【ライブレポート】ディム・ボルギル「お前ら、ノルウェー・ブラック・メタルに飢えているか?」
ノルウェーの誇るシンフォニック・ブラック・メタル・バンド、ディム・ボルギルが2018年10月に来日公演を行った。
◆ディム・ボルギル画像
現代エクストリーム・メタル界で揺るがぬ人気を誇り、母国ノルウェーやヨーロッパ諸国ではナショナル・チャート上位の常連である彼らだが、日本でも熱狂的なマニア層から支持を得ており、約7年ぶりとなる来日公演の会場は開演前から異様な熱気に包まれていた。
まずステージに上がったのはゲストとして出演するSIGHだ。「Purgatorium」「The Transfiguration Fear」から畳みかけるステージは、情け容赦ないエクストリームさと歌わせるフック、そしてグラン・ギニョールを思わせる怪しさ・面妖さが渾然一体となったものだった。トラディショナルなメタルの方法論を踏襲しながら、ヴォーカル兼キーボード奏者の川嶋未来がフルート、ヴォーカル兼血まみれダンスのDr.Mikannibalがサックスと、“通常の”メタルの楽器構成から逸脱するなど、聴く者の足下を揺さぶり平衡感覚を奪う。会場内の磁場が破綻をきたしたところで、観衆はヘッドライナーの登場を待つことになった。
ブルータルなメタルと重厚なシンフォニック・サウンドを両輪にして、聴覚を苛んできたディム・ボルギル。最新作『イオニアン』では幾重ものストリングス・サンプルとクワイア、そして「カウンシル・オブ・ウルヴス・アンド・スネイクス」ではシャーマン・ヴォイスを加えるなどして壮大なスケール感を生み出していた。アルバムの世界観をライヴでどこまで再現し、どこまでアレンジを加えるか?...という期待と不安があったが、バンドは1曲目、「ジ・アンヴェイリング」から“生”のアグレッションを重視した轟音の塊で急襲をかけてきた。
サンプリングを随所で用いながらも、主役はあくまでバンドの肉体的なパフォーマンスだ。『イオニアン』からは「ジ・アンヴェイリング」に加えて「インターディメンショナル・サミット」「アイ・アム・ソブリン」「カウンシル・オブ・ウルヴス・アンド・スネイクス」「アーケイック・コレスポンデンス」と5曲が披露されたが、いずれも暴虐色が大幅にアップしたヴァージョンへと魔界転生を果たしていた。
そんなサウンドの激化は、観衆にとっても望むところだ。彼らの「ボル・ギル!ボル・ギル!」という歓声はまるで密教儀式の詠唱のように、曲を経るごとに熱を帯びていく。前回の来日時にはこのコールは「ボ・ガー!ボ・ガー!」というものだったが、バンドの日本語表記が“ディム・ボガー”から“ディム・ボルギル”になったことで、より邪悪な響きを伴うことになった。
『イン・ソルテ・ディアボリ~魔界選歌』(2007)からの「ザ・チョウズン・レガシー」「ザ・サーペンタイン・オファーリング」、前作『アブラハダブラ』(2010)からの「ゲイトウェイズ」などを挟みながら、『イオニアン』からの楽曲が半数以上を占めていたライヴ本編のラストを飾ったのは「ピューリタニア」だ。『魔界大憲章 Puritanical Euphoric Misanthropia』(2001)からのディム・ボルギル・クラシックであるこの曲は2001年の初来日公演でもプレイされており、怒号にも似た声援で迎えられた。
シレノスが弾き毟るトレモロ・ギター・リフや10年来の準正式ドラマー、ダレイのブラスト・ビートを随所にフィーチュアするなど、常にブラック・メタルの要素を色濃く窺わせてきたディム・ボルギルだが、近年は必ずしも単一のサブジャンルに押し込まれることをよしとしない発言もしてきた。それでもヴォーカリストのシャグラットはアンコールで戻ってくると「お前ら、ノルウェー・ブラック・メタルに飢えているか?」と観衆に問いただす。その返事はカタカナで当てはめてみると「ヴァオオオオッ!」に近いものであり、それに白塗りコープスペイントの向こうでニヤリとしたシャグラットは怒濤の「インドクトリネイション」へと会場を導いていった。
シンフォニック・ブラック・メタル最高峰のひとつ「プロジェニーズ・オブ・ザ・グレイト・アポカリプス」、そして「モーニング・パレス」で、激しく醜く、それでいて美しい狂宴は幕を閉じた。“ディム・ボルギル=闇の砦”から吐き出される観客たちは、激烈なシンフォニック・ブラック・メタルに魂を抜かれて魔の法悦境を彷徨うばかりだった。
文:山崎智之
写真:Takumi Nakajima
<DIMMU BORGIR / SIGH 2018年10月25日(木)@東京・恵比寿リキッドルーム>
2.Interdimensional Summit
3.The Chosen Legacy
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7.Council of Wolves and Snakes
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10.Indoctrination
11.Progenies of the Great Apocalypse
12.Mourning Palace