【インタビュー】さかいゆう、音楽人生のすべてを賭けて実現させたメロディとグルーヴの最高到達点

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とんでもないアルバムが、いま目の前にある。作ったのは、今年デビュー10年を迎える、さかいゆう。参加メンバーは、ジャズ・ギタリストの頂点に位置するジョン・スコフィールド、ソウル界のレジェンドであるレイ・パーカーJr.、ドラマーのジェームス・ギャドソン、日本が誇るトランぺッター黒田卓也、ラッパーのZeebra、サイプレス上野、等々。LA、NY、東京を股にかけ、音楽人生のすべてを賭けて実現させた、さかいゆうのメロディとグルーヴの最高到達点。傑作はいかにして生み出されたか? アドリブ満載、饒舌な言葉のグルーヴをお楽しみあれ。

■日本ポップス史上に燦然と輝く
■無冠の帝王のアルバムです


さかいゆう(以下、さかい):もう100回ぐらい聴いてますもん。自分のアルバムを。初めてですよ、こんなに聴いてるの。

――最高じゃないですか。本当に贅沢なアルバムだと思いますよ。

さかい:日本ポップス史上に燦然と輝く、無冠の帝王のアルバムですよ。無冠なんかい!

――自分で突っ込む(笑)。やっぱりあれですか。デビュー10年ということで、時間もお金もしっかりかけて、贅沢にお祝いしようということですか。

さかい:いや、全然ないです。予算も、普段と変わんないと思いますよ。僕は自分の耳だけを頼りにやってるから、スタジオも高いとか安いとかで選ばないから、安く抑えられるんですね。でもジョンスコ(ジョン・スコフィールド)と一緒にやったのはすごくいいスタジオで、ピアノもスタンウェイで、部屋の響きも完璧でした。そういうところから、1日数万ぐらいのすっごい狭いところも使いましたし。用途に応じてという感じですね。

――今回の録音はLAあり、NYあり、東京あり。

さかい:基本は、やりたい人がいるところに行った感じです。もしもLAじゃなくてシカゴにジェームス・ギャドソンがいたら、シカゴに行ってました。レイ・パーカーJrもちょうどLAにいて、自分の友達のホーン隊もいて、これは全部LAで完結できるなと思って、LAレコーディングにしました。


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――向こうは何日ぐらい?

さかい:LAは6日間ぐらいかな。着いて、次の日からレコーディングを2日やって、丸一日ディレクターと二人でデスバレーに観光に行って。移動日があって、NYは8日ぐらいいて、何セッションかしましたね。自分一人でやるのと、黒田卓也と一緒にやるのと、ジョンスコと一緒にやるのと。ライブも見に行きたくて、いくつか見に行きました。全然有名な人じゃなくて、友達に連れてってもらったライブの、アンダーグラウンドでやってる人たちのレベルの高さを見ましたね。それぞれがそれぞれの感じでやってて、“自分だったら何をやるだろう?”と想像したりして、楽しかったです。

――NYは、馴染みありましたっけ。

さかい:LAには住んだことありますけど、NYは三回目です。すごくいいところですね。自分を高めてくれるし、東京にいると、自分の好きな人は全員知っちゃってるから。NYは未開の地で、東京は愛着の地。だからジャケットも、渋谷のスクランブル交差点と自分の顔にしてるんですよ。

――今や海外でも有名な、東京の象徴。

さかい:僕は田舎者のシティ・ポップですから。田舎者だから冒険できるのかなって思ったりしますけど。平気で海外に行ったり、いきなりピアノ始めたり、無謀なところが、坂本龍馬とかジョン万次郎とかにもあった気がして。“すごいですね、勇気要りますよね”とか人に言われるけど、全然要らないです。その時の好奇心で行ってるだけだから。一歩踏み出そうとか、夢を追いかけろとか、そんな本はたくさんあるけど、読む必要ないです。自分が行きたいところに行って、やりたい人とやるだけだから。そのために協力してくれる人がいて、その人たちを大事にして、それ以外に何があるんだろう?って思いますけどね。

