【インタビュー】androp、大切な人に伝えたい 映画『九月の恋と出会うまで』の主題歌「Koi」

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■3曲それぞれ質感が違い過ぎて普通のマスタリングができなかった
■ロー感がヤバい。もうそれぞれの曲で全然違うんです


――カップリングの「For you」にいきましょう。この曲は日本郵便『ゆうパック』のタイアップソングです。

内澤:これは、2018年の12月の半ばくらいに作りました。『daily』を作り終えた頃に、『ゆうパック』のタイアップソングという話をいただいたんです。

――休ませてもらえませんねぇ……。

内澤:そうなんですよ(笑)。でも、それは、ありがたいことですから。“えっ? また曲を作ってレコーディング?”みたいな気持ちには全くならなかったです。

――前向きですね。「For you」は作るにあたって、内容的なオーダーなどはありましたか?

内澤:歌詞に“ゆうパック”と“届ける”という言葉を入れてほしいというオーダーが、やんわりとありました。“届ける”ということでは、僕らも歌を届けるというところで重なるところがあったので、そんなに苦にはならなかったです。

――パーソナルな思いを描いていながら、2番で“日曜に宇宙を泳ぐアース 密かに確かに廻り続ける”という壮大な描写が出てきて“おおっ!”と思いました。

内澤:曲を作るにあたって小さい目線と、大きい目線が一緒に入ったものにしようと思ったんです。それで、一番最初にデモを提出するときに、ものすごく小さな目線から大きなところに目線が広がっていく楽曲と、大きな目線から小さなところへという真逆の楽曲2曲を提出したんですけど、結局大きな目線と小さな目線が並行してある歌詞や楽曲性のものにしました。“日曜”というのは、日曜日も郵便局は動いているという意味合いです(笑)。

――楽曲としては生々しい「Koi」とは大きく違って、「For you」は無機質なリズム・セクションとエモーショナルな歌とギターを融合させていることが印象的です。

内澤:曲調的には、最初の段階ではもうちょっとバンド感があったのかな。でも、シンセベースは絶対に使いたいなと思っていたんです。前回BARKSさんに『daily』の取材をしていただいたときに、ちょうど前田君はシンセベースを買ってきていたんですよ(笑)。

前田:そう(笑)。インタビューの合間に空き時間が1時間くらいあったので、楽器屋にシンセを買いにいきました(笑)。

内澤:だから、シンセベースは絶対に使いたいねという話をしていたんです(笑)。

前田:それで、「For you」はシンベを弾きました。僕は生ベースじゃないと嫌だというようなこだわりは一切なくて、この曲も楽しかったです。


▲「Koi」初回限定盤(CD+DVD)


▲「Koi」通常盤(CD)

――「Koi」は“プレベ+フラットワウンド”でいきつつ「For you」はシンベという前田さんの振り幅の広さは圧巻です。

内澤:そうなんですよね。両方が共存しているのは、すごいなと思う。

前田:そう言われれば、そうかな。でも、僕は両方好きなんですよ。なので、自分の中で違和感はないです。

――「For you」はベースがシンセベースですが、ドラムも打ち込みでしょうか?

伊藤:完全に打ち込みです。

――2番だけ生のドラムかなと思いました。

伊藤:そう、2番は生のドラムも入っています。2番は少し質感を変えたいなと思って、生のドラムも入れたんです。というか、よく気づきましたね(笑)。

内澤:本当に(笑)。そうやってEDM的なリズム・セクションにして、有機的なギターとのマッチングを活かすことにしたんです。

佐藤:EDMミュージックの気持ち良さみたいなものがあるので、ギターを弾くというよりも素材を録って、それを組み合わせていくという作り方をしたんです。そのうで、全く同じものを毎回使うんじゃなくて、最後のほうの広がっているサビは若干ニュアンスが違うテイクのものを選んだりしました。


▲佐藤拓也(guitar & keyboard)

――andropは本当に面白いです。「Koi」は一発録りをする一方で、「For you」はそれぞれが細かい作業をされたんですね。

内澤:そう。今回の3曲はそれぞれ質感が全く違い過ぎて、普通のマスタリングができなかったんですよ(笑)。マスタリングというのは曲と曲との差をなくしていく作業だけど、それは無理だという話になって。それで、それぞれの曲を一番いい形に仕上げようということになって、1曲ずつマスタリングしたという(笑)。ロー感がヤバい。もうそれぞれの曲で全然違うよね?

