【連載レポート】NAOKI SERIZAWAと行く、世界を巡るDJ奮闘記| バルセロナ『CREW LOVE』編

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世界中のダンスフロアを熱狂させるワールドクラスのトップDJだって、ダンスミュージックカルチャーにその名を刻む伝説的なDJだって、初めは夢見るひとりの名もないDJだったはずだ。

誰もいない小箱のオープニングアクトから短期決戦が求められる超満員のフェスティバルの1時間だけの短いスロット。はたまた、ダンサーたちが一晩踊り明かした後のアフターパーティや自分ひとりだけで一晩中(7〜12時間)プレイするオープンラストのロングセット。時には音楽が主役ではなく、BGMに徹するのが正解のシチュエーションだってある。それぞれ求められる選曲やプレイスタイルが違って、その現場経験を重ねて身につく選曲論やスキルの積み重ねが、その人のDJスタイルを築いていると思う。

どんなワールドクラスの一流のDJたちも“世界に進出するきっかけ”があったはずだ。それは、たった1つのヒット曲かもしれないし、後に語られるような伝説的なギグかもしれない、もしかしたら運命を変えるような出会いの可能性もある。連載3回目の今回は、僕が海外でDJできるようになったきっかけを振り返りたいと思います。

◆ ◆ ◆


2017年の夏、僕は大きなチャンスを掴んだ。それは、NYからハウスミュージックの新たな潮流を産み出すSOUL CLAPとWOLF+LAMBによるレーベルショーケース<CREW LOVE>の5周年アニバーサリーがバルセロナで開催され、その一大イベントにレーベルオーナーである彼らにブッキングされたのだ。しかも世界中からアーティスト、レーベル、オーガナイザー、メディア、クラブなどの音楽関係者が集まる<Sonar>会期中のOFF Sonarという絶好のタイミングで。

SOUL CLAPとWOLF+LAMBについて簡単に説明させていただくと、WOLF+LAMBは、ニコラス・ジャーやSoul Clapを発掘した審美眼を持つアーティスト兼DJ。WOLF+LAMB、CREW LOVE、W+L BLACK、Double Standardのレーベルオーナー。僕の憧れであり、師匠的な存在でもある。



SOUL CLAPは、DJハーヴィーやルイ・ヴェガのリミックスやファンカデリックのジョージ・クリントンやアンプ・フィドラーとのコラボレーションなど、ダンスミュージックシーンで名を刻むレジェンドたちから着目される新世代のハウスDJユニットだ。

僕は彼らの音楽に衝撃を受け、彼らやレーベル所属アーティストを妻と日本でオーガナイズしているパーティ<LiLiTH>のゲストに招聘してきた。初めはファンとして彼らのDJを楽しんでいるひとりだった。しかし、彼らの前座DJを重ね何度も一緒にマジカルにパーティを作っていくうちに、その状況は少しずつ変わってきた。彼らは、次第に自分たちのDJ中に僕をブースに招いてくれるようになり「一緒にB2Bやろうよ!」と誘ってくれた。「世界中のCREW LOVEのアーティストを招聘してるパーティの中で、お前が一番俺たちの音楽を分かってる」と言ってもらったこともあった。音楽で認めてもらえた実感をしたのを覚えてる。その後、SOUL CLAPがホストを務めるバイナルオンリーのラジオ番組「The Lot Radio」へのゲスト出演などを経て、2017年の夏、バルセロナで開催されるレーベルショーケース<CREW LOVE>への出演が決まったのだ。



5周年イベントだけありレーベルアーティストがこぞって出演した。SOUL CLAPとWOLF+LAMBを筆頭にPILLOWTALK、Nick Monaco、The Fitness & Pony、A-ROCK。僕の任されたスロットは、A-ROCKとふたりでオープンから6時間のロングセットだった。海外デビューで、いきなり6時間という焦りはあったが、DJとしての幅広さが見せられたので結果として吉となった。

