【ライブレポート】上杉昇、単なるシンガーという存在を超え、表現者そのものへ

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アルバム『The Mortal』リリースにともなう東名阪ツアー<上杉昇 ELECTRIC TOUR 2018 The Mortal>の初日公演が、11月11日に渋谷club asiaで行われた。

◆上杉昇画像

2018年の上杉昇は、これまでになく精力的に活動している。年明けには、2017年末に上梓した自伝本BOXを携えてのトークライブを東京・大阪で、6月には新作EPの試聴会を兼ねたトークライブを仙台・名古屋・博多で行ない、続く7~9月には全6本のアコースティックツアーを敢行。10月にはフリーライブや、自身のバンド“猫騙”が主宰するライブイベントもあったし、さらに何度か中国を訪れ、テレビ番組出演やコンサート出演も。そして、10月には実に12年ぶりとなるソロ・アルバム『The Mortal』をリリースし、そのタイミングにはラジオ番組に出演したり、各種媒体の取材を受けるなど、積極的にプロモーション活動も行っていた。2002年からソロとなった上杉の活動スタンスはいたってマイペースだったが、2018年に入ってからの上杉の活動は、長年彼を追いかけてきたファンにとっては信じられないくらい活発なものだろう。

なぜ2018年の上杉はこんなに精力的に動いているのか。それは、彼の中に強烈に伝えたい思いがあるからに他ならない。現代社会への不安感や危惧をおぼえた事を発端に、それならば戦時下の日本人にとっては何が幸せで何が大事だったのだろうと考え続けた彼は、未来の(今の)日本のために命をも捧げてくれた先人たちへのリスペクトや感謝の念へと思い至る。アルバム『The Mortal』にはそんな情景や心のドラマを描いた楽曲たちが詰まっているが、それにともなう今回のツアーは、アルバムの世界観を追体験させられるかのような濃密なものとなった。ドラム、ギター、キーボードの生楽器に加え、マニピュレーターによる音源プレイとVJによる映像投影。それらと共に展開される上杉のボーカルは非常に雄弁で、単なるシンガーという存在を超え、まさに表現者そのものであった。よく「アルバムの世界観を再現」という言い方を耳にするが、この日のライブは“再現”だけにはとどまらず、演者の動きや表情、映像などの視覚的な要素も相まって、「アルバムの世界観を体感」する空間となった。

アルバム『The Mortal』と同じ楽曲がオープニングSEとして流れ、ステージ上方のスクリーンに赤いヒガンバナの映像が映し出される中、メンバーに続いて上杉が登場した。おなじみのソフト帽にメガネ。そしてヨーロッパの軍人を彷彿させるコートとネクタイ。まっすぐオーディエンスに向き合うと、片手を上げて敬礼し、ライブの始まりを表現した。選曲はもちろんアルバムからの曲が中心だ。「赤い花咲く頃には」は、水中で空気がはじけるポコポコッという音と、海底と計器メーターの映像の効果で、まるで自分が海底深く閉じ込められているような気分の中、上杉が歌い始める。諦念と理性によって感情を封じ込めたかのごとく淡々と歌う部分と、押さえ込んだはずの感情がふとほとばしる瞬間とのバランスが絶妙で、鳥肌モノの緊張感だ。また、楽曲「The Mortal」では、次々と撃墜され火の玉となって落ちていくゼロ戦の映像をバックに、特攻隊員として出陣する者の運命と覚悟が歌われる。彼らのなんと潔く、そして儚い魂だったことか。時代に翻弄された若者たちの心の内を思うと、こちらも胸が締め付けられる。また「Survivor's Guilt」では、渋谷のスクランブル交差点を行き交う若者の映像の上に、匍匐前進したり銃を撃ったりする兵士たちの映像が重なる。現代に生きている人間と、戦時中に生きた人間。同じ日本人なのに、置かれた状況はこんなに違うということが一目瞭然で、だからこそ上杉のボーカルも圧倒的な説得力を持って胸に迫ってくるのである。