前田:「For you」は、マスタリングのときに衝撃を受けた。50Hz以下のレベルが凄すぎて(笑)。

内澤:androp史上、最高にローが出ているんですよ。それは生ベースでは出ない帯域なので、シンベにしたのは正解だったと思いますね。

――曲ごとの質感が違っていても内澤さんの歌が乗ることで統一感は保たれていますので、正解だったと思います。

内澤:ありがとうございます。「For you」の歌は、これを録ったときも、あまりコンディションが良くなかったんですよね。ライブをして、翌日にドキュメンタリーのリハーサルをして、その次の日にまたライブをして、次の日が歌録りだったので。だから、本当にコンディションが良くなくて、“思い、届け!”という気持ちだけで歌いました。声はもう相当ハスキーになってしまっていて、それが良い方向に作用するといいなと思いながら歌ったことを覚えています。

――「Hikari」『daily』今回の「Koi」と、ここのところずっとコンディションが良くない状態で歌われていませんか?

内澤:そうなんですよ。

――にも拘わらず、歌により磨きがかかっているということは、大きな変化があったことを感じます。

内澤:たしかに、気持ちの立ち向かい方は変わりました。昔だったら、歌える状態ではない、歌いたくないと言ったと思うんですよ。できないと。でも、いろいろ乗り越えてきて、こういうコンディションだから届けられるものがあると思って歌えるようになりました。以前すごく体調が悪くて、声が出ない状態でライブをしたことがあって。そのライブが終わったときに、声が出ない状況だからといって悪いライブとは言えないと思ったんです。そのときのお客さんの反応は熱かったし、会場でCDがよく売れたんですよ。それで、良いライブというのは必ずしも自分のコンディションが良いだけでできるものではなくて、それ以外にも良くなる要因があるんだなということに気づいたんです。もちろんコンディションは良いに越したことはないけど、今までの考え方は間違っていたなと。そういうことを経て、レコーディングするときの立ち向かい方も変わりました。


▲伊藤彬彦(drums)

―キャリアを重ねるとともに、表現者としてどんどん進化/熟成されてきていることがわかります。「Koi」と「For you」に加えて、初回限定盤には「Image Word(solo acoustic ver.)」も収録されています。

内澤:「Image Word」は、僕らの1stミニ・アルバム『anew』(2009.12)に収録されていた曲です。この曲は、僕の中ですごく思い入れが強いんですよ。僕は青森出身で、「Image Word」は“青森から東京に音楽をやりにいくぞ!”という決意を歌った曲で、青森から出ていくときの気持ちだったり、これから東京でやっていけるだろうかという思いを込めて作った曲なので。それを、andropが10周年を迎える今のタイミングで歌うことで、自分がどう変わっているのかを感じたいなと思ったんです。だから『anew』のときはバンド・アレンジだったけど、今回はアコースティック・ギター1本の弾き語りで、自分が素の状態の形で入れることにしました。

――10年前の思いを歌って、どんなことを感じましたか?

内澤:変わった部分はもちろんあるけど、根本的なところは変わっていないなと思いました。当時の僕は自分の周りにいる人達に生かされていて、青森の思いというものに突き動かされて、東京で音楽でがんばろうと思っていた。今もその頃と変わらずに自分達の音楽を聴いてくれる人や関わってくれる人が応援してくれることによって僕らは生かされていて、がんばろうと思って音楽をやっているという根本的なものは変わっていないなと改めて思いました。

――だからこそ10年間続いた部分は大きいと思います。この曲は、ギターも自身で弾かれたのでしょうか?