■ひとつのパーティ出演をきっかけに
■世界への扉が開いた



そして、運命の日を迎えた。会場はバルセロナ郊外のプリマベーラ地区のウォーターフロントに位置するParc Del Forum。著名な建築家が設計した博物館などがある複合施設で、海沿いに面した開放的な空間に幾何学的な柱や屋根が何層にも連なってる近未来的なロケーションだ。ここでは<CREW LOVE>以外でも、ソロモンによる<Diynamic>やジェイミー・ジョーンズの<PARADISE>、DC10の<CIRCOLOCO>などが開催されており、<Sonar>開催中(off at weekと言われる)の名物スポットのひとつとなっている。もちろんそれぞれのパーティで会場のレイアウトやステージデザイン、空間を彩るデコレーションが変わり全く別の世界観になる。

僕が出演した<CREW LOVE>では、DJブースに向日葵(ひまわり)や植物が咲き乱れる緑溢れたカラフルなステージだった。オープニングからの2時間は、ダブやアーバンソウルなどBPM90前後の曲で雰囲気作りに徹底し、燦々と降り注ぐ太陽のもとレイドバックしたゆるいグルーヴで繋いだ。徐々に人が入ってくるにつれてファンク〜ディスコエディット〜ハウスとBPMを上げてフロアを温めていった。4時間が経つ頃には、世界中から集まったCREW LOVEファンたちでフロアはいい感じになっていた。フロアからのリアクションから手応えも感じれ、あっという間に6時間が経過していた(その時のライヴミックスの後半の1時間はこちらから)。



満身創痍で臨んだ6時間を経て、ブースから降りるとひとりのイスラエル人DJのOrioが近づいてきた。「お前のDJは最高だったから、今度、俺がシンガポールでやってるパーティに出演してほしい」と言われ連絡先を交換した。それが、ここ2年連続でゲストとして招いてもらっているシンガポールの人気パーティ<FAT FISH>だった。彼らは<CREW LOVE>アーティスト以外でもルイ・ヴェガやイーライ・エスコバー、ジェイミー3:26などを招聘している。さらにマレーシアでハウスパーティをやってるDJのジョニー・ヴィシャスとも繋がり、一緒にツアーを組んでくれた。これに加え、連載第一回で紹介したタイの<WONDER FRUIT>での「CREW LOVE TAKE OVER」への出演が決まり、アジアツアーが実現したのだ。



その一方で、<CREW LOVE>からリリースを重ねるイタリアのアーティスト、ロウヘッズのNana Duahが、<ELEVA FESTIVAL>へブッキングしてくれた。このフェスティバルで超満員のダンスフロアを爆発させたことで、レッジョエミリアからミラノ、そしてローマへとイタリア主要都市へのツアーに繋がった。

こうして<CREW LOVE>5周年イベントをきっかけにSOUL CLAPとWOLF+LAMBが提唱する音楽性に魅入られた世界中のオーガナイザーやDJに僕の音楽を知ってもらい、各地の<CREW LOVE>系のパーティにブッキングをされるようになったのだ。そして、それから1年後に僕がCREW LOVEからデビュー作「Black Paradise(remix)」をリリースするというストーリーに続くのである。

自分の感覚を信じて、自分が好きな音楽を貫いてきたこと。憧れだったアーティストから認めてもらいチャンスをいただけたこと。そして、そのチャンスを掴めるように、日々のひとつひとつのギグを大切にして積み上げてきたもの。それが結果につながっているように思う。もちろんうまくいかなくて悔しい思いをしたことも多かったが、その失敗も含めての積み重ねが今に帰結してるように感じている。もっともっと活動の場を広げれるように、これからも愛情を注いでいこうと思う。この記事を読んでくれてる皆さんとも、どこかのパーティで同じ空間と時間を共有できたら嬉しい。

文:NAOKI SERIZAWA

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