフジロックでも学んだばかり(笑)。



だがしかし。それにしても、台風一過により全国的に真夏日となった2日目の暑さは誤算だった。会場内のマーケットで記念も兼ねて夏服を購入している人の姿が多く見られたのも無理はない。ちなみに、MOONSHINE STAGEのあるエリアに広がるマーケットは、見ているだけでも楽しいほど充実しており、ファッション系では、「TACOMA FUJI RECORDS」(常にお客さんでにぎわっていた)のようなアーバンなタイプのブランドや、ヘンプなどの天然素材、古着などなど、タウンユースからフォークロアなものまで振れ幅が広い。また、このエリアでは、移動式の本屋さん「BOOK BUS」の存在が目を引いた。長野県上田市に拠点を置いているという。せっかくの野外音楽フェスなのに本?とミスマッチに思うかもしれないが、いつのまにか内観し、感覚が研ぎ澄まされてくる朝霧Jam特有のタイム感と本は、非常にマッチしていたことは特筆しておきたい。



そして、ライブステージについて。初日の開演が14時というゆったりしたスタートも嬉しい。ライブ開始前の時間帯から、すでに子ども連れの姿が多く見られたのは、この日のRAINBOW STAGEのトップバッターをつとめたのがムジカ・ピッコリーノだった為でもあるだろう。NHK Eテレで放送中の子ども向け音楽番組『ムジカ・ピッコリーノ』から飛び出したキャラクターたちがライブを展開していったが、たとえ番組を知らなくても、Vo&Percをオカモトショウ、Vo&Gtを長岡亮介がつとめるなど、バンドはツワモノ揃いで、途中からはROLLYが登場し、洋邦問わない大有名曲を名手たちがカバーしていくという世代を越えたステージだ。あの上質なジャム感は朝霧Jamそのものを体現していたように思う。一方、同時刻にMOONSHINE STAGEの幕開けを飾ったのはTempalay(テンパレイ)である。間口が広くてキャッチーで気持ちのいい彼らのサイケデリックポップは、まさに野外フェス向けだ。時代の空気を吸って吐いて産み落とされたようなリリックもユニークで、まだ若手ながら、<フジロック・フェスティバル>への出演を重ねている理由も頷ける。

こうしてライブの口火が切られた朝霧Jamであったが、夕方を過ぎた頃になると、過酷な天候と相まってとても印象的なステージでめじろおしとなった。

▲初日夕方頃の様子

17時。RAINBOW STAGEは、見計らったかのように濃霧に包まれた。BOREDOMSのステージがスタートしたのだ。4名のギター/ベース、2名のドラマー、ヴォーカル、エレクトロニクスによる計7名の編成は、彼らにしてはシンプルながら非常にハードでトランシーな演奏だったが、何よりEYEのエネルギッシュなパフォーマンスが神がかっていた。シャウトは閃光のように天高く突き抜け、“Shine in Shine on”の連呼は放たれるたびにいつも瑞々しい響きがして生命力が湧いてくる。そのリフレインが頭の中で鳴り止まないなか、MOONSHINE STAGEに移動するとBIGYUKIがセッティングしていた。こうして振り返ってみても、BOREDOMS→BIGYUKIという流れは、なんて贅沢だったのかと溜息が出てしまう。



▲BOREDOMS@RAINBOW STAGE (c)Taio Konishi

「雨のなか、みんな最高!」と、熱気立つ私たちにくだけた口調で呼びかける姿もクールだった。最近は名サイドマンにとどまらず、彼自身の表現をライブや作品で展開しているBIGYUKIをこのタイミングで目にできることは、世界基準の音楽に触れたこととイコールだと思う。ブラックミュージックを中心としたコンテンポラリーなサウンドは、魂を洗うようで、雨風が恍惚感に拍車をかけた。3月下旬に筆者が初めてBIGYUKIを観たリーボックによるファッション×音楽のパーティー<DMX GALA PARTY〜EVOLVE WITH THE STREET〜>@東京アメリカンクラブのラグジュアリーでメロウでムーディーなステージとは、まったく空気感が異なっていた。ライブ感が凄い。NYをはじめとする様々な“現場”で百戦錬磨を重ねてきたプロフェッショナルとしての器量がうかがえた。もっとずっと聴いていたかったが、早くもその願いが叶う朗報が届いており、11月26日に渋谷WWWにて凱旋来日公演がおこなわれる。行くしかない。

野外フェスにおいて、やはり天候は最強の演出装置になり得るのだと思い知る。濃霧のなか現れたゴーゴー・ペンギンも然り。音源よりずっとグルーブに溢れた彼らのステージを今回のベストアクトと称した人も多い。唯一無二のアーティストのステージが「天候」という圧倒的なパワーと共振し、こうして神がかったシーンが多発したのが今年の朝霧Jamだ。ちまたでは“神”という言葉が乱用されがちだが、このフェスレポートにおいては過言ではないと思う。




▲GOGO PENGUIN@RAINBOW STAGE (c)Taio Konishi

そして初日のトリを飾ったのは、RAINBOW STAGEがYO LA TENGO、MOONSHINE STAGEがJay Daniel。雨天にもかかわらず人々があれだけ踊り、熱狂する様子には、野外フェスならではの美しさがあった。その後、音楽が一旦止み夜が深まっていくと、お酒を呑んで語らったり、ぐっすり眠ったりと、思い思いに夜を堪能するのが朝霧Jamである。筆者は数年ぶりに22時台頃に就寝。



▲YO LA TENGO@RAINBOW STAGE (c)Taio Konishi

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