【インタビュー】FINLANDS、“壮大な孤独”をテーマに世界観を深めた最新作「UTOPIA」

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FINLANDSの最新作「UTOPIA」は、彼女達にとって初のEPとなった。全編を通して“孤独”を描きつつ、テイストの異なる4曲を揃えたのはさすがといえるし、より世界観を深めていることも注目といえる。今回も非常に良質な作品を創り上げたFINLANDSだが、制作の過程では様々なドラマや葛藤があり、決して楽なレコーディングではなかったようだ。その辺りも含めて「UTOPIA」という作品について、バンドのブレインである塩入冬湖(vo & G)に、じっくりと話を聞いた。

■今の自分が表現したいのは“独りぼっち”
■“孤独”というものを揃えられたと思います


――3月6日に、FINLANDS史上初のEP.音源「UTOPIA」がリリースされます。制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

塩入冬湖(以下、塩入):新しい音源を作るにあたって、構想みたいなものは全くなかったんですよね。私達は4年くらい、ずっと夏にリリースをしてきたので、一度違う季節に作品を作りたいなというのがあって。それをスタッフに伝えたところ、じゃあ今回はEP.を作ってみればということになったんです。そういう入り方だったので、前作の『BI』の時みたいな明確な構想はなかった。でも、今回の4曲が揃っていくうちに、この作品は“壮大な孤独”ということがテーマだなと気づきました。今の自分が表現したいのは“独りぼっち”ということだったんだと、後で気づいたというのはありますね。新しく作ったものではない曲も入っていますけど、それも合わせて「UTOPIA」は“孤独”というものを、きちんと揃えられたと思います。

――たしかに「UTOPIA」に収録された4曲は、題材は異なりつつ孤独感を歌っています。ということは、今の塩入さんは孤独を感じているのでしょうか?

塩入:感じています。今まで、あまりそういうことを感じたことがなかったんですよ。曲を作る人間や音楽家は孤独だと定説のように言われますよね。それも私は、あまり理解していなかった。でも、20代の終わりになって、孤独というものと向き合い始めたというか。その結果、満足しないことが孤独だなと感じたんです。

――20代の終わりは内面が変化する時期ですからね。それに、バンドというと華やかな世界だと思われがちですが、淋しさを感じることは多い気がします。

塩入:多いですね。それも昔は感じなかったんですけど。ミュージシャンはしょっちゅうみんなで飲みに行ったり、男女関係が盛んな人とかが多い。なぜなのかわからなかったけど、みんな淋しさを紛らわせているんでしょうね。暇を潰すことに熱中するのは、孤独を感じたくないことの裏返しじゃないかなという気がする。私はみんなで騒いだり、暇潰しに恋愛をしたりすることを得意じゃないので、ここ最近すごく孤独を感じているんだろうな。


――その辺りを踏まえて「UTOPIA」に収録されている曲について話しましょう。1曲目の「UTOPIA」は、洗練された味わいの楽曲と刹那的な男女の関係を描いた歌詞の取り合わせを活かしたナンバーです。

塩入:「UTOPIA」は表題曲ですけど、今回の制作で一番最後にできました。“EP.とはいうものは何なのか”という定義がわからなくて。私はひとつの定義が理解できないと、その次へ進めないんですよ。数学の公式も公式の理由がわからないと使えない。それと同じで、EP.というものがどういうものなのかということをきちんと理解していないまま曲を作り始めてしまったので、やっぱり躓いてしまったんです。それで、EP.とは何分以内の作品なのかとか、“EP.”というのはどんな言葉の略なのかといったことを自分で調べたんです。それに、私がもしも聴き手だったら、どういう4曲を聴きたいかなということと、今の自分は何を作りたいのかということも考えたんですね。その結果、私は官能的なものを作りたいと思っていることに気づいたんです。そういう歌詞を書きたいと思いながらスタジオで「UTOPIA」を作り始めたら、自分が構想していた言葉がピッタリきたんですよ。そこに至る過程には躓いたことで私が喚き散らしたり、作った曲がシックリこなかったり、いろんなことがあったんですけど、その中でこれが一番シックリきた。そこから作り進めていって、ちゃんと歌詞をあてはめていったら、自分自身がこの曲がすごく好きになっていたんです。それで、この曲をEP.に入れて、なおかつ表題曲にしようと決めました。

――ということは、「UTOPIA」はこういう曲調のものを作ろうと思ったわけでもなく、歌詞のイメージだけがある状態で自然と出てきたんですね?

塩入:そう、ボロッと出てきました。いつもはデモテープを作って、それをみんなに渡して、練習してきてもらってスタジオで合わせるんですけど、今回は何度かそうしても全然ピンと来なかったんですよ。そういう中で、スタジオで「昨日浮かんだ曲があって、それをやるから」といって弾いたら、みんなが合わせてくれて、でき上がったんです。そういう意味では、すごくみんなに気を遣ってもらってできた曲といえますね。

――「UTOPIA」はキャッチーですし、薄くダンスが香るというアレンジも絶妙です。4つ打ちではなく、8ビートでダンサブルというのは、ここ最近の旬なアレンジのひとつですよね。

塩入:もし私が自分でドラムを打ち込んでいたら4つ打ちにしていたかもしれないけど、うちのサポート・ドラマーが今のビートにしてくれたんです。それを聴いて、この感じはいいなと思ったんですよね。ドラムはもうずっと一緒にやっている人で準メンバーみたいな感じなんですけど、聴く音楽だったり、ルーツになっている音楽は我々と全然違うんですよ。それが反映されて、新しいものになっているとしたら嬉しいです。

