【インタビュー】オーヴァーキル「メタルは世代を超越しうる」
アメリカのベテラン・スラッシャー、オーヴァーキルのキャリアは、もう40年になろうかとしている。シャドウズ・フォールのドラマーであるジェイソン・ビットナー加入後初のアルバムとなる『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』の発売を記念し、ヴォーカルのボビー“ブリッツ"エルズワースに話を聞いてみた。
──ニュー・アルバム『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』はどんな作品になりましたか?
ボビー:新しいケミストリーは、ジェイソン・ビットナーがバンドに加わったことだよ。1年以上一緒にツアーしていたわけだけど、こういうケミストリーが起こるであろうことは、レコーディングに入る前…最初のライヴからわかっていたね。もちろんアルバムはいつものオーヴァーキルだけれど、最高のものにするためには、この変化をうまく利用する必要があるからね。
──今回ミックスはゼウスが手掛けています。前作はアンディ・スニープの手によるものでしたが、今回はアンディはやはり多忙だったということでしょうか。
ボビー:アンディは、みんなが知っている通りジューダス・プリーストで忙しかったからね。ゼウスを選んだのはシンプルな理由だよ。D.D.ヴァーニはソロでゼウスにミックスやってもらったし、ジェイソンもシャドウズ・フォールで彼と一緒にやったことがある。信用できる2人からの推薦だったから、アンディが無理だということになった時に当然ゼウスということになったんだよ。良い選択だったと思う。ドラムがジェイソンになったというケミストリーがあり、プロダクションも多少モダンなものに変わった。一方で、ドラムはもっとオーガニックなサウンドになったけどね。
──アルバム・タイトルの『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』というのは、現在の世界情勢を鑑みてのものでしょうか。
ボビー:いや、そうじゃないんだ。画家が絵が出来上がった後にタイトルを考えたようなものだよ。俺たちも、アートワークをそういう見方をするのが好きなんだ。今回のアートワークは、5人がまるで会議で何か重要なことを議論しているように見える。アートワークの製作中はまだアルバムのタイトルはなくて、仮タイトルしかなかった。デイヴとD.D.が話していて、「軍事会議みたいだな」って言っているのがチラッと聞こえてさ。「それだ!」と思って、そこから考えていったんだ。つまり、アートワークが出来上がってからタイトルができたというわけ。
──だからタイトル曲もないのですね。
ボビー:そうだよ。アルバム・タイトルが一番最後だったからね。ニュークリア・ブラストにマスターを提出する2週間前になっても、仮タイトルしかなかったくらいだから。
──歌詞の内容はどのようなものですか?
ボビー:忍耐、献身、忠誠、それから旅についても書いたな。旅というのは人生、つまり35年以上に渡るバンドでのジャーニーだよ。アメリカ、日本などのアジア、ヨーロッパにも友人ができた。メタル・ファンというのは、音楽の好みということに関してはみんな非常に近いものを持っているよね。それが俺の書く歌詞に現れていると思う。俺の質や人間性、特徴と言ったものが歌詞には現れていて、人々はそれを聴いているんだ。それをベースに、個人的な成功や個人的な敗北、問題、挑戦することへの信頼とか、「ヘッド・オブ・ア・ピン」では個人的な問題にどう対処するかを歌っている。つまり、個人的に学んだことと、現在経験していることのコンビネーションだね。
──「ウェルカム・トゥ・ザ・ガーデン・ステイト」は、ブルース・スプリングスティーンのパロディのようになっていて、とても面白いですね。
ボビー:曲の最後の部分だけだけどね。他の部分はブルース・スプリングスティーンは関係無いよ。”Garden State”というのは、俺たちの出身地ニュージャージー州のニックネームなんだ。俺たちの音楽は、パンク・ロックや出身地のニュージャージーからの影響が色濃く出ているのはみんな知っていると思う。この2つにとても誇りを持っているんだ。パンクはエネルギーを与えてくれるし、ニュージャージーは育つには素晴らしいところだ。ニュージャージーというのは、アメリカでも随一のとんがった州だと思うんだ。そして、それがオーヴァーキルが成功した原因のひとつだと思う。そういうことを、パンク・ロック的な頭を使わずみんなで合唱できる楽しくて簡単な曲で歌ったんだ。「こういう曲を何でこれまでやらなかったんだろ?」ってね(笑)。俺たちの出身地のアティテュードを示した曲で、最後にちょっとしたブルース・スプリングスティーンへのトリビュートになっているのさ。
──パロディではなくトリビュートなのですね。
ボビー:ブルース・スプリングスティーンに対してというよりは、ニュージャージーに対してのトリビュートさ。もちろんブルース・スプリングスティーンは、ニュージャージーというものの一部ではあるけれど。
──バンドの結成から40年が目前ですが、バンドを始めたころ、これほど長く続けるであろうと予測していましたか?
ボビー:40年続けるコツを教えてあげようか。40年続けようなんて思わないことさ(笑)。だからこそこんなに長く続けてこられたんだよ(爆笑)。今も考え方は変わってないよ。
──当時はみんな若くて、40~50歳でエクストリーム・メタルをやるなんて想像もできなかったですからね。
ボビー:思わなかったね。若い人たちのものという感じだったから。今でもメタルの未来は若い人たちの手の中にあると思っているよ。今はとても面白い時代で、オーヴァーキルのような経験を積んだバンドは、その経験をうまく利用して、例えば1989年の一瞬の閃きとか時間を閉じ込めることができる。そして、それを再生するとは言わないまでも提示してみせることができる。つまりこのジャンルは世代を超越しうるということ。オーヴァーキルのライヴには、おじいちゃん、お父さん、子供と3世代が揃っていたりもする。つまりこのジャンルには価値があり、今も簡単には捨てられるものじゃないということを示しているのさ。だけど、やはり未来は若い人たちのためにあるべきだよ。年寄りのためではなくね。
──では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
ボビー:日本に行くと、いつでも楽しいからね。ホスピタリティも素晴らしいし、みんなメタルが好きだし。日本で最大のショーである<ラウドパーク>でプレイした時のことは忘れられないよ。Keep the faith, Keep the horns up! またすぐに会おう。
取材・文:川嶋未来
オーヴァーキル『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』
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【CD】 GQCS-90689 / 4562387208708 / ¥2,500+税
※日本語解説書封入
1.ラスト・マン・スタンディング
2.ビリーヴ・イン・ザ・ファイト
3.ヘッド・オブ・ア・ピン
4.バット・シット・クレイジー
5.ディストーション
6.ア・マザーズ・プレイヤー
7.ウェルカム・トゥ・ザ・ガーデン・ステイト
8.ホエア・フュー・デア・トゥ・ウォーク
9.アウト・オン・ザ・ロードキル
10.ホール・イン・マイ・ソウル
【メンバー】
ボビー“ブリッツ”エルズワース(ヴォーカル)
D.D.ヴァーニ(ベース)
デイヴ・リンスク(ギター)
デレク・テイラー(ギター)
ジェイソン・ビットナー(ドラムス)
◆オーヴァーキル・オフィシャルサイト