【連載レポート】NAOKI SERIZAWAと行く、世界を巡るDJ奮闘記| シンガポール『STAR ISLAND SINGAPORE COUNTDOWN EDITION』編

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あけましておめでとうございます。DJの芹澤直樹(NAOKI SERIZAWA)です。海外ツアーの連載第2回目は、2018年の大晦日にシンガポールで開催された<STAR ISLAND SINGAPORE COUNTDOWN EDITION>についてお届けします。

■まさに戦場!
■ビッグフェスの舞台裏

<STAR ISLAND>といえば、日本の伝統芸能である花火を現代のテクノロジーを駆使してアップデートした新感覚エンターテイメント。夜景が美しい大都会のベイサイドを舞台に、複数のスピーカーから立体的に慣らされる3Dサウンドと煌びやかに夜空を照らすライティングやレーザー。さらにダンサーやパフォーマーが、完全に花火とシンクロしてストーリー仕立てに進行していく。まさに劇場型花火エンターテインメントなのだ。



日本では東京・お台場で過去2回開催され、今回この日本で産まれたエンターテイメントが初めて海外に進出した。しかもシンガポール政府後援のカウントダウンイベントとして、マーラインやマリーナベイサンズで知られる、アジア随一の夜景を誇る摩天楼マリーナベイフロートという絶好の舞台で。僕は、日本からDJとして参加させていただき、カウントダウンに向けて描かれるSTAR ISLAND本編の前の時間を任せていだたいだ。

前日にシンガポール入りした僕は、リハーサルの様子を見させてもらったのだが、そこはまさに戦場のようだった。カウントダウンの時間に目がけて秒単位で進行されるスケジュール。1秒でもズレてはならないというのが絶対条件の中、複雑にパンニングされた3Dサウンドとストーリーに合わせて踊るダンサーや豪快にジャンプを決めるフリースタイル・モトクロス。これにライティングやプロジェクションマッピングに加え、本番では完全アナログな手作業で行われる花火を合わせなくてはならない。ステージとオペレーション・ブースの間でのインカムは鳴り止まず、プロデューサー、演出家、クリエイター、パフォーマー、日本とシンガポールの現地スタッフ全員が神経を張り巡らせた鬼気迫る現場だった。そんな舞台裏を目の当たりにした僕は、その緊張感や難易度の高さから本番がどのようになるのか、期待と不安が入り混じる複雑な心境になったのを覚えてる。



そして大晦日を迎えた。しかし無情にもその日は大雨だった……しかもスコールのようにすぐ通り過ぎる気配もなく、バケツをひっ繰り返したかのような勢いで猛烈に降り続いた。それでも僕が会場入りした頃には、すでに25,000人を超えるオーディエンスでスタジアムは埋め尽くされていた。「この大雨で、花火は大丈夫なのか?」、そんな不安がみんなの頭によぎっていたように思う。それでもショーが始まる2時間前には雨は徐々に弱まり、僕のDJが始まる22時頃には完全に止んだ。大雨が過ぎて夜空はより澄み渡り、マリーナベイの夜景が一層綺麗に見えた。まるであの猛烈な雨が演出だったかのようにすべてがロマンチックに映った。

■本当に新しいタイプの
■劇場型エンターテイメントを見てるよう

そして僕の時間になった。DJブースの前は、かなりの人だかり。踊ってる人や体を揺らしながら話している人、夜景やDJブースを背景に記念撮影してる人、フードコートに並んで待っている人などが入り乱れていた。


今回の選曲は、カウントダウンに向かうお祝いムードということもあり、メジャーコードのディスコやブギー、エディット物を中心にポジティブなイメージで、アップリフティングなテンポの楽曲を多めに用意した。普段プレイするクラブや音楽フェスとは違い、幅広い年齢の人たちがいろんな国から参加しているはずだから、極力大勢の人が一度は聞いたことのあるクラシックやポップスのエディットを多用することにしたのだ。でも、みんなが「あっ、この曲聞いたことある!」っていうフレーズだけど、一度も聞いたことがないであろうレアなエディット盤をたくさん用意した。その為に日本から厳選したレコードを50枚近く持って行ったのだが、それらのリアクションが大変良かったのは嬉しかった。

そして夜景にはジャジーなサウンドがマッチする。マリーナベイの摩天楼を背負って伸びやかに鳴り響くジャジーなサックスの音色は、大都会の夜空を艶やかなムードに包んでくれた。テンションやムードなど、雰囲気作りに徹した今回のDJは、自分的にも納得がいくプレイでした。躍らせる楽しみとはまた違う「空間を演出する音楽を選曲する」という行為。音楽は主役ではなく、あらゆる要素が集まったフェスティバルや演劇などの空間芸術の一部という解釈。

例えばそれは、イビサのサンセットスポットCala ComteでサンセットタイムにDJする感覚と似ていて、美しい夕陽をバックにメランコリックなメロディが心に染みる音楽をかけることで、同じ夕陽を見ていてもその感じ方や見え方、つまりは体験そのものがまったく変わるから。そういった意味で、今回の「カウントダウン」、「マリーナベイ」、「STAR ISLAND」というお題は、DJとしてやりがいがあり、何よりも成長させてもらえる貴重な機会だった。



そして<STAR ISLAND>の本編は始まった。まるで映画のようにストーリー仕立てに進行されるステージでは、3Dサウンドと共に聖闘士星矢に出てくるようなド派手な衣装をまとったコンテンポラリー・ダンサーが華麗に舞う。さらにライティングやレーザーが幻想的に夜空を照らし、時にはファイヤーダンサーやフリースタイル・モトクロスが場外乱闘さながら客席の目の前でパフォーマンスを披露する。

演目が進行すると共にステージの世界観がガラッと変わるのも、素晴らしかった。それは舞台に設置されたオブジェに対してのプロジェクションマッピングによる演出が効いていたように思うが、なんとその映像は、あのケミカルブラザーズやアデルのヴィジュアルを手掛ける“jonny.TV”によるものだった。なるほど、納得のクオリティの高さ。本当に新しいタイプの劇場型エンターテイメントを見てるようだった。



そして、何と言ってもマリーナベイの夜景に豪快に打ち上がる花火は、シンガポールに集まった多種多様の人々の心を奪い、何度も驚きと感動を届けているのが手に掴むようにわかった。カウントダウンを迎える頃には会場のボルテージも最高潮に達し、主演ダンサー演じる女神のドレスが八代亜紀のディナーショーさながら、いやその10倍以上に膨れ上がり、アレやコレやで地上20メートルくらいの高さまで上がり、花火100連発と共にカウントダウン。「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、Happy New Year 2019!!」……<STAR ISLAND>の初の海外進出は、歓喜に包まれたまま大歓声と拍手喝采で幕を閉じた。

多くの人々が<STAR ISLAND>が描く新感覚エンターテイメントに感動し、その歓喜の瞬間を共有して生まれたエネルギーは、言葉では言い表せないくらい多幸感に満ち溢れていました。日本で産まれたコンテンツが、海外であんなにたくさんの人達に、感動的な体験をもたらしたことが、同じ日本人としてとても誇らしかった。そしてこんな一大イベントにDJで参加できたことが本当に光栄だった。

文:NAOKI SERIZAWA

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