――その点、音楽家っていいですよね。音を出せば会話ができちゃう。

さかい:会話できちゃう。しかも“おまえ、俺のこと好きだろ”って、ジョンスコはわかるから。恥ずかしいですけどね。ハービー・ハンコック、ビル・エヴァンス、ロバート・グラスパー、佐藤博さん、槇原敬之さん、小田和正さんとか、影響を受けた人たちに会うと、恥ずかしいんですよ。自分の中に何%か絶対あるから。それで僕は、理論を覚えてきたんで。曲をコピーすることで。

――ですよね。

さかい:だからジョンスコとセッションした時は面白かったですね。僕の好きなジョンスコの曲を弾いたりして、“おっ、それはあの曲だな”とか。すぐ会話できます。すごいんですよ、彼らの瞬発力と曲の把握能力は。

――特にジャズマンは、とんでもないですよね。

さかい:「桜の闇のシナトラ」って、すごい変な曲だったから。歌ものではないコードだから、どうやって弾いたらいいんだろう?という感じだったんで、“ニューヨークに咲く桜のように弾いてくれ”と言いました。一個、そういう指針があればいいんですよ。それは理論でもいいし、抽象的なイメージでもいい。優れたミュージシャンはそれでわかるから。そしたら、ジョンスコが普段弾かないフレーズが出てきて、和っぽい感じの。

――ああー。確かに。

さかい:それがほしかったんで。ジャズのハーモニーなのに、どこか和を感じる世界観にしたくて、そう言ったんですよ。ばっちり弾いてくれました。すごかった。僕がバン!と弾いたフレーズの2秒後ぐらいに、それを反転させたプレーをしますから。理論的に。ペンタトニックで変な動きをした時に、こっちが下から行くと、向こうは上から同じフレーズをやってみせたり、シャレにならないぐらいに耳がいい。ジョンスコは、世界で一番好きなギタリストです。

――ジェームス・ギャドソンも最高です。「Get it together」のビート、めっちゃシンプルに聴こえるけど、何なんでしょうね。あの説得力。

さかい:あれ、叩けないですよ。やっぱりスペースなんでしょうね。グルーヴの取り方というか。2秒叩いただけで、彼のグルーヴになるんですよ。ビハインドでもなく、ジャストでもなく、でもドライブ感あるし、ジェームス・ギャドソンとしか言いようがない。


――もう80歳とかでしょう。すごい。

さかい:しっかりしてますよ。お爺ちゃんとしゃべってる感じはしないです。日本人のメンタリティが好きらしくて、勤勉なところが、たぶん彼がやってるスタイルと合ってるんじゃないですかね。ファンクって勤勉さが必要で、ジャズみたいに思うままに、右脳を頼りにやればいいというものじゃなくて。ずーっと余計なことをしない。

――ノリ一発に見えて。実は精密な音楽。

さかい:一個向こうに目指すものがあって、そのために必要な音しか出しちゃダメ。ギャドソンは勤勉に、チキタツチキタツって、何十万回もやってきたんでしょうね。これが俺の気持ちいいところだって。彼はずーっとそれと戦ってる。10代でデビューしてるんで、下手したら70年ぐらいドラムを叩いてる。ドンドン!って来るのに、全然力が入ってない。

――その中で、「Brooklyn Sky」でトランペット吹いてる黒田卓也さんは、アメリカのジャズ・シーンに単身飛び込んで、そういう修行をやってきたわけですよね。それこそ、日本人らしく勤勉に。

さかい:卓也はいろんなものを抱えながら、自分より全然うまい人たちの中で、自分を出すことを考えながら、影響も受けながら、かつ彼にしか出せない音を出してますから。彼をジャズマン、トランぺッターととらえるのはちょっと違うなという感じですね。卓也はもう、自分の音を見つけてると思うから、若くして。彼の音、すごいんですよ。感動するんですよ。うまく説明できないんですけど、ソウルに届くんですよね。うまいとか下手じゃなくて、卓也の音が飛んでくるんですよ。

――なるほど。

さかい:それが才能なのかもしれないけど、自分でそうなろうと思わないと、そうならないんで。たぶんあいつ、好きなことだけやるんじゃなくて、やらないことを決めてる。だいたい、それで岐路に立たされるんですよ。それをやったら儲かるとか。でもそれをやんない。自分のブランディングは自分にしか守れないから、それは友達にも言えないし、俺も言わない。これはやって、何でこれはやんないんだろう?というのは、たぶんスタッフにもいちいち言わないと思う。自分の中に基準があるんですよ。

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