――「UTOPIA」の歌詞についても話していただけますか。

塩入:さっき話したように、官能的な歌詞を書きたいというのがあって。人というのはただ生きているだけで、すごく官能的な瞬間というのがあると思うんですよ。それは、露出度の高い恰好をしているとかいうことではなくて、全然知らない人でも、ちょっとした仕草を見てすごく官能的だな、美しいなと思う瞬間がある。最近は人というのはそういうものだなと強く感じているんですけど、独りでいて他者がいなければ、そういうことを感じる瞬間は生まれない。それは男女の関係の始まりの本当に手前のほうにあることだと思うし、男女の関係じゃなくても、なぜ人といたいのかとか、なぜ人に安心や満足を求めるのかということとすごく近い気がする。私は今回のEP.で孤独ということを描いているけど、孤独というのは官能と表裏一体だなと思うんですよ。それが自分の中ですごくピッタリきたので、官能的な歌詞で独りぼっちをどうやったら表現できるかなと考えたんです。人と言い合いするのは、その人との先々を見ていて一緒に未来を創っていきたいから、お互いを擦り合わせたいという気持ちがあるからですよね。私はその人との関係がどうでも良かったら、自分と相容れないことを言われても相槌でごまかしてしまう。笑って、「そうだね」と言ってしまうんです。そういう接し方というのは楽ですよね。でも、そんな一瞬のユートピアで自分がこれからずっと上手く生きているわけがないということはわかっている。この曲は、そういうことを表現しています。

――だから、官能的でいながらエロいだけではない世界観になっているんですね。それに、そういう歌詞を、セクシーかつビリついた雰囲気で歌っているのも絶妙です。

塩入:ありがとうございます。あざとくない方がいいかなと思ったんですよね。誰かに縋りついている歌ではないし。それに、私は歌詞と歌い方はくっついているようで、別々なものだと思っているんですよ。

――歌詞に描かれている気持ちになって歌うというシンガーが多いわけですが、塩入さんは違うんですね?

塩入:違いますね。歌というのは、そういう気持ちになれば伝えたい感情を伝えられるかというと、そうではないですし。それに、逆に言えば、それは自分の歌い方で楽曲や歌詞のイメージは変えられるということ。だったら、それを活かさない手はないと思って。もちろん歌詞に書いた感情をそのまま伝える時もありますけど、それぞれの曲を歌うにあたって歌が与える印象ということはいつも考えます。


――2曲目の「call end」は「UTOPIA」とはガラッと変わって、パンキッシュなナンバーです。

塩入:この曲を作ったのは、もう息継ぎする間がないくらい叫び続けるような曲……自分が無理しているような曲を歌いたかったんです。

――よくこの熱いテンションで、この早口で、この声量で歌えるなと思いました。

塩入:自分でも、そう思います(笑)。私はこういうことができるのに、最近はやっていなかったんですよね。なので、こういう歌を歌いたいなと思ったことが「call end」を作るきっかけになりました。この曲を作ったのは去年のツアーが終わった頃で、できあがった時から次のCDに入れたいと思っていたんですよ。でも、歌詞がずっとピッタリくるものができあがらなくて。で、去年のツアーの後にお休みがあって、久しぶりに何もしなくていい休みだったんですけど、休むことが不安で仕方なかったんです。あんなに望んでいた休みなのに、気が休まらないという。

――ミュージシャンやフリーランスで仕事をしている人などは、みんなそうだと思います。

塩入:ですよね。だから、午前中に仕事があって、夕方からは休みというのが一番いいと思うんですけど(笑)。その時は完全なオフで、いろんなことが不安になってしまったんです。一人でいることも不安だし、一人でいる時になにか自分にプラスになることをしようと考えてしまう自分にもすごく疲れてしまって。私は本を読んだり、映画を観たりするのが好きですけど、自分の中になにかを芽生えさせようという気持ちがあるのかなと考えると全然楽しめなくて。それで手芸をやってみたんですよ。これなら無心になって集中できるんじゃないかなと思ったんです。でも、いろんなことが気になってしまって、やっぱりダメだった。なにかしら為になることをしようと考える自分がすごく面倒くさかったし、少し悲しいことが起きた時にも、悲しんでいるだけじゃダメで、次のことを考えないと…と思ってしまって。純粋な感情で自分が落ち込んだり、悲しんだりできなくなっていることに気づいて、気持ちが沈んだんです。かといって、そういうことを誰かに相談しようとも思わないんですよ。結局、答えを出すのは自分だから。そういうところで、“壮大な孤独”というものは、この曲を作っている時に強く感じましたね。

――とはいえ「call end」の歌詞は孤独感に打ちひしがれているのではなく、強さを見せているところがいいなと思います。

塩入:そう、儚んでいる歌詞ではないですね。なんていうんだろう……“すごく好きだけど、許せない”という感覚って、ありませんか?

――ありますよ。

塩入:やっぱり。そのことを自分よりも年上の人……事務所の社長に話した時も、あるよと言われたんです。私は今までそういうことはあまり感じたことがなかったけど、ここ1年くらいで感じたんですよ。大好きだし、すごく大切な人だけど、許せないという感情に初めて見舞われた。恋愛のことではなくて、日々生きている中で…ということですけど。それに、どう対処したらいいのかわからないんですよ。そういう感情を、そのまま書いたのが「call end」です。

――その瞬間を切り取って歌にできたのは良かったと思います。人生を作品にして遺していけるのはミュージシャン冥利に尽きますし、リアルな塩入さんに触れられるのはファンの皆さんも嬉しいでしょうし。

塩入:たしかに、そこに嘘は一切ないです。それを皆さんに喜んでもらえるならいいなと思いますね。

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