内澤:弾きました。だから、完全な弾き語りです。それに、この曲はすごく喉の調子がいい状態で歌えました(笑)。本当に、久しぶりでしたね。『daily』を作り終わって、ツアーも終わって、他のいろいろなことも終わって、ある程度落ち着いた時期にレコーディングしたんです。だから、気持ち良く歌えました。


――音楽の神様が、ちゃんと見守ってくれていることを感じます。さて、今回の「Koi」は全くテイストの異なる3曲がパッケージされた注目の一作になりました。『daily』と「Koi」を携えて5月から6月にかけて行うツアーも楽しみです。

前田:前回もライブハウス・ツアーだったんですけど、前回は“アルバム・ツアーではないシリーズ”だったんですね。今回は『daily』と「Koi」のリリース・ツアーということで、聴かせる曲が多くなるというのがあって。だから、前回とはライブハウスならではの熱量だったり、パフォーマンスとしての熱量の種類が違うというか。前回のライブハウス・ツアーはいわゆるロックバンド的な要素が強く出ていたけど、次はじっくり聴かせる面白さを追求したツアーにしたいですね。ここ最近のandropは楽曲の幅が広くて、メンバーそれぞれがいろんな楽器を使ったり、音としてのバリエーションを否が応でもつけないといけない楽曲が沢山あるんですよ。なので、ライブにきてくれた人が純粋に音楽を聴くことを楽しんでもらえるツアーになると思います。

佐藤:前田君とほぼ同じになりますけど、今度は曲を聴かせるツアーになるだろうなというのがあって。誤解を恐れずにいうと、僕はワイワイ盛り上がることだけがライブの醍醐味だとは思っていなくて、そういう良さとは違った魅力に溢れたライブになる予感がしています。僕は音楽体験として楽しいことを提供できるといいなということを常々思っていて、今度のツアーはそういう形のライブをしたいですね。すごく心地好い時間を過ごしてもらえると思うので、期待していてください。

伊藤:僕達は今年10周年イヤーということで、いろいろやっていまして。最近も自分達の歩みを振り返る形で最初に出したアルバムの再現ライブをやったし、フル・アルバムの再現ライブも予定しているんですね。でも、10周年を振り返るだけじゃなくて、最新の『daily』と「Koi」に入れた曲もちゃんと届けたいと思っているんです。一番新しいandropを見せることを今度のツアーでしたいと思っているので、そこを楽しんでもらえればと思います。

内澤:今度のツアーは、楽曲的にはBPMの速い曲とかがあるわけではないけど、音楽的にすごく気持ちのいいものだったり、ノリのいいものだったりを聴いてもらえるライブになると思っています。元々は、この春のツアーというのは、結構無理やりスケジュールを組んでもらったんです。つまり、“10周年で届けたい曲がある”というメンバーの熱い思いが実現させたツアーなんですよ。だから、新曲と一緒に、その熱い思いを届けるツアーにしたいと思っています。

取材・文●村上孝之

リリース情報

「Koi」
2019.02.27 release
初回限定盤(CD+DVD) UPCH-7482 ¥1,800(tax out)
CD
01. Koi
映画『九月の恋と出会うまで』主題歌
02. For you
日本郵便「ゆうパック」タイアップソング
03. Image Word (solo acoustic ver.)
初回限定盤のみ収録
DVD
「For you」Recording Documentary
「anew」Live Rehearsal Documentary
 RADIO androp (special ver.)
通常盤(CD) UPCH-5958 \1,200(tax out)
01. Koi
02. For you

ライブ・イベント情報

<one-man live tour 2019“daily”>
2019.05.15(水) 東京・LIQUIDROOM
2019.05.22(水) 宮城・仙台Darwin
2019.05.24(金) 愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
2019.06.09(日) 大阪・梅田TRAD
2019.06.19(水) 福岡・DRUM Be-1
2019.06.22(土) 東京・代官山UNIT

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