【レポート】<MUTEK.JP 2018>、DJの未来はどこ?

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2018年11月1日(木)から11月4日(日)の間、日本科学未来館、渋谷WWW、WWWX、UNITを舞台に、デジタルアート&電子音楽の祭典<MUTEK.JP 2018>が開催された。

■VRとミュージシャンの交わり
■そして“フロアの空気を読む”AI DJとは?

2000年にカナダのモントリオールでスタートした<MUTEK>は、電子音楽・デジタルアート・デジタルクリエイティビティの創造性の開発と、文化芸術活動の普及を目的とした、国際的に名高い芸術フェスティバルだ。国内での開催は3回目を迎える今回は、ジェフ・ミルズやコーネリアス、初音ミク(海外版)など、世界各国から総勢70組以上のアーティストが参加する、過去最大規模のイベントとなった。

筆者が足を運んだ11月3日、メイン会場の日本未来科学館では、デイタイムではAR・VR、音楽業界などを牽引する先駆者たちが登壇するカンファレンス、そして夕方からは音楽とテクノロジーを融合させたステージが行われた。

デイタイムのカンファレンスの登壇者はあまりに豪華なラインナップで、ビジネスセミナーとして開催していたら高額な参加料を設定できそうな内容だが(笑)、なんと本イベントでは無料で話を聞くことができるという大盤振る舞いだった。


12時から7階・未来館ホールで行われた<Virtual Reality and its Content Problem>では、「VR展示会」や「VR研修」といったサービスを提供する株式会社エドガCEO・米本大河氏を司会進行役に迎え、HTC Nipponにて、VRヘッドマウントディスプレイ「VIVE」事業の責任者を務める西川美優氏、画期的なダンボールVRデバイス「ハコスコ」で知られる株式会社ハコスコの代表取締役・藤井直敬氏、建築・土木業界向けVRを手がける Inc.の代表・ 沼倉正吾氏、そしてVRクリエイティブプラットフォームを提供する株式会社Psychic VR Labの代表・渡邊信彦氏という錚々たるメンバーでパネルディスカッションが行われた。

西川氏は、映画『ラストエンペラー』での印象的なワンシーンを引き合いに出し、VRの普及について、このように言及した。

「眼鏡が普及していなかった時代、皇帝が初めて眼鏡をかけて周囲に披露したところ、そのあまりの奇妙な姿にお付きの女官たちが吹き出すというシーンが劇中にある。しかし、今では登壇者のうち3人も当たり前に眼鏡をかけているくらい、眼鏡は生活に馴染んでいった。VRゴーグルも同じことで、今は着けた姿を奇妙に感じられるが、将来的には人々の生活に溶け込む時代が来るだろう」

確かにそうなのだが、私のような素人目線から言うと、VRゴーグルは着けた姿が「かっこよくない・かわいくない」のが一番のネックだと思う。バイクのフルヘルメットなら、Daft Punkらしくてかっこいい。ヘッドホンや耳あてのように頭の上から装着するようなものも、“DJがヘッドホン補正でイケて見える”現象で分かるように、かっこいい。


しかしVRゴーグルとなると、頭部を横からバンドするものだったり、横も抑えて上も抑えて、髪の毛が二分割に乱されるようなデザインだったり……とにかく、「スチャッ」と着けられないのだ。自分も友人宅でVRのゲームを試したことがあるが、人には見せたくない姿だった。強いていうなら、現代は「髪の毛が乱れるかどうか」に敏感になっている人がとても多いと思う。それゆえ、VRゴーグルが髪の毛を乱さないデザインになるだけで、普及率は随分と変わるのではないだろうか。中田ヤスタカ氏がCapsuleのCDジャケットでつけていた「ゴーグルサングラス」のような、近未来的なデザインのVRゴーグルが開発されることを期待したい。

渡辺氏からは、VRとミュージシャンの交わりについて興味深い話が伺えた。現在、アーティストとタッグを組んでVR作品をつくることが増えてきたのだが、その中でも「音を作っている人」のほとんどは、曲作りの際に「無限の階段」だったり「何らかの空間」だったりといった独自の「絵」を思い浮かべており、それをVR空間で表現したい、という要望が多いのだという。ミュージシャンの心象風景を、ロジカルなVRで表現する。将来、ミュージシャンたちの考えている世界に入って体感できる時代が訪れると思うと、とても興味深い。

