【ライブレポート】沖ちづると蠣崎未来、<DECEMBER'S CHILDREN EXTRA>で“1人ぼっちと2人ぼっち”

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2018年12月15日、六本木Varit.。クリスマスを間近に控えた土曜日の夜に2人の女性シンガーソングライターが出演するイベント<DECEMBER'S CHILDREN EXTRA>が開催された。この夜、歌声を聞かせたのは沖ちづると蠣崎未来。天性の声と巧みな物語描写で、他にない存在感を放つ2人だ。本イベントはただのツーマンではなく、同じメンバーによるバンドセットでの演奏、2人によるセッションも披露。“ささやかなれど、何か大事なこと”が詰まった競演となった。その模様をレポートしたい。

◆沖ちづる×蠣崎未来 画像

まず、第1部は蠣崎未来の弾き語りから。黒いワンピースを着た蠣崎未来が現れ、椅子に座り、アコースティックギターを爪弾く。どこか懐かしい、と言うべきか、歌い継がれてきた人生のブルース、“アンタとアタシのブルース”の情感をたたえた歌いっぷりからは、いつも只者でなないオーラが漂っている。



オープニングの「ペーパームーン」では、ままならぬ日々にあって見上げた先に浮かぶぼろぼろの月でさえも美しいと言い切れる恋人に、主人公は“あなたには魔法があるからさ”と、2人だけの幸せをつぶやく。このように、蠣崎未来の歌には“2人ぼっち”の慈しみと愛情があふれている。そして、今を乗り越える“2人の力”を信じる力が満ちている。だから、うまくいっているとは言えない日々ながら、描かれる2人はうまくいっている。そんな居心地のよさ、信頼感がある。

ステージに目を向けると蠣崎未来は飲みじょうごで笑いじょうご。ビールを美味しそうに飲んで、フレンドリーにお客に話しかける。飲んで歌うのはどうなのか? そう思う向きもあるだろうが、蠣崎未来がステージに上がるとライブハウス全体が彼女の部屋のようになる。“ここだけは大丈夫”。そんなことを歌い、伝えているように思えてくる。3曲目の「君の声が聞きたい」のサビで“やめにしないか。そんなこと。僕ら出会ったから”と歌う姿を見ていたら、そんな思いが浮かんできた。家々の一つひとつの灯りに人の営み、命を見る「街の灯り」、恋人の腕のなかの安心感をつぶやくように歌う短曲「いったい何を」、“ただ、そこにいるだけのあなた”の大事さを、日々を生きる意味として示す「路傍の唄」を聞いてもその思いはさらに深まる。“2人ぼっち”の強さ、あなたと過ごす日々の風景への慈しみ。それがどれほど大切で、生き抜く力になるのかを歌にして、第1部は終わった。



第2部は沖ちづるが弾き語る。まとうのは白いワンピース。沖ちづるの歌には“1人ぼっち”のあらがいが漂う。ただ一方で、そこにはまだ出会っていないだけの“仲間”や“あなた”との連帯のようなつながりが色濃くにじむ。それは、それぞれの街で、それぞれの職場で、それぞれの教室で、それぞれの眠れぬ夜を越えて朝を迎える部屋で、“そうじゃないんだ”と希望、失望にもだえる一人ひとりの歌と言ってもいい。どうにも大勢に馴染めず、我と周囲を隔てる薄くも確たる膜に敏感に反応してしまうソリチュード(孤独)な魂の震えを、沖ちづるの歌には感じるのだ。

