【インタビュー】岸田教団&THE明星ロケッツ、“尖り”や“はみ出し感”を継承し新たな魅力が散りばめられた4thアルバム『REBOOT』

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岸田教団&THE明星ロケッツが、4thアルバム『REBOOT』を完成させた。“REBOOT=再起動”というタイトルにふさわしく、同作は彼らならではの“尖り”や“はみ出し感”を継承したうえで、新たな魅力が随所に散りばめられていることが印象的。楽曲やアレンジ、メンバーそれぞれのプレイ、サウンドといったあらゆる面がより洗練されることで、非常にクオリティーの高い一作に仕上がっている。始動から10年を超えて今なお進化し続ける岸田教団&THE明星ロケッツの意欲には圧倒されずにいられない。

■『バットマン』みたいに全く違うモダンなストーリーを作るのが正しい
■今回のアルバムは本当の意味でのREBOOTができたんじゃないかな


――新しいアルバムを作るにあたって、テーマやコンセプトなどはありましたか?

岸田:今回のコンセプトはほぼ全部僕が考えたんですけど、最初に“REBOOTしよう”という気持ちになって、アルバムのタイトルも“REBOOT”にしようと決めました。それが、今年の7月くらいだったかな。夏は仕事をしないで遊ぼうと思ってフワフワしていたんですけど、そういう中でも音楽のことを忘れることはないので、ついつい思いついてしまった、悲しいことに(笑)。それで、フワフワするのはやめて、曲作りに取りかかりました。

――ミュージシャンの悲しい性といえますね(笑)。バンドをREBOOTしようと思ったのは、思うところがあったのでしょうか?

岸田:世の中の流れを見ていて、岸田教団&THE明星ロケッツをその流れに合わせるには、もはやREBOOTするしかないと思ったんです。『スパイダーマン』や『バットマン』もREBOOTしているし、『スパイダーマン』に至っては2回もREBOOTしていますよね。なんでもかんでもREBOOTしてしまえば、なんとかなるんだなと思って(笑)。ただ、映画に限らず、アーティストでもREBOOTを謳う人は多いけど、REBOOTという言葉そのものに対して本当に真摯に向き合っている人は意外といないんですよね。目先を変えるだけだったり、全く違うものになっていたりすることが多い。REBOOTをいかに本当に実行するかを考えたら、『バットマン』みたいに登場人物は同じままで、今までとは全く違うモダンなストーリーを作るというのが正しいと思うんです。今回のアルバムはそういうイメージで作ったので、本当の意味でのREBOOTができたんじゃないかなと思います。

――ichigoさんは、アルバムのコンセプトを聞いて、どんなことを思われましたか?

ichigo:最初に聞いたときは……タイトル通りのアルバムになりつつあるなと思いました。私は制作の途中くらいまで、そういうコンセプトだと知らなかったんです。

――えっ、そうなんですか?

ichigo:はい(笑)。

岸田:みんなにタイトルを教えたのは、たぶんコンセプトどおりに行けると思ってからだったんです(笑)。制作に入る前に、今回のアルバムはハリウッド映画のREBOOT感というイメージを持っているということは伝えていたけど、曲を作り始めて、レコーディングが始まって、REBOOTというタイトルで説得力のあるアルバムにできるだろうと思った瞬間に「今回のアルバムは『REBOOT』にします」と言いました(笑)。

ichigo:だから、制作が結構進んでから聞いたんです。でも、聞いて“なるほど、REBOOTね”と思いました。前作の『LIVE YOUR LIFE』は“この世界を生き抜いていく”というアルバムで、特に打ち合わせはしなかったけど、そういう歌詞が自然と集まったんですよ。今回もREBOOTというタイトルを踏まえて、だったらこういうことを書こうと考えたわけじゃなかったのに、そこに沿うようなものを不思議と書いていたんです。だから、コンセプトを聞いたときに違和感はなかったですね。あとは、『REBOOT』というアルバムにするならヴィジュアルも『hack/SLASH』(2014.12.24)のキャラクターを使おうという提案を私がして、それが採用になりました。


――バンド全体として、また新しいところに行きたい、もう一つ上に行きたいという空気に自然となっていたことがわかります。では、アルバムに向けて曲を作っていく中で、指針になった曲などはありましたか?