太平洋戦争下の日本人をモチーフとした楽曲がメインの本編前半が終わると、数分のインターバル。インスト曲をSE的にはさんで、後半はアルバムの中でも現代社会の問題を歌った曲を中心に。「Ativan」は、静かなピアノと夢の中から響いてくるようなエフェクトのかかった歌声で始まる楽曲だが、徐々にテンションを上げていき、間奏後に緊張の糸がぷつんと切れるかの如く激情が放たれる。そのコントラストの鮮やかさには目も耳も釘付けだ。そして「ここからは鬼のような曲が続きます。できることなら一緒に歌ってもらえると嬉しいです」と上杉がMCで話すと、会場からは歓声があがり、アップテンポの曲を連続で。アレンジはCDよりもさらに攻撃性を増しており、4つ打ちビートでダンサブルになった楽曲では観客が体を揺らし、クールな打ち込みのベースラインと有機的なバンドサウンドとの絡みがカッコいい楽曲もある。ロックバンドの生身なパワー感と、インダストリアル系の刺激的なノイズが融合して互いの良さを引き立て合っている感じ。やはり、上杉のロックボーカリストとしてのポテンシャルは素晴らしく、ハイトーンの歌声もロングトーンのシャウトも安定の力強さ。デビューから26年を経てもなお、声の線は細くなっていないし音域的にも全く衰え知らずで、そこにも驚かされた。透明感のある繊細な声質もキープしつつ、しかもタフな喉。全くもって天性のボーカリストなのである。

そして「この曲は、いつか広く多くの人たちにわかってもらえる曲ではないかと個人的に思っています。誰かがカバーしてくれるとかでもいいんですけど、何かきっかけがあればいつかわかってもらえる曲だと思います」と曲を紹介して本編ラストの楽曲を。映像をバックに、リリカルでメロウな演奏がスタートする。遠い昔に失ったものへの思いを歌ったこの曲は、愛しい記憶を慈しむような優しさにあふれている。その魂を解き放って…、ずっと変わらないでいて…。そんなピュアな願いが素直に綴られた楽曲だ。この曲ほか数曲ではギタリストの平田崇が弓でエレキギターを奏で、まるでチェロのような深みのある音で演奏全体を包み込む。バンドメンバーによるコーラスも豊かで美しい。そんな暖かいサウンドにのせて歌われる上杉の、澄んだボーカルがじっくりと心にしみこんでくるようだった。

そしてアンコール。上杉いわく「23年ぶりに歌うかもしれない」というあの曲が、2018年の今この場所で封印を解かれたのだが、これからツアーへ参加する方のために曲名は記さずにおく。イントロのドラム数拍だけで場内に大歓声が沸き起こり、たぶん99%の人たちが大合唱したであろう曲だった。

この<ELECTRICK TOUR>が終了した後には、近年恒例となっている弦カルテットをバックに歌うライブ<black sunshine>が12月14日に東京・日本橋三井ホールで予定されている。アコースティックツアー、エレクトリックツアーと新しい表現形態にチャレンジしてきた上杉が、弦カルテットライブではどのようなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。気が早いと言われるかもしれないが、エレクトリックツアー初日の手応えがあまりに凄かったので、早くもそれを楽しみに感じている。

撮影:朝岡英輔
取材・文:舟見佳子

<上杉昇ELECTRIC TOUR 2018 The Mortal>

11月16日(金)
@愛知・名古屋SPADE BOX
OPEN19:30 / START20:00
11月30日(金)
@大阪・南堀江knave
OPEN19:30 / START20:00
ADV 5,000Yen / DOOR 5,500Yen チケット発売中

<弦カルテットとピアノ、アコースティックギターによる公演 SHOW WESUGI STRING QUARTET LIVE『black sunshine』2018>

12月14日(金)
@東京・日本橋三井ホール
OPEN18:00 / START 19:00
ADV 8,000Yen / DOOR 8,500Yen チケット発売中

◆上杉昇オフィシャルサイト
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