【インタビュー】FINLANDS、“壮大な孤独”をテーマに世界観を深めた最新作「UTOPIA」

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■この4曲は私の中にあるいろんな形の孤独というものを表現している
■それが1つになった作品「UTOPIA」はすごく気に入っているんです


――「UTOPIA」の3曲目は、繊細さや陰りを纏ったシャッフル・チューンの「衛星」です。

塩入:これは、昨年の9月頃にジェムソンというウィスキー・ブランドとのコラボイベントがありまして。そこで、レコードとダウンロードだけでリリースする曲を用意しようということになって作った曲です。作った時は暴力的なものではない、精神的なドメスティック・ヴァイオレンスということをイメージしていたんです。衛星というのはすごく離れたところにいながら常に監視していると思ったんですよね。で、監視されていることがわかっている人は、ちょっと怯えながら生きていく。でも、愛情があるから、そこから離れようとしないという。それはすごい精神的な支配ですよね。すべてをわかるのは無理だけど、すべてをわかりたいという気持ちが恋人には強くあると思うんですよ。それが、精神的な支配につながっていく。そして、そういう状態になると支配されている側は離れようとしないんですよね。その理由は、もう愛情でしかない。そういうことを描いた歌詞になっています。

――だから「衛星」の歌詞は屈折しているんですね。

塩入:屈折していると思います。

――愛情と憎悪がない交ぜになっていますし、最後の言葉が“衛星を離れていこう”ですので、そういう気持ちがあるだけで、実際に離れたわけではないですし。

塩入:離れていこうという気持ちはあるんですよ。そう自分に言い聞かせている。悲しみはきっと無限にあるし、ここで離れるという決断をしても、離れないという決断をしても、ある程度の未練は絶対に未来に残る。それでも、やっぱり私は昨日と違う話で愛する人と笑っていたいから離れていこうと。でも、“私はそう決心しました。これは過去の話です”という前向きな歌ではないという。

――ある意味恐ろしい歌詞ですね、こういう繊細な曲に乗せるという感性は素晴らしいです。

塩入:本当ですか? 嬉しいです(笑)。ただ、そういう意味で歌詞を書いたんですけど、もしかしたら私が衛星側なことが多いのかなと思ってしまって。この曲をレコーディングした後、最近になってそのことに気づいたんです。“あれ? バンドメンバーとか、恋人に対して、私は衛星側なんじゃないかな”みたいな(笑)。

――そうなんですね……。

塩入:はい(笑)。衛星側の意見を言わせてもらうと、守ろうとしすぎる気持ちの表れなんですよ。それで、過保護になりすぎてしまうという。そういう言い分もあるけど、そうやって圧をかけてしまっていることがすごくあると思って。そういうところで、この曲を作ったことで、精神的に支配される側と支配する側の両方の目線に立てて、改めて自分に気づけたというのはありますね。この曲は最後に“衛星を離れていこう”と大合唱するんですけど、いつもちょっと心が痛むんですよ。衛星目線に立つと、大事な人が自分から離れていくことになるので。元々屈折した心理を描いた歌詞だったのが、自分が衛星側だと気づいたことで、さらに屈折したという。「衛星」は、そういう曲です。


――“funny”ではなく“interesting”という意味で、すごく面白いです。それに、特に「衛星」がそうですが、本作はコシミズ(カヨ)さんのセンスの良さを感じさせるベースも大きな聴きどころになっています。

塩入:カヨは、すごくいいベースを弾くんですよ。彼女は性格が私と真逆というか、すごくホンワカしていて。何を考えているのかよくわからなかったりするんですけど、だからこそ斬新なベースを弾くというか(笑)。“えっ、そうくるの? ……でも、それいいね”という(笑)。それが、すごく彼女の味になっているなと思います。

――普通のベーシストとは、いい意味で感性が違っていることを感じます。「UTOPIA」を締め括るのは「天涯」というスロー・チューン。

塩入:これは、8年前くらいに作った曲です。20才くらいの頃に作ったんですよ。

――すごくいい曲ですし、歌詞も大人っぽいですね。

塩入:私は21才の頃に、こういう切り口で、こういう角度から物事を書いていたんだなということを自分でも感じました。今だったら、こんなにドロドロした歌詞に、あんなに重たいメロディーをつけないと思うんですよ。それが成長なのか、変化なのかはわかりませんけど。