岸田:今回のアルバムの曲順はほぼ時系列に沿っていて、1曲目の「Decide the essence」が一番最初にできたんです。正確にいえば、「Blood and Emotions」(アニメ『ストライク・ザ・ブラッドIII』の主題歌)はアニメに合わせて作ったから先でしたけど、REBOOTということを意識して最初に作ったのは「Decide the essence」だった。この曲は新しいものにするために、今までとは全く違ったアレンジにしようとを考えていました。今の世の中はロックバンドですらダンス・ミュージックの流れを、ある程度踏まえたうえでのロックンロールという方向にシフトしてきていますよね。その辺を採り入れつつも自分達らしさを失わないためにはどうするかというのがあって。全く違うものに変わってしまったら、それは自分達の本質がブレているということ。変えてしまうのはREBOOTではないんですよね。変えないからREBOOTなんです。だから、今までにないものであると同時に、今までどおりでもあるという音楽を創りたかった。「Decide the essence」は、そのバランスを考えながら作りました。

ichigo:実際「Decide the essence」は、イントロの1音目から“あれっ?”と思うものになっていますよね。この曲はできたのが早かったし、歌を録ったのも制作の早い時期だったんです。確かそうだったよね?

岸田:うん、2曲目くらいだったと思う。

ichigo:だから、私の中で実質的にアルバム作りに入る導入の曲だったんですよ。今回はhayapi(G)に歌のディレクションをしてもらったので、hayapiと歌詞のことなどをしっかり話しあって、プリプロも結構してから録りに臨んだんです。1回歌って、hayapiとこうだねと決めてから本番だったので、テイク自体はそんなに重ねずに済みました。あとは、この曲は英語が多いんですよね。もちろん私はネイティブみたいに喋ったり、歌ったりすることはできないけど、ジャパニーズ英語の嫌な部分はなるべく出したくないと思って。だから、わざとらしくなく、なるべく自然に歌えるように、英語の発音とかは結構気にしたし、アクセントもなるべく正しくすることを意識しました。それが難しかったです。

――歌のディレクションなどでも新しいやり方を導入されたんですね。「Decide the essence」はアティチュード的には力強くないのに、“今この瞬間に立ち上がれ。大事なことだけ守り通せばいい”という強いメッセージを込めている歌詞も印象的です。

岸田:そう、“芯だけはしっかりしろ”といっている歌詞だと言っても過言ではない内容です(笑)。芯以外はいいけど、芯だけはちゃんとしろと。この曲ができたときに、僕はこれがアルバムの本質を決める曲だと思って、そのイメージをそのまま書いたのが「Decide the essence」の歌詞です。

――タイアップ曲のときとは一味違って、内面にあるメッセージをダイレクトに書いた曲が聴けることもアルバムの魅力といえます。今作で岸田さんが書かれた歌詞を読んで、あらためてシャイボーイなんだなと感じましたよ。

岸田:そうですか?

――内面は熱いのに、それをオブラートに包もうとしたり、クールさを装ったりしている歌詞が多いですよね。

岸田:僕は、中2病患者なので(笑)。中2病患者は、そういうのを表に出さないのがカッコいいと思っているんですよ。だから普段は表に出さなくて、歌詞を書くときだけ出てくる。それに、自分が思っていることを押しつけるような歌詞にはしたくないというのはありますね。今回、歌詞は結構いい感じで書けたと思います。

――人柄がうかがえて楽しめました。アルバムの指針になった「Decide the essence」がありつつ、それぞれ特に思い入れの深い曲などもあげていただけますか。

岸田:僕はアルバムの最後に入っている「Code:Thinker」です。これは作詞/作曲ともに、かなりがんばりました。今回の新曲の中では一番最後くらいに作った曲で、今回の制作を総括した曲ともいえますね。まず最初に、シャッフルの曲が作りたいと思ったんです。自分達のバンドでシャッフルの曲はやったことがなくて、今までにないものというところでリズムの感じから思いついた。で、最初はもっと明るいメロディーだったけど、アレンジに合わせるなら、このメロディーじゃダメだなと思って何度も書き直して、最終的に降ってきたのが今のメロディーでした。この曲は今までの自分が全く書かなかった、マイナー調のメロディーが中心になっています。

――「Code:Thinker」の冷たい世界観は今までの岸田教団&THE明星ロケッツにはなかったもので、完全に新境地ですね。

岸田:そう。深海のイメージというか、“燃える氷”という感じですね。歌詞も“リア充にはわからない、こういう暗い世界もあるんだよ”ということを描いています。

――とはいえ、大きなテーマとしては“無数の人の人生が折り重なることで、人類は進化していく”ということを歌っています。

岸田:哲学的な歌詞ですよね。僕的には哲学にしても科学にしても、なんでもそうですけど、人の社会というものに対して自分が感じている愛情というものが全部そこに入っています。だから、全肯定です。人類肯定ソング。