自分を育てるために夢を諦めた父と、僕には夢がないと嘆く友をモチーフに、夢を引き受ける人生の痛みとプライドを歌う「僕は今」。就職が決まりウキウキ気分の“友達のような誰か”との距離感に戸惑う「向こう側」。“調子はどうだい? 僕らは大人になったよ”と中学時代に亡くなった級友に語りかける「クラスメイト」。“どうせ終わるからやめる必要はない”とペシミスティックながらも(だから故に)、タフな生命力を聞かせる「街の灯かり」。笑える明日のために今は負けを認める「負けました」と、ステージは進んだ。繰り返しになるが、いずれの歌にも“ここにも、あそこにもいる1人ぼっち”が“まだ見ぬ仲間”として待っていると信じる思いが根底にあり、それが決して明るくはない歌の物語に差す希望の光となっている。そう思うと沖ちづるの歌は由緒正しい、ある青春の物語と言いたくなる。






ステージはここからバンドセット仕様に。沖ちづるが第2部の最後に歌った「下北沢」のエンディングで、新井愛未(G)、アキカワノ(B)、小杉侑以(Dr)と、沖ちづるに縁のあるミュージシャンを中心としたメンバーがステージに登場。蠣崎未来、沖ちづるともに極私的な世界観をソリッドに見せてきたなか、ここでちょっと風が吹く。まずは沖ちづる、続いて蠣崎未来が、それぞれ3曲ずつバンドサウンドで披露した。






実は、蠣崎未来の“2人ぼっち”と沖ちづるの“1人ぼっち”は実は同義語だと思う。“あなたとわたし”“お前と俺”の歌であり、出会うかどうかは時間の問題。そんな個(孤)がやせ我慢をしてすくっと立つ姿を歌っている。だからなのか、演奏を支えるメンバーが加わることで、ともに照れくさそうな表情が浮かんでいた。ここからは、それまでの緊張感のあるステージから一転。共に演奏する者がいる、という楽しみが無邪気に溢れていた。僕らは孤立無援、四面楚歌ではない。そんなことが頭に浮かんだ。3曲ずつ歌った最後のナンバーはともにカバー。沖ちづるはRCサクセションの「スローバラード」、蠣崎未来はフィッシュマンズの「いかれたbaby」。我々は1人ではない。



本イベントの最後は2人によるセッション。お互いに選んだ歌を一緒に歌った。沖ちづるが選んだのはボブ・ディランの曲を和訳した真心ブラザーズの「マイバックページ」。“僕を怖いと言ってくれた友もどこかへ消えた。ああ、あの頃の僕は今よりも年老いていて、今の僕よりもずっと若いさ”という永遠のメッセージを刻み込んだナンバーだ。片や蠣崎未来のセレクトは浅川マキの「それはスポットライトではない」。薄暗い路地裏で先行き示してくれるかのような光は太陽でも、月明かりでも、ろうそくの火でも、太陽でもない。“あんたの目にいつか輝いていたものさ”と……。そんな曲を選んだ2人のパッションがクリスマス前にふさわしいのかはわからない。ただ、とても暖かい出会いがあった夜に感じた。タイプは違えど、同じ頂上を目指して違う道を歩む2人なのだろう。また数年後、10年後、20年後に沖ちづると蠣崎未来が競演する夜を見たい。

取材・文◎山本貴政
撮影◎YOSHIHITO_SASAKI

■ライブイベント<DECEMBER'S CHILDREN EXTRA>2018年12月15日@六本木Varit.セットリスト

▼第1部
【蠣崎未来 弾き語り】
01. ペーパームーン
02. 君をさがしに
03. 君の声が聞きたい
04. 街の灯り
05. いったい何を
06. 無題
07. 路傍の唄
▼第2部
【沖ちづる 弾き語り】
01. 僕は今
02. わるぐちなんて
03. 向こう側
04. 恋の秋
05. クラスメイト
06. 街の灯かり
07. 下北沢
▼第3部
【沖ちづる バンドセット】
01. 301
02. 負けました
03. スローバラード(カバー)
▼第4部
【蠣崎未来 バンドセット】
01. 君といると
02. 赤い汽笛
03. いかれたbaby(カバー)
【encore セッション】
01. マイバックページ(カバー)
02. それはスポットライトではない(カバー)

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