――時間を経て歌うことで、透明感のある曲に昇華できている気がします。リアルタイムで歌っていたら、すごくドロドロした曲になっていたかもしれませんよね。

塩入:たしかに、今のほうがサッパリ歌えるというのはありますね。この曲はその時のタイムリーな出来事を書いたので、当時歌っていたのを聴くと、もう生霊が出そうな歌になっているんですよ(笑)。この曲を作った時は当時自分がつき合っていた人の昔の恋人のことを知っていて、同時に自分にすごく自信がなかったんです、今以上に。だから、彼と一緒にいるのに彼女のほうばかり見てしまうようになっていて、そういう自分が嫌だし、環境も嫌だし…ということで書いた曲なんです。

――20才くらいでは、そういうこともあったりしますよね。それくらいの年齢は、恋愛下手ですので。

塩入:下手ですね(笑)。今となっては、なぜそんなことで苦しんでいたんだろうと思う。でも、そういう経験があったからこそ、もう少し気楽に恋愛できるようになったのかなとも思うし。そんなふうに思い入れがある曲ではあるし、今回の“孤独”というテーマに沿っているので、EP.に入れることにしました。

――一番いいタイミングで、世に出たことを感じます。

塩入:そうですね。この曲も成仏できると思います(笑)。

――抑揚を効かせたボーカルは本当に聴き応えがあって、強く惹き込まれました。

塩入:この曲はバラードですけど、言ってみれば「call end」なんかよりも全然叫んでいるんですよね。それは、声を張り上げているというような表面的なことではなくて、内面的な意味での“叫び”。こういうふうに、聴いていて重いと感じる曲を久しぶりに形にしたなという気がして。演奏面でいうとドラムのちょっとしたヨレとか、ベースの癖みたいなものが出ていて、そこに私の歌の癖が乗っかった時に、すごく気持ち良かったんです。それが、すごくチープな恋愛劇の最後の歌みたいなイメージがして、歌録りの時もそういう感覚で歌いました。


――今回の「UTOPIA」は、それぞれの物語を持った4曲が並んでいることがわかります。FINLANDS初のEP.を完成させて、今はどんなことを感じていますか?

塩入:今回は作る期間が、すごく短かったんですよ。ツアーが終わってから1ヶ月くらいで作りあげるということで、全力で取り組んで、時間がない中で納得のいく作品を作れて良かったです。最初に見えない部分が多かった分、レコーディングしていく中で見えてきたものが沢山あったし、この4曲が揃ったことも奇跡的というか、それぞれが私の中にあるいろんな形の孤独というものを表現していて。それが1つになった時に「UTOPIA」という作品になって、すごく気に入っているんです。徐々に気に入り始めて、“好き!”という気持ちになれた。それは、初めて感じることなんですよ。なので、皆さんに聴いてもらった時に、ちょっと似た感覚を持ってもらえるんじゃないかなと思って。今までとはちょっと違うんじゃないかなという気がしていて、そういうところも楽しんでいただければと思います。

――「UTOPIA」を引っ提げたツアーも3月から4月にかけて行いますが、これはどんなツアーにしたいと思っていますか?

塩入:全国5都市をまわる2マン・ツアーで、各地で違うバンドを招いているんですけど、もう毎回毛色が違うし、すごい方達が揃っていて。FINLANDSと2マンしてくださることにすごく感謝していますけど、どうなるかが全く見えていないんですよ(笑)。お互いのお客さんは、どういう気持ちで見るんだろうなという。でも、それが楽しみでもありますね。どのバンドも私達が大好きな皆さんなので、もし対バン相手を見たことがないお客さんがいらっしゃるとしたら、今まで知らなかったカッコいい音楽と出会える場になるし、逆に私達も対バンのお客さんにそう思ってもらえるようにしたい。そういう、いい化学反応が起こるツアーになるといいなと思っています。

取材・文●村上孝之


リリース情報

「UTOPIA」
2019.03.06 Release.
FU-018 ¥1,200(本体)+税
01.UTOPIA
02.call end
03.衛星
04.天涯

ライブ・イベント情報

<ツーマン・ツアー「UTOPIA TOUR」 >
2019年3月15日(金)福岡Queblick
ゲスト:TENDOUJI
2019年3月19日(火)大阪JANUS
ゲスト:Wienners
2019年3月21日(木・祝)名古屋JAMMIN
ゲスト:マイアミパーティ
2019年3月30日(土)仙台HOOK
ゲスト:THE イナズマ戦隊
2019年4月10日(水)渋谷CLUB QUATTRO
ゲスト:indigo la End

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