1975年「ボヘミアン・ラプソディ」誕生時、クイーンのライブは?

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本年度のアカデミー賞において最多となる4冠に輝いた『ボヘミアン・ラプソディ』。この映画とクイーンに対する世の関心は高まるばかりで、冷めていく気配はまるで感じられない。そんななか、WOWOWでは3月にこのバンドの歴史的ライヴ3篇が一挙放映される。前回はそのなかから1986年7月、ロンドンはウェンブリー・スタジアムでのライヴ(3月3日放映)について紹介したが、今回は3月7日に放映される1975年のロンドン公演について、その時代背景などを振り返っておきたい。

この公演は1975年12月24日、ロンドンのハマースミス・オデオン(現在ではイヴェンティム・アポロと名称が変わっている)で開催されたもの。クリスマス・イヴということもあり、ライヴの途中でフレディ・マーキュリーが客席に乾杯を呼びかけるシーンがあったりもするが、それ以上に重要なのは、このライヴが『オペラ座の夜』の発売直後にあたる時期のものだということだろう。

『オペラ座の夜』は1975年11月下旬にリリースされ、クイーンにとって初の全英アルバム・チャート首位獲得作となっている。そしてこの作品が猛スピードでチャートを上昇していく機動力となったのが、同年10月末にこのアルバムからの先行シングルとして発表されていた「ボヘミアン・ラプソディ」だったことは言うまでもない。

クイーンというバンドの特性が約6分間に凝縮されたこの型破りな楽曲が、当初は「こんなに長いとラジオでかけてもらえない」といった理由によりレコード会社側から反発を買っていたこと、それでもバンドは頑として譲らずこの曲をシングルとして世に出すことを望んだことは、多少の脚色が施されているとはいえ、映画のなかでも生々しく描かれている。そして結果、この楽曲は英国のシングル・チャートにおいて9週にわたり首位を独走するほどの記録的大ヒットとなった。レコード会社の戦略ではなく、まさに大衆の支持がこの曲を押し上げたのだ。


1975年11月14日、クイーンはリヴァプールを皮切りに自己3度目となるUKヘッドライン・ツアーを開始している。「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットと並走するように展開するそのツアーの序盤に『オペラ座の夜』がリリースされ、今回放映される12月24日のロンドン公演をもって、同ツアーは終了。その40日間ほどのあいだに彼らは実に英国内だけで26本もの公演を行なっており、たとえばマンチェスターでは1日2公演が実施されていたりもする。また、このツアー最終公演に至る以前に、彼らは11月29日から12月3日にかけ、ロンドンで5夜連続公演を行なっている。そうした密度濃いUKツアーを経てしばらくの休暇を挟んだのち、『オペラ座の夜』に伴うツアーは1976年1月下旬にはアメリカに舞台を移しながら継続され、3月には二度目のジャパン・ツアー(初来日は1975年4月)が実現に至っている。

そうした背景からもわかるように、今回放映されるこのロンドン公演の映像は、まさしく映画『ボヘミアン・ラプソディ』の前半、彼らが成功への階段を急速に駆け上がっていた頃と完全にリンクするものだといえる。彼らが郊外の農場の一軒家のようなスタジオで『オペラ座の夜』の楽曲群を練り上げていたのは、1975年の夏のこと。それから半年も経たないうちに「ボヘミアン・ラプソディ」は世を席巻し、同楽曲がチャートの首位を守っているあいだに、このライヴが行なわれているのだ。当然ながら「ボヘミアン・ラプソディ」がライヴで演奏されたのはこのツアーが初ということになる。それから43年を経て、その楽曲の表題をそのまま掲げた映画が生まれ、これほどまでの支持と共鳴を集めることになったというわけだ。

ライヴ自体の内容についてはとにかく番組を見ていただくとして、ひとつ補足しておきたいのは、このクリスマス・イヴ公演が当時、英国のBBCでのTV放映用に収録されていたという事実だ。映画のなかではメンバーたちが“BBCのやり方”にカチンときた様子も描かれているが、人気番組の枠内での出演は“当て振り”を強要された彼らのライヴ・バンドとしての実力の凄まじさを、のちにBBCは伝えることになったわけである。そして、その際にきちんとした映像収録が行なわれていたからこそ、我々は今、こうして1975年のクリスマス・イヴへのタイムスリップを楽しむことができるのだ。


映像のなかのメンバーたちの姿からは、やけに気合が入っているのがうかがえる。フレディのMCなどをとってもそうだ。ツアーの成功を実感しつつ、その最終公演を自分たち自身でも楽しもうとしながらも、TV収録されている事実を少しばかり意識しながらいくぶんカタくなっていた部分もあったのかもしれない。が、この映像が何よりも雄弁に伝えてくれるのは、やはりクイーンというバンドの実力の高さだ。音源上ではオーヴァーダブを多用しているだけに「どうせライヴでは再現できないんだろう?」といった皮肉っぽい反応も彼らにはつきものだったが、一度でもライヴを観ればそんな的外れな言葉を吐くことはできなくなる。当時、TVの前でそんな感覚を味わった英国人たちも多かったに違いないのだ。

まさにクイーンというバンドの独自性が確立され、それに対する世の認知と評価も一気に高まった1975年末。そんな、クイーンにとってとても大切な時期のライヴ映像に、この機会に是非触れてみて欲しい。

文:増田勇一

『クイーン ライブ・アット・ウェンブリー・スタジアム 1986』

2019年3月3日(日)午後5:30 [WOWOWプライム]
2019年3月7日(木)夜9:10 [WOWOWライブ]
収録日:1986年7月12日
収録場所:イギリス・ロンドン ウェンブリー・スタジアム

『クイーン オデオン座の夜 ~ハマースミス 1975』

2019年3月7日(木)夜8:00 [WOWOWライブ]
収録日:1975年12月24日
収録場所:イギリス・ロンドン ハマースミス・オデオン

『クイーン+アダム・ランバート LIVE from SUMMER SONIC 2014』

2019年3月7日(木)夜10:30 [WOWOWライブ]
収録日:2014年8月17日
収録場所:千葉・QVCマリンフィールド

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