――その結果、冷たい世界観でいながら陰鬱なものではないという独自のものになっています。

岸田:それは、アレンジでも活かしました。歌だけを熱くすることで、その対比でより響くものになると思って。この曲は静かな世界から始まるけど、そこでも歌だけは熱くて、だんだん周りがそれに着いてくるという形になっている。そういうある種の“ジャンヌ・ダルク感”というか、物事を誰かが先導して、みんなが着いてくる、それを誰かが次いで…ということを繰り返して、ずっとつながっていくということを表現したかったんです。同じように、僕が死んだ後も誰かが次いでくれるというイメージもありましたね。自分は最後に音を残して終わるという。そういう曲です。

ichigo:この曲は絶望もあって、希望もあって、情熱的だけど、慈愛もあるような曲だという印象を受けたんです。慈愛みたいなものは私の中にはあまりないですけど、母性に近いものはあると思って(笑)。この曲で表現すべきは母性といっても優しいだけの母性ではなくて、強い感じも必要なんですよね。メス・ライオン的というか。

岸田:我が子を崖から突き落とすヤツ?(笑)

ichigo:そうそう(笑)。

岸田:崖から這い上がってきたヤツだけを、お前は育てる価値があるといって育てるという。それって母性かな?(笑)

ichigo:わかんない(笑)。わからないけど、「Code:Thinker」はそういう厳しさと、愛みたいなものと全部を表現しないといけなくて。とはいえ自分の中に湧いてくるものでしか歌えないから、歌えて良かったなという印象です。今のところ、私の中に母性が本当にあるのかどうかはまだわからないけど、この曲を歌って、もしかしたらあるかもしれないなと思いました(笑)。

岸田:ある……んじゃないですか(笑)。とにかく、この曲の歌は、本当に難しかったと思いますね。

ichigo:難しかった。でも、何回も歌えないことはわかっていたんですよ、サビの強さとかを考えると。なので、珍しくこの曲を歌う前は緊張しましたね。3テイクくらいで決めなきゃいけないと思っていたので。それに、この曲を歌うにあたって、リズムの解釈の練習もすごくしました。私はシャッフルがよくわからなかったんです。“3連でもなく、シャッフル?”ってずっと考えていて。そうしたら、hayapiがシャッフルの成り立ちの話をしてくれたんです。黒人の歩くリズムが元になっているんだよと。それを聞いて、なるほどとわかった。誰が教えてくれてもわからなかったけど、ルーツの話をきいたら“わかった!”ってなったという(笑)。

――「Code:Thinker」のブラック・ミュージックに通じるエモーションを纏ったボーカルは、本当に聴き応えがあります。ichigoさんの中で特に印象の強い曲もあげていただけますか。

ichigo:どれも好きですけど、印象が強いということでは自分で書いた「3 seconds rule」かな。この曲はアップテンポで、アッパー。でも、元々はバラードをイメージして作ったんです。

岸田:ichigoさんが持ってきたデモはピアノとボーカルだけで、結婚式で流れそうなバラードでした。“ええ曲やなぁ”という感じだったけど、残念なことに僕が目指していたアルバムの方向性には完全にそぐわなかった。なので、なんとかフィットする方法はないかと考えたんです。

ichigo:それでテンポが速くなったんですよ。そうなるとメロディーも変えようということになって、Aメロ、Bメロはそのままだけど、サビはバックが“ダッダッダッダン!”になったので、それにアクセントを合わせたメロディーに変えました。結果、LA感のあるサビになったなと思います。歌詞も最初はもうちょっと大人っぽい女の子の歌詞だったんですけど、テンポが速くなったので子供っぽくなって。さらに男の子になって、最終的には“3秒ルールで取り消そう”と言っちゃうという(笑)。「やっぱ、なし! 今の話なかったことにしましょう!」みたいな(笑)。

岸田:こいつ相当ヘタレだよね(笑)。

ichigo:めっちゃヘタレでしょう(笑)。でもね、折れないために自分の中でなかったことにするのは大事かなと思って。フラれても、それはなかったことにして、“いいや、次にいこう”と思えるメンタルであってほしいなと。ここまで明るくて、あっけらかんとしている歌詞というのは、人は書かないと思うんですよ。なので、そういう方向で行くことにしました。それに、ライブのときにみんなと一緒に歌いたくて、合唱も入れました。歌詞の内容が内容だから、あまり感動的な合唱にはならないと思いますけど(笑)。この曲はライブでも楽しくやれるんじゃないかなと思います。

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