続いて14時10分からの<AIと音楽、メディアアートの最新事例 - 創造性のフロンティア>のセッションでは、九州大学客員准教授も務めるQosmo代表取締役の徳井直生氏を迎え、音楽、特にDJとテクノロジーを絡めたよりディープな話が伺えた。学生時代からずっとDJをしている徳井氏は、自身のDJスタイルがマンネリ化していると感じ、新しい要素を取り入れたいと考えた。そこで、自分の分身とDJをしてみたらどうだろう、ということで「AIDJ」の研究を始めたのだと言う。

AIのDJ……というと、DJの自動化のような、「DJいらないじゃん」という世界を想像するが、彼が研究しているのはそんなことではない。あくまで、「自分と一緒にDJする」というスタンスで、バック・トゥ・バック(DJブースに2人同時に入り、交代で曲をかけるDJスタイル)ができるAIを開発したのである。

研究当初は、AIに有名DJたちのプレイリストを集めて学習させてみたが、結果は「面白くなかった」。予定調和の当たり前な選曲しかせず、目新しさや驚きが無かったのだ。そうして次に、「音」だけから選曲するようにAIに学習をさせた。前曲のジャンルや楽器の種類といった特徴を抽出し、新しい曲を探させる。AIには、曲のみならず、客の盛り上がりも感知させた。DJは前曲のノリや雰囲気をキープしつつ、フロアの雰囲気を読むことも大切だからだ。

この試みは、成功を収めた。AIに人間の真似をさせないことで、とても意外性のある、しかし雰囲気を壊さない選曲がされるようになった。AIDJの選曲によって、今まで徳井氏自身が選曲する時に、いかにジャンルやアーティストに縛られていたかを自覚したという。AIDJのお陰で、自分の選曲もより自由になった、と。

AIはどうしても「人に取って代わる、人の仕事が追いやられる」という印象が強いが、こうして自己を見つめ直し、自身のスキルアップにつなげられたように、AIが人間の「創造性」を育てるとは、思ってもみなかった。将来、DJが自分の分身とユニットを組んだりする未来が来ると思うと、面白い。

しかし、AIに「フロアの空気を読ませる」ことでひとつ失敗があったという。それは、「AIが空気を読みすぎること」。どういうことかというと、フロアが盛り下がってくる→落ち着いた選曲をする→さらにフロアが盛り下がる、というスパイラルに陥ってしまったのだという。この事例から自分が思ったのは、人間の「空気を読まない努力」や「空気を読めないポンコツ性」って、実社会においては意外と大切なんじゃないかなということ。「空気」という抽象的でデータ化しづらいものをAIに学習させられるようになるには、まだまだ道のりは長いようだ。

■私たちが愛してやまない
■「音楽」の未来を見せてくれた

夕刻になり、昼の展示を見にきていた客が退場。音楽ファン待望の電子音とアートの祭典に向けて、いそいそと準備が始められる。




18時、日本科学未来館が音楽フェス会場のような雰囲気を纏って開場。1階企画展示ゾーンで披露されたのは、エレクトロアコースティック・アーティスト兼プログラマーのAlexandre Burtonと、電子音響を駆使するJulien Royによる「Three Pieces With Titles」。自作の電子音響楽器を用いた、アジア初披露となる三部作だ。カメラ、シンセサイザー、アコースティック楽器、コンピューター、そしてプロジェクターが融合した、新しくバージョンアップしたリアルタイムのオーディオビジュアル・インストゥルメント。様々な楽器や部品のようなものを使った、とても実験的な演奏、それと見事に融合した映像は、未だかつて目にしたことのないものであり、見るものを釘付けにした。



21時、1階シンボルゾーンで行われたのは、先端テクノロジーを用いた多彩なサウンドプロデュースを手掛けるevalaによるパフォーマンス。アーティストの頭上には大きな地球ディスプレイ「ジオ・コスモス」が浮かぶ。フロアではほとんどの観客が体育座りをし、あるものは床に寝そべって彼の抽象的な音に聴き入った。クラブ系の音楽イベントで、座って聞くという光景はなかなかないが、そんな体験ができるのもこの<MUTEK>ならでは。皆が座る中、数人が立ってふらふらと体を揺らして音を体に取り込んでいる姿もあり、浮遊感たっぷりの宇宙空間ができあがっていた。

22時から1階企画展示ゾーンで始まるパフォーマンスを、早めに入って待つ。今日の目玉ともいえるジェフ・ミルズとマイク・バンクスによる「X-102」を目当てに、早い時間から多くの観客が待っていた。またしてもこのフロアでは、多くの人が座って待っていた。しかし、暗転し音が流れはじめると、観客はずばばばっと一斉に立ち上がり前方に集まった。



私たちの目の前には、大きなスクリーン。そこにはテクノらしい抽象的なヴィジュアルが映されているが、スクリーンは非常に薄い素材で、その後ろでパフォーマンスをする二人が見える。まるで、アーティストと映像が同じ空間内にあるような、不思議なセットだった。音楽機材を挟んで向き合う二人は、パフォーマンスを披露しているというよりも、「創作」の世界にのめり込む共同作業者のようにも見え、その愚直さにファンはますますやられた。

ミニマル、ループ、宇宙的な要素のメロディ。浮遊感のある音のときは、みなうっとりと体を揺らし、そこから突然強い四つ打ちをかまされると、オーディエンスは歓声をあげた。私たちの期待をすべて埋めてくれる、多彩なパフォーマンスだった。




名残惜しくも音が抜かれていき、パフォーマンスを終えると、私たちと彼らを隔たっていたスクリーンが下に降り、彼らの姿を直接拝むことができた。鳴り止まない拍手に応えて、彼らは計3回も日本人風の深くて厳かなお辞儀をしたので、先程までの攻撃的でテクニカルな演奏とのギャップある姿に、私たちは笑い、萌えた。

「最新の技術」と「電子音楽」、「アート」というのは、なぜだか親和性が高い。技術のトップと音楽のトップが融合したデジタルアート&電子音楽の祭典は、私たちが愛してやまない「音楽」の未来を見せてくれた。

取材・文:MORISAMA
(C)MUTEK Japan / Photo by Miho Yoshida, Ryu Kasai, Shigeo Gomi, Yu Takahashi

<MUTEK.JP 2018>

2018年11月1日(木)〜11月4日(日) 東京都内4会場
▼会場/開催時間
11月1日(木) WWW
開場18:00/開演19:00/閉演22:30

11月2日(金)〜11月4日(日)日本科学未来館
[Day Time] 開場・開演 11:00/閉演17:00
[Night Time] 開場17:30/・開演 18:00/閉演 23:00

11月2日(金)WWW / WWW X
開場・開演23:00/閉演5:00(オールナイトイベント)

11月3日(土)UNIT
開場・開演23:00/閉演6:00(オールナイトイベント)

▼チケット料金
・先行3日全会場通し券:20,000円
(11月2日〜4日 日本科学未来館、11月2日 WWW / WWW X、11月3日 UNIT)

・先行3日全会場通しハコスコ同梱MUTEKパスポート:23,000円
(「MUTEK.JP 2018オリジナルVRゴーグル」と「LIVEコンテンツ」が含まれます)

・11月2日、3日、4日 各1日券 @ 日本科学未来館
前売料金:6,500円 当日料金:8,000円
※Day Timeのコンテンツは無料(但し、 申込み制)。 日本科学未来館 常設展、 ドームシアターは別料金

・11月1日 @ WWW <A/ VISIONS 1>
前売料金:3,500円 当日料金:4,000円

・11月2日 @ WWW & WWW X <Nocturne 2 / MUTEK.JP × Resident Advisor>
前売料金:3,500円 当日料金:4,000円

・11月3日 @ UNIT <Nocturne 4>
前売料金:3,500円 当日料金:4,000円

入場券のほか、一部コンテンツについては、別途整理券が必要となります。
整理券事前発行については、別途購入者の方へ通知が行なわれます。

・15歳以下は保護者同伴の上、無料にてご入場いただけます。但し、未就学児の入場不可(日本科学未来館)
・15歳以下は日本科学未来館のスタンディングエリアにはご入場いただけません。
・オールナイト公演にご入場の際は写真付き身分証明書の確認が必須となります。(WWW / WWW X / UNIT)
・オールナイト公演については、東京都青少年の健全な育成に関する条例に基づき、保護者の同伴があってもご入場いただけません。(WWW / WWW X / UNIT)

チケット取り扱い:イープラス、Zaiko、チケットぴあ、Peatix、Resident Advisor
https://mutek.jp/tickets/

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